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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ソードワールド2.5セット【アップルパイとカプチーノ】

「お前ら全員コボルドな」


「ほわい?」

「『サーペント』シリーズのネタだな」

 レベル15の超高レベルセッション(当時は超越者ルールがなかったので15が最高レベル)で人気を博したリプレイである。

 GMは最初のシナリオで最強の冒険者たちにボコボコにされたので、次のシナリオではPCたちを最弱のコボルドにしてしまうのだ。

 そのときのセリフが「お前ら全員コボルドな」である。

 最強から最弱への転落、そのギャップが面白い。

 当然、今回のサンプルキャラは全員コボルドだ。


「コボルドキングを倒してほしいのじゃ」


「コボルドはレベルファイブでカウンターストップするのデハ?」

「はい。コボルドには『種の限界』があるので、レベル5までしか上がりません」

 俺たちのサンプルキャラもすでにレベル5なので、これ以上冒険者レベルは上がらない。

 他の技能を上げるしかないわけだ。

「なのでコボルドキングは全ての技能レベルが5です」

「オール5!?」


 ファイター、フェンサー、グラップラー、シューターなどの戦闘系技能レベルだけでなく、ソーサラー、コンジャラー、フェアリーテイマー、プリースト、マギテックなどの魔法使い系、そしてアルケミスト、エンハンサー、スカウト、レンジャー、セージ、ライダー、バードのような補助系もすべてレベル5。


 たぶん特殊技能であるウォーリーダー、ミスティック、デーモンルーラーも5だろう。

 問題は技能レベルが5までしか上がらなくても『能力値に限界はない』こと。

 戦えば戦うほど筋力や器用さ、敏捷度などの能力値は上がるのだ。

 ソードワールドではシナリオを1つクリアすると、ランダムで能力値を1上げられる。

 1シナリオで1レベル上げたとしたら、19技能×5なので90回以上能力値が成長するわけだ。

 死ねる。


「事実上のレベル10です」


「……コボルドとは思えないわね」

 器用貧乏なだけで相当強い。

 コボルドキングと呼ばれるだけはある。


「お主らにこれを渡しておこう。各PCに1つずつ、風変わりなマギスフィア(小)が渡されました」


「なにそれ」

「かの大破局ディアボリック・トライアンフの時、さっそうと8人のコボルドが現れ、蛮族からこの地を守り抜いたという。コボルドたちは四方に銅像を埋め、この地方の守護神ガーディアンにしたそうじゃ」

「銅像の目がマギスフィア?」

「さよう。お主らはこのマギスフィアを握って生まれてきたのじゃ。これも神の思召おぼしめしじゃろう。ちなみにマギスフィアには魔動機文明語で『仁』と『義』と『礼』の文字が記されています」


「完全に八犬伝だな」


 八犬伝の八犬士は仁義八行(仁・義・礼・智・忠・信・孝・悌)の一文字が刻まれた珠(数珠の珠)を握って生まれ、物語のラストで4つの仏像を四方に埋めて守護神にしたらしい。

