ピザカット問題セット【ピザとコーラ】
「えーと、チーズにノリ、白ゴマ、半熟タマゴと納豆だったかしら?」
「……見様見真似で再現するな」
「はーい」
ドラマ版『ロンリーな美食』に登場するピザとはいえ、個性的なものは下手に再現すると大変なことになる。
「こっちはハムとタマゴで……。こっちはサラミ、トマト、ピーマン、アンチョビよ!」
「原作のピザですね」
ドラマ版だけでなく、原作漫画のピザにまで手を出した。
まあ、納豆ピザに比べれば常識的なものなので害はないだろうが……。
「ピザが3枚……。これは『ピザカット問題』の出番ですね!」
「なにそれ」
「ピザやケーキをいかに均等に分けられるかという問題です。ケーキカット問題という別名もありますね」
「測って切ればいいだけの問題じゃないんですか?」
「測れるのなら問題になりません。あくまで一般家庭におけるピザカットのシチュエーションですから。使用できる道具は庖丁もしくはピザカッターのみ。目測で切り分ける問題です。均等に切り分けるのが目的ですが、必ずしも均等である必要はありません」
「は?」
「矛盾してない?」
「矛盾はしていません。『たとえ均等でなくても全員が納得する形で切り分けられている』のなら、それが正解です」
「あー、なんか本で読んだことあるな。切り分けた人間が最後にピザを取るやつだ。自分では均等に切ったつもりだから、小さいピザが残ったとしても文句は言えない」
「でもピザを3等分するんなら、その方法だと2番目の人が損しない?」
「最初に2等分して2人で分けましょう。そしてその2等分したピザを3等分して、3人目が1つずつ取ります」
「???」
「こういうことです」
□ 1つの大きいピザ
↓
□ □ 2等分して2人で分ける
↓
□□□
2人が自分のピザを3等分する
□□□
↓
□□
□□
□□ 3人目が2つのピザから好きなピースを1つずつ取る
「……なんかややこしいわね」
「では3枚のピザでやってみましょう。それぞれが自分の前にあるピザを切り、自分が切ったピザを最後に取ります」
「お、自分の切ったピザAを3番目に、隣のピザBを2番目に、そして最後にピザCを最初に取れば全ての人間が順番通りにピザを取れるのか」
「そういうことです」
Aのピザ(Aが最後に取る)
BCA(この順番にピザを取る)
Bのピザ
CAB
Cのピザ
ABC
「考え方は面白いけど……。結局どの方法で切っても、測って切るのと大して変わらなくない?」
「ではこれをゲームにするのはどうでしょう。ピザを均等に切り分ける必要はないわけですから、場合によっては3分の1以上のピザを取ることができます」
「でもコントロールできるのは自分のピザだけじゃないですか。大きく切ったら他人に取られるし、小さく切ったら押し付けられる」
「そこで勝利条件の設定です。たとえば円を完成させたプレイヤーの勝ち、というのはどうでしょう?」
「円?」
「ゲームをするなら、あらかじめピザを12等分に切り分けていたほうがいいかもしれませんね。各プレイヤーは好きなように自分の前にあるピザを3等分します。各プレイヤーは順番にピザを取っていき、12ピースのピザを取って円を完成させたプレイヤーの勝ちです」
「なるほど。円を完成させたプレイヤーがいなければ、もっとも数の多いプレイヤーの勝ちとか、数の少ないプレイヤーの勝ちってことにすればいいのか」
「一番12ピースに近いプレイヤーの勝ち、って条件にしてもいいわね」
「では12ピースに近いプレイヤーの勝ちにしましょう」
ピザは先生がA、俺がB、瑞穂がCになった。
「それではピザを12等分にカットして、3つに分けましょう」
「はーい」
それぞれが自分のピザを分割していく。
A 5 4 3
B 5 5 2
C 10 1 1
……一人だけ頭のおかしいやつがいる。
それが誰かは言うまでもない。
「ではAから取りましょう」
AのピザはBCAなので俺からだ。
「じゃあ5で」
「私は4」
「3ですね」
次はBなのでCAB。
「2を取って6よ!」
「では先生は5で8ですね」
「俺も5で10だ」
CのピザはABC。
「1で9です」
「俺も1で11」
「え、10だから16!?」
「数字をでかくしすぎだ。せめて7か8にしとけよ」
