おつかいゲームセット【ピザとエナジードリンク】
参考ゲーム
デスストランディング
『裏山から薬草を取ってきてくれ』
「……またか。やっぱり『おつかいゲーム』はダメだな」
「さすがにこれは擁護しにくいわね」
軍人なら上の命令通りに動いてもおかしくないが、なぜ冒険者がおつかいしなければいけないのか。
おつかいイベントも1つや2つならともかく、ひどいものになるとおつかいイベントの連続でストーリーが進行する。
こうなると冒険=おつかいになってしまい、スケールも小さくなってしまう。
台無しだ。
「こういうときは逆転の発想よ」
「逆?」
「おつかいさせられるのが嫌なら、おつかいするのが目的のゲームをやればいいじゃない!」
あらかじめ用意していたらしき『ライフ・ストランディング』というゲームを取り出した。
「ん、オタルギアの監督だな」
オタルギアの会社から独立した(正確には追い出されたのだが)監督が作ったゲームらしい。
主人公は『ポーター』と呼ばれる運び屋。
近未来が舞台なのでバイクや車もあるものの、オープニングでバイクが壊れてしまい、序盤は徒歩だ。
とにかく背中に荷物を積みまくる。
どれぐらい積むかというと、自分の身長よりも高く積む。
装備品などを含めると、総重量は100キロ近い。
荷物を積みすぎているので、歩いているとどうしても右か左に荷物や体が傾いてしまう。
プレイヤーはL・Rボタンで体を右に傾け、左に傾け、時に同時押しでその場に踏ん張りながら、荷物を落とさないように(衝撃を受けると壊れる)ひたすら歩き続ける。
「ポチッとな」
レーダーのようなものを飛ばすと、地面に青・黄色・赤のマークが表示された。
青は安全、黄色は注意、赤は危険。
レーダーを頻繁に飛ばしながら、安全な場所を選びながら歩かないといけない。
「……なんだ、この地味なゲーム」
「たぶん、ここ最近で一番賛否両論が分かれたゲームでしょうね」
「だろうな」
序盤はまったく面白くない。
ただバランスを取りながら歩くだけだ。
本当に面白くなるのか不安になるレベル。
「お、ハシゴだ」
小さな川の真ん中あたりでハシゴを発見。
これで危険な赤い場所を通らずにすむ。
『セシール いいね74』
「なんだこれ」
「ゆるくネットで繋がってて、他のプレイヤーが架けた橋とか、重量オーバーで捨てた荷物とかがマップに反映されるのよ」
「へえ。役に立ったら『いいね!』を押せばいいわけだな」
「そういうこと」
SNSのように、役に立つものや面白いものには『いいね!』を押せる。
『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』
しかもいいねは連打できた。
制限時間以内なら何度でも押せるらしい。
つまりこのハシゴの74いいねは、必ずしも74人がいいねをしたわけではないということだ。
場合によっては1人が74いいねした可能性すらある。
周囲を見回すとハシゴやロープ、看板などが周囲に散乱していた。
ハシゴやロープは現物を所持していないと設置できないものの、看板はデジタルデータのようなものらしく、いくらでも設置することができる。
『危険』『がんばれ』『おつかれさま』
種類も豊富だ。
看板を見れば安全なルートもわかる。
中には嘘の看板が存在するものの、いいねがまったくないのでトラップに引っかかる可能性は低い。
ただし、
どんがらがっしゃん!
「うおお!?」
「いいねがあるからって安全とは限らないわよ」
「くそ、わざとすべる場所にハシゴ設置しやがったな!」
いいねを押すタイミングは人によってさまざまだ。
たとえばハシゴなら、のぼる前に押すプレイヤーもいれば、のぼった後に押すプレイヤーもいるし、のぼりながら押すプレイヤーもいる。
……つまりこのハシゴの34いいねはのぼる前とのぼっている途中で押されたものだということだ。
いいねは一度押してしまうと取り消すことはできない。
せめて『わるいね』があればよかったのだが、さすがにそんな趣味の悪いシステムはなかった。
今の俺なら時間内に100わるいねを押せる自信がある。
設置したやつは絶対に許さん。
こうして毒づきながら歩いていると、
『ひゃっはー!』
「なんだこいつら!?」
いきなり変な集団に襲われて荷物を奪われた。
「『配達依存症』よ」
「なんだそれ」
「こいつらも元々は荷物を運ぶポーターで、荷物を運ぶたびに人から感謝される、つまりいいねをもらえることに感動してたんだけど……。だんだんそれに依存するようになってポーターを襲うようになったのよ」
「いいねをたくさんもらうためにポーターから配達物を奪ってるのか!」
「そういうこと」
薬物中毒者が麻薬を買うために強盗するようなものだ。
この世界は通信や交通が遮断され、文明が半ば崩壊している。
おそらく娯楽もほとんどなく、人から感謝される機会もほとんどない。
だから配達なのだ。
頭のおかしい世界設定ではあるが、筋は通っている。
一応レーダーで探知できるので、配達依存症たちを避けながら目的地を目指していると、
「ん、ハシゴも看板もなくなったぞ」
