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ソードワールド2.5セット【チーズステーキとベトナムコーヒー】

「名誉点って何に使えばいいの?」


「……難しい質問ですね。2.5では名誉点の使い道が減ってますし」

「え、そうなの?」

「ルールブックを読みまショー」

 2.0では名誉点で肖像画や彫像、伝記、詩を作ってもらったり、家や爵位を買うこともできた。

 だが2.5にはそれがなく、キャラの二つ名も無料で買えるようになっている。


「爵位を得てもPCが強くなるわけではありませんし、肖像画を描いてもらってもキャラクターシートにその絵が載るわけでもありませんから、どうしても名誉点は余りがちです。なので2.5では名誉点を冒険者ギルドに支払ってライセンスを発行してもらうような形になりました。どれだけ名誉点を獲得しても、ランクを発行してもらわらない限り一流とは認められません」


「……せちがらいわね」

「でもランクが上がれば名誉点が必要なアイテムも名誉点の消費なしで買えるようになりますし、ギルドからクエスト報酬の前借りができますよ?」

「前借り!」

「……金に反応するな」

 ルールブック2で細かい内容を確認する。

 冒険者ランクは『ダガー』や『レイピア』など、剣の名前になっていた。

「レベル11のサンプルキャラだと名誉点900だから、700点で『勇者ハイペリオン』になれるな」


「でもハイペリオンってSSランク武器じゃない。装備できない武器のランクもらうのってなんかダサい」


「……わがままなやつめ」

「ぬ、『一流センチネル』もサンプルキャラでは持てまセン」

「必要筋力35!? ……『実力者フランベルジュ』で我慢しとこっと」

「名誉点だいぶ余ったな。『専用化』で装備を強化しても50点だし、センチネルにランクが上がれば消費した名誉点も戻ってくる。……使い道が少ない」

「2.0のルールブックで名誉点を消費してもいいですよ? たとえばセッション中に音楽をかけたい場合は、20点支払って『楽曲イメージソング』を作ってもらいましょう」

「バード技能がなくても戦場で歌えるの?」

「呪歌ではありませんから、鼻歌という処理にします」

「スタイルはゲットできマスか?」


「『流派』ですね? 一応、入門はできます」


「流派ってなんだっけ?」

「名誉点を50払えば流派に入門できます。さらに名誉点を払うと秘伝を教えてもらえます。たとえば『全力攻撃2』の戦闘特技を持っていれば、『アゴウ重鎚破闘術』に入門して『轟破・地断ち』を習得できます。回避が-3になる代わりに、対象の防護点を-16できます」


「-16!?」

「重鎚とはいっても応用が利くんだな。両手武器なら剣でも使える」

「でもクレイモアなら剣技がいい。『クラウゼ流一刀覇王剣』の『覇王・剛斬剣』とか」


「これらの流派はテラスティア大陸のものなので、アルフレイム大陸では伝承者を見つけるのが難しく、必要名誉点は最低でも1.5倍にさせていただきます。クラウゼ流一刀覇王剣は王族とのコネクションが必要なので、追加の名誉点が必要ですね」


