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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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捕物帖セット【クッキーと玄米茶】

「短時間で終わるTRPGない?」


「戦闘、ロールプレイ、謎解き、どれを重視しますか?」

「謎解きかしら」


「では『捕物帖とりものちょう』にしましょう」


「とりものちょう?」

「江戸時代の事件簿だな。ようするに江戸時代を舞台にした探偵小説だ」

「銭形平次が有名です」

「とっつぁんね!」

「違う」

 もちろん石川五右衛門の子孫やアルセーヌ・ルパンの孫も出てこない。

「だいたいTRPGのシナリオは事件、調査、謎解き、解決で構成されているので、探偵小説や捕物帖と相性がいいんですよ?」

 先生が『魔界都市捕物帖』なるルールブックを取り出した。


「ちなみに自作です」


「は?」

「……あ、これコピー本だわ」

「昔はこういう『袋とじ』形式の本が主流だったので自作しやすいんです」

「和装本ってやつか」

 袋とじというとハサミで切って中身を読む形式のものを想像しがちだが、これは中身ではなく外を読む。

 つまり片面印刷した紙を半分に折り、ホッチキスやヒモなどでじたものだ。

 これはヒモで綴じられている。


「江戸が舞台なので資料も腐るほどあります」


「おおう!?」

 江戸時代の解説本や、人物画・妖怪・風景画の浮世絵、そして『切絵図』と呼ばれる江戸の地図のコピーがテーブルに山と積まれた。

 本物の地図だからそのままセッションで使えるだろう。

 かつらや十手、そして銭形平次が投げることでお馴染みの寛永通宝のような小物までそろっていた。

 おまけにマスタースクリーン(プレイヤーにシナリオやデータが見えないようにする仕切り)は小さな屏風びょうぶ

 江戸時代は自作TRPGの題材として最適の素材らしい。

 魔界都市というタイトルは、東京のデータがあれば明治・大正・昭和でもプレイできるからだそうだ。

 ようするに江戸と東京の総称が魔界都市である。


「一番短いセッションは朗読方式ですね」


「朗読?」

「全員で捕物小説を朗読して、すべてのヒントが出そろったところで謎解きをします」

「俺が銭形平次だった場合、銭形のセリフは俺が読むってことですか?」

「そういうことです。TRPGというより推理ゲームですが」

「さすがに朗読だけだとゲーム性が薄いわね」


「なら普通にプレイしましょう。行為判定ではサイコロではなく1から12までの花札を使います。目標値は技能レベル。たとえば『検視』のレベルが6だった場合、1から6までの札を引けば成功です。ただし状況によって目標値が上下することもあります」


 シンプルでわかりやすいシステムだ。

 初プレイでは何が役に立つかわからないので、とりあえずサンプルキャラの銭形平次でプレイする。


「舞台はなじみのある将軍・綱吉の時代にしましょう。てーへんだてーへんだーと手下が駆け込んできました。親分、殺しですぜ。しかも場所は八丁堀だ!」


「そこはやばい場所なの?」

「八丁堀は日本の『倫敦警視庁スコットランドヤード』ですね。犯罪の捜査をする与力や同心は八丁堀に住んでいるので、彼らのことを俗に八丁堀と呼びます」

「私たちも八丁堀に住んでるの?」

「いえ、岡っ引きは役人ではないので」


「え、岡っ引きって十手と提灯持って『御用だ御用だ!』って叫んでる人たちでしょ。役人じゃないの?」


「時代劇では常に十手を持ち歩いてますが、基本的に許可がないと携帯できません。あくまで民間の協力者ですから」

「ちなみに八丁堀の旦那のポケットマネーで雇われてるから給料も安いぞ。副業がないと食っていけないし、江戸の裏事情にも詳しくないといけないからヤクザが多い」

「ええ!?」

「だから親分って呼ばれてるんですよ?」

 江戸時代の闇は深い。


「八丁堀七不思議もそこそこ有名です。『奥様あって殿様なし、金で首がつなげる、地獄の中の極楽橋、女湯の刀掛け、貧乏小路に提灯かけ横丁、寺あって墓なし、儒者・医者・犬の糞』」