「マギスフィアを銅像にはめ込むと何かが起きるんだろうな」

「銅像だから人型ロボットでしょ」

「マシンゴー!」


「つまり俺たちの選択肢は3つだ。コボルドキングを倒しに行く。残り5人のコボルド八犬士を探す。銅像を発掘する」


「銅像の埋まってる場所を目指しつつ、コボルド八犬士を探すのが妥当ね」

「だな」

 とりあえず東へ進みながらコボルド八犬士を探していると、銅像があると伝えられている場所でコボルド2匹と遭遇した。


ころころ


「八犬士ですね」


ころころ


 ここでなぜか先生が2dを振る。

「あ」


1ゾロ


「お前がコボルドキングだな! と襲い掛かってきました」

「なんで!?」

「魔物知識判定に失敗しました」

 こちらは判定に成功したので八犬士だと分かったが、向こうは失敗したのでコボルドキングと勘違いしたらしい。

 八犬士はこちらの説明にも聞く耳持たず、強制的に戦闘へ突入する。

「サンプルキャラと同じレベル5のコボルドですね。『アル・メナスの魔導鎧』を装備しており、目の部分にはマギスフィアがはめ込まれています」

「銅像型の鎧だったのか」

「銅の鎧なら大したことなくない?」


「たしかに防護点は低いです。ただしマギスフィアをはめ込むと特殊能力が発動し、HPダメージをMPダメージに変換します」


「え……。相手のMPを0にしない限り、HPは削れないってことですか?」

「そういうことです。ちなみに魔晶石をMPの代わりに消費することもできます」

 想像以上にやばい装備だ。

 さすが守護神。

魔法マジックもMPダメージに変換トランスフォームされるのデスか?」


「物理ダメージも魔法ダメージもMPダメージに変換されます。ただしダメージ判定でクリティカルを出したり、『鎧貫き』に成功するとHPダメージを与えることができます」


 鎧貫きは防護点を半減できる技だ。

 おそらく鎧を貫通して内部に直接衝撃を与える技なので、ダメージ変換できないのだろう。

「なんでクリティカル出すとHPダメージ与えられるの?」

「全身鎧といっても関節部などに隙間がありますので……。ダメージ判定でクリティカルを出した場合、鎧の隙間に武器をねじ込んだことになり、HPダメージを与えられます」

「なるほど」


「そしてコボルド八犬士はファイターとグラップラー技能レベルが5なので、『イスカイア式ハーフソード剣術』を習得しています」


「マイナーな流派スタイルデスね」

「防御を鎧に任せる、このシナリオのオリジナル流派です」

「『ハーフソード』を使うと回避-5、命中-2、C値+2される代わりに防護点が+2? リスク高いわね」

「もちろんリターンもあります。これは鎧ごと体当たりしたり、投げ技を使って相手の体勢を崩し、鎧の隙間に武器をねじ込む剣術です」


介者かいしゃ剣術か」


「カンパニースタイル?」

「その会社じゃない」

 戦国時代の甲冑剣術だ。

 鎧は面、胴、小手などで上半身に重さが集中している。

 だから下半身を揺さぶられるともろい。

 下半身を安定させるために足を肩幅に開いて腰を落とし、ピョンピョンとうさぎ跳びのようにステップ。

 体当たりをしたり、足を払って相手を崩し、刀を隙間にねじ込む。

 それが介者剣術だ。


「ソードワールドのシステム的には、『踏みつけ』を鎧貫きにした技になります」


「げ、投げられたら鎧貫きで追加攻撃されるのか!?」

「しかも武器による鎧抜きです」

「バカじゃないの!?」

 鎧貫きはグラップラー技能なので、あくまで拳で相手を殴って防護点を半減する技だ。

 剣や槍などの近接武器では使えない。

 そして『踏みつけ』は投げを成功すると、『キック』で追加攻撃ができる戦闘特技。

 ハーフソードの場合、命中-2の状態で投げに成功すれば、鎧抜きで追加攻撃できるということだ。

 リスクはあるがリターンも大きい。