「クラウゼ流高すぎ!」

 名誉点をやりくりしつつ、入門する流派と覚える秘伝を考えること30分。

「そろそろ始めましょう」

 ようやくシナリオを開始する。


「舞台はドワーフたちの地下都市。守りの剣が謎のハイマンに奪われ、地下都市が『魔剣の迷宮』化してしまいました。守りの剣を取り戻してくれ!」


「え、守りの剣が迷宮作ったの?」

「迷宮を生んだ魔剣の正体は不明ですが、守りの剣は範囲内にいる魂が穢れた存在にダメージを与える魔剣。迷宮は作れます」

「へー」

 魔剣の迷宮は、自分の使い手となるべき存在を探す(冒険者を鍛える)ために魔剣が作り出した迷宮だ。

 そもそも冒険の舞台になっているラクシアからして、『始まりの剣』と呼ばれる三本の魔剣によって作られた世界ソードワールドである。


 冒険者ギルドでも最高位の冒険者に与えられるランクが『始まりの剣』だ。


 『始まりの剣』ルミエル、イグニス、カルディアが自分の主となる存在を求めてラクシアという世界を作ったように、魔剣たちも主を求めて迷宮を作っているという。

 なお現存する魔剣は『始まりの剣』をコピーして生まれた魔剣のそのまたコピーである。

 オリジナルである『始まりの剣』に近いほど力が強く、守りの剣も魔動文明時代に作られた魔剣の1つらしい。

 盗まれた守りの剣が迷宮を作ったのではないとしたら、ボスが魔剣を持っていることになる。

「迷宮の曲がり角で蛮族と接触しました」


「ファイアブランド!」


「なんデスか、そのスキルは?」

「妖精の武器の合言葉」

「……え。サンプルキャラのクレイモアは魔法の武器だったはずですが。魔法の武器を妖精の武器に加工したんですか?」

「そうよ。合言葉を唱えると剣が燃えて格好いいでしょ?」

「格好よさのためだけに6000Gも使うな!」

「くれいじー!」

 サンプルキャラの装備しているクレイモアは『クレイモア+1』と表記されていた。


 これは魔法の武器として強化されたもので、命中+1、追加ダメージ+1、『通常の武器無効』の敵にダメージを与えられる。


 一方、妖精の武器にすると、属性が1つ付与されるので『通常の武器無効』の敵にダメージを与えられるものの、命中+1も追加ダメージもない。

 すでに魔法の武器であるクレイモア+1にはあまり意味のない加工だ。

「ふふふ。あえて名誉点20払って二つ名も買ったわよ。我が名は『ファイアブリンガー』、『炎をもたらす者』なり! ちゃ~ら~♪」

 楽曲も買ったらしく、『佐賀』シリーズのサントラをセットしてファイアブリンガーのイメージソングを流しだした。


「サンプルキャラをベースに色々いじって魔法戦士にしたから、このクレイモア『魔法の発動体』なの」


「……クレイモアで魔術文字を描くんですか」

「だから流派は『ライロック魔刃術』。マルチアクションを習得してると覚えられる『光陰魔刃術』は、命中-1の代わりに魔法行使判定+1ね」

 マルチアクションは近接攻撃と魔法を同時に使える戦闘特技だ。

 つまり光陰魔刃術は命中-1・行使判定+1されるマルチアクションである。


「光陰魔刃術、発動! 燃えさかるクレイモアで魔術文字を描きながら攻撃して、真語魔法『エネルギージャベリン』を発生させて追い打ち!」


 妖精の武器は余計な気がするものの、絵にするとたしかにこれは格好よさそうだ。

 その後も秘伝でザコをなぎ倒していき、迷宮の奥でハイマンを見つける。


「ほう。もうここへたどり着いたとは……。ちょうどいい、実験に付き合ってもらおう。クリエイト・ウェポン!」


「ぬ、何をクリエイトしたのデスか?」

「見てわからないのかね? 魔剣だ」

「は? クリエイト・ウェポンって魔法効果のある武器作れないでしょ?」

「だからこその実験だ。守りの剣は私の研究に役立ってくれた。マギスフィア大を使うことで、今やSSランクの魔法の武器さえも私には製造可能なのだ!」

「SSランク!?」

迷宮ラビリンスもクリエイトしたウェポンで作ったのデスか?」

「造作もないことだ。魔剣は始まりの剣に近いほど強いわけですが、例外的に魔動文明時代に作られた第8世代の魔剣の中には、第7はおろか第6世代さえも凌駕するものがあるそうです」

「……つまり実質的には第5世代の魔剣ってことか? たしか伝説の魔法王が使ってた魔剣が第4世代だから、こいつかなりやばい敵だぞ」

「自分の目で確かめてみたまえ!」


ころころ


「オリジナルモンスターのハイマンロードです。特殊能力はクリエイト・ウェポン2。補助動作で発動可能、効果時間は1ラウンド、作成される魔法の武器はランダムです。いま作ったのは『ガイスター』。ラウンド終了時に使用者のHPが-5されるものの、SSランクで最強の威力を誇る剣です」

