異世界転生将棋セット【フライドポテトとトマトジュース】
ニート・サラリーマン・コック・科学者・自衛官はタケノニジコさん、勇者・魔王・悪役令嬢は砂糖87さん、モンスターはましろさん、トラックはKDMfactoryさん、村人・狩人・神官は炉場たかひろさん、ゴブリン・高校生はササッティーノ伯爵さん、アイドルとバーチャルライバーはまとりさん、プロデューサーはもちさんに描いていただきました。
転載禁止。
「異世界転生将棋がやりたい」
「将棋で転生ってなんだよ? 死んだら別の駒に生まれ変わるのか?」
「わかってるじゃない」
「……いや、どういうゲームになるのかぜんぜんわからんのだが。そもそも何に生まれ変わるんだよ?」
「チートな駒」
適当にもほどがある。
「少しはルールを考えろ。駒によって転生できる駒は違うのか? それとも別の条件があるのか?」
「ランダムでいいんじゃないの?」
「は?」
「仏教だと六道だっけ? 前世の行いで人間とか動物とか修羅に生まれ変わるんでしょ。だったらサイコロで決めればいいじゃない。1が出たら人間、6が出たらドラゴンみたいな」
「……その発想はなかった」
だがランダム要素のある将棋というのも面白い。
何に転生するかわからないのも異世界転生というジャンルに合っている。
ちなみに六道は天道、人間道、修羅道、畜生道、餓鬼道、地獄道だ。
悟りを開くと解脱、いわゆる輪廻転生の輪から外れて仏に成れる。
異世界的に考えると神に成るということだろうか。
ただし仏教の六道では、悟りを開けるのは人間道だけらしい。
まあ、宗派によって解釈は違うのだろうが。
「ベースはチェスにしよう」
「なんで?」
「現実世界と異世界で2つのボードが必要だろ。でもチェスの8×8マスや将棋の9×9マスを同時展開するのはきつい。チェスなら8×8マスだから横4×縦8マスに2分割して、現実世界と異世界のボードを作れるだろ」
「なるほど。じゃあ現実世界か異世界、どっちでもいいから先に相手のキングを取ったほうの勝ち?」
「ああ。異世界で死んだ駒も現実世界に、現実世界で死んだ駒は異世界に転生できる」
「思ってたのよりまともなゲームになったじゃない」
「これで駒をそろえれば完璧だ」
転生後の駒が主力になるので、初期配置の駒は弱いほうがいい。
チェスならキング、ナイト、ビショップ、ポーンだろうか。
ナイトは2枚だ。
PPPP
NBKN
※基本配置
「キングは勇者と魔王。ポーンは村人。ナイトは狩人。ビショップは神官」
勇者
魔王
村人
神官
狩人
「あとは何に転生するかだ」
「異世界ものだとスライム、ゴブリン、悪役令嬢、人狼、リッチ、ドラゴンとか?」
スライム
ゴブリン
リッチ(魔法使いのアンデッド)
人狼
ドラゴン
悪役令嬢
「……よく考えたら性別も変わってるな」
「性別が変わるのも異世界アニメあるあるでしょ」
「おっさんが転生したのに、ぜんぜんおっさんぽくないけどな」
「それは言わない約束」
異世界アニメは業が深い。
なお海外ではこういう異世界転生や転移ものジャンルを総称して『Isekai』と呼んでいるらしい。
Isekaiで検索すると関連項目としてアニメが出てくるのがシュールだ。
『Isekai Chess』として売り出すのもありかもしれない。
「現実世界の駒は使いまわせるから楽だな」
どこにでもいる普通の高校生
どこにでもいる普通の高校生
アイドル
プロデューサー
サラリーマン
「異世界ものの定番だとニート、料理人、自衛官、科学者、トラックドライバーあたりかしら」
ニート
コック
科学者
自衛官
トラック
「……ろくな駒がないな」
「底辺が異世界で無双するのが受けるんだから仕方ないでしょ。これでも異世界もののオールスターなんだから」
現実世界(前世)が悲惨であればあるほど、異世界で無双した時の爽快感が増す。
だからどうしても異世界転生ものの主人公は落ちこぼれや引きこもり、オタクばかりになる。
ゲーム的なチートなしで生前の技術を活かせる料理人や自衛隊はまだマシだろう。
トラックドライバーは転生する側ではなく、させる側な気がするが……。
人を轢き殺してしまった時点で人生が終わってるので、これも異世界転生する素質はあるのかもしれない。
そもそも何で異世界転生する主人公はいつもトラックに轢かれるのだろう。
様式美だろうか?