「……これだけだと何もわからないんだけど」

「詳しい内容を知りたい場合は知識判定になります」

「ドロー!」

 札を引く。


10


「……高くて失敗っていうのが新鮮ね」

「ああ」

 一瞬、喜びかけた。

 慣れないうちは戸惑うかもしれない。


「では八丁堀に着きました。現場は八丁堀の片隅にある銭湯の女湯。八丁堀なのですでに検視が行われています。傷は一つだけ、後ろから急所を一突きだ。凶器は発見されていない」


「一撃必殺か。素人の仕事じゃないな」

「容疑者は?」

「怪しいのは第一発見者ぐらいですね」

 江戸っ子は朝風呂が大好きなので、犯行時間にも大勢の客がいた。

 しかし女性には朝風呂の習慣がないので女湯はガラガラ。

 被害者はいつも決まった時間に来店していたらしい。

 朝の女性客は目立つ。


 番台や客の目をかいくぐって女湯に入り、素早く殺して逃げるのは難しい。


 だから第一発見者が容疑者になるわけだが、身元を洗ってみても被害者との接点がなかった。

 つまり動機がなく、一撃で人を殺せる技能もない。

 おまけに第一発見者が来店したのは、いつもなら被害者が店を出ている時間。

 第一発見者が犯人なら、そんな時間に来ないだろう。


 機械的なトリックによる犯行(なにかの装置で凶器を飛ばして殺害など)も考えたが、一撃で急所を的確にとらえているし、凶器も行方不明だ。


 間接的な殺人で、そんな器用なマネができるとは思えない。

 おそらく犯人の手で直接刺されている。

「うーん、誰も怪しい人物は目撃してない。動機も凶器も不明、八方ふさがりだな」

「自分たちで現場調査してみる?」

「そういや八丁堀の旦那が調査したから、俺たちが直接調べたわけじゃないんだよな。やるだけやってみよう」

 岡っ引きなので調査能力はかなり高い。

 札を引く。



「女湯になぜか『刀掛け』があります」

「は?」

「たとえ武家でも、女性は帯刀しません。なのに男湯と同じ刀掛けがあります」

「そういえば八丁堀七不思議にあったな、女湯の刀掛け」

「これが事件と関係あるのかしら」

「そうでないと解決できん」

 推理してみるしかない。


「……シンプルに考えたら、男が使うから置いてあるんだよな。しかも刀だから武士だ」


「これが八丁堀独自の風習っていうんなら、その武士は八丁堀の旦那よね?」

「そうなるな。刀を掛けるから、風呂に入るのは間違いない」

「でもなんで女湯に入るの?」


「事件に関連があるのなら、旦那は朝風呂に来たってことだ。そして江戸時代の女性には朝風呂の習慣がない。つまり女湯は空いてる」


「あ、男湯は混んでるから女湯に案内したのね!」

 八丁堀における旦那衆(与力や同心)は、おらが町の誇り。

 特別扱いされても不思議はない。

 全体像が見えてきた。

「番台さん、八丁堀の旦那は朝風呂に来たかい?」

「へえ、旦那方にはいつもお世話になっておりやす」

「とうぜん女湯へ案内したよな?」

「もちろんでさ」

「全員が帰ったのを確認したか?」

「……言われてみれば、5人で来たのに帰りは4人だったような」


「そいつが犯人だ」


 金は入浴前に払う。

 常連なら1ヶ月単位でまとめて支払っているだろう。

 だから入る時に注意しても、出る時には注意しない。

 まさか被害者の女が来るまで、浴場か脱衣場に潜んでいたとは思いもしなかったのだろう。

 そして女を殺して同じ場所に隠れ、第一発見者が死体を発見して大騒ぎになってから、さも外から駆け付けたように検視する。

 あとは凶器と一緒に女湯を出るだけだ。


「いわゆる『見えない男』タイプの犯罪だな」


 推理小説の古典『ブラウン神父』シリーズで、もっとも有名な作品の1つだ。

