バイオレンスゲームセット【シフォンケーキと蒸し製玉緑茶】
参考ゲーム
クレイジータクシー
グランドセフトオート
『らーらーらーらーらー!』
ノリのいい歌(英語なので内容はわからない)をBGMに、タクシーで爆走する。
『ファンキータクシー』
タクシーで客を拾い、目的地に届けてスコアを稼ぐだけのゲームだ。
短時間で届けたり、派手に運転するほどスコアを稼げる(客が喜んでチップをくれる)。
しかし、
『げーむおーばー!』
「……時間制限厳しすぎでしょ」
「もとはアーケードゲームらしいからな」
とにかく残り時間が短い。
とてつもなく短い。
長い時間遊べてしまうと回転率が悪くなり、ゲームセンターが困るのでこうなっているのだろうが、あっという間に時間切れになる。
客を拾えば目的地への距離に応じて時間が加算され、そして到着までにかかった時間に応じてさらにボーナスタイムが加算されるのだが……。
画面上にマップは表示されない。
目的地までの矢印は表示されているものの、あくまで目的地への方向を示すものであって、矢印通りに走っても目的地に着くとは限らない。
場合によっては、矢印を正確に追いかけているとグルグル同じ場所を回ることになる。
マップをある程度覚えておかないと確実に迷うだろう。
それにどれだけ早く目的地へ着いても、最大で5秒しか加算されない。
これがきつい。
なぜなら目的地で客を降ろしても、次の客を拾うまでに5秒以上かかってしまうからだ。
タイムロスなく走り続けるためには、目的地へ着く前に次の客を把握しておき、その客のもとへ素早く走れるようにしておかないといけない。
駐車場へ真っ直ぐ走りこむと、一旦バックして車を方向転換させないと駐車場から出れなかったりするので、ドリフトなどで車をターンさせ、すぐに出発できるように角度を調節しておく必要がある。
ブレーキの利きも悪いのでタクシーは急に止まれない。
目的地に着いても、ピタッと停止しないかぎり客は降りてくれないのだ。
フルスロットルだとブレーキを踏んでも停車できず、目的地を通り過ぎてしまうことが多い。
客の足も遅いので、乗車時に客から遠い場所へ停車してしまうと、乗車するまでにかなりロスしてしまう。
「あー、もう! こうなったらクラッシュよ!」
「正気か」
「こうすれば停まれるでしょ」
強引にもほどがある。
だがガードレールや車にわざとぶつけて減速し、強制的に停めるのも必須テクニックの1つのようだ。
ただ暴走しながら近づくと、タクシー待ちをしてる客は驚いて逃げてしまうので注意。
ちなみにどれだけ危険な運転をしてもタクシーは壊れないし、通行人を轢き殺すこともできない。
どうやらこの街の住人はファンキーなタクシーに慣れているらしく、どれだけ加速して突っ込んでも避わされるのだ。
人ごみに突っ込んでも全員が華麗に回避する。
明らかに轢かれているように見えても、データ上は無傷である。
シュールだ。
タクシーよりも住人のほうがファンキーなのかもしれない。
「『グランド・セフト・マニュアル』もプレイしてみたくなるわね」
「なんでここでグラセフが出てくるんだ?」
「ファンキータクシーが元ネタの一つなのよ」
「へえ」
グラセフのオープンワールドの源流になったのも、ファンキータクシーと同じ会社の『ジェンムー』だといわれている。
グラセフは世界一売れているゲームなだけに、それを日本で作れなかったのがもったいない。
「あった」
棚からグランド・セフト・マニュアルを発掘し、ゲーム機にセットしてスイッチオン。
Now Loading
「……」
「……」
「……まだ?」
「もう少し待て」
ゲームをプレイするのに必要なシステムデータを構築しているらしく、やたらロードが長い。
まあ、さすがにこんなに待たされるのは最初だけだろうが。
「待ってる間になんか食うか」
「シフォンケーキがいい!」
「あいよ」
色んなケーキの土台になるスポンジケーキだ。
「ダージリンとグリ茶、どっちがいい?」
「ぐ、ぐり?」
「蒸し製玉緑茶のことだ。煎茶っぽいぞ」
「ならダージリン」
「あいよ」
俺はグリ茶にしよう。
グリ茶は芽茶を蒸したものだ。
茶葉が勾玉のようにグリグリしているのでグリ茶という。
甘味があって、さっぱりしている。
煎茶っぽいので、シンプルなシフォンケーキに合わせるならこれが一番落ち着く。
ダージリンは春摘みのファーストフラッシュにした。
「んー、フルーティでいい香り」
最初はスポンジだけ食べ、ダージリンの味や香りを楽しむ。
のどを潤したら、スポンジをホイップクリームやラズベリーでデコレートしてアクセントを加えていってもいい。
お気に入りはカスタードだ。
「さて……」
待たされること数分。
ようやくロードが終わり、本編が始まった。
『麻薬の取り引きだ、お前の手を借りたい』
いきなりブラックな展開。
