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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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301/382

捕物帖セット【言問団子とブラジル】

「各地で馬の尻尾が切られているそうです」


「……なにそれ、呪術?」

「信仰判定してみよう」

 札を引く。


「馬を川に沈める儀式はありますが、尻尾を使うのは一般的ではありませんね」


 存在したとしても特殊な儀式なので、信仰判定ではわからないということだ。

「馬に共通点は? 毛の色とか、産地とか」

「バラバラです」

 イタズラにしては範囲が広すぎる。

 尻尾を切れば馬は暴れるだろうし、うまやに忍び込むのもリスクが高い。


「なにかの材料にしてるんじゃないの?」


「順当に考えればそうなるな」

 馬の毛の用途も判定してみる。

「筆や楽器、織物、能面が一般的です」

「……これも範囲が広すぎるな」

 現代よりも需要がある。

 調べるのは時間がかかりそうだ。


 それに尻尾を切ってるのが気になる。


 これでは捜査してくださいといってるようなもの。

 毛が欲しいのなら切らずにむしっていけばいい。

 たとえバレても軽い刑罰で済む。

 馬が激痛で暴れることもない。

「被害は尻尾だけ?」


「尻尾だけです」


たてがみには見向きもしてないのか」

 尻尾の毛を使う道具にしぼって調査する。

 だがなにも手がかりはつかめなかった。


「では、しばらくすると『てーへんだー!』と手下が駆け込んできます。親分、土左衛門どざえもんですぜ」


「水死体だっけ?」

「はい」

 水を吸ってぶよぶよになった死体は、江戸時代の力士・土左衛門に似ているのでこう呼ばれる。

 ひどいネーミングだ。

「川で尼さんの水死体が上がったそうです」

「調査に行きます」

「手下に先導されて川の下流へ向かっていると、上流で大名釣りをしているのを見かけます」

「なにそれ」


金襴きんらんの座蒲団を敷き、後ろには金屏風。竿は金銀象眼きんぎんぞうがん、釣り糸は花魁おいらんの髪の毛。エサは印籠いんろうから取り出した練餌ねりえ。釣り人は端正な顔立ちをした色男。大名釣りではありますが、平安貴族のように烏帽子えぼし狩衣かりぎぬを着ています」


「周囲に護衛の武士はいますか?」

「用心棒っぽい浪人はいます」

「……浪人か。たぶん大名じゃないぞ、どこぞの成金だ」

「趣味わる」

「バカ騒ぎを見るに見かねたのか、尼さんが大名釣りの後ろで『南無阿弥陀仏』と念仏を唱えています。もちろん無視されますが」

 不忍池しのばずいけをはじめ、殺生(釣り)禁断の場所はいくつかある。

 現在よりも宗教的な意味で釣りを禁じられ、なおかつこれだけ贅沢をしているのだから説教されても仕方ない。

 ……完全に無視されているようだが。


「明らかに何か起こりそうなんだが、状況的にここで釣りを眺めるわけにもいかないしな」


「そうですね。手下から早くこっちに来てくださいと袖を引っ張られます」

「私がここに残っとく?」

「そうしよう」

 見張りを残して現場に向かう。

 TRPGではパーティーが二手に分かれた場合、『現場にいないキャラが情報を得られるのはおかしい』ということでプレイヤーが別室に移動することも珍しくないのだが、


「お口にチャック」


 わざわざ移動することもないというGMの判断で席はそのまま。

 ただし俺が捜査している間、瑞穂は口を出せない。

「水死体を検視します」


「水死体ではありますが、川に捨てられたのは死んだ後のようですね。死因は撲殺。凶器は棒状のもの。それと服のサイズが一回り大きいようです」


「……誰かに着せられた?」

「それっぽいわね」

「しー」

「あ」

 慌てて口を押えても遅い。

 GMからイエローカードが出た。

 2枚もらったら退場になるのだろうか?