「……いきなりSSランクかよ」

 しかも魔法の発動体であるマギスフィアの数だけ魔剣は作れるし、効果時間がすぎればまた別の魔剣が作られる。


ころころ


「クリティカルするごとに威力が+5される『首切り刀』!」


「防護点を無視する『斬鉄剣』!」


「1ラウンドの間まったく動けなくなる『ジャッジメントスピア』!」


「ぎゃー!?」

 ハイマンのくせにあらゆる武器を使いこなす技能と筋力を持っている。

 作成されたのが片手武器だった場合、さらにもう一本武器が作られるおまけ付き。

 オリジナルモンスターとはいえずるい。

 ただし、


ころころ


「……あ、『祝福の剣』ですね」

「なにそれ」

「攻撃した相手を回復します」

「やった!」

 中にはハズレもあるらしい。


ころころ


「来たぞ来たぞ! 『カルディア』、トレース・オン!」

「え、カルディア!?」

「ソード・オブ・ジェネシス!?」


「ふはは! 太古の昔、始まりの剣カルディアは砕け、世界中に散らばってマナになったという。ならば大量のマナを集めて凝縮すればカルディアを復元できてもおかしくはない! 始まりの剣の力、思い知るがいい! ちなみにランダムでレベル15の範囲魔法が発動します」


