音楽ゲームセット【エッグベネディクトとほうじ茶ラテ】
参考ゲーム
ビートマニア
スペースチャンネル5
バストアムーブ
「ん、ファンキージャズか?」
「よくわかるわね」
「クラブミュージックだからな」
瑞穂がプレイしているのは『ビートオタク』。
DJゲームだ。
上から落ちてくるアイコンを、リズムよく叩くシンプルな音ゲーである。
専用コントローラーには鍵とターンテーブル(DJがレコードを回転させるテーブル)があった。
専用コントローラーのボタン配置
黒 黒
白 白 白 ○←ターンテーブル
※黒は黒鍵、白は白鍵
一見すると左手でキーを叩きつつ、右手でターンテーブルを回すように思える。
しかし、
「てい!」
「おおう!?」
左手で左側にある黒・白・白の3つのキーを、そして右手で残りの黒・白キーを打ち、さらに右手の小指でターンテーブルを時計回りに半回転させた。
黒
白 白
※左手で打つキー
黒
白 ○
※右手で打つキー
慣れが必要なプレイスタイルだ。
専用コントローラーならではの動きである。
「んー、なんか物足りないわね」
「そりゃ音ゲーだからな」
ゲームによって違いはあれど、突き詰めればリズム通りにボタンを押すだけ。
よっぽどシステムや演出に凝っていないとすぐ飽きる。
「新しいの買ったほうがいいのかも」
「新しいの?」
「今は7鍵でターンテーブルも左側にあるのよ」
……クリアできる気がしない。
シューターと音ゲーマーはなぜそこまで難易度を上げたがるのか。
謎だ。
「んー、専用コントローラーは届くのに時間かかるわね。それまで暇だからマット使おっと」
「は?」
棚からダンスゲーム用のマットを取り出した。
「そのゲームに対応してるのか、それ?」
「対応はしてないけど、ボタンの少ないゲームなら普通に遊べるはずよ」
「マジか」
「それにビートオタクはオプションでボタン設定変えられるし、ターンテーブルにもボタン設定できるのよ」
マット型コントローラーのボタン配置
△↑○
← →
×↓□
※L・Rボタンを使わないゲームなら問題なくプレイできる
「……まあ、ファンキージャズならダンスゲームと相性はいいだろうな」
「そうなの?」
「ああ。ファンキーやソウルは日本ではそんなに人気なかったんだが、クラブミュージックとして注目されて再評価されるようになったんだ。あくまで『踊れるジャズ』としてだけどな」
「へー」
踊れることが重要なため、オーソドックスなジャズとは評価点が全く違う。
ジャズとしては評価が低くても、クラブミュージックとして人気のある曲は多い。
ダンスブームの時は1枚100円以下で叩き売られていたジャズのCDやレコードが買いあさられ、踊れる曲が発掘されていたという。
埋もれていた曲を新たな視点で名曲に変える。
自分の手で新たな名曲を生み出す。
芸術家(評論家?)肌の人間にはたまらない時代だっただろう。
ファンキー、ソウル、スピリチュアル、ハードバップ、そしてクロスオーバーやフュージョン。
クラブジャズの夜明けだ。
ただし、
「わ、対角線同時踏み!?」
ダンスゲームとなると生粋のゲーマーでも上手く踏めなかった。
それも当然。
ダンスゲームでは十字キーの部分しか踏まない。
だがこのゲームではボタンも踏む必要がある。
ダンスゲームは人が踏めるように譜面が工夫されているものの、このゲームではそんな調整はされていない。
色々な意味で難易度が高いのだ。
「こうなったら奥の手よ!」
「な!?」
瑞穂が床に手を付き、手でボタンを押した。
たしかに足に比べればプレイしやすいだろうが、
「……それはダンスなのか?」
「足を使うだけがダンスじゃないのよ」
手を使うだけはダンスじゃない気もするが、本人がこれで満足ならそれでいいのだろう。
奥の手らしく手を置いて、無事に最後まで踊りきった。
「運動してお腹すいたから何か作って」
「自分で作れ」
「えー」
「俺の分も作ったら500円引きにしてやるぞ」
「作ってくる!」
金が絡むと行動が早い。
「エッグベネディクトとほうじ茶ラテでいい?」
「ああ」
エッグベネディクトは朝食の定番メニュー。
簡単なものなのでこいつでも作れるだろう。
料理ができるまでの間、暇なので俺でもできそうなゲームを物色する。
『スペースジャクソン5』
「ん、ダンスゲームだな」
これも音ゲーだがストーリーがある。
ダンス星人なるわけのわからない敵が現れ、人々はダンス星人に文字通り『踊らされてしまう』。
主人公はテレビのリポーターで、テレビ中継しながらダンス星人とダンスバトルをしなければならない。
踊らされている人を助けるとバックダンサーが増え、上手く踊るほど視聴率が上がっていく。