 それも見てみたい気がするものの、今はそれどころではない。

 検視結果から推測するに、


「……素性をいつわるために頭を剃って、袈裟けさを着せた?」


 つまり被害者は尼さんではない。

「頭は綺麗に剃られてますか?」

「ツルツルです」

 すると頭を剃ったのは死ぬ前だろうか?

 撲殺されてへこんだ頭を綺麗に剃るのは難しそうな気がする。

「一応、寺に行方不明者がいないか問い合わせます」

「少し手間取るかもしれません」

「別にいいですよ。状況からして尼さんじゃなさそうですし。検視でまだわかることはありますか?」


「指にタコがあります」


 何かの作業に従事していた(させられていた?)ということだろうか。

 とりあえず判定をしてみたものの、『職人』に関する知識がないので失敗した。

 これも手下を使って調べるしかない。

 寺よりこちらのほうが優先順位は上だろう。


「では大名釣りのシーンに移りましょう」


「待ってました!」

 次は俺が黙る番だ。

「釣り竿垂らして何か起こらないか待ってる」

 ついでに札を引いて釣り判定。

 引き運が悪く坊主(魚が一匹も釣れないこと)だ。


「バカ騒ぎが続くこと1時間。辺りはすっかり暗くなり、不意に大きな水音がして、悲鳴が辺りに響きました」


「え、なに!?」

「河童だ! 旦那が河童に引きずり込まれた!」

「河童!? えーと、上から河童見える?」

「暗いので無理です」

「う、水泳技能もないから泳げないし……。どうすればいいの!?」

 おろおろしながらこっちを見るものの、俺のキャラは現場にいないので首を振ることしかできない。

 うーんと頭を抱えること数分。


「あ、ここ上流じゃない! 引きずり込まれたんなら下に流されるはず! 下流にダッシュして銭形と合流!」


「悪くない判断だ。下流を捜索、夜船は停船。大名釣りの参加者はその場を動くな。怪しい野次馬はひっ捕らえろ」

「怪しい野次馬の基準があいまいです。現場検証していたとはいえ、手下の数はそんなに多くありませんから捕まえられる人数も限りがありますし」

「くそ! 具体的な指示を出さないと犯人に逃げられるかもしれん」

「髪の毛は?」

「は?」


「川に引きずり込んだんなら濡れてるでしょ」


「それだ!」

 どれだけ丁寧に拭いても、髪の毛はそう簡単に乾かない。

 短髪の男にはなかなか思い浮かばない発想だ。

 こうして頭が濡れている人間を片っ端からひっ捕らえるものの、

「みんな銭湯帰りです」

「ちっ」

 何の成果も得られなかった。

 旦那の死体も見つからない。


 誘拐されたにしても川から上がった跡は残っていると思うのだが、そういう痕跡もない。


 夜船の乗員にも怪しい人間はいなかった。

 時間だけが無駄に過ぎていく。


「では『てーへんだー!』と上流から手下がやってきます。親分、土左衛門どざえもんですぜ」


「げ!?」

「上流!?」

 大急ぎで現場へ急行。


「間違いありません、うちの大旦那です」


「……完全に裏をかかれたな」

「下に逃げると見せかけて上に逃げたのね」

 ただ犯人に水泳技能があるのはわかった。

 それだけでも収穫だ。

「検視します」


「槍のようなもので刺殺されています。それと烏帽子と狩衣がありません」


「服がない?」

「ほぼ裸です」

「……烏帽子はともかく、狩衣は簡単に脱げないよな」

「犯人に脱がされたってこと?」

「そうとしか考えられないだろ」

 それ以上のことはわからなかった。

 仕方ないので釣りの参加者を調べ、誰も水に濡れていないことに落胆する。

 この様子だと犯行は不可能だ。


「水死体の尼さんの情報が届きました。近隣のお寺には該当する尼さんは存在しません。それと手のタコははた織りのタコのようですね」


「機織りか……」

 参考になるようでいて、あまり参考にならない。

 機織り関連の人間は多そうなので、身元の確認も手間取りそうだ。

「ひとまず殺された旦那の素性を調べます」


須磨すま屋という呉服屋ですね。大名・旗本御用達の大店おおだなです。美男子の大富豪なのでモテますが、それだけに旦那に恨みを抱いている人間は多いようです。烏帽子と狩衣を着ていたのは、屋号の須磨にちなんでいるみたいですね」