「ふぁっ!?」

「バカじゃないの!?」

「大丈夫です、地下なのでメテオストライクは撃てませんから」

「ぜんぜん大丈夫じゃない!」

「さあ、行くぞ! うなれカルディア!」


ころころ


「『スーパーノヴァ・ボム』ですね。威力90+魔力の爆弾魔法です」

「のー!?」

 ハイマン相手に精神抵抗できるわけもなく、全員が大ダメージを食らう。

 シャレにならない。

「あー、カルディアとボムの反動でマギスフィア大と中が壊れてしまいました。さすがはカルディア、まだ私の手に余るとみえる」

「……壊れてもぜんぜん嬉しくない」

 一歩間違えば全滅していた。

 だがピンチはチャンス。


ころころ


舞剣虚撃ソードダンス・フェイント2!」

「光陰魔刃術!」

「轟破・地断ち!」


「ぐは!? なかなかやるではないか、冒険者たちよ。……今生こんじょうはこれまでのようだな。来世でまた会おう。ハイマンが剣を逆手で握り、心臓に突き刺しました」

「え、自殺!?」

「即死ですね」

「ハイマンは輪廻転生リーンカーネーションを使いマシたか?」

「神聖魔法は使えませんからリーンカーネーションはないですね」

「……でもハイマンは魔法文明時代に作られた、前世の記憶を思い出すことがある種族だからな。前世の記憶を確実に思い出せるハイマンがいたら死を恐れないはず」

「転生される限り、今回みたいな事件が永遠に起こるってこと? そんなのどうすればいいのよ?」

「んー、転生されないようにできればいいんだが……。方法が思いつかん」


「アイスコフィンで眠らせまショー」


「お、その手があったか。コールドスリープで封印すれば転生もされん」

「でもアイスコフィンって戦闘中に使えるの?」


「使えます。ただしHPを20以下にしないといけません」


「……HP20以下になったら自殺するんじゃないの?」

「問題はそれだ。HPを20以下にしたラウンドでアイスコフィンをかけても、精神抵抗されたら自殺される。そうなると次のチャンスは数十年後だ。確実性に欠ける」

 それにディスペルマジックで簡単に氷は溶けるので、対策をされてると封印してもすぐに覚醒される。

 結局、結論は先送りにしてドワーフの地下都市に戻る(というか地下都市が迷宮化しているので、どこへ戻ったのかよくわからないのだが)。


「よく守りの剣を取り戻してくれた。あんたたちが望むのなら『クレイモア』のランクを発行しよう」


「そんなランクあったっけ?」

「フランベルジュは名誉点300、センチネルは500です。クレイモアは400点に設定された、このギルド独自のライセンスです」

「独自ライセンスなんてあるんですか?」

「もちろんオリジナル設定です。一支部によって発行される特殊なランクという位置づけなので、この地方でしか通用しませんし」

「おらが村の冒険者ってことね」

「フランチャイズプレイヤー!」

 下級ランクのダガーやレイピアは冒険者ギルドの一支部によって発行される。

 ブロードソードになると複数の支部が合同でランクを発行し、グレートソードやフランベルジュになると都市内合同。

 さらに上になると国内合同、地方合同、そして最高位になると冒険者ギルド本部から発行される。

 一支部によって発行される特殊な称号があってもおかしくはない。


「クレイモアは訳ありの冒険者にだけ発行されます。たとえば複数支部にまたがるランクを発行しづらい蛮族系のPCですね。それと一匹狼の冒険者です」


一匹狼ろーんうるふ?」

「ルールブックによれば、フランベルジュクラスになると酒場で『お近づきの印に一杯おごられる』そうです。そしてセンチネル以上になると人だかりができて、パーティーなどに出席すると『お代はいただけません』のような待遇になります。センチネルは国内のギルドが合同でランクを発行しますから、当然しがらみも多いでしょう」


「ようするにわずらわしいのが嫌いだから、センチネル級の実力があるのに、あえてフランベルジュ以上になろうとしない冒険者ってこと?」


「そういうことです。それと桃園さんの意見を参考に、自分が装備できない武器を冒険者ランクにするのは恥と考え、いつかセンチネルを持てるように大剣を振り続ける冒険者たちもクレイモアに設定しました」

「格好いい!」

 政治的に面倒な仕事は受けない、あるいは宗教的・人種的にデリケートな仕事は受けられない。

 だがセンチネルクラスの実力はあり、全面的な支援は無理だが局地的には身分を保証してそれ相応の待遇で迎えられる。

 それがクレイモアらしい。


「ふぉふぉふぉ、クレイモアにまた意気のいい冒険者が加わったようじゃのう。魔法文明語の聞き取りづらい声が後ろから聞こえました」


「魔法文明語?」

「とりあえず振り向きざま抜刀。私の後ろに立つな」

「……もめ事を起こすな」

「ふぉふぉふぉ、いい太刀筋じゃ。背後にいたのは、PCたちとさして歳も違わない冒険者です。お主らの力を見込んで頼みがあるのじゃが。ちなみに冒険者の口は動いていません。声はクレイモアから聞こえてきます」

「しゃべる魔剣!?」

「のん。たぶん『アビスカース』の代弁者スポークスマンデスね」

「あびすかーす?」


「シャロウアビスで手に入る『アビスシャード』で武具の『アビス強化』を行うと、アビスカースという呪いがかかるんです」


「えーと、これは『代弁する』呪いか? 『自身の会話は武具が魔法文明語の聞き取りづらい声で話す』」

「なにその呪い! 私もほしい!」

「呪いの種類は2dで決まるので選べません。それに装備中は魔法文明語しかしゃべれず、妖精魔法と魔動機術を使えませんよ?」

「……よく考えたら自分の言葉を魔剣がしゃべってるだけで、魔剣と会話できるわけじゃないのよね。ちょっと物足りないかも」

 なおアビス強化できる項目は命中力+1、追加ダメージ+1、必要筋力-2などがあり、プレイヤーが自由に選択できる。

 同じ項目を重ねて強化することはできないが、1つの装備に2つまで強化可能だ。


 クリティカルするとHP-5になる嫌な呪いから、嘘がつけなくなる(真偽判定-4)のようなほとんど実害のないものまで、さまざまな呪いがそろっている。


 ちなみにHP-5の呪いがかかった場合、武器の頭に『自傷の』が付き、嘘がつけなくなる呪いの場合は『正直者の』を付けないといけない。

 この冒険者の場合は『代弁するクレイモア』だ。

 なお武器の強化は個人専用、オーダーメイド、魔法の武器化、銀の武器化、妖精の武器化、アビス強化、イグニタイト加工がある。


 フル加工するとキャラクターシートには『自傷の正直者のイグニタイト製の銀の妖精(炎、水・氷、風、土、光、闇)のクレイモア・カスタム+1(専用)』と書かないといけない。