 八丁堀の旦那は毎日来るので日常の光景と化している。

 番台からすれば従業員が来たみたいな感覚だろう。


 『怪しい奴は来なかったか』と聞かれれば、誰も来なかったと答える可能性が高い。


 『事情聴取をしたのが朝風呂に来た旦那』ならなおさらだ。

 わざわざ八丁堀の旦那に『八丁堀の旦那が来ました』とは言わない。


 誰も八丁堀の旦那が来たと口に出さないから、プレイヤーがちゃんと調べない限りその事実をつかむことはできないわけだ。


 よくできている。

 刀掛けがあるので、堂々と凶器を持ち込んでも怪しまれない。

 完全犯罪にはうってつけのシチュエーションだ。


 ちなみに見えない男の原題はザ・インビジブルマン。


 HGウェルズのSF小説『透明人間』と同じタイトルである。

 発表されたのは透明人間のほうが先なので、狙ってつけたタイトルだろう。

「江戸時代だからこそ成立するトリックね」

「それが捕物帖の魅力です」


 ただ江戸時代の銭湯の構造上、今回のシナリオが成立するか怪しい。


 現代とはかなり構造が違うからだ。

 まあ、現代人向けのシナリオとしては許容範囲だろう。

「よし、犯人ホシを挙げよう」

「戦闘システムはどうなってるの?」


「達成値の比べあいです。戦闘技能レベルの分だけ、山札から札を抜いてください」


「レベルが高いほど強い札を引きやすいわけね」

 たとえば『十手・捕縄術』のレベルが6なら、1~6の札を山札から抜く。

 そして7~12の山札の中から1枚引いて、相手の札より大きければ攻撃が命中したり、相手を捕まえることができるらしい。

「捕縄と『銭投げ』、どっちにするかな」

 捕縄が成功すれば一発で捕まえられるが、失敗すれば反撃を食らう。

 銭形なので銭投げのレベルは高い。

 ただしこれは敵を倒す技ではなく、こちらへ突っ込んでくる敵の足を一時的に止めたり、手に当てて武器を落とすのがメインの技能だ。

 最初から捕まえに行くか、それとも銭投げで武器を落としてから捕まえに行くか。


「迷った時は『銭占』をしましょう」


「ぜにうら?」

「コイントスです」

 寛永通宝ではなく永楽銭を渡される。

 原作によると、中指の爪と親指の腹で弾くらしい。


チン


 永楽銭を弾き、手のひらで受け止める。

 表だ。

「銭投げで武器を落とします」

 札を引く。



「刀を落としたので、近接系の戦闘技能が-3になります」

「御用だ!」

 相手の剣術やっとうレベルはこちらを上回るものの、さすがに-3はでかい。

 あっさり捕縛に成功した。

 めでたしめでたし。

「もしかして江戸時代のコイン、一通りそろえてあるの?」


「さすがに永楽銭と寛永通宝だけですね。あとはこれです」


「あ、『エース貨幣』!」

 日本の貨幣の形をしたクッキーだ。

 永楽銭や寛永通宝を始め、有名な古銭はだいたいそろっている。

 100円ぐらいで買えるわりに量も多い。

 お買い得だ。


「せっかくだから玄米茶かほうじ茶にしとこう」


「じゃあ玄米茶!」

「ほうじ茶でお願いします」

「あいよ」

 和風でも洋風でも、クッキーならほうじ茶か玄米茶で対応できる。

「てい!」

 瑞穂が中指の爪と親指の腹でクッキーを上に弾き、


「いたっ!?」


 口でキャッチするのに失敗。

 見事に顔へ直撃する。

 こうなることはだいたい予想していた。


「ではまだ時間があるようなので、もう1つのシナリオをやってみましょう。てーへんだてーへんだーと手下が駆け込んできます。親分、また殺しですぜ。どうやら練塀小路の妙見堂と、柳原のひげすり閻魔でお侍さんの死体が発見されたようです」