「現代のキャラが一人足りんな」
「Vライバーでいいんじゃない?」
「Vライバーって『バーチャルライバー』か? 自作キャラで動画配信とかするやつ」
「そうそれ」
バーチャルライバー
「ライバーが異世界転生する作品なんてあったか?」
「異世界ものは知らないけど、しょっちゅう転生してるじゃない」
「……転生つながりかよ」
生身の動画配信者が突然バーチャルライバーに転生することもあるし、事務所を辞めたり、スキャンダルや人気低迷、テコ入れなどで別のキャラに生まれ変わることも珍しくない。
ガワになる3Dモデルと変声機さえあれば簡単に生まれ変わることができるからだ。
異世界への転生ではないものの、たしかに転生キャラではある。
「さて……」
駒のイラストは決まったが、どの駒にどの能力を持たせるかなどの細かい調整がいる。
「何かつまみながら整理するか。なにがいい?」
「ジャガトマ!」
「じゃがいもとトマト?」
「異世界アニメでじゃがいもとトマトが出てくるたびに『中世ヨーロッパにはジャガイモもトマトもない!』っていうジャガトマ警察が出てくるのよ」
「異世界なんだから現実と違うのは当たり前だろ」
「それがわからない人が意外に多いの」
そもそも魔法で環境を整えれば何でも栽培できると思うのだが、おそらくジャガトマ警察が現れるたびに同じ反論がされているのだろう。
とりあえずジャガイモはフライドポテトにして、ケチャップとマヨネーズを添える。
マヨネーズは異世界もので主人公がよく作るものだ。
味噌や醤油なども人気がある。
たまには違うものも作れよと思うものの、おそらく先行作品の真似、あるいはお約束として出しているだけで、作者に料理の知識がないのだろう。
俺が作者ならもっと面白い料理を出せる。
……と勘違いできるからこそ、小説投稿サイトは繁盛しているのだろう。
飲み物はトマトジュース。
ジャガイモとケチャップが合うのだから、これも相性は悪くない。
ジャガトマ警察にもオススメだ。
「とりあえず指してみよう」
フライドポテトをカリカリしつつ、適当に駒を動かしてガンガン敵地へ攻め込んでいく。
もちろん駒が足りないのであっけなく返り討ちになるわけだが……。
コロコロ
「よし、ドラゴンだ!」
「ぎゃー!?」
転生した駒のほうが強いので、わざと死ぬことも立派な戦術になるのだ。
逆にいうと飛将のような能力で一度に数枚の駒を取ると、別のボードで一度に何人も転生されてしまって危険である。
強い駒を持ち駒にされる可能性が高くなるので、多用は禁物だ。
なお転生駒は将棋の持ち駒のように一手消費して打つことができる。
転生は自分の手番ならいつでも可能だ。
死んだ直後にサイコロを振ってもいいし、打つ直前に振ってもいい。
あえて転生させずに、こちらの手を読めなくするのもアリだ。
コロコロ
「ああ、スライム!?」
「やっぱりランダム要素がネックだな」
状況によっては完全に運ゲーになる。
しかし運を操作する方法がないこともない。
コロコロ
一度にサイコロを2つ振る。
「こっちはニート、こっちはドラゴンな」
「はあ、なにそれ!?」
「弱い目を現実世界の駒に、強い目を異世界の駒に割り当てただけだ」
「高確率で強い駒に転生できるじゃない!」
「サイコロを2個同時に振ってはいけないなんてルールはないぞ」
「ぐぬぬ!」
現実世界と異世界の両方に転生駒があって始めて成立する裏技だ。