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本編

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一人旅RPGセット【唐揚げと白牡丹】

参考ゲーム

ドラゴンクエスト1


『よしひこ』


「なんでよしひこなんだ?」

「勇者っていえばよしひこでしょ」

 よくわからない理屈で勇者の名前を決定すると、移植版でもリメイク版でもないフェミコン版『虎食え1』をプレイし始めた。



*『おお よしひこ! ゆうしゃトロの ちをひくものよ! そなたのくるのを まっておったぞ。』



 ゲームは城から始まった。

 王様から魔王が復活したことを知らされ、魔王を退治しろと命令される。



*『わしからの おくりものじゃ! そなたのよこにある たからのはこを とるがよい!』



「なんで宝箱なんだ? 直接渡せばいいのに」

「この時代のプレイヤーはRPGの基本システムなんて知らないからよ。人に話しかけて、宝箱からアイテムを取って、扉を開けて、階段を降りないと先に進めないの。つまりRPGの基本操作を覚えないと城から出られないようになってるわけ」

「なるほど。チュートリアルだからこういう造りになってるんだな」

「そういうこと」

 さっそく宝箱を取ろうとよしひこを操作する。


 なぜかカニ歩きだ。


 現代のRPGでは十字キーの左右を押せばキャラは横を向く。

 だが右を押してもよしひこは正面を向いたままで、カニ歩きで右へ移動する。

 それは村人などのNPCも一緒だ。

 カセットは容量が少ないので、横や後ろを向いたグラフィックを収録できなかったのだろう。

 シュールだ。

「えーと、Aボタンでメニュー画面を開いて……」



 はなす  じゅもん

 つよさ  どうぐ

 かいだん しらべる

 とびら →とる



 アイテムを『とる』。

「……あれ、取れない?」

 宝箱の前で『とる』を選択しても、なぜかアイテムを取ることができなかった。

「あ、宝箱の上に乗らないといけないんだ」

 現代のRPGに慣れていると、宝箱の上に乗らないとアイテムを取れないとは思わないだろう。

 ジェネレーションギャップだ。


「う、話しにくい」


「無駄が多いな」

 システムがまだ洗練されておらず、まずメニュー画面を開き、『はなす』を選択、さらに方角を指定しないと話しかけることができない。

 方角は東西南北だ。



→き た


にし ひがし


 みなみ



 たとえば話しかけたいキャラが右にいるのなら東を選択しないと話すことができない。


「下から話しかけるようにしたほうがいいわね」


「だな」

 『はなす』はこのゲームで一番よく使うコマンドだ。

 だからメニュー画面を開けば『はなす』にカーソルが合っている。

 はなすを選択すると方角を指示されるわけだが、これも最初は『きた』にカーソルが合っている。

 ちなみにメニュー画面を開くのも、カーソルを選択するのも全部同じボタンだ。


 なので効率よく人に話しかけたいのなら、話しかけたいキャラの下(南)からボタンを連打すればいい。


 細かいことだが、これを使うのと使わないのとでは話しかける手間がぜんぜん違う。

 もちろん連打が通用するのは『はなす』だけだ。

 扉を開くには『とびら』、階段を降りるには『かいだん』をいちいち選択しないといけない。

 洞窟では『たいまつ』を使わないと暗くてろくに探索できないし、鍵のかけられた扉には『かぎ』を使わないといけない。

 かぎは一度使うとなくなる上に、町の外へ出るとまた扉に鍵がかけられてしまうのも厄介だ。

 余計な手間が多い。

 現代のRPGのシステムがいかに洗練されているのかよくわかる。

 もっとも、


「あ、自動装備なんだ」


 変なところで便利だったりする。

 たとえば武器や防具を買うと自動的に装備されるのだ。

 古い武器や防具はその場で買い取ってくれる(わざわざ『うる』を選択しなくてもいい)。

 これは一人旅だからできるシステム(あるいは『そうび』という概念を知らないプレイヤーのためのシステム)だろう。

