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君と殴り合うRPGセット【ピーチパイとホットコーヒー】

参考ゲーム

テイルズ・オブ・リバース


『鐘と響きあうRPG』


「……なんだ、この意味不明なジャンルは?」

「祇園精舎の鐘と響きあうのよ」

 余計に意味が分からない。


 『テイルズ・オブ・ゲンペイ』というタイトルからして源平合戦をモデルにしてるのだろうが、とにかくジャンル名が特殊なシリーズだ。


 『宿命のRPG』や『永久と絆のRPG』のように、作品ごとにジャンル名がつけられている。

 シリーズを重ねるごとに『熱情が世界を照らすRPG』や『私が私らしく生きるためのRPG』のようにキャッチコピー化が進んでおり、ちゃんとシナリオとリンクしているのか怪しい。

「これは『君と殴りあうRPG』って呼ばれてるけどね」

「なんでだ?」


「仲間になるキャラ全員と戦うイベントがあるから」


「マジか」

 かなりカオスなシナリオのようだ。

 なお平家物語の海外版タイトルはテイル・オブ・ヘイケである。

 つまり本作を日本語訳すると『源平物語』だ。

 主人公は牛若丸(のちの源義経)。

 いわずと知れた源氏の名将だが、


『その後、牛若丸たちの行方ゆくえを知るものは誰もいなかった……』


「……敵が強すぎる」

 アクションRPGながら戦闘システムが複雑で、よくわからないまま全滅した。

 横スクロールの3ラインを移動しながら敵を倒す。

 プレイヤーが操作できるのは1人だけで、仲間はオートで行動する(一応ボタンを押せば操作できるキャラを切り替えることはできる)。




―味――――――敵―


――味―――敵―――


―味――――――敵―



※戦闘フィールドは3つのラインに分かれており、必要に応じてラインを移動して敵の攻撃を避わしたりする




 まだ序盤なので3ラインを活かした攻防は少ない。

 本当にやばいのはラインとは別のところにある。

「……回復魔法を使えるキャラがいないんだが」


「回復魔法なんてないわよ」


「はあ!?」

「レベルを上げれば覚えられるけど、そんなに便利なものじゃないし。移動中は使えないわよ」

「じゃあ、どうやって回復すればいいんだ?」

「ゲージを管理して殴る」

「いや、回復方法を聞いてるんだよ」


「殴れば回復するのよ」


「……意味がわからん」

「『敵を倒す』『技術ゲージMAXの状態で技術を発動する』『魔法陣の中に入る』『回復アイテムを使う』と回復するの」

「わかりにくいな」

 『敵を倒す』と『回復アイテムを使う』はそのままの意味。

 魔法陣は陰陽師の術だ。


 魔法陣の中に入ると攻撃力や防御力が上がり、体力も少しずつ回復する。


 しかし魔法陣の継続時間は短く、回復量も大したことはない。

「……回復量が足りん」

「だから『乱舞ゲージ』を管理するのよ。わかりやすくいえばテンションね。テンションを上げれば奥義を発動できたりするんだけど、体力の回復量が下がるの。逆にテンション下げたら奥義を発動できない代わりに回復量が上がるわけ」

