ソウルライクセット【ミートボールとオレンジュース】
参考ゲーム
ソウルシリーズ
「糞団子食べたい」
「……お前は何をいってるんだ」
「『ライトソウル』のコラボカフェにそういうメニューがあるのよ。特製ミートボールのブラックデミグラスソース掛け」
「ブラックデミグラス? イカスミか?」
「竹炭パウダーだって」
「またマニアックなものを……」
ミートボールとデミグラスソースならうちにもある。
無味無臭の竹炭パウダーで染めるだけだから簡単だ。
……見た目は最悪だが。
飲み物は回復アイテムの『エクト(エクトプラズム)瓶』。
コラボカフェではビール、オレンジジュース、ブルーハワイソーダ、グレープフルーツジュースなどが出ていたらしい。
「ん、おいし」
「まあ、見た目以外はただのミートボールだしな」
少し酸味のあるデミグラスに、酸味のあるジュース。
相性は悪くない。
ちなみに糞団子は敵に毒を与える投擲武器だ。
「投げるとこっちも毒を食らうけどね」
……手づかみで団子を投げているのだろうか?
想像したくもない。
「で、このゲームは面白いのか?」
「面白くなきゃコラボカフェなんてできないでしょ。『ソウルライク』っていうジャンルが生まれるぐらいなんだから」
「へえ」
試しにやってみる。
ジャンル名になるからには、さぞや完成度が高くて斬新なゲームなのだろう。
『YOU DIED』
……そう考えていると痛い目を見る。
「なんだこれ……。最初のダンジョンですらボコボコにされるぞ」
「ソウルライクって、ようするに死にゲーだもの」
「はあ?」
「死んで覚えるタイプのゲームにジャンル名がなかったから、ソウルシリーズの名前をつけたのよ」
ゲームそのものはオーソドックスな3Dアクションなのだが、軽快にコンボを繋いでザコを一掃する系統のアクションではない。
ソウルライクでは『ソウル』『パリィ』『必殺の一撃』というシステムがよく採用されるそうだ。
敵を倒すとソウルを獲得でき、これが経験値や金になる。
死んだらソウルをすべて落としてしまう。
死んだ場所まで戻って回収できなければ、ソウルをすべて失ってしまうわけだ。
回収するのも命がけである。
パリィは盾で攻撃を弾く技。
左手に装備している盾を振り、うまく攻撃を弾ければ敵の体勢が崩れ、すかさず反撃すると必殺の一撃が発生する。
序盤の敵なら一撃で倒せるぐらいのダメージを与えられるため、決まるとめちゃくちゃ気持ちいい。
……ただ失敗すると直撃を食らうので多用はできない。
そこで『バックスタッブ』だ。
敵を背後から攻撃すると、必殺の一撃によく似たバックスタッブ(直訳すると『後ろから刺す』)が発生する。
破壊力は必殺の一撃に及ばないものの、それでも通常の数倍のダメージだ。
しかもロックオンボタンで敵をロックすると、ロックした敵を中心に動くので、ロックしてグルグル周っていれば背後を取れる。
敵
自←自→自
※通常時 右を押せば右、左を押せば左へ移動する
自 敵 自
\ /
自
※敵をロックオンしている時 右を押せば敵の右へ、左を押せば左へ回り込むように移動する
パリィよりもはるかに簡単だ。
『YOU DIED』
……あくまで敵が一人だけならの話だが。
敵が群れていたら背後へ周る余裕などない。
一応、必殺の一撃やバックスタッブ中は特殊な演出が入って無敵になるものの、無敵時間が終わった瞬間に殴られたらどうしようもない。
「1対1に持ち込むしかないのか……」
敵はこっちに気付くと近づいてくるので、1人だけ誘い出して斬り刻む。
時間はかかるがこれしかない。
複数の敵が追ってきたら細い一本道に誘い込むのも有効だ。
一本道なら囲まれないし、1対1で戦える。
あるいは逆に、
「強行突破だ!」
敵地を強引に突っ切ってもいい。
何も敵をすべて倒す必要はないのだ。
スタミナの続く限り逃げ、セーブポイントのかがり火にたどり着けばいい。
「げ、待ち伏せ!?」
だが敵はあらゆる方法でプレイヤーに襲い掛かってくる。
特に厄介なのは死角で待ち伏せしている敵だ。
だいたい部屋の入口や、曲がり角の死角にいることが多い。
□敵□
□
□
□
※だいたい曲がり角の死角で待ち伏せしている
初めて入る部屋の扉や、曲がり角には要注意。
「……回復アイテムが足りん。なんでエクト瓶は5個しか持てないんだ」
「かがり火に『人間性』を捧げれば5個単位で増えるわよ」
「人間性?」
「人間性っていうアイテムがあるの。それがなんなのか私もよくわかんないんだけど、それをかがり火で使えば最大20個まで増えるわよ」
「……人間性がない」