 仲間がいると装備可能なキャラが他にもいたりするので自動装備はしにくい。

 キャラが増えると一人が持てる所持品の数も少なくなり、誰に何を持たせるのかも考える必要がある。

 パーティの人数が増えるほど装備や所持品管理が不便になっているわけだ。

 RPGが一人旅時代の便利さを取り戻すまで、かなりの年月を要したというのはある意味面白い。

 歴史を感じる。


「不意打ちとミスが多いわね」


 敵と遭遇エンカウントすると、10回に1回ぐらいは不意打ちされ、攻撃も外れる。

 しかもダメージが安定しない。

 8ダメージ与えたかと思えば、3ダメージしか与えられないことがままある。

「TRPGみたいだな」

「たしかにTRPGをそのままデジタル化した感じね」

 サイコロの目によって与えるダメージが変動しているような感覚だ。

 とうぜん敵のダメージもかなり変動する。

 サイコロ運が悪いと大ダメージを食らう。


「敵多すぎ!」


「……明らかにエンカウント率が偏ってるな」

 エンカウント率はダメージ計算以上にガバガバだった。

 ひどい時には1歩あるくごとに敵が出る。

 出ない時は町から町へ移動する時に一度も出なかったりする。

 ちなみにフィール上ではどこでもエンカウント判定があり、『町を出た瞬間に敵と遭遇する』ことも珍しくない。

 不意打ち、空振り、低ダメージ、高エンカウントが重複すると死ねる。


「……お金が足りない」


 金のやりくりも厳しい。

 店で買える品物は軒並み高い。

 序盤の貴重な回復アイテムである薬草でさえ24ゴールドだ。

 序盤では直接攻撃より攻撃呪文のほうが高ダメージなので、MPを節約するために薬草を多用しないといけない。

 回復呪文の効果が薬草より低いのも困る。

 敵が強くなると回復呪文では間に合わないので、ここでも薬草を多用しないといけない。

 宿代も薬草並みにぼったくられる。

 しかも物語が進むほど(次の町へ進むほど)宿代は高くなった。

 敵を倒して得る金額よりも宿代のほうが高いことさえある。


 敵にやられたら所持金が半分になるのはこの時代からのお約束。


 初期のRPGらしい難易度の高さだ。

 中でも難易度が高いのは戦闘。

 一人旅であり、敵も1体しか出現しないので1対1。

 一人なので攻撃と回復を同時に行うことはできない。

 最悪なのは状態異常だ。


『よしひこは ねむってしまった』


「ぎゃー!?」

 状態異常を治してくれる仲間はいない。

 だから眠らされると死ぬまで殴られる。

 タチの悪いことに敵の睡眠呪文は命中率100%だ。

 さいわいどんな敵が相手でも勇者が先に行動できるので、眠らされる前に倒すことも不可能ではない。


『よしひこは ねむってしまった』


「あああ!?」

 ……一発で倒せなければ結果は同じだが。

「それなら、こっちも眠らせるまでよ!」

 不意打ちをされない限り、常に勇者が先手なので睡眠呪文が効けば圧倒的に有利だ。

 眠らせた直後に敵が起きてしまうことがあるものの、そのターンは攻撃されることはないのでもう一度眠らせることができる。

 敵を眠らせたら『にげる』の成功率は100%になるので、眠らせて逃げるのも重要なテクニックの1つだ。

 睡眠呪文の次に使えるのは呪文封じ。


 強力な呪文を唱える魔法使い系のキャラは是が非でも呪文封じをしておきたい。


『つうこんの いちげき!』


「ええ!?」

 ……ただゲーム後半にもなると魔法使いですら物理攻撃がシャレにならない。

 最悪の場合、呪文を封じた魔法使いに殴り殺される。

 たぶん睡眠呪文より呪文封じのほうが成功率は高いはずなのだが、殴られるのが嫌なら睡眠呪文をかけたほうがいいのかもしれない。

「この時代からすでに『特定のアイテムがないと倒せない敵』もいるんだな」

「レベル上げれば普通に倒せるけどね」

 少ない容量でいかにプレイヤーを楽しませるか、驚かせるかという工夫が感じられる。

 エンディングも1つではないらしい。

 敵にさらわれた姫を救い出さずにクリアすることもできるし、ラスボスの『せかいのはんぶんをおまえにやろう。わがものとなれ、ゆうしゃよ』という誘いに乗ればバッドエンドになる。


