協力型ゲームセット【サブレとロイヤルミルクティー】
参考ゲーム
呪われたクリーチャー
「……なんだこのパッケージ」
「イングリッシュではありまセンね」
「ドイツからの直輸入品ですから」
「ドイツ語!?」
「プレイできるの、これ?」
「日本語マニュアルが付属しているので」
パッケージを裏返すと、たしかにマニュアルが付属していた。
直輸入品に日本語マニュアルを付属させているので、マニュアルはパッケージの裏側に貼り付けられている(ゲームは新品なのでビニールで包装されており、そのビニールの上にビニールで包まれた日本語マニュアルが貼り付けられている)。
『呪われたモンスター』
これが日本版のタイトルらしい。
そういえば別の海外ゲームをプレイした時も、日本語マニュアルとは別に英語のマニュアルがついていた。
より多くのプレイヤーがプレイできるように英語のマニュアルを付属させているのだと思っていたが、あれも直輸入品だったのかもしれない。
「これは協力型のカードゲームですが、一人でもプレイできます」
ドサッと布教用、観賞用、保存用の呪われたモンスターを取り出した。
これで全員がソロプレイできる。
「オープン!」
パッケージを開封するとモンスターカードとアイテムカードが40枚ずつ、そして魔法陣カードが5枚入っていた。
「まず魔法陣カードを3枚取ってください」
「さー、いえっさー」
「モンスターカードとアイテムカードをシャッフルして山札にします。山札は広げてください」
80枚のカードを上から順に引いていくのではなく、裏向きのままカードをテーブルに広げて好きな一枚を引く方式だ。
「毎ターン山札を1枚ずつ引いて、モンスターカードだったら表にして場に置き、アイテムカードだったら自分の手札にします」
「ふむふむ」
「モンスターカードにもアイテムカードにも1から40までの数字が書かれていますよね? アイテムの数字がモンスターの数字以上なら、モンスターを倒せます。アイテムは数枚まとめて使っても構いません」
「HP15のモンスターを、5と10のアイテムカード2枚で倒してもいいってこと?」
「はい。ただし1枚で複数のモンスターを倒すことはできません」
攻撃力40のカードを持っていても、これ1枚ではHP1と2のモンスターをまとめて倒すことはできないらしい。
「1ターンに何匹倒してもいいんですか?」
「手札さえあれば1ターンに何匹でも倒せます。手札に上限はありません」
「モンスターはアタックしてこないのデスか?」
「モンスターは2種類の攻撃パターンがあります。1つは場にモンスターカードが6枚そろった場合。一番攻撃力の高いモンスターが攻撃してきます。もう1つはグループがそろった場合。ポーカーのストレートのように数字が並ぶと、並んでいるモンスターがすべて攻撃してきます」
1・2や1・2・3(場に1と3がある時に2のカードを引いた場合)のように、数字が並んだらグループになり、グループのモンスターがまとめて襲い掛かってくるらしい。
「グループ攻撃が厄介だな」
「そうですね。ただグループ攻撃には利点もあって、プレイヤーは1枚のカードでまとめてモンスターを倒すことができます」
「グループならまとめて倒せるのか」
「撃退できなかった場合はどうなるの?」
「魔法陣カードを使ってください。魔法陣カードを使うと、攻撃してきたモンスターをすべて山札に戻せます」
「戻すの? 倒すんじゃなくて?」
「戻します」
「つまり魔法陣カードが事実上のライフで、魔法陣カード0の状態で敵を倒せなかったらゲームオーバーになるってことか」
「そういうことです」
「モンスターをジェノサイドすればミッションコンプリートですネ?」
「いえ。クリア条件は山札がなくなった時、プレイヤーが生きていることです。山札の最後の1枚を処理したら、場に残ったモンスターカードが得点になります。もちろん強いモンスターよりも、弱いモンスターを残していたほうが評価は高くなります」
「ぬ、ロースコアアタックですネ!」
低得点ほど高得点になるシステムだ。
「ちなみに山札がなくなった時に魔法陣カードが残っていた場合、その魔法陣カードで場に残っているモンスターを倒すことができます。ただし魔法陣カードでモンスターを倒す場合、数字の低い順番に攻撃します」
「魔法陣カードが最重要アイテムなのか」
魔法陣カードは攻撃してきたモンスターを山札に戻すだけで、倒すわけではない。
使う意味がないのだ。
ラストまで温存する必要がある。
「ではプレイしてみましょう」
単純なゲームなのでルールはすぐに呑み込めた。
直輸入のゲームではあるが、カードにはイラストと数字しか書かれていないので、ドイツ語が分からなくてもプレイに支障はない。
「さて……」
山札から1枚ずつ引いていき、モンスターを倒すべきか否か思案する。