 『金属鎧』殺しの流派だ。


「サンプルキャラもファイターとグラップラー技能レベルが5だったから、おかしいと思ってたのよ」


「コボルド特有の技能構成です」

 普通ファイター技能とグラップラー技能を同じレベルで習得することはない。

 エンハンサーやスカウト、ライダーなどを習得したほうがいいからだ。

 だがコボルドには種の限界が存在するため、どの技能もわりと早い段階で壁にぶつかってしまう。

 結果として広く浅く色んな技能を習得していくことになるわけだ。

 これが魔法使い系のコボルドなら、すべての魔法を5レベルまで育てているだろう。

「こいつらを倒してハーフソード剣術を習得する流れだな」

「でぃーぷらーにんぐ!」


「では、しっかり学習してもらいましょう。『ブラッディクロス』で殴ります」


「まだ技あるの?」

「はい。そもそもハーフソードというのは、剣の刃を握りながら戦う剣術です。そうしたほうが戦いやすいからですね」

「左手は添えるだけ!」

 利き手で剣を持ち、もう一方の手で刃を握る。

 鎧の隙間を狙うなら、このほうが戦いやすいらしい。


「ブラッディクロスはハーフソードの応用。両手で刃を握って、ツバで相手を殴り殺す技です。剣技ですが打撃属性になります」



 ■

■■■←この部分で殴る

 ■

 ■←刃を握って振る

 ▼



「……鞘で殴るんならまだしも、刃を握ってツバで殴るというのがすさまじいな」

「くれいじー」

「ちなみにドイツ流です」

 さすがドイツ。

 合理的すぎて頭がおかしい。


「2部位のコボルドみたいなもんだな。回避が低いから攻撃も当たる。勝てない相手じゃない」


 MPを削り、鎧貫きで確実にHPダメージを与え、コボルド2体を削り倒す。

 そして縄でふんじばり、事情を説明して和解する。

「ふむ。八犬士仲間であったか。先の戦闘を見る限り、お主らのほうが腕が立つらしい。このマギスフィアと魔導鎧はお主らに託そう」

「やった!」

「コボルド・スタイルもぷりーず」

「もちろんだ」

 コボルド八犬士から鎧とマギスフィアと剣術をもらい、今度は南に向かって探索。


「コボルドの死体が発見されたらしい」


「……あ、これダメなやつだわ」

「えまーじぇんしー!」

 もちろんコボルドはマギスフィアを持っておらず、伝説に伝わる場所はすでに掘り返されていた。

 コボルドキングがマギスフィアと鎧を持ち去ったと考えていいだろう。

「コボルドの死体は何体ですか?」

「1体です」


「……コボルドキングが八犬士なのか否かが問題だな」


「そうね」

 八犬士の1人ならマギスフィアを持っている。

 カブトの両目にマギスフィアをハメられると、能力が発動してダメージがMPに変換されてしまう。

 コボルドキングに魔導鎧とイスカイア式ハーフソード剣術なんて使われたら勝ち目がない。

「そういえばキングのこととか、八犬士のことも調査してなかったな」

「りさーち!」


ころころ


「この地方の伝説によると、かつて『犬』と呼ばれた男がいたそうです」

「それがコボルドキング?」

「忍者を『草』や『影』と呼ぶように、暗殺者を犬と呼ぶこともあったのでコボルドだったのかどうかはわかりません。そもそも300年前の話ですし」

「そいつの子孫か、あるいは生まれ変わりの可能性が高そうだな」

 コボルドが人間社会に受け入れられやすいことを利用して、ドレイクが特殊な訓練と品種改良を施した『コボルドニンジャ』を生み出したというエピソードがリプレイに出てくるので(ちなみにリプレイではコボルド・ニンジャマスターがボスとして登場した)、犬がコボルドニンジャだった可能性は高い。


「犬はこの地方の王家に仕えていましたが、蛮族の襲撃によって落城寸前。死を覚悟した城主は、犬に向かってこう語りかけたそうです。『敵将の首を獲ってきたらわしの姫をやろう』と。もちろん冗談ですが」