 虎食え1のシステムは完成されているとはいえないが、このゲームがRPGの源流となって多くの名作が生まれたというのは何となくわかる。


 ゲーマーなら1度はプレイしておくべきゲームだろう。

 できれば難易度調整された移植版やリメイク版ではなく、原作のフェミコン版かフェミコン版を忠実に移植したやつをオススメする。

「そろそろ夜の仕込みするからお前も手伝え」

「はーい。……城に帰らないとセーブできないのが難点ね」

 のちのシリーズでは教会でセーブできるものの、1では最初の城に戻らないとセーブできないらしい。

「まあ、死んだら最初の城に戻るから、高い買い物をした後はわざと死ぬば『デスワープ』できるんだけど」

 移動時間の節約になるテクニックだ。

 ……あくまで帰りの手間が省けるだけで、ストーリーを進めるためにはまた歩いてそこまでいかなければならないのだが。

「めもめも」

 ちなみにセーブはパスワード制である。


くわたきよ はらしのずかな

かはたはら いしい


 王様からこのような『ふっかつのじゅもん』を聞き、ゲームを再開するたびに呪文パスワードを入力しないといけない。

 パスワードはゲームを進め、所持品が多くなるほど文字数が多くなる。

 逆にいうと『無駄なアイテムを持たなければパスワードは短くなる』ということだ。

 昔のゲーマーは色々な工夫をしてパスワードをメモる手間を省いていたらしい。

「文字数を少なくするために、パスワード制の採用されてるゲームでは細かいフラグを管理してなかったりするのよね」

「どういうことだ?」


「パスワードに『○○の宝箱から××を入手した』とか、『○○のボスを倒した』っていう情報が含まれてないから、ゲームを再開するともう一度同じことができるってこと」


「マジか」

「マジよ。このゲームも一回洞窟の外に出れば、フラグ管理されてない宝箱の中身が復活するし。ゲームバランスが崩れるから私はやらないけど」

「……容量の少ない時代ならではの現象だな」

 虎食え1の容量は驚きの64キロバイト。

 ギガはおろかメガもない。

 しかもグラフィックや音楽込みの容量である。

 クリアするのに100時間以上かかる最近のゲームは見習ってほしいものだ。


「これでよし、と」


 パスワードもメモったようなので二人で仕込みをする。

 メインは唐揚げだ。

 一口大に切った鶏肉を、醤油・酒・塩コショウ、すりおろしのにんにくとショウガを揉みこんで下味をつける。

 しばらく漬けたら水気を切って溶き卵、粉(小麦粉と片栗粉を半々)を肉にまぶし、少し低めの温度で揚げる。

 1分半ぐらいで一度取り出してから、二度揚げ、三度揚げで中までキッチリ火を通し、最後に高温でカラッと揚げれば完成だ。

 唐揚げを2つのグループに分けて、余熱で火を通している間に別のグループの唐揚げを揚げるとちょうどいい。

「何度も揚げる意味あるの?」


「じゃあ一度揚げしてみろ。こんなにカラッと揚がらんぞ」


「へー」

 一度揚げて食材から水分を出させ、二度揚げで余計な水分を飛ばしてカラッとさせる。

 確かそういう理屈だったはずだ。

 二度揚げするのとしないとのでは仕上がりが違う。

 これは初級者でも見た目でハッキリわかる。

 顕著なのは色。

 一度だけでは店で出てくるような色合いにならない。

 大学イモやトンカツなどでもそうだ。

 逆に白身魚のフライのような火の通りやすいものは二度揚げ厳禁。

 水分が飛びすぎてひどいことになる。


「レモンかけておいたわよ」


「余計なことすんな!」

 俺が塩コショウ派だったら戦争になるところだ。

 そろそろ串カツの『二度漬け禁止』のように、唐揚げの『無断でレモン』も禁止にするべきだろう。

「ウーロン茶じゃないのね」

「ああ。白牡丹だ」

 唐揚げならウーロン茶かプーアルが定番だが、白牡丹も揚げ物と相性がいいお茶だ。

 もも肉がジューシーであるほど、口内をさっぱりさせてくれる白牡丹が際立つ。

 オススメのお茶を聞かれた時には大体これを出すことにしている。

 なぜならウーロン茶やプーアルは定番すぎて、味わって飲む客が少ないからだ。

 その点、白牡丹なら香りと味を堪能してくれる。


 唐揚げだからウーロン茶を飲む、ではなく、白牡丹を飲みたいがために唐揚げを食べる。


 『お茶をする』とはそういうことだ。

「じゃあ続きしよっと」

 白牡丹を片手にポチポチと復活の呪文を入力する。


『ふっかつの じゅもんが ちがいます』


「ぎゃー!?」

 お約束。


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