「電波の届かない場所には他のプレイヤーのアイテムとか看板は実体化できないのよ」
「なんだその電波」
「わかりやすく電波で説明しただけで、実際に物質化電波が飛んでるわけじゃないわよ」
主人公は各地に荷物を届けながら、アメリカ各地の通信システムを復旧していくのが目的らしい。
ようするに初めて行く場所には電波が届かず、自分の足だけで難所を突破しなければならないわけだ。
『行きはよいよい帰りはこわい』ならぬ『帰りはよいよい行きはこわい』システムだ。
どれだけ他のプレイヤーが国道を整備したり、川という川に橋を架けたりしても、通信を復旧しない限りそれは利用できない。
しかも通信で繋がったとしても、そのすべてがこちらのマップに反映されるわけではない。
必ず国道のどこかは壊れているし、どこかの川には橋がないはずだ。
おまけに時間経過によって設備は壊れてしまう。
自分で復旧して初めて完全なものになるゲームデザインだ。
よく考えられている。
「これでよし、と」
新エリアの通信を復旧したので、難所も通行しやすくなった。
いくつかの依頼を引き受け、他のプレイヤーの架けてくれた橋を渡り、バイクや車に乗って人々へ荷物を届けていく。
すると、
『いいね!』『いいね!』『いいね!』
「おお!」
他人のために何かを設置したりしていないのだが、どうやら配達先へ行くために置いたハシゴやロープを利用するプレイヤーが結構いるらしく、面白いようにいいねが届く。
設置した場所がよかったらしい。
他のゲームではなかなか味わえない快感だ。
このゲームを楽しみたいのなら、もっといいねがもらえるような設備を建てたほうがいいのかもしれない。
「……資源が足りん」
だがとにかく資源が足りない。
荷物を届けた報酬や、道に落ちているのを拾うだけでは追いつかない。
「配達依存症たちが盗んだ荷物をため込んでるわよ」
「あー、あいつらから奪い返せばいいのか」
アクションゲームではないし、主人公もただのポーターなので無双はできない。
だがオタルギアシリーズの監督のゲームだけあって、操作感覚はオタルギアによく似ていた。
基本はステルスで、気づかれないように近づいて殴る。
敵を無力化する武器が豊富なので、慣れれば敵もたいして強くない。
バイクや車で轢くこともできる。
ただ殺してしまうと面倒なことになるので、殺さない程度に加減しないといけないが……。
ちなみに荷物で殴ったり、荷物を投げて攻撃することもできる。
配達物で殴ると中身が壊れてしまうものの、配達依存症を殴り倒して荷物を奪い、それを投げて別の敵を倒し、さらにその荷物を奪ってという風に荷物無双をすることも不可能ではない。
「お、めちゃくちゃ貯めこんでるな」
明らかに配達するよりこいつらから奪ったほうが効率がいい。
配達依存症たちの拠点は各地にある。
それをすべてを襲撃したら、国道は復旧できるはずだ。
「大仕事だな」
時間がかかりそうなので、ひとまずここらで一服する。
「ここはやっぱりピザとエナジードリンクだろ」
「じゃあゴーダチーズとサラミね!」
「イベリコ豚のベーコンとハムもいいな」
これは『ピザ配達ミッション』に登場したピザだ。
時間制限があるし、ピザなので荷物を縦に積むこともできない(縦に積むとピザが崩れる)。
おまけに衝撃に弱いワインと一緒に配達してほしいと頼まれたりする。
背負うと衝撃でビンが割れるので、手で持って30分以内に配達しないといけない(手で持つにはボタンを押しっぱなしにしないといけないので、これも地味に面倒だ)。
バイクや車も運転できない厄介なミッションである。
ちなみにピザミッションを全部クリアすると、依頼人が実は敵だったことが判明する。
ようするに主人公を困らせるための嫌がらせなのだが、こいつ実は主人公のこと大好きなんじゃないかと思ってしまうイベントだ。
エナジードリンクは現実の企業とのタイアップ商品で、スタミナを回復したいときはこれを飲むことになる。
このエナジードリンクが国内売上一位になったのは、もしかしたらこのゲームの影響なのかもしれない。
「さて……」
ピザとエナジードリンクでリアルでもスタミナを回復し、装備を整えて配達依存症たちを襲撃。
トラックで根こそぎ資源を回収する。
これで国道が整備できたのでバイクや車で楽々配達できるようになるし、残った資源で充電設備(バイクや車のバッテリーを充電する)や橋、ロープウェー(山を簡単に横断できる)を架けることもできた。
『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』『いいね!』
「はっはっは」
コツさえつかめば10万いいねも難しくない。
蜘蛛の巣のように交通網を整備したので、たとえ経年劣化で設備が壊れても資源さえあればすぐ修理できる。
そう、資源さえあれば。
「よし、拠点を襲撃して資源を回収してこよう」
「……あんた、完全に配達依存症になってるわよ」
「ハッ!?」
荷物を届けるために荷物を奪う配達依存症たちから荷物を奪って荷物を届ける。
つまり配達依存症という設定は、このゲームにハマったプレイヤーへの皮肉でもあったのだ。