「4ピース食べればいいんでしょ」
「そういうゲームではありません」
「そもそもCって最後の余りもののピザを取らされるんだけど。なんか不利じゃない? 全員で一斉に取る方式にするべきよ!」
「つまりAがCの、BがAの、CがBの一枚目を一斉に取るってことか?」
「うん」
A CBA
B ACB
C BAC
3つのピザから全員が一斉に取っていく方式
AはCから、BはAから、CはBから同時に最初の一枚を取る
「せーの!」
一斉にピザを取る。
「せーの!」
続いて2枚目。
この2枚目でゲームはもう終わっている。
全員が2枚目を取れば、ABCのピザが1枚ずつ残る。
そのピザは切り分けたプレイヤーが取るので、後は計算するだけだ。
全員で一度に行動するので1ゲームが早い。
「やった! 12!」
ルールも単純なので何度かやれば初級者でも勝てる。
問題があるとすれば……
「温かいうちに食べましょう」
「そうですね」
ピザでゲームをするので、長時間プレイすると冷めてしまうということだ。
1パック数枚入りの冷凍ピザを用意して、数ゲームプレイしてからチンしたほうがいいのかもしれない。
「臭いはそんなに気にならないな」
「でしょ?」
納豆とチーズ、そこへタバスコやオリーブオイルをかけるので少しクセは強いが、コーラやラプサンスーチョンあたりを合わせれば気にならない。
普通にイケる。
「もう3枚!」
「まだ食うのか」
「合わせて1枚しか食べてないでしょ」
焼肉、シーフード、サラミとマッシュルーム、そしてチーズ。
イカ、エビ、ホワイトソース、コーンのグラタントッピングもあった。
ムダに手が込んでいる。
「では違うピザカットをしてみましょう」
「他にもピザのゲームがあるんですか?」
「12分割されたピザから、サイコロの目の分だけピースを取るという方式もあります」
「運ゲーね」
さっきよりもさらに難易度が下がった。
実際にやってみる。
ころころ
「6です」
「俺も6だな」
「ちょっと!? 6が続けて出たら3人目が取れないじゃない!」
「ABCのピザのどれか1つを指名してからサイコロを振りましょう。たとえばAには2ピースしかないのに6を出してしまったら1ピースも取れません」
「なるほど」
ころころ
12を目指してサイコロを振っていく。
「じゃあBのピザで」
「なんでCにしないの?」
「わざと少ないピザを指名して、数を調整する」
「悪くない戦略ですね」
すでに勝利圏内である12前後になっている場合でもピザを取らないといけないため、わざと数の少ないピザを指名して1ピースも取らないという作戦だ。
運ゲーではあるものの、運だけでは勝てない。
「では最後のピザゲームに行きましょう」
「まだあるの」
「はい。ムービングナイフ方式です。ピザを時計に見立て、包丁やピザカッターを針にして時計回りに動かしていきます。プレイヤーはストップをかけ、ピザカッターが移動した分だけピザを取ります」
△ △
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━ ━△
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△ピザカッター
12時から3時までカッターを動かしたところでストップをかけたので、4分の1のピザを取る
「なにそれ、面白そう」
「ではやってみましょう」
先生が時計回りにピザカッターを動かしていく。
「ストップ!」
最初のピザAは割と均等に分割された。
そして2枚目のピザB。
「速っ!?」
先生のカッターが異様なスピードで動く。
どうやら好きな速度で動かしていいらしい。
そうなるともちろん、
「ストップ!」
「ええ!?」
カッターが動いた瞬間にストップをかけた。
1枚のピザを3分割するので、これで3人目は残った大量のピザを取らされることになる。
いかに自分に都合よくカッターを動かし、ストップをかけ(あるいはストップをかけさせない)、ピザの枚数をコントロールするか。
そういうゲームだ。
さっきの12分割方式とはシステムも駆け引きもぜんぜん違う。
「時は加速する!」
「おい、やめろ」
……フリーダム過ぎてゲームバランスが崩壊している気がしないでもない。