「でも犬が本当に大将首を獲ってきたわけね」

「はい。犬に姫を嫁がせることに反対が起こりましたが、約束は約束。姫は犬に嫁ぎました」

 完全に八犬伝と同じ流れだ。

 姫には婚約者である隣国の王子がいた。

 王子は姫の行方を突き止め、犬を銃で撃ち殺す。


 ところが犬の背後、王子からは死角になる位置に姫がいた。


 弾丸は犬を貫通し、姫は致命傷を負ってしまう。

 姫は妊娠していた。

 姫は「これはあなたの子供だ」と涙ながらに訴え、それを証明するために自ら腹を裂く。


 すると腹から8つの珠が飛び出し、各地に飛び散った。


 やがて珠に選ばれた8人のコボルドが生まれる。

 犬の呪いでコボルドになったのか、犬の子供なのでコボルドになったのかはわからない。

 ともかく十数年後。

 王子は出家して神官戦士になり、八犬士を集めて蛮族の手から国を守り抜いたという。

「やっぱり犬がコボルドキングだな」

同意あぐりー

 サンプルキャラが八犬士の生まれ変わりなら、犬も転生しているはずだ。


 ……犬は何も悪いことをしていないのが切ない。


 だからといって、前世のことを持ち出して人を殺していい理由にはならないが。

「次の場所に行こう。これ以上コボルドキングにやられるとまずい」

 しかし手がかりらしい手がかりはなく、鎧が埋まってる場所に直行するしかない。

 すると、


「コボルドが死んでいたそうだ」


 ……どうしてもコボルドキングの後手に回ってしまう。

 マギスフィアが2つ奪われたので、これで魔導鎧が作動するようになってしまった。

 正攻法では勝てない。

八犬士ドッグスをコールしマスか?」

「6人がかりなら勝てそうな気はするけど……」


「そうするとコボルドキングも部下を連れてくる可能性が高くなるんだよな」


 このまま戦いを挑めば、レベル差があるのでたぶん3対1で戦える。

 6人がかりだと6対3ぐらいになりそうだ。

 そもそも他の3人はフェローになるはずだから(NPCとして3キャラ行動させるのは手間がかかる)、戦力的にもあまり期待できない。

 フェローは攻撃されないのでダメージはPCに集中するし、行動も運任せになってしまう。


「王子と姫の生まれ変わりはいないの?」


「あ、可能性はあるな」

「ではコボルドキングのデータをどうぞ」

「コボキンのデータ?」

 なぜかプリントアウトされたコボルドキングのデータを渡される。


 あらゆる技能レベルが5なのでなかなかすごいことになっているが、ふと神聖魔法に見慣れない名前が書かれていることに気付いた。


「この『ベルセリア』がプリンセスなのデスね?」

「はい。国を救った八犬士の母として崇められ、マイナーゴッドになった姫です。ただベルセリアの意志に反してコボルドを殺しまわっているため、プリースト技能は剥奪されています」

「……受け入れてもらえないのに、お姫さまを信仰してるのが泣けるわね」

 ボスとは思えない一途さだ。


「伝説だと王子は出家して神官戦士になったんだよな。もし転生してるとしたらベルセリアを信仰するプリーストの可能性が高い」


 ためしにベルセリアの神殿に行ってみると、やはり王子の生まれ変わりがいた。

 ただし前世の記憶はない。

 レベルも5だ。

 ……あまり戦力にならない。

 かと思いきや、


「変わったマギスフィアをお持ちですね。ベルセリアさまの力を感じます」


「マジックアイテム?」

「そう考えてもいいでしょう」


「じゃあ8個集めればいいのね。どんな願い事も1つだけかなえてやろう」


「作品が違う」

 超有名漫画『竜球』の元ネタは八犬伝の珠だといわれているが、ソードワールドで『ゴッドドラゴン』は出てこないだろう。

 ただし、


「マギスフィアがあればベルセリアをコールゴッドできマスか?」


「そうですね、リプレイ『聖戦士物語』では3つのオーブを使って『古代神ザールギアス』をコールゴッドしようとしてましたし……。マギスフィアが壊れてもいいのなら、大規模な儀式を行うことでコールゴッドを発動させられるでしょう」