カオスな世界観だ。
『お前にこの動きができるかな!?』
ゲームはお手本方式。
まず敵がダンスを踊り、プレイヤーはそれを真似てダンスをする。
「ぐ、難しいな!」
厄介なのは譜面が画面に表示されないこと。
自力で記憶してダンスを再現しないといけないのだ。
ポーズがわかりにくかったり、ダンス星人の声が聞き取れなかったりすると、どのボタンを押せばいいのかわからなくなる。
タイミングも自分で取らないといけない。
変則的なリズムだと合わせるのが難しい。
ゲームが進むと覚える内容も多くなる。
1つ失敗するごとにどんどん視聴率が落ちていき、
『0% 0% 0%』
「あああ!?」
やがて0%にまで落ちてゲームオーバーになった。
難易度が高すぎる。
視聴率はボス戦でライフになるので、率を稼げないと後がきつい。
おまけにこのゲームは長丁場だ。
基本的に音ゲーは曲ごとに管理されている。
1曲の長さがステージの長さだ。
だがこのゲームはテレビ番組なので、次から次へとイベントが起こる。
踊りっぱなしではないものの、1ステージ10分以上あった。
……やりなおすのはきつい。
「できたわよ」
「お、まともに作れたのか」
「と、当然でしょ!」
エッグベネディクトはイングリッシュマフィンの上にベーコンとポーチドエッグを載せ、オランデーズソースをかけたシンプルなものだった。
オランデーズソースはフレンチの代表的な黄色いソース。
バター、レモン、卵黄をマヨネーズのようにかき混ぜて作る。
正直エッグベネディクトでしか使ったことがないソースだ。
「あれ、このマフィン甘くない」
「……お前、よくエッグベネディクトを作ろうと思ったな」
「一回食べてみたかったのよ!」
イングリッシュマフィンはお菓子のマフィンのように甘くはない。
どちらかというとパンだ。
エッグベネディクトと聞くとオシャレな名前だが、わりと想像通りの味である。
「はい、ほうじ茶ラテ」
「これはまともだな」
なんでエッグベネディクトにほうじ茶ラテなのか不明だが、食べられない組み合わせではないのでよしとしよう。
「他に変わったシステムの音ゲーはないのか?」
「そうね、『バスト・ア・ブーム』とか?」
マットには対応してない普通の音ゲーのようだ。
試しにディスクをセットしてみる。
「……なんだこれ?」
画面には↑←↓○と表示されていた。
だが踏むタイミングがわからない。
「4拍子で踏むのよ」
1・2・3・4のリズムで譜面を踏めばいいらしい。
意外に簡単だ。
……と、思いきや。
↑←↓↑○
1・2・3・4・5と5拍子で踏む。
『ミス』
「は?」
「最後の譜面だけは4拍目に踏まないといけないの」
「? 最後の譜面だけ?」
「このゲームは最後の譜面さえ4拍目で踏めば、それ以外の譜面はどのタイミングで踏んでもいいのよ。だから最初の一拍目で↑←↓↑って踏んで、4拍目で○って踏んでもいいし。↑・←↓・↑・○って踏んでもいいの」
「同じ譜面でも踊る人間によって踊り方が変わるのか」
「そういうこと」
ユニークで面白い。
『COOL!』『CHILLIN!』『FREEZE!!』
コンボをつなげていくとCOOLやFREEZEと表示された。
『CHILLIN』というのは初めて見る単語だが、COOLやFREEZEからすると冷たい・冷静・凍らせる系の意味なのだろう。
徐々にコマンドのレベルが上がっていき、最終的に↑←↓↑→↓↑→○のような状況になってくる。
……忙しい。
それに目安がない。
オーソドックスな音ゲーでは画面の上からアイコンが落ちてきて、譜面と重なった瞬間にボタンを押す。
ようするに視覚的にボタンを押すタイミングがわかるわけだ。
だがこのゲームにはそれがない。
自分で4拍を計って踏まないといけないのだ。
ちゃんとリズムに乗って4拍子を刻んでいるつもりなのに、なぜかタイミングがずれてしまう。
どうも踏むのが一瞬遅いらしい。
ただ『4拍目を一瞬早く踏む』ことを意識してしまうと、他の部分でもタイミングがずれてしまう。
リズム感のない人間には難しい。
「ふふふ。私の出番のようね!」
「……くそ」
しゃくだが仕方ない。
突破できない部分は代わりにプレイしてもらう。
一息吐くついでに、もう一服してもいいかもしれない。
「ん?」
ほうじ茶ラテを淹れようとして、その惨状に気付いた。
「……おい」
「なに?」
「なんでエッグベネディクト作るのに、あんなに汚れるんだ」
「う……」
足が止まった。
「割引はなしな」
「なんでよ!」
ダダダダンと地団太を踏んだ。
『HOT!』『FIRE!』『BURNING!!』




