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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ホラーセット【アーモンドトーストとブラジル】

参考ゲーム

 ダークメサイア

 ウツロマユ

『7枚、8枚、9枚……。1枚足りない……。お前が隠したのか!?』


「ぎゃーっ!?」

「皿屋敷か」

 『ダークメシア』という日本が舞台の追跡系ホラーゲームだ。

 『お菊』という怨霊が祟りを起こしているらしい。

 怪談『皿屋敷』をモチーフにした怨霊だ。

番町ばんちょうじゃなくて播州ばんしゅうのほうだな」

「番長?」

「江戸の町だよ。有名なのだと岡本綺堂の小説や歌舞伎だな。映画化もしてる。まあ、ホラーじゃなくて純愛ものなんだが」

「へー」

 このゲームでは播州、いわゆる播磨の国(兵庫)が舞台になっている。

 家宝の皿を割ってしまったお菊は殺され、遺体は姫路城の井戸に投げ捨てられてしまった。


 すると毎晩お菊の霊が現れるようになり、皿を数えては『一枚足りない』と泣いて永遠に皿を数え続けるという。


 それだけなら特に脅威のない怪談なのだが、問題はこの皿屋敷が歌舞伎の演目として演じられることだ。

 次々と役者たちが呪い殺されていく。

 これは『四谷怪談』が元ネタだろう。


 『四谷怪談を上演すると祟られる』という迷信があり、役者たちは毎回お参りに行っているそうだ(オカルトを題材にする漫画・ゲーム・アニメでもスタッフがお参りに行くことはよくあるらしい)。


 主人公は祟りを鎮めるために井戸へ降りた。

 ゲームとしてはシンプルなアクションで、逃げることしかできない。

 ただし一人だけパートナーを連れ歩ける。


 銃を持っているキャラもいるようだが、弾数制限があるので無限には撃てない。


 基本はやはり走って逃げることのようだ。

 霊を避けながら、なかばダンジョンと化している井戸を進む。

 序盤なのでそれほど難しくはない。

 間もなくお菊の骨を拾った。

 これをきちんと埋葬すれば任務完了だ。

 近所の寺に墓を作って供養する。

「これでステージ1クリアね」

 一区切りついたところで一服する。


「名古屋が小倉トーストなら、姫路はアーモンドトーストだ!」


「あ、テレビで見たことある」

 マーガリン(あるいはバター)にアーモンドの粉末や砂糖を混ぜたアーモンドバター(マーガリンでもアーモンドバターと呼ばれる)を使ったトーストだ。

「粒々してておいしい」

 ピーナッツバターとはまた違う風味が楽しめる。

 モーニングメニューなだけあってコーヒーとの相性も抜群だ。

 アーモンドの香りがするブラジルあたりがオススメだろう。

「ポチっとな」

 腹も満たされたのでゲーム再開。


うじゃうじゃうじゃ


「ぎゃー!?」

 井戸からおびただしい数の虫が這いだしてきた。

「なにこれなにこれなにこれ!?」

「まさかお菊虫か!?」

 記録によれば1795年に姫路でジャコウアゲハが大量発生したという。

 アゲハチョウは姫路藩主・池田氏の家紋。

 それが大量発生したのはお菊の祟りだと考えられ、その虫は『お菊虫』と名付けられたらしい。

 おそらくこの事件をモチーフにしたイベントだろう。


ぴちゃ ぴちゃ


「ひぇっ!?」

 背後から水のしたたる音がする。

 巨大な幼虫がうねうねと這いずり回り、やがて背中が裂けて半人半蝶の化物が姿を現した。

 お菊だ。

 脱兎のごとく逃げ出すものの、水の音は執拗に追いかけてくる。

 逃げながら除霊する方法を探すしかない。

 人間の体が重すぎるのか、飛べないのが唯一の救いか。

 ここからが本当のホラーの始まりだ。

「なんでお菊が出てくるの!? ちゃんと供養したはずじゃない!」

地縛霊じばくれいだったんだろ」

「は?」


「お菊は井戸から出られなかったのに、骨を外に出してしまったから土地の縛りから解き放たれたんだよ」


「でも歌舞伎役者を祟ってたじゃない」

「噂をすれば影がさす。つまり自分のことを語っている場所には出現できたんじゃないのか? 民間信仰でも死後に戒名かいみょうを付けるのは、生前の名前を口に出すと死者が現れるからだって思われてるしな」

