裏技セット【プリンとウバ】
参考ゲーム
ゼビウス
ファイナルファンタジー 6 7 9 タクティクス
ドラゴンクエスト5
女神転生
ポケットモンスター オメガルビー
「あたたたたたたたたたた!」
すさまじいスピードでボタンを連打し、黒い板にありったけの弾丸を叩き込んでいく。
しかし何発撃ち込んでも、ことごとく厚い装甲に跳ね返される。
縦スクロールのシューティングゲームなので、やがて黒い板は画面下に消えた。
「うー、もう一回!」
リセットしてまた最初からやり直し、再び
「あたたたたたたたたたた!」
黒い板に弾丸を打ち込む。
もちろん板は何事もなかったかのように画面外へ消えた。
「あー!?」
「……なにやってんだ?」
「256発撃ち込まないと倒せないのよ!」
「いや、無理だろ。ハイブリッジ名人だって一秒間で16連射だぞ。10秒連射しても160発にしかならん」
「あ」
強制縦スクロールなので黒い板はいずれ画面外へ消える。
そのわずかな間に、人間の指で256発も撃ち込むのはほぼ不可能だ。
「れ、連射パッドなら……!」
「それならいけるかもしれんが……。そもそもこいつ、無敵フラグ立ってて倒せないんじゃないのか?」
「8ビットのゲームだから256発で倒せるはずなのよ!」
「は?」
「裏技サイトにもそう書いてあるし」
たしかにネットで検索すると、
『ウラップ』
なる攻略サイトに『ゲームプログラムを解析してみたら、この敵は8ビット符号なし整数で(以下略)』と小難しいことが書いてあった。
「2進数だと数字は0と1で処理されてて、10進数に直すと1、2、4、8、16、32、64、128、256になるんだっけか?」
「そうそう。昔のゲーム機は演算能力が低いから、255とか65535でカウンターがストップするわけね。だからその上限を超えるとオーバーフローを起こして数字が0に戻ったりするの。アルファベットになるパターンもあるわね」
数字だけでは処理できなくなり、最高値を超えると『6553A』のように、数字がアルファベットになるらしい。
この場合、最高スコアは『ZZZZZ』になるんだろうか?
数字ではなく、アルファベットが並んでいるスコア表というのもシュールである。
「でもこれ、匿名の投稿型ゲーム攻略サイトだろ。書いてることが本当だっていう保証がない。このネタにしたって『理論上は』256発で倒せるはずっていう推測だしな」
「信憑性はあるでしょ」
「それが逆に怪しい」
案の定、くわしく調べてみるとこの推測は間違っていることが発覚した。
「ほれみろ」
「……あのね、私だって100%信じてたわけじゃないわよ。こういうのは真偽不明だから面白いんでしょ。自分で試してみることに意味があるの。本当っぽいのがウソで、ウソっぽいのが本当だったりするし」
自分からダマされに行くスタイル。
まあ、これもゲームの楽しみ方の一つだろう。
噂話に踊らされていたのは、ネットのなかった時代だけの話ではない。
コメント欄を見る限り、ウラップにダマされているプレイヤーはかなりいる。
特に発売されたばかりのゲームだ。
誰かが実際にダマされてこの情報はウソだと証明しない限り、他のプレイヤーは真偽を確かめようがない。
投稿されてるネタが凄いものであればあるほど、検証結果が出るのを待てないプレイヤーが続出して被害が拡大する。
……たまにウソネタにウソのコメントをする(この情報は本当だったなど)プレイヤーがいるのもタチが悪い。
「やっぱりキャラ生存系のネタが多いわね」
「イベントで死んだキャラを復活させる系のネタは定番なんだな」
「えーと、『水中呼吸』のスキルを見つければいいのかしら」
敵に刺殺されたヒロインを水葬(海に埋葬)するイベントがあるのだが、水中呼吸のスキルがあればヒロインを生き返らせることができるという。
しかしどれだけ探しても、そんなスキルは見つからない。
