ワーカープレイスメントセット【ぶどうパンとニカラグア】
参考ゲーム
ワイナリーの四季
「赤ワインをお願いします」
「まだ酒はやってません」
うちの店は夜9時からゲームバーになる。
ただしツマミは日中でも注文可能だ。
「ではバーが開くまでゲームをしましょう」
『ワインセラーの四季』
海外製のボードゲームをテーブルに広げた。
ワイン作りをテーマにしたワーカープレイスメントらしい。
ソロプレイもできる。
「このゲームは春・夏・秋・冬のフェイズに分かれていて、夏と冬に労働者を派遣してワインを作って出荷します」
「春と秋は?」
「春はプレイヤーの順番を決めます」
※行動順とボーナス
1 なにもなし
2 ブドウの樹カードを引く
3 注文カードを引く
4 現金1リラ獲得
5 訪問者(夏)カードもしくは訪問者(冬)カードを引く
6 勝利点1獲得
7 ワーカーを受け取る(その年だけワーカーが一人増える)
「親プレイヤーから順番にここへコマを置いてボーナスを受け取り、夏・秋・冬はこの番号順に行動します」
「1は1番最初に動けて有利だからボーナスがないわけか……。ソロプレイの場合はどうなるんですか?」
「制限時間は7年。それぞれの番号を1回だけ選んでボーナスを受け取れます。ソロのクリア条件は勝利点を21獲得することです」
「なるほど」
ワイン造り以外はよくあるワーカープレイスメントなので、あまり難しくはない。
ゲームは1年単位で区切られており、プレイヤーは労働者の数だけ行動できる。
最初に持っているワーカーは3人。
ワーカーは共通なので、夏に1人使ったら冬は2人しか使えない。
「ソロは架空のプレイヤーと対戦しているという方式です。夏と冬の最初にソロプレイ用のカードを引き、このカードに書かれている場所へ相手のワーカーが派遣されてしまいます」
「……最初にワーカーが置かれるのが厄介だな」
ワーカーが使用中の施設は使えない(畑にワーカーを派遣したら、次の年になるまで畑を使えない)。
夏と冬の最初にソロプレイ用のカードを引くため、相手より先に施設を使う(自分が施設を使いつつ、相手が施設を使えないようにする)という戦術が使えない。
ワインを作りたくても、運が悪ければ先に相手のワーカーが派遣されてしまう。
「ただしワーカーの中には『親方』がおり、この親方だけは例外的に使用中の施設を使うことができます」
「お……。つまり1年に1回は好きな施設を使えるってことか」
「そういうことです」
親方の使い方が重要になる。
ルールブックだけでは細かいことはわからないので、後は実戦で学ぶことにした。
「えーと、畑は最初から持ってるのか」
5、6、7と書かれた畑のカードを最初から所持している。
ブドウの樹のカードにも数字が書かれており、この数字がブドウ(ワイン)の価値になる。
5の畑には、価値5までのブドウしか植えられない。
夏に樹を植えたら次は収穫。
好きな畑を選択し、数字分のブドウを収穫できる。
これは合計だ。
2と3の白ブドウの樹を植えた畑なら、価値5の白ブドウを収穫できる。
5のブドウを収穫したら『圧搾場』の5のマスにブドウのコマを置く。
ただし、すでに圧搾場に5の白ブドウが存在している場合、収穫したブドウは1つ価値が下がって4の白ブドウになってしまう。
ブドウを収穫したら次は『醸造』
これも冬にしかできない行動だ。
ブドウをワインにすることができる。
価値5の白ブドウなら、価値5の白ワインだ。
醸造では1回で2つのワインを作れる。
この時、赤と白のブドウを選択すれば、赤と白のブドウを混ぜて『ロゼワイン』を作ることができるという。
もちろんロゼワインの価値は、白ブドウと赤ブドウの合計値だ。
白ブドウ1つと赤ブドウ2つを選択すれば『スパークリングワイン』も作れる。
あとは出荷するだけ。
……かと思いきや、
「……注文がない」
ワーカーを『出荷施設』へ派遣するだけではワインを出荷することができない罠。
ワインを出荷するには『注文カード』がいる。
そして注文カードに書かれている分しかワインは出荷できない。
どれだけ価値のあるワインを作っても、春の順番決めで3番を選ぶか、冬に『受注施設』へワーカーを派遣しなければ注文カードは引けず、ワインを出荷できない。