 ただしオーダーメイドした武器は語尾にカスタムを付ける義務はなく、GMやプレイヤーが自由に名前を付けられる。

 長くなりそうだったらオーダーメイドがオススメだ。

「で、頼みってなに?」


「先日、魔剣の迷宮が発見されてのう。ぜひこの手で攻略したいのじゃが、いかんせん相手はドレイク。ブロークンとはいえ、あそこまで数が多いとワシ一人ではどうにもならん。ご助力願いたい」


「……敵が全部ドレイクって滅茶苦茶な迷宮ね」

「ドレイクヘブン」

「迷宮の細かい情報は? ドレイクがたくさんいるってことは、ドレイクが根城にしてるのか?」


「いや、どうも魔剣がドレイクを産み出しておるらしい。ドレイクは魔剣を抱いて産まれてくるのは知っておろう? ドレイクが魔剣を産み出すのか、魔剣がドレイクを産み出すのか、詳しいことは誰にもわからん。ただあの迷宮では、魔剣によってドレイクが産み出されておる。自分の主にふさわしいドレイクを産み出そうとしておるのじゃろう」

「……厄介だな」

「その魔剣の名前は?」


「ソウルイーターじゃ」


「ソウルイーターって……、魂を食う魔剣!?」

「死神と呼ばれたドレイクカウントの魔剣。伝説ではそう伝えられておるのう」

「これでハイマンロードを封印シールするのデスね」

「引き受けない理由はないな」

「さっそく迷宮へ行きましょ」

「慌てるでない。クレイモアになったのじゃから、ちゃんと武器を強化するのじゃ」


「……種類が多すぎて何が何だかよくわかんないのよね」


 個人専用、オーダーメイド、魔法の武器化、銀の武器化、妖精の武器化、アビス強化、イグニタイト加工。

 前半のクエストをクリアしたことで報酬をもらっているし、経験点と能力値の成長もある。

 準備にそこそこ時間がかかるだろう。


「チーズステーキをお願いします」


「ステーキにチーズ? ハンバーグじゃなくて?」

「チーズステーキはサンドイッチですよ?」

「え、そうなの?」

「ああ。リプレイのfromUSAでも『ダルガーズ・チーズステーキ』として出てきたやつだ」


 玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、薄切りの牛肉を炒め、バゲットに挟み、チーズをかける。


 チーズは余熱でとろけさせてもいいし、溶かしたチーズをかけてもいい。

 ケチャップ、マヨネーズ、チリソースはお好みで。

 飲み物はバゲットと相性のいいベトナムコーヒーだろうか。

 チーズステーキの味付けによって甘さを控えめにしたり、あるいはコンデンスミルクを溶かして甘くするといい。

 もちろん最初は甘さ控えめ、徐々にコンデンスミルクを溶かしていって甘くしてもいいだろう。


「武器をいじるならオーダーメイドかイグニタイト加工だな」


「イグニタイト加工は名誉点を100消費して、ダークドワーフの鍛冶師と『顔見知り』にならないとできません。費用も20000Gかかりますし」

「たかっ!? ……さっきのクエスト報酬が12000だから、報酬を前借りしてもギリギリね」


「名誉点を300払ってダークドワーフの鍛冶師と『貴重な友人』になったら、もう少し安くなりますか?」


「友人なら半額でもいいですよ?」

「よし! じゃあ加工します」

「……友達の友達でも安くなる?」

「なりません」

「えー」

「まあ、友人の紹介なので分割払いでよければ受け付けますが……」

「じゃあそれ」

「みーとぅー」


「加工には1週間かかります。ただ迷宮のクエストは緊急のものではないので準備期間として処理しましょう。ハイマンが出るのも十数年後ですし」


「えーと、イグニタイト加工で威力+5。オーダーメイドは必要筋力が-3~+3されて、筋力を操作した分だけ威力アップだから『イグニタイト製の妖精(炎)のクレイモア・カスタム+1』にすればセンチネルと同じぐらいの威力になるわね」