「なんで!?」
「これも推測だからだろ」
どうやら水中呼吸は、ゲームディスクを解析して見つけた『没データ』のようだ。
製作者が消し忘れたのだろう。
没になっているのだから、どれだけ探しても見つかるわけがない。
「ゲームデータをいじらないかぎり水中呼吸スキルは手に入らないわけね」
「データいじってスキルを手に入れても、肝心の復活イベントが存在しないんだから意味ないだろ」
「ぐぬぬ!」
たぶん水中呼吸は別のイベントで使う予定だったスキルだろう。
これはプレイヤーの願望と、ヒロインの埋葬のされ方、意味ありげな没データがからみあって生まれた都市伝説なのだ。
源義経や源為朝のように『死んだはずの人間が実は生きており、別の場所で英雄になる』という伝説に近い。
現代の英雄伝説ともいえる。
「ギリギリまで待ってると『影』が死なない? これもウソ臭いわね」
「でも飛行船で脱出しようとすると『影が気になる』っていう選択肢が出るぞ」
空中都市が地上に落下するイベントで、タイムリミット寸前まで暗殺者の影というキャラを待つと、残り時間数秒のところで影がやってくるらしい。
『家に帰るまでが暗殺だ』
「あ、本当に来た!」
「ちゃんとした情報も載ってるんだな、このサイト」
「載ってなきゃ誰も使わないでしょ」
キャラ生存ネタは定番なだけあって、このイベントのすぐ後にもまたキャラ生存ネタがあった。
海で魚を捕り、病床の老人に食べさせるイベントなのだが、まずい魚を食べさせると死んでしまう。
しかも老人にはHPが設定されており、初期HPは120。
1秒でHPが1減るらしい。
魚を捕るのに手間取っていると時間切れで死ぬし、普通の魚とまずい魚は見た目では区別できないのでいつの間にか様態が悪化して死ぬ(うまい魚と悪い魚は泳ぐスピードで判別できるが、速いので捕まえるのが難しい)。
この老人が死ぬとヒロインは絶望して自殺しようとするイベントが発生する(その後、死んだと思っていた仲間たちが生きていると知って立ち直る)ため、多くのプレイヤーはどれだけ頑張っても老人が死ぬのは避けられないと勘違いしたという。
『ありがとうよ、エリス』
「え、これだけ?」
「これだけみたいだな」
必死にうまい魚を捕って老人を助けると、ヒロインが絶望しないため自殺未遂もせず、普通に仲間を求めて旅立つ。
「……盛り上がりも何もないわね」
老人が死ぬからこそ絶望から立ち直る展開にプレイヤーは涙するのだ。
これなら助けないほうがいい。
……誰もが生存を望んでいながら、いざ助かると物足りないという理由で殺されるという皮肉(あるいは魚を捕るのが面倒だから見殺しにされる)。
ある意味、かわいそうな老人だ。
「えーと……。満月の時にこのポイントを通過すると、256分の1の確率でレアな魔人と遭遇?」
「面倒なイベントだな」
「自分のレベル以下のザコとエンカウントしない魔法があるからまだマシね」
ザコ避けの魔法を唱え、ひたすら特定の場所をウロウロする。
『魔人 マスクドライダー が出た!』
「来たー!」
情報は本当だった。
腐っても攻略サイトだ。
やはりウソのネタより、本当のネタのほうが多いらしい。
『平家装備を盗める確率は0パーセントと表示されるが、このゲームでは小数点以下を切り捨てているため、実際は小数点以下の確率で盗める。気が遠くなるほど低い確率だがゼロではない』
「1000回やっても盗めないじゃない!」
「……これ一部で有名なデマみたいだぞ」
「ぎゃー!?」
だからこそ、たまにまぎれているウソにダマされる。
「裏ボスの『エムタークを10ターン以内に倒すと仲間になる』。これはありそうね」
「だな」
エムタークを倒すと『この私がたった○○ターンでやられてしまうとは……』というセリフがあるので、特定のターン以内に倒すと仲間になるというのは信憑性がある。
しかもエムタークは何度倒しても復活する。