「へー」

 戒名というのは仏門に入った証だから、一般に思われているように死後に付けるものではない。

 生前戒名という呼び方もおかしいのだ。


「骨を供養させようって最初に考えたのはお菊の可能性があるな」


「供養を口実に自分の骨を井戸の外に運ばせたわけね」

 そして主人公はまんまとその罠にはまってしまったわけだ。

「そー」

 悪霊に気づかれないように息を殺しながら歩き、T字路に差し掛かった。

 突き当りに怪しい廃屋がある。

 どう考えてもやばい場所なのだが、悪霊から逃げるためには室内に避難したほうがいい。

 迷わず廃屋へ飛び込んだ。

 しかし、


ぴちゃ ぴちゃ


「ええ!? 普通に入ってきた!?」

 しかも霊だから扉は開けない。

 すっと扉をすり抜けてきたようだ。


『7枚、8枚、9枚……。1枚足りない……。お前が隠したのか!?』


「あああ、捕まった!?」

 予想外の展開で操作をミスり、悪霊に追いつかれてパートナーが死んだ。


 どうやら最初の接触で死ぬのはパートナーだけらしい。


 ゲームオーバーにならないだけマシか。

「早く逃げろ!」

「あわわ!」

 半ばパニックになりながらも、お菊に捕まらないように寂れた日本家屋を探索。


ぴちゃ ぴちゃ


「しつこすぎ!」

 押し入れなどに隠れればピンチをしのげるものの、外に出るたびに見つかって避難場所に逃げることを繰り返す。

「耳がいいな」

 どうやら五感でこちらを察知しているらしい。

 廃屋なのでどうしても歩くたびに音が鳴ってしまう。

 基本はしゃがみ移動(しゃがんで移動すると音が鳴らない)だ。


「視野も広いから障子とふすまは閉めたほうがよさそうね」


「日本家屋だからこその攻防だな」

 洋館が舞台のゲームでもドアを閉めることで足音が聞こえないようにしていたが、日本家屋は洋館に比べて開放的だ。

 障子や襖を開けっぱなしにしていると、視界が開けて外から丸見えになってしまう。

 自分と怨霊の直線上にある障子や襖は必ず閉じたほうがいい。

 一枚閉じて横に移動するだけで怨霊はこちらを見失いやすくなる。

「あ、なんかアイテムがある」

 日本家屋を探索しているうちに民俗学者の資料を発見した。


『沖縄や京都の民間信仰によれば、悪霊は道を直進する性質を持つという。それ故に分かれ道があったとしても曲がることはなく、突き当りにある建物へ侵入する。そう、この屋敷のように……!』


「だから曲がらずに家に入ってきたのね」


『悪霊を防ぐには鍾馗しょうきさんや石敢當いしがんどうを設置するしかない。悪霊が直進して魔除けにぶつかれば、悪霊を退治することができるだろう』


「攻略法さえわかればこっちのものよ!」

 2階に上がり、ロープを垂らして家から脱出する。


ぴちゃ ぴちゃ


「しつこい!」

 スタミナ切れにならないよう適度に休息を取りながら、鍾馗の瓦人形や石敢當いしがんどうのある家を探す。

「あった!」

 L字路の突き当りに新しい家を発見した。

 門の向こう側に石敢當らしき物体が見える。

 ただ門は鎖でがんじがらめになっており、頑丈な鍵がかけられていた。

 このままでは鍵を開けている間に追いつかれるだろう。


「曲がれええええ!」


 やむなくL字路を曲がり、わき目も振らずに走っていると壁に突き当たった。

 行き止まりだ。

 戻るしかない。

「……お菊は何でもすり抜けられるんだから、あのまま石敢當にぶつかったはずよね?」

「たぶんな」

 しかし、


ぴちゃ ぴちゃ


「いやーっ!?」

 すぐ後ろから水の音がした。

「後ろにいる!? なんで直進してないの!?」


「……いや、考えてみれば当たり前だ。T字路の突き当りの家から出た後、角を曲がって逃げただろ。なのにお菊は直進せずに角を曲がって主人公を追いかけてる。そう、『追いかけてる』んだよ、こいつは」


 『道を直進する』というのはあくまで悪霊の性質に過ぎない。

 霊はあらゆる物体をすり抜けるので、特に目的もなくさまよっている時はわざわざ曲がったりしないのだ。

 だが『獲物を追う』という目的があるのなら、相手が曲がったら追いかけるに決まっている。

 あそこは無理をしてでも鍵を破壊するか、門を乗り越えるかして屋敷に入るべきだったのだ。

 そして石敢當へ一直線に走り、ぶつかる瞬間に横へ逃げる。

 車は急に止まれない。

 こうすればお菊は石敢當に突っ込んで死んでいただろう。


『7枚、8枚、9枚……。1枚足りない……。お前が隠したのか!?』


「ぎゃー!?」

 行き止まりなので逃げ場はなく、怨霊に捕まった主人公は発狂した。


GAME OVER


「……なにこれ、怖いけど面白い」

 自分の手で直接倒すことはできず、鬼ごっこで逃げ切るか、相手を誘導して殺すしかない。

 そのギリギリ感が興奮するようだ。

 すかさずコンティニューしてプレイ再開。

 そして何人かのパートナー候補に出合い、誰をパートナーにするか迷うことしばし。

「あれ?」

 何かに気づいたように説明書をめくる。

「どうした?」


「説明書によるとパートナーは全部で4人。悪霊に追いつかれても、最初の接触で死ぬのはパートナーだけ。ステージ4までは安全ね」


「パートナーを殺す前提で戦略を立てるな」


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