火は文明の象徴だと考えると、それに人間性を捧げると回復アイテムが増えるというのが意味深だ。
パッケージ裏にも『人間性を捧げろ』とキャッチコピーが書かれている。
なにかの隠喩なのかもしれない。
エクト瓶はかがり火でいくらでも補給でき、各地のかがり火によって補給できるエクトプラズムの数は違う。
最初のかがり火に人間性を捧げて20にしても、次のかがり火では5個しか補給できないのだ。
使いどころが難しい。
なお死ぬと最後に休憩したかがり火へ戻される。
『YOU DIED』
「げっ!? なんで一つ前のかがり火に戻されるんだ!?」
「死んだときに戻されるのはあくまで『休憩』したかがり火よ。薪に火を着けてかがり火にしただけじゃ休憩にならないの」
「それを先に言え!」
薪をかがり火にすると体力が回復するのに、着火だけして休憩せずに先へ進んで死んだ場合、一つ前のかがり火まで戻されてしまうらしい。
ひどい罠だ。
あえて休憩せずに先へ進み、わざと死ぬことで一つ前のかがり火まで戻る(いわゆるデスワープ)というテクニックもある。
移動に時間のかかるゲームなので便利だ。
『太陽万歳!』
「たまに見かけるこの変なメッセージはなんだ?」
「オンライン要素がいくつかあって、アイテムを使うと他のプレイヤーにメッセージを送ることができるのよ」
「へえ」
『この先、隠し通路があるぞ』
「たしかにいかにもなんかありそうな通路だな」
メッセージに従って先に進む。
ガシャッ
「はっ?」
なにかスイッチを踏んだと思ったら、無数の矢が飛んできた。
『YOU DIED』
「罠じゃねえか!」
「ソウルシリーズではよくあることよ」
メッセージが本当だとは限らない。
都合のいいメッセージは疑ってかかったほうがいいだろう。
逆に、
『帰りたい』
『助けてくれ』
『心が折れそうだ』
……ネガティブなメッセージの説得力はすごい。
難所にはおびただしい数の血痕が並んでいた。
この血痕もオンライン要素の1つで、プレイヤーが死ぬとその場に血痕が残る。
血痕には死亡する直前の行動が記録されており、別のプレイヤーがその血痕に触れると記録されている映像が再生された。
香港映画のエンディングでNGシーンが流れるように、死亡シーンが流れるのだ。
ある意味ネタバレなので、初見殺しを楽しみたいのならオフにしてプレイしたほうがいいだろう。
オンラインシステムは他にもある。
『闇霊Polianesが侵入しました』
「なんだ!?」
今までとは明らかに違う感じでボスが現れた。
しかも強い。
「ふふふ。オンラインマルチで対人戦もできるのよ!」
「お前か!」
どうやらパソコン版を起動し、オンラインモードでこっちに侵入してきたらしい。
「このゲームには『誓約』っていういくつかの派閥があって、敵対派閥のプレイヤーがここに来たらボスとして召喚されるのよ」
「プレイヤーがボスになるのか!」
俺と戦うためにわざわざ敵対勢力と誓約して待機していたのだ。
ボスなのでこいつを倒さないと先に進めない。
間違いなく今までの敵の中で最強だ。
「くそ、当たらん!」
どれだけ攻撃しても回避されてしまい、よくわからない間にバックスタッブを食らう。
どうやって背後を取ったのかさえわからない。
……レベルが違いすぎる。
それでもやるしかない。
がむしゃらに剣を振る。
「お、当たった!?」
「甘い」
「な!?」
一発当てればスタミナが続く限り2発目、3発目も当たるはずなのだが、なぜかすり抜けられてバックスタッブを食らう。
「なんでだ!?」
「敵の攻撃を食らった瞬間に武器を持ち替えると、のけぞりをキャンセルできるのよ」
「硬直キャンセル!?」
その後も面白いように背後を取られ、パリィから必殺の一撃を当てられ、エクト瓶がなくなって力尽きた。
「うぃなー!」
「……お前は鬼か」
「人間よ。字幕も出てるじゃない」
「は?」
ノートパソコンのモニターを確認する。
『世界の主を倒しました。人間性を得て、元の世界へ戻ります』
「相手プレイヤーを殺すと人間性をゲットできるの」
「……これで人間性を稼げるのか」
「そういうこと。初心者狩りじゃー!」
『○○の世界へ侵入しました』
『○○の世界へ侵入しました』
『○○の世界へ侵入しました』
『世界の主を倒しました。人間性を得て、元の世界へ戻ります』
「あはははは!」
手当たり次第に世界中のプレイヤーの世界へ侵入し、パリィやバックスタッブで初級者を惨殺していった。
……人間性を獲得できるプレイヤーほど、人間性が失われていくという皮肉。
人間性を捧げろとはこういう意味だったのかもしれない