「……そこまで改造するなら自分で新しい名前つけろよ」

「じゃあマイン・クレイモアね」

 おそらくクレイモア地雷マインにかけているのだろう。

 物騒な名前だ。

 オーダーメイドも加工に1週間必要だが、イグニタイトと同時進行なので特に問題はない。


「では迷宮へ案内しよう」


「だんじょんあたっく!」

 1シナリオで2つ目の魔剣の迷宮だ。

 構成がおかしいような気がするものの、気にしないことにする。


ころころ


「(剣)ドレイクバロン・ブロークンです」

「剣のかけら入り!?」

「面倒くさいわね! 光陰魔刃術でドレイクに近接攻撃とエネルギージャベリン!」

「バカモン!」

「え、なに!?」


「1人で2回も攻撃するでない! それに初太刀はワシじゃ! お主らにはクレイモアの掟を基礎から叩き込まねばならんようじゃの」


「掟ってなんだ?」

「クレイモアの冒険者は単独行動を好むので、見知らぬ冒険者と手を組むと報酬で揉めてしまいます。そこでクレイモアには独自の掟が生まれました。1つは『ラストアタック』。敵から戦利品をはぎ取ることができるのは、トドメを刺した冒険者だけじゃ!」

「……なにそのネトゲ」

「ただ冒険者が好きに動き回った場合、誰がラストアタックを決めたのか判断が難しくなります。そこで『ターン制』が敷かれました。PCの行動は敏捷度順。敵へ攻撃できるのは1度だけ、パーティ全員が攻撃し終わるまで次の攻撃をしてはならぬ! センチネルを目指すのなら当然じゃな」

「センチネルと何の関係が?」


「ラストアタックという掟があるため、1ラウンドに1回しか攻撃できぬ。それにクレイモアの多くはセンチネルを装備するために筋力を鍛えておる。なので一撃の破壊力を上げるため、武器がどんどん大型化していったのじゃ」


「ゲームでよくある『自分の体よりも大きい武器』と『1ターンに1回ずつ素早さ順に行動する』を合理的に解釈したシステムね」

「1ラウンドに攻撃は1回だけ、キャラは順番に行動するとなると、ある意味では従来のシステムより簡単だな」

「スタンダードRPGシステム!」

 ……その分、二刀流、ファストアクション、リピートアクション、マルチアクションなどによる連続攻撃が封じられて、火力は低下しているのだが。

 そこは流派で補う。


「覇王・剛斬剣!」

禍津まがつ・罪撃ち!」

「轟破・地断ち!」

舞剣虚撃ソードダンス・フェイント2!」


 敏捷度順に連続で秘伝を叩き込む。

「……残りHP58。仕方ありませんね、限定竜化ビカム・ドラゴン!」

「ふぁっ!?」

「なんでブロークンが竜化するのよ!」


「ブロークンは剣の結晶があれば竜化できます。このブロークンの体内には、結晶の素になる剣のかけらが入ってますから」


「……くそ、これからは竜化される前に倒さないといけなくなったぞ」

「べりーはーど!」

「なんかハイマンロードに似てるかも」

 ハイマンロードはおそらくHP20以下になると自殺する。

 この迷宮のドレイクバロンも、HPが一定以下になったら竜化するようだ。

「ブロークンではありますが、竜化するとHPが全回復します。ソウルイーターに選ばれてこそいませんが、ソウルイーターから生まれた存在ではあるので、間接的に魔剣の加護を受けます」