「じゃあまずは妙見堂に行って検視します」

 ……札を引くがあえなく失敗。

「じゃあ次は私ね」

「頼む」

 同じキャラが行為判定を連続して行うことはできないが、別のキャラなら判定できる。

「ドロー!」



 今度は成功した。

「お侍さんの体の向きや現場の足跡からして、妙見堂から帰るところを襲撃されたようですね。死因は首への一撃。動物に噛まれたような傷跡があります」

「首の噛み傷ならイヌ科の動物かしら」

「侍の身元は?」

「身元を証明するものは何も持っていません。ただ身なりがいいので浪人ではないと思います。それと懐から金づちと釘が発見されました」

「……丑の刻参り?」

「だろうな。妙見堂の周囲を探索します」


「木にワラ人形が打ち付けられていますね。古いものから新しいものまで、数十個あります」


「有名な丑の刻参りスポットなのか」

「新しいワラ人形調べたら、どれが侍の打ったものかわかる?」

「新しいこと以外なんの手がかりもないので、特定するのはほぼ不可能です」

「侍の持ってた釘は?」

「ありふれた五寸釘です」

 その後も細かい部分をいくつか調べてみたが、


「何の成果も得られませんでした」


 もう一つの現場へ行くしかない。

「柳原のひげすり閻魔に着きました。さっきのお侍さんとまったく同じ状況ですね。噛み殺されています」

「……そういえば綱吉の時代だったな。もしかして生類憐みの令出てます?」

「出てます」

「だから動物で殺したのね」

「ああ」


 動物を傷つけたのがバレたら切腹させられる。


 それで反撃するのをためらってしまい、喉を食いちぎられたのだ。

「……同じ日に、身元不明の侍が2人。丑の刻参りの帰りに犬に食われて死んだ、か」

「どう考えても無関係じゃないわね。ここにもワラ人形あるの?」

「あります」

「新しいワラ人形を全部調べよう」

「でも手がかりないのよ。調べても意味なくない?」


「いや、状況からして同じ人間を呪ってた可能性が高い。なら同じワラ人形があるはずだ」


「なるほど」

「では手下を呼んで、二か所のワラ人形をすべて調べましょう。同じ人間を呪ったワラ人形がたくさん出てきますね」

「え」

「人形の中には髪の毛と呪符が入っています。呪符には干支、年齢、性別、それと『令』『急』『律』『如』のどれか一文字が書かれています。たとえば戌年生まれ、30歳、男、急という感じです。名前は書かれていません」

「令、急、律、如……。伝奇系のアニメで見た覚えがあるかも。なんの呪文だっけ?」

「これも調べてみよう」

 『信仰』技能で札を引くが、技能レベルが低いので2人とも失敗。

 重要な情報なので金と時間を惜しまず、専門家を探して詳しいことを尋ねる。


「『急々如律令』という呪文ですな」


「きゅーきゅーにょりつりょー?」

「唐の国より渡来した呪いの一種で、本邦ほんぽうでは陰陽道や丑の刻参りで使われております。ようするに急・急・如・律・令のいずれか一文字を書いた呪符を使い、毎晩特定の霊地で丑の刻参りをする必要があります。ちなみに『急・急』の儀式だけは一晩で二ヶ所やらないといけません」