「乱舞ゲージはどうやって管理すればいいんだ?」


「『敵を殴る』『攻撃が防御される』『攻撃を食らう』。前線で戦ってれば勝手に上がるわよ」


「ゲージを下げるには?」

「『何もしない』『バックステップ』『ライン移動』」

「地味に面倒だな」


「ガード中に十字キーの上下を押してもいいわよ」


「ん、これが一番手っ取りばやいな」

 大ダメージを与えたいのならガードボタン+↑でゲージを上げ、回復したいのならガードボタン+↓で下げればいい。


『おいてけー』


 ようやく基本的なシステムを理解できたところで、最初のボスである弁慶と遭遇する。

 弁慶は『1000本の刀を集めて奉納すればどんな願いもかなう』という伝説を信じているらしく、五条大橋で人を襲い、刀を集めること999本。

 最後の1本として目を付けたのが牛若丸の愛刀だった。


「『ビッグブリッヂの決闘』ね」


「『五条大橋の決闘』だ」

 牛若丸は五条大橋の欄干らんかんをピョンピョン飛びながら薙刀なぎなたを避わし、向こうズネ(弁慶の泣き所)を蹴って弁慶を倒したという有名なエピソードだ。

 なおビッグブリッヂの決闘は名作RPG『最後の幻想5』の名曲であり、弁慶をモチーフにしたボスと大橋ビッグブリッヂで戦うイベントである。

 細かいようだがブリッジではなくブリッ『ヂ』だ。

「ライン移動しても欄干の上に乗れないんだな」

 ゲージを低めに保って体力をコツコツ回復していれば勝てない相手ではない。

 こうして無事に弁慶を倒すと、


『どんな願い事も1つだけかなえてやろう』


 牛若丸が愛刀を弁慶に渡す。

 感動した弁慶は千本の刀を差し出し、牛若丸の従者になることを願った。

 こうして弁慶は仲間になることを許され、本格的な冒険が始まる。

 仲間が増えたので戦闘も少しは楽になるだろう。


『その後、牛若丸たちの行方を知るものは誰もいなかった……』


「……乱舞ゲージは調整できるようになってきたから、あとは『技術ゲージ』の管理だな」

 各キャラには4つの技術ゲージがあり、その1つ1つに技術(技や術)をセットできる。

 ある程度ゲージを溜めないと技術は発動できない。

 ゲージは十字キーに対応しており、十字キーを押した状態で技術ボタンを押すと技術が発動する。



↑ 魔人剣

← 高尾斬

→ 覇権斬

↓ 三和斬


※↑を押しながら×ボタンを押すと魔人剣が発動する



 技術ゲージがMAXの状態で技術を発動すると体力が回復する。

 ただし乱舞ゲージが高いと回復量が少ない。

 だから回復したいのなら乱舞ゲージを下げて、技術ゲージMAXの技を発動する必要がある。


 技術ゲージは『時間経過』『攻撃を当てる』『敵を倒す』と回復する。


 乱舞ゲージも含めてゲージ管理が忙しい。

「……うまく回復できん」

「そこで料理よ!」

「アイテム使って料理するんだから、回復アイテム使うのと同じだろ? しかも戦闘中には使えん」

「回復アイテム買うよりずっと安いでしょ」

「……ん? 素材1つ10文?」

 料理するのに素材が2ついるとしても、格段に安い。


 戦闘中でも使える回復アイテム(体力の50%を回復)は1個500文。


 復活アイテムは800文だ。

 1回の戦闘で入手できるのはせいぜい100文。

 戦闘に参加できるメンバーは4人、パーティーメンバーは最終的に6人になる。

 全員の装備を整えていると金が足りない。

 回復アイテムが必要なのは戦闘システムに慣れていない序盤なのに、高価なのでなかなか買えないわけだ。


 一方、料理の素材は敵がちょくちょく落とすし値段もお手頃。


 ただし戦闘中には食べられず、1戦につき1回しか食事できない(1度料理を食べたら、1回戦闘しないと次の料理は食べられない)。

 1番簡単な料理だと体力の15%ほどしか回復しないものの、パーティー全員の体力が回復する。

 回復アイテムは高価なだけにありがたい。

 料理はシリーズでもお馴染みのシステムらしいが、戦闘システムが独特で回復方法の限られている本作が一番料理をする機会が多いようだ。


 料理をセットしておけば戦闘後に自動で料理を食べるので手間もかからない。


 あくまで回復アイテムに比べて安いだけで、素材をたくさん買えば費用もかかる。

 やはり体力の半分は自力で回復しておく必要があるだろう。

「でもアップルグミもピーチパイもマーボーカレーもないのよね」

「そりゃ日本が舞台だからな」

 グミは定番の回復アイテム、マーボーカレーは恒例のトンデモ料理であり、ピーチパイはシリーズでも屈指の人気を誇る重要アイテムらしい。


 ピーチパイは公式のレシピまである。


「今日はピーチパイにしよう」

「やった! 飲み物はホットコーヒーね」

 これもシリーズの重要なアイテムのようだ。

 ヒロインが五感を失いつつあるのではないかと気づいた主人公が、ホットコーヒーをアイスコーヒーだといって渡して確認するイベントらしい。


 ピーチパイと一緒に、シリーズ25周年記念のコラボカフェのメニューにも選ばれたそうだ。


 ……コラボカフェのメニューにしては重い。

「さて……」

 まずは水分を切った桃を裏漉しして煮詰め、ピューレにし、レモン汁で味をととのえる。

 そしてクッキーを袋に詰めて、

「魔人剣!」

 めん棒で粉砕する。

 粉々になったクッキーにアーモンドやシナモンパウダーを混ぜ、ピューレと一緒にパイ生地の上に敷く。

