RPGセット【ミックスベリィとセージ】
参考ゲーム
スターオーシャン3
「ブルーベリィとブラックベリィとフレッシュセージね」
「ミックスベリーでいいか?」
「何のミックス?」
「ブルーベリーとブラックベリーとストロベリーとラズベリーだ」
「じゃあそれ」
「あいよ」
市販のミックスベリーを皿に盛り、適当につまみつつフレッシュセージのハーブティーを淹れる。
フレッシュとは乾燥させていないハーブのこと。
もちろん理想は庭で摘むことだ。
自家栽培できるので、お茶やお菓子好きなら一度は必ず通る道だろう。
摘み立てのハーブにお湯を注ぐだけで新鮮なハーブティーの出来上がりだ。
……まあ、ハーブティーを淹れるまでの過程が大変なのだが。
「他の女のにおいがする」
「誤解を招く言い方をするな」
セージは入浴剤にも使われており、たまにアリスからハーブの香りがする。
自宅で栽培しているのかもしれない。
「……で、なんでベリーとセージなんだ」
「『スター・シー』の定番アイテムだもの」
「回復アイテムか」
フレッシュセージは蘇生アイテムであり、普通のセージは石化を回復するようだ。
……セージが不老長寿のハーブだといわれているとはいえ、なぜ鮮度でここまで効果が変わるのだろう。
なおブルーベリィ(ベリーではなくベリィだ)はHP、ブラックベリィはMPを回復できるらしい。
ジャンルはSFファンタジーではあるが、MPを消費すれば魔法が使える。
どうやら特殊なコードを刻むことで世界の法則を書き換えているらしい。
魔法も科学技術の一つということだ。
『未開惑星保護条約違反だよ!』
宇宙が舞台なだけあってスケールがでかく、作中には様々な惑星が登場する。
未開惑星は宇宙進出をしておらず、銀河連邦に加盟していない惑星のことだ。
連邦法により、非常事態でない限り未開惑星への過度な干渉は禁止されている。
技術レベルに合わない知識や道具を提供すると、その星が大変なことになるからだろう。
主人公はトラブルで未開惑星に墜落したという非常事態なのに、保護条約があるせいで協力を求めることすら難しい。
たとえ相手が条約違反をして最新の科学兵器を使ってきても、こちらはうかつに同じ兵器を使えないのだ。
宇宙スケールの話ではあるものの、序盤はほぼ一つの惑星内でシナリオが展開する。
『ブレイド・リアクター!』
「……技でHPを消費するのがきついな」
技はMPではなくHPを消費して発動する。
しかも消費HPはパーセンテージで管理されていた。
つまりHPが増えるほど(レベルが上がるほど)消費HPも増える。
下手をしたら敵の攻撃より自分の技で減る割合のほうが多い。
ノーダメージで敵を倒そうと思ったら、どうしても長期戦になってしまう。
しかも味方のAIの頭が悪く、HPが低いくせに敵へ突っ込んで死ぬ。
棒立ちになって動かないこともままあった。
HPの低いキャラは自分で動かしたほうがいい。
油断するとザコ戦でも全滅する。
「……ちゃんとシステムを把握しないとまずいな」
やむなく戦闘の解説を確認する。
主人公は『ファイトシミュレーター』というVRゲームにハマっており、プロローグでもヒロインそっちのけでゲームを遊んでいた。
チュートリアルはシミュレーターにしか存在せず、ストーリー中に説明は一切存在しない。
なのでファイトシミュレーターで遊ばないと、システムを把握できずに死ぬ。
「ぐ、ガッツが足りない!」
攻撃には『小攻撃』と『大攻撃』が存在し、小攻撃は発生が早いかわりに威力が低く、大攻撃は発生が遅いかわりに威力が高い。
キャラには『ガッツ』というスタミナのようなゲージが存在し、なにか行動するたびにガッツが減ってしまう。
敵に一発攻撃を当ててしまえば、ガッツが続く限りコンボは繋がる。
もっとも重要なのは『ガッツが100%の時に小攻撃を食らうと自動的にカウンターが発生する』こと。
それが『カウンターオーラ』である。
相手を気絶させることができ、気絶中の相手を攻撃するとクリティカルになって大ダメージを与えられる。
大攻撃にカウンターは発生しない。
敵の小攻撃はカウンターオーラで返し、大攻撃は発生の早い小攻撃で潰すか回避。
敵のカウンターオーラは大攻撃で潰す。
先に相手に手を出させてカウンターオーラ→気絶→クリティカルの『後の先』戦法が効果的だろうか。
場合によっては敵のそばで棒立ちになっているだけで勝てる(歩くだけでもガッツは減ってしまうので、敵のそばで棒立ちになってカウンターオーラを発生させ続け、味方のクリティカルで敵を倒す)。
ただ魔法や大攻撃を使ってくる敵や、ザコ敵がたくさん出てくると厳しい。
それにクリティカルになるのは最初の一撃だけなので火力も不足気味だ。