「……最悪」

 剣のかけらはなくなるとしても、複数部位で、コア部位のHPは98。

 だいぶきつい。


 ドレイクが竜化するラインを見極めてHPを調節する必要がある。


 迷宮を攻略したいのなら、無駄にドレイクを竜化させてはいけない。

「残りHP58で竜化は早いな」

「それ以下だと、総攻撃食らったら死ぬ可能性があるからじゃないの?」


「のん。ピースを使わないといけないからでショー」


「ピース?」

「あ、剣のかけら1つでHP+5だから、レベル9だと+45なんだ。残りHPが剣のかけらの分だけになると、かけらを使ってドラゴンになれなくなるってこと?」

「いぐざくとりー」

 残りHP45以下は剣のかけらで命を繋いでいる状態だ。

 かけらを使って竜化しようとすると、竜化でHPが回復する前に、かけらを失って死んでしまうのかもしれない。

 便利なのか不便なのかよくわからない体だ。


「ドレイクバロンのHPは88。かけらを含めると133。残り58で竜化は確実。HPが剣のかけらに突入するとたぶん竜化できない。これだけわかれば充分だ!」


 HPが60以下にならないようダメージを調節。

 そして次のラウンドでHPを45以下にし、竜化を封じて倒す。

 コツがわかれば楽なものだ。

 サクサク奥へと進んでいく。


「迷宮の奥には祭壇があり、大鎌が飾ってありました」


サイズ?」

「剣じゃないの?」

「この世界の魔剣は魔法の武器の総称で、必ずしも剣とは限りません。リプレイでも斧の魔剣が登場してますし」

「……斧の魔剣ってなによ」

 その言葉だけ聞くと矛盾の塊だ。

「ソウルイーターの前にはドレイクが3体います」


ころころ


「中央は(剣)ドレイクバイカウント・ブロークン、残りの2体は(剣)ドレイクバロン・ブロークンですね。バイカウントがソウルイーターを肩に担ぎました。貴様らの魂、吸わせてもらうぞ」


 ボス戦が始まった。

「今回は『連鎖』システムを採用します」

「チェイン?」


「敵1体をパーティで続けて攻撃すると連鎖が発生します。攻撃を連続で命中させると、一発につき追加ダメージが+1点されます。この追加ダメージはラウンドをまたいで累積します」


「当てるたびに+1、+2、+3、+4って追加ダメージが膨れ上がっていくの?」

「はい。ただし攻撃が外れる、連続攻撃が途切れる、魔法攻撃を精神抵抗される、敵からクリティカルを食らった時点で累積した追加ダメージは消失。それと敏捷度順に行動するため、敵に行動パターンを読まれており、連続攻撃中は命中と魔法行使判定が-2されます」