「やった!」

「……いやいや、そのうち2個はコボルドキングが持ってるんだぞ。どうやって盗るんだ?」


「コールゴッドしてるところにコボルドキングを呼べばいいじゃない」


「あ……。マギスフィアを一ヶ所に集めればいいわけで、別に俺たちが持っている必要はないのか?」

「儀式の仕方にもよりますが……。祭壇上に8個そろえれば発動できるでしょう」

「グッドアイデア!」

「えっへん!」

 珍しく役に立った。

「問題はコボルドキングがコールゴッドの儀式の場所になんて現れるのか、だ。レベル15以下のキャラは問答無用で殺す魔法だぞ」

「たぶん来マス」

「根拠は?」


「コボルドキングは復讐リベンジしていたのではなく、ベルセリアを召喚コールするためにマギスフィアを集めていたからデス」


「あくまで想像でしょ?」

「……でもベルセリアを信仰してるぐらいだからな、ありえない話じゃない。これならコボルドキングの行動にも説明がつく」

 生まれ変わってもなお姫を忘れられず、彼女を呼び出すためにマギスフィアを集めているとしたら相当な純愛だ。

 執念や執着、怨念である可能性もあるが。

 ここは純愛でいてほしい。


「ではお祭りを開きましょう。ベルセリアさまの降誕祭です!」


 コールゴッドを使うにはレベルが足りない。

 マギスフィアの魔力で補うにしても無理がある。

 だから祭りを開き、信者の信仰を束ねてコールゴッドの足しにしようというわけだ。

 リプレイ『Sweets』でもお祭りによって人々の祈りを集めている(なお、このリプレイには魔剣の力で種の限界を超えた、レベル6で3部位ある『ジャイアント・コボルド』が登場する)。

「屋台で食べ物売ってたりする?」


「リンゴ飴やアップルパイが人気ですね」


「リンゴが名産なんですか?」

「いえ、『八房の梅』にちなんだエピソードがこの地方にもあるからです。ただ梅だと世界観にそぐわないのでリンゴにしました」

「なるほど」

 1つの梅の花に八つの実が生る『八房の梅』は日本各地に実在する。

 しかも『八房』は八犬伝の序盤で敵将の首を取った犬の名前だ。

 言葉遊びが多い曲亭馬琴らしいネーミングである。


 八犬伝では八犬士の一人が八房の梅を発見し、梅の実に仁義八行の文字が刻まれていることに気づいて、犬士は全部で八人いるのだと知るエピソードだ。


 ……たしかにソードワールドで梅は違和感がある。

 リンゴにしておいたほうが無難だろう。

「リンゴ飴やアップルパイには仁義八行の一文字が刻まれてます」

「リンゴ飴はわかるけど、アップルパイに文字って?」


「アップルパイはパイ生地を格子状にのせて焼きますよね? そのパイ生地で文字を書いてます」


「オー、白雪姫すのーほわいと!」

 たしかに白雪姫の映画では『Grumpy(おこりんぼうの小人の名前)』というアップルパイを作っていた。

 とりあえず白雪姫の真似をして文字を書いてみる。

 これは現実でも売り物になるやつだ。

 女性客に出しても面白いかもしれない。

「ホイップクリームのせてね」

「あいよ」

 おそらくドラマ版『ロンリーなグルメ』の影響だろう。

 しっとりタイプのアップルパイにホイップクリームをのせて食べていたのだ。

 あまりにうまそうに食べるので、つい真似したくなる。


 飲み物はカプチーノ。


 これは王道の組み合わせだ。

 アップルパイを注文するコーヒー通はだいたいカプチーノを頼む(カプチーノを注文する客はだいたいアップルパイを頼むともいえる)。

 ただ今回はアップルパイにホイップクリームがあるので、エスプレッソでもいいかもしれない。

 甘味と酸味と苦味がクリーミーに混ざり合う、極上の組み合わせだ。


「コボルドキングが現れました」


 PCと一緒にアップルパイをたしなんでいると、コボルドキングが広場に現れた。

 一応データ上はレベル5のコボルドなので穢れは低い。

 守りの剣の効果範囲内でも普通に行動できるようだ。

「バード技能レベル5なので小鳥、カエル、虫のペットを3匹連れています」

「たぶん歌う機会はないから無力だな」

「ソーサラーの『ファミリア』で『蛇』の使い魔を連れているのでMP+7、そして蛇の特殊能力『毒牙支援』によって近接攻撃時に毒属性ダメージが+1されます」

「ええ!?」

「コンジャラーのクリエイト・ゴーレムで作った『ボーンアニマル』もいますね。当然ライダー技能があるので『ウォーホース』に乗っています」

「……やばすぎだろ、こいつ」


「ただ騎乗時にはハーフソードは使えませんので、途中で馬から降りました。ベルセリア像をまっすぐ見つめたまま、迷いなく祭壇へ向かってきます。そして祭壇上に8個のマギスフィアがそろいました。マギスフィアが光り輝き、王子がコールゴッドの詠唱に入ります。呪文詠唱に6ラウンド、発動に1ラウンドかかりますので、それまでコボルドキングを食い止めてください」