仮に注文カードを引いても、スパークリングワインの注文がなければスパークリングワインは出荷できないのだ。
「……樹を植えて、ブドウを収穫して、ワインを醸造して、注文カードを引いて、ようやく出荷? 手間かかりすぎだろ。まあ、樹を植えたらブドウはいくらでも収穫できるんだが……。それでも手が足りん。金も足りん」
冬が終わるとブドウとワインは熟成されて価値が1つ上がる。
だが金を払って専用の施設を建てないと特定のブドウの樹は植えられないし、ワインの保存もできない。
ブドウの樹は全部で9種類。
専用の施設なしで植えられるブドウの樹は『サンジョヴェーゼ種』と『ピノ種』だけだ。
『ブドウ棚』と『貯水タンク』、もしくはその両方がないと植えられない樹のほうが多い。
また初期状態では価値3までのワインしか保存できない。
4~6のワイン(とロゼワイン)を作るには『中規模ワインセラー』が、7~9のワイン(とスパークリングワイン)を作るには『大規模ワインセラー』が必要になる。
ブドウ棚は2リラ、貯水タンクは3リラ、中規模セラーは4リラ、大規模セラーは6リラ、ワーカーを1人雇うのに4リラ(ワーカーにかかるコストは最初の4リラだけ。1年経っても給料は払わなくていい)。
『観光施設』へワーカーを派遣すれば観光客から2リラもらえる。
『市場』へ派遣すれば1リラだ。
親方がいなければ各施設は1年に1度しか使えず、制限時間は7年。
ブドウを売ることができるものの、それでも絶望的に金が足りない。
「ぐ、10点もいかない!」
結局、初プレイではほとんどワインを出荷できずに終わった。
「……最初に畑を売るしかないな」
畑は最初から3つ持っている。
畑は植えられる樹の価値と同じリラで売れる。
7までのブドウを植えられる畑は7リラで売れるということだ。
畑は3つも必要ない。
ゲーム開始直後に畑を売って7リラを確保。
さらに観光客から2リラもらっても、ブドウ棚と貯水タンクを建設し、ワーカーを1人雇えばあっという間に消える。
「ん、5リラで『風車』を建てれば、畑に樹を植えるごとに勝利点1!? 6リラで『試飲室』を建てれば、観光施設にワーカーを派遣するごとに勝利点1。これだ!」
だがもう畑の金は使ってしまったし、観光客からもらえる2リラだけでは厳しい。
ワーカーももう1人ほしいし、中規模セラーも必須。
「……あとはカードを使うしかないな」
秋フェイズには『訪問者カード』を2枚引ける。
夏と冬の二種類あり、夏では夏の訪問者だけ、冬では冬の訪問者のカードしか使えない。
訪問者カードを使うと、通常よりも安い値段で施設を建てたり、ワーカーを獲得できたりする。
冬に夏の施設を使うこともできるし、ワーカーなしで施設を利用できるカードもある。
ゲーム展開を左右する効果があるので、引き忘れると悲惨だ。
「……んー、これでも苦しいな」
「『ボーナスアクショントークン』を忘れてますよ?」
「ボーナスアクショントークン?」
「ソロプレイでは春に行動順を決めた時、ボーナスアクショントークンを1つもらえます。このトークンを1つ消費することで、施設ボーナスをもらえます」
「あ、これか」
ソロルールにちゃんと書いてあるのだが、やることが多いので完全に忘れていた。
ワーカープレイスメントでは使用中の施設は使えない。
だがプレイ人数が多くなると施設が足りなくなる。
なのでプレイ人数が多い場合、施設を使用できる人数が増えることもあるのだ。
このゲームだと3~4人で遊ぶ場合は2人、5~6人で遊ぶ場合は3人まで同じ施設を使うことができる。
そして3人以上で遊ぶ場合、最初にその施設を使ったプレイヤーは『施設ボーナス』を獲得できる。
例えば最初に畑へワーカーを派遣したプレイヤーは、施設ボーナスとしてもう1本ブドウの樹を植えることができる。
『ブドウ販売所』や『ワイン出荷施設』へ派遣すればボーナスで勝利点を1獲得できる。
ソロもしくは2人プレイでは、基本的に施設ボーナスを利用できないのだが……。
春に必ず1つ入手できるボーナスアクショントークンを消費することで、ワーカーを派遣したら施設ボーナスを獲得できるらしい。
「ん? ボーナストークンは7個入手できるから、ブドウ販売所とワイン出荷施設に行くだけで勝利点7!?」
「いえ。その施設を利用しないとボーナスは獲得できません」
「ちっ」