条件を満たすまで、何度でもチャレンジできるようにしているのだろう。
1ターンに2回行動してくる上に攻撃力が高く、パーティー全体にダメージを与える特殊攻撃も多い。
おまけにあらゆる魔法を反射し、補助効果を打ち消す特殊能力まで使ってくる。
裏ボスだけあってラスボスよりも遥かに強い。
「スリープ!」
……ただこの裏ボス。
ずっと眠り続けていたという設定があるためか、眠り耐性が低いので高確率で眠らせることができる。
眠りから覚める可能性も高いものの、ずっと眠っていたままでいてくれれば殴り放題だ。
『この私がたった10ターンでやられてしまうとは……』
「やった!」
運が良ければ10ターン以内に倒せるだろう。
『しかしこの次はそうはいかぬぞ……。ンゴゴゴゴゴゴゴ……』
「仲間になりたそうにこっち見なさいよ!」
「無茶いうな」
結局、エムタークはンゴゴゴいいながら消滅した。
信憑性が高そうな情報だっただけに、ウソだとわかるとショックがでかい。
「次よ!」
『6時間以内にラストダンジョンの最深部に行くと、最強の剣アガートラーム2が手に入る』
「さすがにこれはウソでしょ」
「入手条件が変だし、ネーミングも適当だな」
「そうそう。2ってなによ、2って。一応チャレンジしてみるけど」
「……やるのかよ」
「当然!」
少しでも可能性があるのなら試してみるのがゲーマーらしい。
もっとも時間制限が厳しいので、ダンジョンを探索している暇はないようだ。
最強の武器を手に入れたいのなら、それ以外の装備を諦める必要がある。
本末転倒な気がしないでもない。
長くなりそうなので適当におやつをつまんでおく。
「裏技といえばプリンに醤油よね」
「おいやめろ」
「きゅうりとハチミツにする?」
「裏技から離れろ!」
ゲテモノを作られる前にプリンを食べる。
お茶は無難にアッサムかウバ。
ミルクティーがプリンによく合う。
「このカラメルの苦みがウニっぽくなるのかしら」
「ならねえよ」
プリンを食べ終え、アガートラーム2を求めてプレイすること半日。
ついにラストダンジョンへ突入。
『アガートラーム2を手に入れた!』
「ええ!?」
「……なんでお前が驚くんだよ。いや、正直俺も入手できるとは思わなかったが」
「製作者は何を考えてこんなネーミングと入手条件にしたのかしら」
謎は深まるばかりだ。
「あ、パチモンの裏技もある!」
まず初めにボックス1の一番左上にパチモンがいないことを確認する。
データを消して最初から始める。
最後にデータはちゃんと戻るので安心してください!
注意! 前のデータが女主人公でも必ず男主人公にすること! 女主人公で試したところ全て失敗しています
「レポートを書き残した!」の表示が出た瞬間に電源を切ります。
タイミングが難しいので私はソフトを抜く方法でやってます。
ソフトを再開すると「続きから」が消す前のデータに戻っています。
ボックスを確認するとレベル1の色違いボルカノンがいます。
結果 色違いボルカノンゲット!
「やらなきゃ!」
「少しは調べろ」
止める暇もなく裏技を実行してしまった。
そして当然のごとく、
「ああああああああああ!?」
パチモンのデータが消えるだけに終わった。
『あなたを詐欺罪と器物損壊罪で訴えます! 理由はもちろんお分かりですね? あなたが皆をこんな裏技でダマし、データを破壊したからです! 覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。貴方は犯罪者です! 慰謝料の準備もしておいて下さい! いいですね!』
ウソネタに怒涛の抗議コメントを打ち込むものの、投稿者からは一笑に付される。
「きー!」
ウソはウソであると見抜ける人間でないとネットを使うのは難しい。
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