さっそく取引現場へ行こうとすると、画面上に『Cボタンで乗り物に乗ることができる』と表示された。
「Cボタンね」
アジトにあった車に乗り込む。
すると車の外でなにやら怒鳴られた。
「……ん、これ人の車じゃないのか?」
「みたいね」
「でも普通にドア開けてエンジンかけてただろ」
「グランドセフトは『重窃盗』って意味なのよ。盗みの説明書っていうタイトルの通り、足に使う車やバイクは盗むのがこのゲームの基本なの」
「……さすがクライムゲームだな」
変なところに感心してしまう。
車の操作性はいいらしく、すいすい進む。
だが、
ドカーン
「あ」
事故れば車は爆発炎上し、簡単にゲームオーバーになった。
即座にコンティニューしてやりなおす。
しかし、
ドカーン
「道せますぎ!」
「島だから仕方ないだろ」
架空の都市リーバイスシティは島なので道が狭く、また他の車両もそれほどスピードを出していない。
素早く目的地に行きたい場合、必然的にフルスロットルで対向車線へ飛び出すか歩道を走ることとなる。
操作性がよくても運転に慣れない内は対向車や歩行者を避けようとして操作を誤り、事故りまくるのが必然。
おまけに、
『ぎゃー!?』
「あ、殺っちゃった」
運転をミスって通行人を轢き殺すと指名手配されてしまう。
指名手配にはレベルがあり、レベルは最大で6。
人を殺せばすぐに上がるのかと思いきや、車を盗んでも轢き逃げしてもレベルは1しか上がらない。
しかもどれだけ派手に衝突事故を起こして爆発炎上しても、パトカーに正面から突っ込んでも、窃盗や轢き逃げの現場さえ警察に見られなければレベルは上がらない大ざっぱさ。
ちなみに指名手配レベルが上がれば上がるほど警察の追跡がしつこくなるらしい。
最終的にはヘリや戦車、軍隊が出動してくるのだとか。
そして警察に捕まるまいとスピードを上げると、
ドカーン
「ああー!?」
こうなってしまう。
これで3度目のゲームオーバーだ。
まだミッション1の麻薬取引すら始まっていない。
まさか取引現場へ行くだけなのにこうも死にまくるとは。
「歩いて行った方が早いんじゃないか?」
「嫌よ、このままじゃゲーマーの名が廃るわ! バイクなら安全なはずよ!」
たしかにバイクなら車よりも小さくて対向車のない歩道も走りやすく、スピードを出しても事故りにくそうな気はする。
無謀運転をしていながら『バイクなら安全』というのも変な話だが。
バイクを探してさまようこと3分。
ようやく安全な足を確保して目的地に着いた。
『やっちまいなー!』
当然のように麻薬取引は不成立となり銃撃戦。
麻薬は1グラムも手に入らなかった上に金は強奪される始末。
裏社会での信頼を取り戻すため、主人公はちびちびと依頼をこなす。
そのほぼ全てが犯罪がらみだった。
『こいつでテキサス野郎を始末してこい』
ぽんっと得物を渡される。
『チェーンソー』
「……これはHAHAHAって笑うところなのよね?」
「だろうな」
アメリカンジョークは難しい。
とにかくチェーンソーでターゲットをバラバラにすると、指名手配レベルが上がった。
『サツだ、逃げろ!』
熾烈なカーチェイスが始まった。
ミッションによる犯罪は通常時の犯罪と違って一気に指名手配レベルが上がってしまうので逃げるのに苦労する。
レベルを下げたいならワイロを渡したり、整形したり、素性を特定される前に逃げ切ったり(警察を含むすべての目撃者を皆殺しにしてもいい)、無事にミッションをクリアして依頼人に裏から手を回してもらわなければならない。
殺人のバリエーションも豊富だ。
スナイパーライフルで狙撃したり、バイクで逃げる相手を轢き殺したり、白い粉を室内で撒き散らして粉塵爆発を起こしたりetc。
事前に逃走ルートを潰しておいたり、罠を仕掛けておくこともできる。
ありとあらゆる方法で人を殺すことができた。
「……でも自由度が高すぎるのも問題ね。犯罪を犯すのが前提になってるもの」
「たしかにやろうと思えば犯罪を犯せるのと、犯罪前提でゲーム設計されてるのとではまるで意味が違うな」
グラセフは車を盗むのが前提のゲーム設計なので盗むのが当たり前。
盗むという行為に罪悪感を抱くこともなければ、背徳感を感じることもない。
個性のない一般人を殺しても面白さに欠ける。
犯罪前提のゲーム設計だと『車を盗めます』『あらゆる手段で人を殺せます』といわれても自由度が高いと感じられないのだ。
人間というのは贅沢なもので、なんでもできるといわれたら逆に秩序を守りたくなる。
だが犯罪方面では比較的自由に遊べても、正義の味方として遊ぼうと思ったらほとんど選択肢がない。
善人プレイできるとしたら警官か探偵ぐらいだろう。
ただし武装している犯罪者を相手にすると捕縛するのはほぼ不可能であり、銃殺するしかない。
「悪は滅ぶべし、慈悲はない!」
……結局、正義の味方になってもやることはほぼ変わらなかった。




