RPGセット【ナッツとセボリー】
参考ゲーム
ヴァルキリー・プロファイル
「ふんふんふーん、ふふふふーんふーん♪」
『ワルキューレの騎行』を口ずさみながらキャラクターシートをめくっていく。
『ワルキューレ・プロフィール』というゲームのキャラ表らしい。
「これ全部仲間になるのか?」
「なるけど、ヴァルハラに送れるのは最大でも16人よ」
「……面接試験みたいだな」
ワルキューレといえば北欧神話の戦乙女。
死んだ英雄の魂をヴァルハラ宮殿に導き、やがて起こるであろう最終戦争のために備えているという。
ただこのゲームはちょっと様子がおかしい。
英雄の細胞からクローン人間を作り出して、死体の脳から読み込んだ記憶をクローンの脳に移植するというSFチックな設定だ。
「なんだこのSFみたいな世界観」
「北欧神話に登場するアイテムからしてSFチックだもの。グングニルもミョルニルもミサイルみたいに相手を自動追尾して、当たったら手元に戻ってくるのよ。未来を予知する巫女は量子コンピュータ、世界樹ユグドラシルは軌道エレベーターで、フリズスキャールヴなんて軍事衛星なんだから」
「……その発想はなかった」
フリズスキャールヴはアース神族の主神オーディンの玉座であり、それに座ると全世界を見渡すことができるという。
たしかに軍事衛星っぽい能力だ。
ヴァナ神族のフレイがこの玉座で巨人の国ヨトゥンヘイムを眺めていると、ゲルダという巨人に一目惚れをし、彼女を手に入れるために『勝利の剣』を手放してしまう。
この勝利の剣もグングニルのような魔法の武器で、『自動的に動いて敵を斬る魔剣』らしい。
勝利の剣を失ったせいでフレイは火の巨人族の王スルトに敗れ、ラグナロクで世界は焼き尽くされる。
だがそれはまだ先の話だ。
ゲームは全8章構成であり、1章につき2人までしかヴァルハラに送れない。
英雄を迎えに行ったり、ダンジョンにもぐるたびに時間が1~2ターン経過し、24ターンが経過すると1章が終わるようだ。
変わったシナリオ構成である。
戦闘システムも一味違う。
パーティーの人数は最大で4人。
各ボタンが各キャラに対応しており、ボタンを押すと対応するキャラが走って敵を攻撃する。
△
□ ○
×
※ボタンと同じ配置でキャラが並んでおり、ボタンを押すと対応しているキャラが攻撃する
個人の最大攻撃回数は3回。
攻撃回数が少ない武器ほど破壊力が高く、多いほど威力は低いがコンボがたくさん繋がる。
どちらにもメリット・デメリットがあるものの、プレイした感じではコンボを優先したほうがよさそうだ。
コンボを繋げると『決め技ゲージ』というのがたまり、MAXになると強力な決め技を発動できる。
決め技を発動すると決め技ゲージは減るわけだが、0になるわけではない。
決め技中でもゲージは溜まり、MAXになればまた決め技を発動できる。
ただし魔法や決め技を発動すると『CT』というのが溜まり、チャージしたターンの数だけ魔法や決め技、アイテムを使えなくなる。
たとえばCT4の決め技なら、4ターン経たないと次の決め技を使えない。
うかつに決め技や魔法を使うとCTが溜まってしまい、アイテムや回復魔法を使えなくなって死ぬ。
「……どうすればいいんだ」
「敵をダウンさせてボコればいいのよ。ダウン中の敵を攻撃すると『紫炎石』っていうCTが1回復する石を落とすから、それで回復するの」
「なるほど、そういうシステムなのか」
攻撃回数が多いほど、たくさん石を拾えるので便利だ(ただし決め技の威力は攻撃力で決まるので、攻撃回数を優先すると決め技の威力が格段に下がる)。
魔法を使うならターンの最初だ。
たとえCTが溜まっても、残りの仲間がダウンコンボで石をたくさん落とさせれば次のターンでも魔法を使える。
ただし石を拾うキャラはランダムだ。
CTが溜まっているキャラは自動的に石を拾ってしまうので、目当てのキャラだけに石を拾わせることはできない。
だからCTを回復させたいのなら、とにかくコンボを繋げまくるしかない。
しかし、
スカッ
「あ」
繋ぎやすい攻撃と繋ぎにくい攻撃の差が激しい。
各キャラの通常攻撃は1つの武器につき3種類の攻撃パターンがあり、プレイヤーは好きな順番にセットできる(同じ攻撃を複数セットすることはできない)。
上から下に振り下ろす攻撃などはいいのだが、剣を横に振り回す攻撃は姿勢の低い敵や空を飛んでいる敵に当たらない。
敵を後ろに吹き飛ばしたり、空中に跳ね上げても空振りする可能性が高くなる。
何も考えずにボタンを押しているだけでは繋がらない。