「須磨って兵庫でしょ。なんで烏帽子と狩衣なの?」

「平安の貴公子・在原行平ありわらのゆきひらが謹慎していた土地が須磨です。行平は海女あまの姉妹・松風と村雨を寵愛ちょうあいしていましたが、謹慎が解けたので都へ戻りました。あとに残されたのは松の木に掛けられた烏帽子と狩衣だけ。悲嘆ひたんにくれた姉妹は尼になり、行平をしのんだと伝えられています」

「海女さんが尼さんになったの?」

「落語みたいな落ちだな」


「能の演目『松風』にもなっている有名なエピソードです。行平と姉妹の三角関係、烏帽子と狩衣で男装して舞う姉妹、悲しみのあまり松の木を行平と錯覚する松風。見どころがたくさんあるので『熊野ゆや松風は米の飯』と呼ばれています」


「へー」

 米は何度食べても飽きない=松風は何度観ても飽きないということだろう。

 演劇としてこれほどの褒め言葉はない。

「海女と尼。それに現場からなくなってた烏帽子と狩衣。状況からして釣りの後ろで念仏を唱えてた尼さんが怪しい」

「でも髪の毛ないから捕まえられなかったのよね」

「……ぐ、水に潜っても毛がなければ頭はすぐに乾く。完全にしてやられてるぞ」

 下流を探す、頭の濡れている人間を捕まえる。


 普通ならこれが最善手のはずなのだが、まんまとGMの計算通りに話が進んでる気がした。


「ちなみに尼さんは笠をかぶっていたので、顔はわかりません。念仏も低い声でしたし」

「くそ!」

 江戸中の尼を総当たりすればいつかは容疑者にたどり着けるだろうが、それでは時間がかかりすぎる。

 捜査に手間取れば逃げられるだろう。

 動機の線から探していくしかない。

「女性関係と商売から容疑者を絞り込んでいこう」


「これが旦那と交流のあった女性や、その女性との仲を噂されている男性のリストです」


「多すぎ!」

 おびただしい数の女性関係と三角関係。

 これも総当たりしていくのは現実的ではない。

「商売のほうは?」

「昨年から上等な帯を売り出して、飛ぶように売れているそうです」

 評判の帯を判定してみる。


支那しなから仕入れた呉絽ごろの帯との評判です。安くて50両、高いものになると3~400両」


「たかっ!?」

「ごろってなんですか?」

「羊やヤギ、ラクダなどの毛で作った輸入品ですね。須磨屋の帯は河西かせいの名産とされ、縦糸は羊、横糸はラクダで織りこんでいるとのことです」

「……怪しいわね。もしかしてこの帯、馬の毛で作ってるんじゃないの?」


「よく見ると馬ですね」


「やっぱり!」

「でも1つ3~400両で売れる帯だぞ。そんなに金持ってて、わざわざ人の馬の尻尾を切るか?」

「う……」

 尻尾を切られた馬も、特別に毛並みがいいわけではない。

 繋がりそうで繋がらないもどかしさを感じる。

 情報が足りないのだろうか?