「昨日の夜に2人死んでるから、急の儀式をした後に殺されたってこと?」

「そうなるな。よし、急の文字の入ってるワラ人形を調べよう。これでだいぶターゲットがしぼれる。五文字の呪文ってことは、五ヶ所あるんですよね?」

「はい」

 有名な丑の刻参りスポットを地図で確認していく。


 死体の発見された練塀小路の妙見堂と柳原のひげすり閻魔。

 湯島坂下の三ツ又稲荷。

 本所四ツ目の生き埋め行者。

 日本橋本銀町の白旗金神。


 この五ヶ所だ。

「ワラ人形の中の文字はバラバラだったから、順番が決まってるわけじゃないのよね?」

「はい。なので妙見堂とひげすり閻魔の新しいワラ人形で、同じ人間を呪っている急の呪符は1セットだけですね」

「おお!」


「巳年、二十一歳、男。それが呪われている相手です」


「……ちょっと待って。江戸って100万都市でしょ。該当者1万人ぐらいいるんじゃないの?」

「いや、侍が丑の刻参りをしてるんだぞ。町人や商人が相手なら斬り殺せばいい。それをしないってことは、できない相手だってことだ」

「身分の高い人?」

「たぶんな。誰か身元の確認や死体を引き取りに来ましたか?」

「来てませんね」

「……丑の刻参りで犬に食われたショッキングな事件だから、当然ニュースは耳に入ってるはず。藩士が2人も行方不明になっていたら身元の確認ぐらいはしに来るはずなのに、誰も来ない。お家騒動の臭いがするぞ」

「殿様を呪い殺そうとした侍を、同じ藩の侍が犬を使って殺した可能性があるのね」

「そういうことになる」

 死体を引き取りに来たら、自分の藩の武士が丑の刻参りをしていたことがバレてしまう。

 動物や主君を殺せば死刑になる時代だ。

 下手をしたら幕府にお家を潰される可能性さえある。

 だから見て見ぬふりをしているのだ。


「範囲を大名にしぼって、巳年の二十一歳の男を調査しよう」


「それと犬ね」

 侍を食い殺せるぐらいだから、かなり大きな犬だ。

 嫌でも目立つ。


「該当する大名は一人だけですね。禄高は三万石、藤堂近江守の分家の岩槻藤堂です。理由はわかりませんが家老の村井信濃が蟄居閉門ちっきょへいもん、現代的にいうなら自宅謹慎させられています」


「犬は?」

「家老の娘・田鶴たずが秋田犬を飼っており、一日も早く蟄居閉門が解かれるように犬を連れて毎日お参りしているそうです」

「……殺人犯は家老の娘か、お家騒動で確定だな」

「謎はすべて解けた!」


 侍が直接殺せない相手を丑の刻参りで殺そうとしているように、自力では侍を殺せない家老の娘が秋田犬を操っていたらしい。


「大名屋敷に乗り込みましょ」

「岡っ引きは身分が低いので、奉行所の許可なしに大名屋敷へ行っても門前払いされます。それにワラ人形や身辺の調査で時間がかかってしまいましたから、日が暮れてますよ?」

「え、もう夜なの」

「丑の刻参りの対策する時間ないんじゃないか?」

「今から八丁堀の旦那やお奉行さまにお伺いを立てて、三ツ又稲荷、生き埋め行者、白旗金神へ人を派遣するのは難しいですね」

「独断で手下を動かす場合、経費で落ちますか?」

「落ちません」


 江戸市中では馬を乗り回せないし、すばやく長距離を移動するなら駕籠かごだ。


 しかし駕籠はかなり贅沢な乗り物なので(駕籠で吉原へ遊びに行くのが江戸っ子の夢らしい)、確実に赤字になる。

 ……それでも行くしかない。

「俺たちは三ツ又稲荷で張り込み、残りの2ヶ所には手下を派遣します」

「札を引いてください。1~4を引けば成功です」

「ドロー!」



「やった!」

「三ツ又稲荷にお侍さんが現れました。キョロキョロしていて挙動不審です」

「犬を警戒してるんだな」

 ひっ捕らえたいところだが、岡っ引きとしては丑の刻参りをする侍の優先度は低い。


 お縄にしないといけないのは、あくまで殺人犯だ。


「お侍さんが人形へ釘を打ちつけていると、近くからガサガサという音がします」

「来たわね」

「寛永通宝と捕り縄を構えておこう」

「では丑の刻参りが終わると、秋田犬がやぶから現れ、お侍さんのノドへ飛びかかります」

「犬に銭投げ!」

 気合を入れて手札を引く。


12


「よし!」

「犬に鍋銭なべせんが直撃しました。予想してない方向からの攻撃に、犬は体勢を崩して転倒します」

「……あれ、これやばくない?」

「ダメージ判定を」


「うああ、生類憐みの令!?」


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