対応するボタンを押すだけの簡単操作ではあるが、4キャラの1~3回攻撃を繋がるように調整するのは慣れが必要だ。
連打するよりも、一発一発確実に押していったほうがいい。
それとこのゲームのシステム上、育成した英雄をヴァルハラに送らないといけないのでパーティーメンバーをちょくちょく変える必要がある。
魔法はアイテムを使って習得するので、魔法使いを転送する時は注意。
回復魔法を使えるキャラがいなくなると地獄を見る。
誰をどういう順番で送るかで難易度も変わるだろう。
ダンジョンの種類が少ないのも地味に困る。
仲間のレベルを上げるためとはいえ、すでに攻略したダンジョンに潜らされるのは辛い。
死んだ英雄をヴァルハラに導く内容のため、シナリオも英雄が死ぬシーンが中心だ。
戦死、裏切り、自殺、処刑、病死。
華々しく死んだキャラはほとんどいない。
ワルキューレがらみの英雄も何人かいた。
ワルキューレに一目ぼれして英雄を目指す少年、ヴァルハラにスパイとしてもぐりこむため英雄になろうとした男、ワルキューレに連れて行かれた恋人を取り戻すため英雄になろうとした少女。
独特なシステムにもとづく世界観がこのゲームの魅力だろう。
26ターンが経過すると『天界フェイズ』になり、天界での戦争イベントが進む。
プレイヤーはこの戦争イベントに関与できない。
できるのは強い英雄を送ることだけだ。
いい英雄をヴァルハラに送っていれば戦況が有利に傾き、オーディンから褒美として金やアイテムをもらえる。
「一区切りついたから一服するか」
「じゃあセージかセボリーね」
「どこかで見たことのある組み合わせだな」
「テイルズのスタッフが独立して作った会社だから、登場するアイテムとか声優とか作曲者が同じなのよ」
「あー、だから聞き覚えのある曲があったのか」
戦闘システムに定評があるのも共通しているのだが、おつかい要素が多いなどの欠点まで似ているらしい。
足して2で割っても似たようなゲーム会社になりそうだ。
ある意味、安定しているといえる。
「セボリーなら豆だな」
「なんで?」
「『豆のハーブ』って呼ばれてるからだ。豆料理と相性がいい」
「へー」
アーモンドやクルミ、カシューナッツ、マカダミアナッツ、ピスタチオのようなナッツ系の豆にした。
乾燥セボリーとオリーブオイルでローストナッツにしてもうまい。
「そろそろニブルヘイムに行くか」
褒美で強い装備も手に入れたので、氷の国ニブルヘイムへ向かう。
ニブルヘイムや火の巨人の国ムスッペルヘイムは、神々の世界アスガルドや地上世界ミッドガルドが誕生する前から存在しているという。
神々の科学技術はニブルヘイムやムスッペルヘイムから伝来したものらしい。
ゲームによく出てくる『超古代文明』である。
神話によると最初に霜の巨人ユミルが生まれ、ニブルヘイムの氷の下から現れた謎の存在ブーリたちが巨人族と子供を作り、神々が生まれたという。
神々も巨人族もルーツは同じなのだ。
やがて神々はユミルを殺し、その死体からミッドガルドやアスガルドを創造した。
「神々には6枚の羽根が生えてるから、ニブルヘイムの氷の下から現れたブーリは堕天使っぽいんだよな」
「ほぼ正解ね」
「やっぱりな」
キリスト教で神に反逆したサタンたちは、コキュートスと呼ばれる氷の地獄に封印された。
つまりブーリとは堕天使=悪魔であり、北欧神話の神々は悪魔の子孫なのである。
神々がラグナロクで滅ぼされるのも、悪魔の血を引いているからだろう。
キリスト教っぽいエピソードは他にもあった。
ロキという巨人が盲目の神ホズをだまし、ヤドリギでバルドルという光の神を殺すのだが、これもキリストを裏切ったユダと、キリストの死体を槍で突いた盲目の兵士ロンギヌスのエピソードに似ている。
ラグナロクで世界が一度滅び、そこから再生するのも最後の審判と似た流れだ。
食べると不死になれる黄金のリンゴも禁断の果実っぽい(この世界ではナノマシンで不死になっているようだが)。
ラグナロクで世界が滅ぼされて新世界が誕生するとなると、英雄たちは新世界に転生するのかもしれない。
「敵も強くなってきたな」
適当に攻撃するとガードされるようになってきた。
厄介なことに最初の一撃をガードされてしまうと、その後の攻撃もすべてガードされてしまう。
一応、ガードの上から殴り続ければガードブレイクすることもできるのだが、手数が無駄になる。
石を拾えないのでCTが回復できないのだ。
魔法はガード不能なので、CTの少ない魔法で敵のガードを崩してからコンボを繋げるのが基本だろう。
魔法使いもコンボに加われば決め技を出せるのだが、CTが溜まってしまうので安易に決め技を出してはいけない。