「それといくつかの帯には、端っこに小さな絵が織られてますね。帯によって絵が違います。都鳥みやこどり、鳥かご、丸が3つと横棒が1つ」


「……なんだこれ?」

「須磨屋の従業員も首を傾げています。こんな文様があるとは知らなかった」

 なにか理由わけがありそうだ。

「都鳥を判定」

琳派りんぱに見えます」

「リンパ?」

「尾形光琳の画風っぽいデザインです」

「中国から輸入したはずなのに、日本で作られたようなデザインってことだろ」

「あー、そういうことね」

「他に何かわかりますか?」


「江戸で都鳥といえば行平の弟・在原業平ありわらのなりひらが有名です。失恋で関東に下った業平は『名にし負はば いざ言問こととはん都鳥 わが思ふ人は ありやなしやと』という句を残しています」


「……ん、言問?」

 聞き覚えのある名前だ。

 どこで聞いたのだろうと考えていると、



○○○

━━━



 帯に織られている謎の文様が目に入った。

「あ、言問団子!? これは団子と串の絵か!?」

「それ有名なの?」

「『お江戸に団子屋は何軒あるか知らねえが、どこの団子でも1串の数は5つと決まっているのに、言問団子ばかりゃ昔から3つと限っているんだ』というセリフもあります。江戸で団子は1個1銭、1串5個で5銭が基本だったんですが、4文銭の流通により1串4個の4銭で売られるようになったといわれています。だからどちらにも当てはまらない言問団子が珍しいわけですね」


「お団子食べたい」


「……ならコーヒー淹れてこい、ブラジルな」

「コロンビアでお願いします」

「はーい!」

 言問団子はこしあん、白餡、味噌あんの3種類。

 ブラジルやコロンビアはこしあんと相性がいい。

 フルーティーな豆を深煎りにすると、こしあんの甘さになんともいえない深みが増す。


 味噌あんとの相性を気にしてはいけない。


 普通に食べられる。

 どうしても気になるのなら、食べる順番を工夫すればいい。

 最初に食べるか、2番目に食べるか、最後にするか。

 それが問題だ。

「……で、この都鳥とか言問団子はなんなの?」


「殺された尼さんの手に機織りのマメがあったろ。しかも状況からして頭を剃られていた可能性が高い。つまり馬の毛と自分の髪の毛で帯を織らされてたんだ」


「ええ!?」

「帯を作らせている須磨屋の人間も、この模様については知らなかった。機織りが監視の目を盗んで織ったんだろ。これはメッセージかもしれん。都鳥と鳥かごで監禁、都鳥と言問団子で場所。私たちは言問のどこかに監禁されていますっていう暗号の可能性がある」