「ラジャー!」

 マギスフィアは狭い範囲で一ヶ所に集める必要があり、あまりに警備を厳重にするとコボルドキングが警戒して祭壇へ来ないので戦うのは八犬士だけだ。

 戦闘で混乱が起こると困るため、信者には祭りの余興だと説明している。


 八犬士がコボルドキングの呪いから解き放たれた時、女神が地上に降臨するという演劇ロールプレイだ。


 趣向としては悪くない。

 なお王子は後衛に配置されていた。

 コボルドキングは魔法も使えるので、王子が殺されないようにしないといけない。

 だが6ラウンド耐えるだけなら、レベル差があってもなんとかなる。

 ……と思ったのだが、


「イニシアティブブーストSS!」


「ふぁっ!?」

「しまった!? アルケミスト技能は使うカードによって効果が変わる。レベル5までしか上がらなくても、SSカードを使えばレベル10以上の効果を発揮できるのか!」

「ええ!?」

 SSカードの効果であっけなく先制を取られる。


「まずはターゲットサイト、キャッツアイ、ビートルスキン、マッスルベアー、ジャイアントアーム、ヴォーパルウェポンSSで強化してから、ハーフソード2を宣言します」


「レベル2?」

「はい。鎧貫き2と同じで、ダメージ判定時にクリティカルを出すと防護点を無視して攻撃できます」

「ぎゃー!?」

 防護点0の状態で、事実上のレベル10の攻撃(マッスルベアー、ジャイアントアーム、ヴォーパルウェポンSSで物理ダメージ+10)を食らうとやばい。


ころころ


「せーふ」

 なんとかクリティカルだけは免れた。

 ……まあ、直撃したことに変わりはないので防護点は半減しているのだが。

 致命傷ではない。

「ブラッディクロス!」

「MPトランスフォーム!」

 ブラッディクロスによるダメージは、鎧の力でMPダメージに変換。

 ……ボーンアニマルとウォーホースにも殴られるのでMPはあっという間に削られてしまうが、魔晶石を買い込んであるのでなんとか耐えられる。

 お互いに攻撃をほとんど避わさずに正面から武器で殴り合い、体当たりや投げ技で体勢を崩して隙間に武器をねじ込む。

 漫画やアニメで見てみたい激闘だ。


「クリティカルレイSSからのハーフソード2!」


「来たー!?」

 SSカードを使われるとダメージ判定の2dが+6されるので、ほぼ確実にクリティカルが出る。

 さすがにSSカードはそんなにもっていないだろうが、運が悪ければ即死するだろう。

 避わすしかない。


ころころ


「やった、避わした!」

「命中-2がきついですね」

 技能レベル=命中なので、どれだけコボルドキングが強くてもレベル10の標準的なモンスターに比べればどうしても命中率は低め。

「パラライズミストSS!」

「がっでむ!?」

 SSカードでこちらの回避を大幅に下げられたら当てられてしまうものの、クリティカルさえ出なければ即死はしない。

 死にさえしなければこちらの勝ちだ。

「よし、7ラウンド耐えきったぞ!」


「ではマギスフィアが一斉に光りだし、コールゴッドが発動します。吹き飛べ、汚わらしい犬どもめ」


「は?」

「王子がコールゴッドで八犬士とコボルドキングを薙ぎ払いました。即死です」

「ふぁっ!?」

「なんで王子がそんなことするのよ!」


「おぼろげながら前世の記憶があったようですね。そして王子からしてみると、やはりコボルドである八犬士は暗殺者・犬の子供です。彼は八犬士とコボルドキングを吹き飛ばすことで、愛しいお姫さまの忌まわしき過去を清算しました。ふはは! 八犬士が犬の呪いから解き放たれた時、女神ベルセリアは降臨する!」


 ……どうも話がうまくいきすぎているとは思っていたが、まさかこの方向から攻めてくるとは思わなかった。


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