技でコンボを繋げると175%→200%→250%→300%と威力が上がっていくので、技を使わないと戦闘時間が数倍長くなってしまう。
テンポよくゲームを進めたいのなら、HPを消費して技を使いまくるしかない。
『ブルーベリィを手に入れた』
『ブラックベリィを手に入れた』
「ベリィ多すぎだろ」
「これで回復しろってことでしょ」
さいわい街中にもフィールドにも宝箱がたくさん転がっている。
しかも3分の1はベリィだ。
1つのアイテムは最大で15個までしか持てないので、持ち切れずに宝箱に戻すことも珍しくない。
技や回復アイテムをケチっていると戦闘が長引き、ボス戦では死ぬ。
ここは製作者の好意に甘え、回復アイテムを使いまくったほうがいい。
「……それにしても広いな」
序盤からダンジョンが長い。
ボタンを押すとマップを画面に表示できるのだが、画面全体に巨大なマップが広がって愕然とする。
ようやくマップを踏破してボス戦かと思ったら2階や3階がある絶望。
15個の回復アイテムを3人で分けると足りなくなる。
シンボルエンカウントなので敵に接触しなければ戦闘にはならないが、それだとレベルが上がらない。
「そこで『ヒートゲージ』よ」
「このための経験値3倍か」
ヒートゲージは敵を攻撃するとたまるゲージで、これがMAXになると『収得金額2倍』『経験値3倍』『アイテム入手率アップ』『回復率(戦闘終了時に回復するHPやMP)アップ』のどれかが発生する。
この効果はプレイヤーキャラ(プレイヤーが動かしているキャラクター)がクリティカル攻撃を食らう、プレイヤーキャラが戦闘不能になる、戦闘から逃げる、ゲームを終了するまで続く(経験値3倍の状態でセーブしても、一回ゲームを終了したら効果はなくなる)。
経験値を3倍にすれば、戦闘する回数は3分の1で済む。
ダンジョンが広いのでなるべく敵とは戦闘したくないものの、経験値3倍になれば逆にこちらからエンカウントしに行きたくなる。
個人的に好きなゲーム設計だ。
「……でもクリティカル食らわないように倒そうとすると手間かかるんだよな」
「MPダメージでも敵倒せるわよ」
「マジか。昔のTRPGみたいだな」
MPを消費して武器に魔法をかければ、相手にMPダメージを与えられるようになる。
だいたいHPが高い(あるいは防御力が高い)敵はMPが低い。
敵に合わせてHPキルとMPキルを使い分けられるようになれば、グッと楽になるだろう。
もちろん味方もMPが0になったら死ぬ。
「くそ、ボスも強すぎる!」
厄介なのはMPダメージの技を多用してくること。
戦闘不能とMPダメージを回復するにはアイテムを使うしかない。
だがアイテムは一度使ってしまうと、一定時間が経過しない限り次のアイテムを使えない。
つまりMP0になって死んだキャラをフレッシュハーブで生き返らせても、ブラックベリィでMPを回復するのに時間がかかってしまうため、新たなMPダメージを食らって死ぬ。
アイテムだけが次々に消費されていき、最後にはアイテムが枯渇して全滅するわけだ。
後半になると1ランク上の回復アイテムも買えるようになる。
売られている場所が限定されているので買いに行くのは面倒だが、回復アイテムの数が倍になるので買い占めておいたほうがいい。
相手が死ぬまで生き返り続けるという力押しも可能だ。
ダウン技を使って敵をダウンさせ続けてもいい。
ひたすらダウン効果のある技を使いまくって敵の攻撃を封じ、囲んでボコる。
……もはや強攻撃やカウンターオーラの出番はない。
こうして様々なテクニックを駆使してゲームを進めること数時間、
『この世界はワールドシミュレーターにすぎない』
「は?」
四次元(FD)人なる敵が出てきて、この世界が作り物(序盤で遊んでいたファイトシミュレーターのようなゲームの世界)であると暴露する。
実は魔法が書き換えていた宇宙の法則とはシミュレーターのプログラムだったらしい。
いわば主人公たちは『バグ』であり、このまま放置しているとシミュレーターに悪影響を及ぼすので、魔法の普及した銀河系を滅ぼすという。
ようするに『人間(世界)を滅ぼそうとする神(人間や世界を創造した存在)を倒して運命を切り開く』というシチュエーションなので、RPGではよくあるシナリオだ。
銀河連邦が未開惑星を保護するのと同じように、ゲームクリエイターは魔法から世界を守ろうとしているという皮肉。
主人公たちは魔法によって世界の法則を書き換え、FD人のいる現実世界に実体化する。
「これ、銀河連邦軍を具現化して現実世界を支配することもできるよな?」
「できるわね」
……ゲームクリエイターが主人公たちを滅ぼそうとするのも無理はない。
自分の作ったゲームのキャラにやられる社長に哀れみすら感じる。