「……じゃあ隠れ家から逃げ出した尼さんが馬の尻尾を切ったのかしら?」

「かもな。そして須磨屋に見つかって殺された」

 須磨屋は大名や旗本の御用達。

 越後屋のようにお上へワイロを渡してるのかもしれない。


 だからお上に監禁の件を訴えても事件を握りつぶされる可能性があるし、居場所がバレたら殺される。


 それで馬の尻尾を切ったのだ。

 須磨屋の商売敵である呉服屋たちは、いずれ帯が馬の毛で織られていると気づくだろう。

 そしてそれは必ず馬の尻尾事件と結び付く。

 監禁事件と馬の尻尾事件は別件だ。


 別件捜査なら、須磨屋が圧力をかけて事件を握り潰すよりも早く監禁場所へたどり着けるかもしれない。


 結局、偽尼さんは殺されてしまったのだが……。

 南無。

「奉行所を通すと上から圧力がかかるかもしれん。直接、言問を縄張りにする親分にかけあって敵のアジトを突き止めよう」

「都鳥狩りだー!」

 人海戦術で言問周辺を総当たり。

 そして川勝屋という質屋の地下に大規模な機織り施設を発見。

 監禁されていた女性は全員救出、須磨屋をはじめとする商家を一斉に摘発した。

 しかし残された謎が1つ。


「……あれ? 誰が須磨屋の旦那を殺したんだっけ?」


「容疑者は大名釣りの後ろで念仏唱えてた尼さんぐらいだな。でも居場所がわからん。心当たりがあるとしたら須磨屋と川勝屋の連中か?」

 しかし尋問しても何もわからなかった。

 尋問の仕方が間違っているのかもしれない。

 いったん事件を整理し、裏を取っていく。

「尼さんの格好をした水死体は、機織り施設からの脱走者だな?」

「へえ」


「女を殺して遺体を川に捨てたのはお前か?」


「あ、あっしじゃありません!」

 心理判定をしても嘘をついてるようには見えなかった。

 しかも尋問した人間は全員真実を語っているように見える。

「……え。須磨屋も川勝屋も殺してないってこと?」

「どういうことだ? 脱走者なんだから、監禁してた奴以外にあの女を殺す動機がない。それとも監禁される前の因縁か?」


「村雨は天涯孤独の身の上。因縁も何もありゃしませんよ」


「村雨!?」

「ああ、旦那が遊びで名づけたんですよ。なんでもどこぞの海で海女をしていたとか」

「……村雨がいるなら松風もいるわよね?」

「もちろんでさ。といっても姉妹じゃありませんがね」

 ようやく事件解決への糸口が見えてきた。

「松風はどうした?」


「村雨と一緒に脱走しましたよ。でも身寄りがないもんで、途方に暮れてウロウロしていたところを川勝屋に連れ戻されちまったみたいですが」


「連れ戻されたのか? いつ?」

「大旦那が殺された翌日ですよ」

「げ!?」

「やっぱり松風が旦那を殺したのね」


「……いや、それだけじゃない。村雨を殺したのも松風だ」


「ええ!?」

「村雨は棒状のもので撲殺、須磨屋は槍状のもので刺殺。松風が海女なら凶器はもりだ」

「でも村雨と一緒に逃げたんでしょ? なんで殺すの?」

「行平気取りの旦那に松風と村雨だぞ。あだ名をつけたからには、ただの誘拐犯と被害者の関係じゃない。三角関係だ」

「村雨と旦那を殺したんなら、ウロウロしないで江戸から逃げるんじゃないの?」


「普通はそう考える。だからわざと川勝屋に捕まったんだよ。つい先日まで監禁されてた女が、外で人を殺したとは誰も思わない」


 現に俺も瑞穂も、監禁されていた女性の身元はまったく調べなかった。

 脱走して、連れ戻された女がいるなんて普通は考えない。

 おそらく馬の尻尾を切ったのは松風だろう。

 まだ囚われている女たちのために切ったのではない。


 連れ戻される自分を逃がすために切ったのだ。


「……大名釣りの後ろで念仏を唱えてたのは、殺すタイミングをうかがってたのね」

「たぶんな」

 大名釣りはかなり派手なイベントだ。

 準備に時間がかかる。


 すると事前に大名釣りの日程は決まっていたはず。


 松風がその日を知っていたとしたら、殺しの準備もしっかり整えていたのだろう。

「松風はもう家へ帰されてますよね?」

「はい。故郷に戻りたいということで、路銀ろぎんと通行手形を渡されています」

「……逃げられた」

「すべて松風の筋書き通りか」


 わざと捕まることで自分を容疑者リストから外しつつ、江戸から逃亡するための資金と手形を手に入れた。


 故郷へ戻りたいというのは嘘だろう。

 どこへ逃げたのかわからない。

 カツラと服を調達されたら、外見で判断するのも不可能になる。

 追跡は難しい。


「しばらくすると『てーへんだー!』と手下が駆け込んできました。親分、鎧掛松よろいかけまつが大変なことに!」


「よろいかけまつ?」

「歌川広重の浮世絵『名所江戸百景』でも有名な『八景坂鎧掛松』です。源義家みなもとのよしいえが鎧を掛けたことでそう名付けられました」

「鎧を掛けた松!?」

「松風か!」

 急いで現場へ急行すると、やはり予感は的中した。


「鎧掛松には須磨屋の烏帽子と狩衣が掛けられ、深々と銛が突き刺さっていました」


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