 あとは黄桃を贅沢に載せ、パイ生地のフチに卵黄を塗り、オーブンで焼くだけ。


「……火力が足りん」


 オーブンではなくゲームの話だ。

 序盤のザコすら体力が1000ある。

 もっとゲージを高くしてコンボを繋げないと火力が足りない。

 やはり戦闘開始直後に乱舞ゲージを高めて連続攻撃を叩き込み、低めに調整して回復、タイミングを見計らってもう一度ゲージを上げてラッシュ。

 こういう流れになるはずだ。

 パターンさえ構築できればなんとかなるだろう。


『その後、牛若丸たちの行方を知るものは誰もいなかった……』


 ……しかしこのゲームはそれほど甘くない。

 戦略をミスるとザコにすら殺される。

 たとえば戦闘開始と同時に目の前の敵へ殴りかかると、別のラインにいる敵に後衛の陰陽師が殴られて死ぬ。




―味←←←←←←敵―


――味→→→敵―――


―味←←←←←←敵―




 なので陰陽師が殴られないようにしなければならない。

 たとえば自分の後ろに陰陽師を配置する、ライン移動をして敵の進路をブロックする、敵をこちらのラインに誘い込むなどだ。

 戦闘に参加できるのは4人までなので、前衛2人後衛2人にすれば開幕で殴り殺されることも少なくなる。



―味―味――――敵―


―味―味――敵―――


――――――――敵―



 ただザコ敵の数がパーティーより多いのも珍しくなく、乱戦でうかつにライン移動すると後ろに突っ込まれて死ぬ。

 敵に陰陽師がいる場合も怖い。

『六根清浄、急々如律令!』

 術は呪文を詠唱しないと発動せず、フルボイスなので呪文を詠唱するのに数秒かかる。

 詠唱を中断させたいのなら相手を殴るしかない。


 前線で殴り合っている間に敵の陰陽師の詠唱が終わり、術を食らって全滅というパターンが結構ある。


 ザコ戦で全滅するのはだいたいこのパターンだ。

 この場合、戦闘開始と同時にライン移動して後方へ突っ込み、陰陽師を最優先で殺すしかない。

 攻撃を当てるとすぐライン移動をして逃げるのも厄介だ。

 中央で陰陽師を攻撃した場合、上と下のどちらへ移動するのかわからない。


 だが上、もしくは下のラインで陰陽師を攻撃すれば、次は必ず中央のラインへ移動する。


 うまく先回りできればコンボを叩き込めるだろう。

 ライン移動にも注意が必要だ。


 一番やばいのは囲まれること。


 敵に挟まれる位置へライン移動すると、前後から殴られてしまう。

 殴られると一定時間硬直するので、手数の多い敵に挟まれると死ぬまで殴られる。




――――敵―――敵―

      ↑

――――――味―――




 なるべく敵の背後まで回り込んだほうがいい。

 逆に敵をはさみ撃ちにしてしまえばこっちのものだ。

 死ぬまで一方的に殴り続けることができる。

 ただし、


『馬に蹴られて死んじまえ!』


「うお!? 即死した!?」

 馬に乗ったボスの背後に回り込むと、後ろ足で蹴られて死ぬ。

「はさみ撃ち対策ね」

 こちらも対策を立てないとあっという間に全滅する。

 中盤頃には所持金も増えるので回復・復活アイテムをまとめ買いできるのが救いか。


 ……まあ、1つのアイテムは15個までしか持てないのだが(15個のアイテムを4人のキャラで分け合うので無駄遣いするとアイテムが枯渇して死ぬ)。


『逆賊・義経を討て!』


「やっと安宅あたけか……」

 壇ノ浦の戦いで平家を滅ぼすと、義経は兄の頼朝と対立して追われることになる。

 逃げようにも安宅の関所は厳重に警備されていた。


『よもや義経一行ではあるまいな?』

『霊場復興のため、勧進かんじんの旅をしております』

『ならば勧進帳を出せ!』


 勧進は寺や大仏などを建てるために寄付を募ること。

 勧進帳には勧進をする目的や、寄付の功徳(寄付をすると極楽へ行けます、こういうご利益がありますという説明)、そして寄付者の名前が書かれている。

 勧進のフリをしているだけなので、勧進帳など持っているわけがない。

 そこで弁慶は懐にあった白紙の巻物を取り出し、


『(前略)ここに中頃、みかどおはします。おん名を聖武しょうむ皇帝と申し奉る。最愛の夫人に別れ、恋慕の思いやみがたく、涕泣ていきゅう眼に荒く、涙玉をつらね、乾くいとまなし。故に、上下菩提のため、盧舎那仏るしゃなぶつを建立し給う』


 さも勧進帳であるかのように読み上げた(アドリブで架空の勧進帳をでっち上げた)。

 弁慶の朗読に富樫も納得して通行を許可したものの、富樫の部下が荷物持ち(義経)の顔を見て引き留める。


『あの荷物持ちの人相が義経に似ている気がする』

『……それで疑いが晴れるのなら、いっそこの荷物持ちをここで殺してしまいましょう』


 まさかの弁慶VS義経。

 五条大橋とは逆で、今回はプレイヤーが弁慶になって義経と戦うのだ。

 本物の義経と弁慶なら本気で殺し合いなどしない。

 なので、あえて本気で殺しあうことで富樫の疑いを解こうという作戦だ。


『八艘飛び!』


 義経は八艘飛びで上から下へ、下から上へと、中央のラインを飛び越えて移動した。

 そのジャンプ力でこちらの頭を飛び越えることもある。

 弁慶の攻撃を避わすと同時に後方の陰陽師へ攻撃を仕掛けてくる凶悪ぶり。


「お前みたいな荷物持ちがいるか!」


 これぞ君と殴り合うRPG。


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