ワインを出荷できないプレイヤーは、ワイン出荷施設へワーカーを派遣できないらしい。
無念。
それでもコツはだいたいわかった。
最初に畑を売って資金を確保しつつ、ワーカーを雇って手数を増やし、カードを使って安く施設を作り、施設ボーナスで地道に勝利点獲得。
白ブドウと赤ブドウを同じ畑に植えれば、1回の収穫で白と赤のブドウを入手できる。
冬が終わればブドウとワインは熟成されて価値が1つ上がるので、最初は価値が低くても7年あれば高くなる。
それに白と赤のブドウがたくさんあれば、混ぜてロゼにもスパークリングにもできる。
あとは出荷カードを引くだけ。
「ドロー!」
『スパークリングワイン9、勝利点5』
「来た!」
これで出荷すれば21点に到達。
時間制限ギリギリでクリアできた。
ワインを出荷するまでに手間がかかる分だけ、後半で一気に勝利点を獲得できるカタルシス。
これがたまらない。
しかもソロにはまだハードレベルや、選択ルール、キャンペーンモードなどがあった。
これを全部クリアするだけでもかなり時間がかかるだろう。
やりこみがいのあるいいゲームだ。
「なにそのゲーム。面白いの?」
「ああ。ソロだけでも充分遊べるぞ。無能な労働者に給料払い続けなくてもいいしな」
「……どういう意味?」
「気にするな」
「れっつぷれい!」
「では皆でプレイしてみましょう」
「望むところよ!」
「……ルール知らないだろうが」
相手との駆け引きは『春の行動順決定』と『相手の使いたい施設にワーカーを派遣する』ぐらいで、いかに効率よくワインを作って出荷するかというソロ要素の強いゲームではあるが、さすがに初見では勝負にならない。
おやつを食べつつルールを教えることにする。
ブドウのゲームなので、クルミとぶどうのパンにした。
ソードワールドの公式シナリオにも出てきたやつである。
「アリスにもぷりーず!」
「ルール覚えたらな」
「Boo!」
「どうせあのブドウ、酸っぱくて食べられない」
イソップ童話『すっぱいぶどう』に出てくる狐のセリフだ。
狐はブドウを食べようとするのだが、木が高くて届かず、ブドウは酸っぱいと決めつけて去る。
手に入らないものはくだらないもの、価値がないものだと決めつけ、それを食べるものを笑ったり非難する。
人間世界でもままあることだ。
飲み物はニカラグアのコーヒー。
レーズンのような風味がする豆だ。
干すことで甘味が凝縮されるのがドライフルーツの良さではあるが、逆に主張が激しすぎてレーズンパンに難色を示す人も多い(給食で出てきたときにも、レーズンを外して食べる奴が必ずいた)。
そこでこのコーヒーだ。
同じ味を重ねることで、ときに甘すぎるレーズンの味をマイルドにしてくれる。
最初はコーヒーといっしょにマイルドに、最後はレーズン特有のとびっきりの甘さを味わうのもオススメだ。
「私はぶどうジュースね。炭酸入り」
「スパークリング!」
「あいよ」
スパークリングワインならぬスパークリングブドウジュースを飲みつつ、全員でプレイを開始する。
「訪問者カードを引きます」
「ドーゾ」
「訪問者カードを引きます」
「また?」
「訪問者カードを引きます」
「……おい、なんか様子がおかしいぞ」
先生がなぜか訪問者カードを引きまくる。
明らかにおかしい。
「げ」
改めて行動順ボーナスをチェックすると、その意味がわかった。
※行動順とボーナス
1 なにもなし
2 ブドウの樹カードを引く
3 注文カードを引く
4 現金1リラ獲得
5 訪問者(夏)カードもしくは訪問者(冬)カードを引く
6 勝利点1獲得
7 ワーカーを受け取る(その年だけワーカーが一人増える)
「しまった! 最初に行動できる1が有利でボーナスが何もないってことは、逆にいえば後に行動した時に手に入るボーナスほど価値があるのか!」
「ええ!?」
「気づくのが遅すぎましたね。畑3枚から収穫できれば勝利点2ゲット。手札を2枚捨てて勝利点2ゲット。このカードでスパークリングワインを醸造した数だけ勝利点ゲット。価値4以上のワインを支払えば勝利点3ゲット。手札を全部捨てれば勝利点2ゲット!」
「のー!?」
……ワインを一切出荷しなくても、勝利点20さえ獲得できれば勝てる。
どうやらこのゲーム、ワーカープレイスメントの皮をかぶったカードゲームだったらしい。