モンスターもアイテムもカードの構成は同じ。
お互いに1~40のカードあり、数字の合計は同じなので、1枚1殺すれば全てのモンスターを殺して『得点0』のパーフェクトゲームが可能。
だが引けるカードはランダムなので、1枚1殺は確率的に不可能。
必ず場に何枚かモンスターが残る。
温存した魔法陣カードでモンスターを殺さないといけない。
ソロでは魔法陣カードが3枚。
パーフェクトゲームを狙うなら、場に4枚以上モンスターを残してはいけない。
しかしこれが初プレイだ。
まずはパーフェクトゲームよりもクリアを目指すべきだろう。
確実にクリアしたいのなら、逆に魔法陣カードは使ったほうがいいのかもしれない。
「うーん……」
単純なゲームではあるものの、単純すぎて逆に戦略を組み立てにくい。
できるかぎりモンスターのHPと同じ攻撃力のアイテムで殺したい。
だが引けるカードはランダムなので、どうしても+1、+2で殺すことになる。
この損失が後半、どれだけ響いてくるのかわからない。
+はどこまでが許容範囲なのだろう。
+1や+2は問題ないはずだ。
+3あたりからアイテムを使うのに躊躇するようになる。
+5など問題外だ。
しかし、
「ぐ、そろった!」
モンスターが場に6枚そろってしまうと、倒したくないモンスターも倒さざるをえなくなる。
場に6枚モンスターがそろった場合、攻撃してくるのは一番HP(攻撃力)の高いやつだ。
手札のアイテムの攻撃力が、場に出ているモンスターのHPより+5以上だと損失が大きい。
+5の損をするぐらいなら、場に6枚のモンスターがそろわないように+3、+4の手札で他のモンスターを始末しておくべきなのかもしれない。
それとも2枚のカードを使い、HPと攻撃力をイコールにして殺すべきか?
ただモンスターカードとアイテムカードの枚数は同じなので、1匹のモンスターに数枚のカードを使うと後半手札が足りなくなるおそれがある。
数字の損失と、使える手札の損失。
どちらを優先するべきか?
「……温存するなら手札か?」
手札がないとHP1のモンスターすら倒せないので、手札がなくなるほうが困りそうな気はする。
「いや、違うのか?」
モンスターがグループ攻撃をしてきた場合、1枚のカードで数匹のモンスターをまとめて倒せる。
つまり+3や+4のような『数字の損失』と違い、HPの高いモンスターを数枚のアイテムで倒す『手札の損失』はグループ攻撃で取り戻せるわけだ。
数字を損するぐらいなら、手札を2枚使ってHPと攻撃力を等しくして殺したほうがよさそうな気がする。
しかしそれもモンスターがグループ攻撃をしてくることが前提。
なおかつグループ攻撃のモンスターを手札1枚で倒さねばならない。
手札の損失は取り戻せる可能性があるとしても、多用は禁物だ。
HPの低いモンスターと同じ攻撃力のアイテムがあったとしても、即座に攻撃はせず、グループが成立するまで待ってみるのもありだろう。
さいわい手札は何枚でも持てるし、1ターンに何匹でも殺せる。
たとえば2・4(1・3・5が出ればグループ成立)が場に出ているなら、2と4のアイテムカードを持っていてもすぐには殺さない。
場に6枚モンスターカードがそろいそうなら、数字を損しないように殺す。
「怖いのは数字の高いグループだな」
30代のモンスターがグループで攻撃してきた場合、必要な攻撃力は60以上。
もし手持ちの手札の数字が低いと、手札を根こそぎ使わされる可能性がある。
2匹のモンスターを殺すために手札を全部消費してしまうと危険だ。
モンスターカードとアイテムカードの枚数は同じなので、山札からアイテムカードを引ける確率は2分の1。
もちろんゲーム状況によって数字は変動するものの、連続でモンスターカードを引いても不思議はない。
高レベルのモンスターグループを倒すために手札を全部使った後、山札から連続してモンスターカードを引くと、ろくな手札がない状態で戦わないといけない。
高確率で魔法陣カードを使わされてしまう。
35・37のように高レベルグループが成立しそうなときは、どちらかを殺しておいたほうがよさそうだ。
「……これで30代のモンスターを1枚残せるか?」
山札がなくなった時、手札で数字の低いモンスターを殺せば、魔法陣で高レベルモンスターを殺してパーフェクトゲームを達成できる。
あとは引き運。
「ドロー!」
……こればかりはどうにもならない。
「くそ! まだアイテムは残ってるのに、なんでモンスターカードばっかり引くんだ!」
後半で手札の消費が激しく、思うようにゲームをコントロールできずに30点でフィニッシュ。
クリアはできたものの、パーフェクトゲームは逃してしまった。
極端に引き運さえ悪くなければクリアはそこまで難しくなく、モンスターを全部倒すパーフェクトゲームも充分狙える難易度。