魔法が使えない間、ガードを崩せないので敵にほとんどダメージを与えられなくなってしまう。
特定の英雄だけが使えるガード不能攻撃や、敵の背後に回り込むスキルをうまく使わなければ、どうしても苦戦を強いられる。
しかし敵を確実に崩してダウンさせ、石を回収してCTを回復しつつ、毎ターン魔法や決め技を使えるようになってくると面白い。
ボスでさえ効率よく決め技の連打で倒せてしまう。
「この調子ならラグナロクも楽勝だな」
「そうね、これだけやれたらラスボスも倒せるはずよ」
その言葉に嘘はなかった。
とうとうラグナロクが始まり、神々に襲い掛かる火の巨人族ムスッペルを次々に撃退していく。
火の巨人には神々と同じように羽根が生えていた。
キリスト教でいう火を司る天使セラフィムだろう。
6枚の羽根を持つ最高位の天使だ。
オーディンには12枚の羽根が生えているが、これはサタンと同じ枚数である。
一番悪魔の血が濃いのだろう。
空を飛ぶ天使を打ち落としてコンボを繋げ、ムスッペルの王スルトのもとへ向かう。
実際にムスッペルと戦うことでラスボスを倒せるだけのテクニックはあると確信する。
……しかし問題はラスボスではなかった。
『キュア・プリムス』
「げ!?」
元ネタの北欧神話には影も形も存在せず、ストーリーにからむ重要なキャラでもないのに、ラスボスよりも強いトラウマボス。
それがこの『ブラッドヴェノム』だ。
トラ食え2のラスボスがHPを全回復する魔法をランダムで使ってくるのもトラウマだが(運が悪いと定期的に全回復されて倒せなくなる)、こいつは10ターン経つと確実に回復魔法を使ってくる。
その回復量は驚きの177600。
HPは220000だ。
おまけにほぼ毎ターンのように全体攻撃をしてくるので、魔法使いは回復しかできない。
でかいくせに意外と回避率も高く、攻撃を避わされるとダウンさせるのに手間取り、CTを回復できずに死ぬ。
最初の10ターンで倒せなければ、もう10ターン戦うことになるのもきつい。
10ターン単位で戦闘が長引くわけで、いずれ回復アイテムも枯渇してしまう。
「……10ターンでどうやって倒せばいいんだ、こんな化け物」
「10ターン以内に18万以上のダメージを与えれば行動パターンが変わって、回復魔法使わなくなるわよ」
「マジか」
毎ターン決め技を使い続ければ10ターンで18万ダメージも夢ではない。
希望が見えてきた。
確実にブラッドヴェノムに攻撃を当て、ダウンさせてコンボを繋げ、CTを回復しながら決め技3連発。
焦ってボタンを連打するとミスる。
一発一発確実に攻撃をヒットさせていった。
「行ける!」
そしてとうとう総ダメージが18万を突破!
『グラビティプレス』
「は?」
これで勝てると思った瞬間、全体攻撃の即死攻撃を食らって全滅した。
「だから言ったでしょ、行動パターンが変わるって」
「変わりすぎだろ!」
ようやく18万ダメージを与えたと思ったら全体攻撃の即死攻撃。
いや、正確には即死効果があるわけではないのだが、ダメージがでかすぎて即死魔法と変わらない。
普通のRPGと違ってこのゲームではHPが10000を超える。
シナリオもここまで来るとHP20000~40000前後だ。
グラビティプレスは複数回ヒットする魔法で、一発あたり20000前後のダメージを食らう。
……どうしようもない。
しかも魔法だから避わすこともできないのだ。
発動したら確実に死ぬ。
「ぐ、ガッツが足りない!」
スキルの『ガッツ』があれば、HPがマイナスになる攻撃を食らってもHP1ケタで耐えることができる。
だがこれも一定確率で発動するスキルなので、運が良くても1人は死ぬ。
運よく生き延びてもグラビティプレスを連発してくるので、悠長に仲間を生き返らせていると全滅する。
人数が欠けた状態で残り4万のHPを削るのは難しい。
何とかならないものかと頭をひねっていると、一定の条件下で自動的にアイテムを使ってくれる『オートアイテム』のスキルがあるのを思い出した。
これに復活アイテムをセットしておけば、ガッツで1人生き延びればオートアイテムで2人になり、2人生き延びれば4人になる。
このボスのためにあるようなスキルだ。
「……ほとんど運ゲーだな」
HPを18万削った後は祈るしかない。
祈りが天に届けば4人で総攻撃、悪ければ2人で復活アイテムを使って仲間を生き返らせ、最悪の場合は一発で全滅。
こんなひどいボスはなかなかいない。
「なんでこいつをラスボスにしなかったんだ」
「こんなラスボスと戦いたい?」
「こんな中ボスとも戦いたくねえよ!」