「……命中-2は痛いが、追加ダメージの累積はありがたい」

 確実に攻撃を当て続ければ追加ダメージだけで凄いことになる。

 連鎖はでかい武器と必殺技で敵を吹き飛ばし、攻撃を繋げるようなイメージだろうか。


 たとえば剛斬剣で敵を後ろに吹き飛ばし、飛んできた敵を仲間が罪撃ちで空中に跳ね上げ、そして空中で地断ちを当てて敵を地面に叩き落とす。


 だから攻撃をミスると追加ダメージは加わらず、敵からクリティカルを食らうと(連鎖に割り込まれると?)そこで連携が途切れてしまう。

 デジタルのアクションゲームとしてプレイしても面白そうだ。

「敵から連続攻撃されたらどうなるの?」


「もちろん追加ダメージです」


「ぎゃー!?」

 ……ハイリスクハイリターンなシステムだ。

 まずはドレイクバロンが竜化する前に片づけようと集中攻撃。

 追加ダメージ+3を確保した。

 問題はソウルイーター。


「ソウルイーターにクリティカルを食らう、もしくは回避判定で1ゾロの自動失敗になった場合、魂を吸われてHPの最大値が適用ダメージと同じだけ減ります」


「のー!?」

 頭のおかしい特殊能力だ。

 追加ダメージの効果もあってバロンの竜化は防いだものの、同時に3体も相手するのはきつい。

 HPとMPがどんどん減っていく。

 しかも、


竜化ビカム・ドラゴン!」


「ぐあ!? ダメージを与えすぎた!?」

 バイカウントへのダメージ調節をミスり、竜化の阻止に失敗。

「ソウルイーターを体に取り込んで竜化したので、剣のかけらは体内にまだあります」

「くそ、最後の最後まで厄介な!」

「なおすべての部位の攻撃にソウルイーターの特殊能力が適用されます」

「いやー!?」

「ではソウルイーター3連撃をどうぞ」


ころころ


「うおお!? 最大HPが30減った!?」

「がっでむ!」

 まさにソウルイーター。

 カルディア・トレースに勝るとも劣らぬ凶悪さだ。

 やられる前にやるしかない。


「光陰魔刃術!」

「光陰魔刃術!」


 禁じられているのは1人で1体の敵を連続攻撃すること。

 光陰魔刃術マルチアクションで近接攻撃すると同時に、魔法で味方を回復するのは問題ない。

 さすがに全員のHPを回復する余裕はないが。

「ヒールスプレー!」

「リカバリィ!」

「ヒーリングポーション!」

 足りない分は補助動作で補う。

 こうして地道に攻撃を繋ぎ、追加ダメージを累積。

 命中がかなり下がっているのに、奇跡的に8連続で攻撃が繋がった。


 +1、+2、+3、+4、+5、+6、+7。


 最初の一撃は追加ダメージに含まれないものの、追加ダメージだけで28。

 そして、


「覇王・剛斬剣!」

「禍津・罪撃ち!」

「轟破・地断ち!」


「ラストアタック!」


 守りを捨てて一気にたたみかけた。

 さすがに途中で回避され、追加ダメージは途切れたものの、


「落ちました」


「うぃなー!」

 さすがのドレイクバイカウントもこれには耐えられなかった。

 連鎖おそるべし。

「竜化が解けたドレイクは倒れ、その体内からおびただしい数の何かが飛び出してきます」

「え、なに?」


ころころ


「これまでソウルイーターが吸った魂ですね」

「ええ!?」


「ドレイクは魔剣を体内に取り込んで竜化するわけですから、殺してしまったら高確率で魔剣は折れます」


「飛び出してきたのはどんなソウルデスか?」

「数千のゴーストです」

「……終わった」


 ソウルイーターでハイマンの魂を封印するはずが、逆にソウルイーターを破壊してゴーストを解き放ってしまう致命的なミス。


 バイカウントの竜化だけは絶対に阻止するべきだったのだ。

 これでもうクエストは達成不可能。

 ……かと思いきや、

「魔物知識判定を」


ころころ


「ゴーストの正体はレベル14のミニングレスです」


「なにそれ」

「数千の魂が混ざり合って生まれるアンデッドです」

「え、集合体?」

「ミニングレスオンリー?」


「ミニングレスだけです」


「最初からそう言いなさいよ!」

「PCの目には数千のゴーストのように見えてますから」

 ……紛らわしいにもほどがある。

 だがこれで希望は見えた。

 ソウルイーターはなくとも、アイスコフィンさえ成功すればハイマンは封印できる。

 それに賭けるしかない。


「ではミニングレスの手番ですね。デュラハンロードを召喚します」


「は?」

「特殊能力『亡霊の召喚』は、補助動作でレベル11以下のアンデッドを召喚できます。なお召喚されたアンデッドはそのラウンドから行動可能です」

「なにその能力!?」


「剣のかけら入りなのでミニングレスのMPは127。亡霊の召喚の消費MPはアンデッドのレベルなのでまだまだ召喚できますよ? 『修復』で毎ラウンドの終了時、半径10m以内にいるアンデッドのHPを10回復することもできます」


「ぎゃー!?」


 ……こうして俺たちは魔剣ソウルイーターを破壊してしまった挙句、ミニングレスという名のソウルイーターに魂を食われたのだった。


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