ルールが単純で、準備も片づけも簡単。
値段も安い。
複数人プレイもできる。
初級者向けのいいゲームだ。
拡張ルールがないのが惜しい。
「どうだった?」
「……死んだ」
「みっしょんこんぷりーと!」
「パーフェクトです」
各自だいたい予想通りの結末を迎えたようなので、ここらで一服しておく。
「サブレ食べたい」
「ならロイヤルミルクティーにするか」
ミルクで茶葉を煮出す。
淹れ方もチャイとほとんど同じだ。
チャイとの違いは、スパイスを入れるか入れないかぐらいだろう。
「なんでハトじゃないの」
「なんでハトだと思った」
サブレはバターと小麦粉を1対1の割合で作るビスケット。
ビスケットの中でもバターの比率が高い。
フランス語で砂のようなというあまり美味しくなさそうな名前ではあるものの、口の中でホロホロと崩れる食感はビスケットの中でも格別。
そのサブレをロイヤルミルクティーに浸して食べるのが個人的に一番美味い食べ方だ。
おそらくロイヤルミルクティーに最も合うスイーツである。
「ロイヤルっぽくありませんね」
「和製英語なのデス」
つまりロイヤルといってもイギリス王室は特に関係ない。
海外でロイヤルミルクティーを注文しても通じないので要注意。
シチュードティーだ。
「では協力プレイをしましょう。協力プレイでは自分の手札を周りに伝えることはできません」
「え、しゃべっちゃいけないの?」
「その敵を倒せる、倒せない、というレベルの会話なら問題ありません。禁じられているのはあくまで自分の手札を周りに伝えることですから」
いかに周りに自分の手札状況を伝え、周りの手札を把握するかが重要になりそうだ。
「それと協力プレイではグループができた時、全員でグループモンスターを攻撃できます。ただし1匹のモンスターには1人しか攻撃できません」
「自分の手札と他のプレイヤーの手札を合わせて使うことはできないってことか」
「はい。なお山札の最後の1枚を処理した後、各プレイヤーは手札を1枚ずつ使って場に残っているモンスターを倒せます。得点計算はその後ですね」
山札が残り数枚になったら、手札が余らないように使っておく必要がある。
ソロなら最後の1枚を処理する時にまとめて使うことができるものの、協力プレイだとそれができないので、油断していると手札が余ってしまう。
要注意だ。
「では始めましょう。4人プレイでは魔法陣カードは5枚です」
「なんでソロより多いの?」
「すぐにわかります」
「?」
魔法陣カードをテーブルに5枚並べてプレイ開始。
時計回りに1枚ずつ引いていく。
「これ倒せる人いる?」
「のん」
「ギリギリだな」
「余裕です」
ギリギリはHPと攻撃力が等しく、余裕はオーバーキルだ。
わりと伝え方次第でどうにでもなる。
「じゃあ、こっちを攻撃しとこっと」
「あ、なにやってんだ!」
「+1だからいいでしょ」
「そういう問題じゃない。今ので手札なくなっただろ」
「あ」
「4分の1ですから」
「くぉーたー!」
ソロプレイでは引いた手札を一人で使える。
よほど運が悪くない限り、手札不足にはならない。
だが4人プレイでは山札を引く回数は4分の1になる。
なので引き運が悪いと、
「ぎゃー!? 倒せるアイテムがない!?」
あっという間に魔法陣カードを使う羽目になる。
協力プレイなのに(協力プレイだからこそ?)ソロより難易度が高い。
「……カウンティングするしかないな」
マニュアルによれば、倒したモンスターとアイテムカードは『表向き』にして捨て札の山に置く。
表向きで捨てられるのならカウンティングがしやすい。
順番に並べて捨てればなおさらだ。
モンスター 1 10 15
アイテム 1 4 6 16
使ったアイテムカード(倒したモンスターカード)をカウンティングしやすいように並べる
……ただ日本語マニュアルには表向きにして捨て札の山に置くとしか書かれていないので、順番に並べるのはルール違反かもしれない。
「このモンスターはグループになる危険がないので放置しておきましょう」
ゲームも後半になるとカウンティングが威力を発揮する。
これから引くモンスターやアイテムの予測が可能になった。
これならクリアできるかもしれない。
「こいつ倒せるか?」
「のん」
「ちょっと無理ですね」
「あ、わたし倒せる!」
「じゃあ頼む」
「はーい」
鼻歌を歌いながら手札でモンスターを処理する。
2枚の手札で。
「なにやってんだ、お前!?」
「え、ライフぴったりでしょ。それにもう私には回ってこないし」
「その2枚を使えば2匹倒せましたよ?」
「1ケタのザコに使ったらもったいないじゃない」
「くれいじー!」
……会話で手札のだいたいの数字を察することはできても、使う枚数まではわからなかった。
意外な落とし穴である。




