ウインタースポーツセット【ドラジェとオレンジエード】
参考ゲーム
ファイナルファンタジー7
スキージャンプペア
「……速いな」
スノボーなのに時速100キロ以上で爆走する。
RPGの『ウルティマファンタジー7』にこんなミニゲームが収録されているのも謎だ。
操作方法は単純。
十字キーの上で加速、下でブレーキ、左右で曲がる。
LかRボタンを押しながらだとエッジを利かせて曲がる。
急カーブではエッジを利かせないと曲がりきれないわけだが、
くるくる
「げ、スピンした」
猛スピードでコーナーに突入すると、曲がりきれずにスピンする。
高速で壁に接触したら転倒。
大幅なタイムロスになる。
『喝』
「……なんだこれ」
「タイムによって9段階評価されるのよ」
評価は下から順に喝、下、並、上、優、絶、驚、神、変らしい。
「神はともかく変ってなんだ」
「変態ってことでしょ」
「……で、お前の評価は?」
「もちろん変よ!」
「この変態め」
「誰が変態よ!」
「自分で言ったんだろうが」
ぷんぷん怒る変態は放っておいて、スノボーで爆走する。
なんとか驚までは出せるようになったものの、そこから先が遠い。
「ノーミスで完走するのも難しいな」
「ノーミスで完走できたら変だもの」
……やはりプレイヤーだけでなくコース設計者も変らしい。
トップスピードで最初のコーナーをスピンせずに曲がるのすら至難の業だ。
最初のコーナーを抜けてもすぐに次のコーナーが来る。
いくつかコーナーを曲がると次は立体的なS字カーブ。
これを高速で曲がるのは不可能。
曲がらずに真ん中を突っ切るしかない(他のレースゲームでもそうだが、S字は曲がるよりも真ん中を走ったほうが速い)。
ただし丁寧にコーナリングしないとS字の真ん中を抜ける位置にポジショニングできない。
ここが序盤の最難関だ。
S字を突破するとトンネルならぬ洞窟地帯。
洞窟は道が狭いのでどうしてもぶつかってしまう。
トップスピードで走り抜けるのは不可能なので、一度はぶつかってもいい。
転倒しないレベルでの接触ならブレーキによる減速と一緒だ。
行けるところまで高速で走り、壁に接触することでブレーキをかけ、あとは速度を維持して洞窟を抜ける。
だが後半も前半を上回る難易度だ。
最初のS字と一緒で、高速で曲がろうとするとスピンするか、壁に激突する。
ここも真ん中を突っ切るしかない。
インを攻め、狭いコーナーのど真ん中を壁に接触せずに突破する。
そしてスピードに乗ったまま、スピンせずに連続カーブを曲がってゴール。
後半を35秒未満で走れれば変も夢ではない。
「……無理だな」
「あきらめるの早すぎ」
俺はお前みたいな変態じゃないんでな、と言おうと思ったが怒ると面倒くさそうなのでやめた。
一応、神まで行けたので充分だろう。
ミニゲームらしからぬエクストリームなスノボーだった。
「ウインタースポーツ系のお菓子ってなにかある?」
「……難しいな。フィギュアスケートがらみで『くるみ割り人形』ならお菓子の国が出てくるぞ。オレンジエードの川を通ってケーキの宮殿に行く」
「金平糖の女王様だっけ?」
「原典ではドラジェの精、英語だとシュガープラムの精だな」
医学界では薬の錠剤もドラジェと呼ばれているらしい。
甘い錠剤をお菓子のサイズまで大きくし、カラフルにしたのがドラジェだと思えばわかりやすいかもしれない。
エードは果汁を水などで薄めたジュースだ。
どちらも昔のお菓子らしい、素朴でシンプルな味わいである。
「ウインタースポーツ系のゲームは他にないのか?」
「あとはジャンプぐらいしかないわね」
「ジャンプってスキーか?」
「そう。スキージャンプ、ラージヒルペア」
「ペア?」
「2人でジャンプするの」
「……頭おかしいんじゃないのか」
個人競技であるジャンプを、ペアで行うという狂気の競技だ。
1人用のスキー板を2人で履いてジャンプする採点競技らしい。
一般的なジャンプ競技はジャンプ時と着地時の姿勢と、飛距離によるポイントを競うものだが……。
この競技はフィギュアスケートのペアスケーティングのように技を決める。
といってもペアスケーティングのようなかっこいいものではない。
一見すると組体操だ。
たとえば組体操の扇のように、空中で手を繋いでポーズを決める。
他にも倒立やサボテン(土台になる人間の膝の上に立つ技)のような技があった。
どう考えても空中でやる技ではない。
フィクションだからこそできる競技だ。
実況もぶらぶら途中下車する旅のナレーターや、ガソダムの安室麗の声優など無駄に豪華。
ゲームシステムは音ゲーと変わらない。
アイコンが画面上から流れてきて、ラインと重なる瞬間にボタンと十字キーを押す。
「ぐ、微妙に難しいな!」
音ゲーと違うのは画面の左右に同時にアイコンが流れてくること。
↑ △
↑ △
↑ △
━━━━━━━ ライン
※上から落ちてくるアイコンがラインと重なる瞬間に△ボタンと十字キーの↑を同時に押す
左右のアイコンを同時に見るのは不可能なので最初は戸惑ってしまう。
ただ流れてくるボタンと十字キーは相関関係にあるので、譜面がわからなくなることはない。
↑ △
← → □ ○
↓ ×
※コントローラーのボタン配置
↑ △
↓ ×
↑ △
↓ ×
━━━━━━━ ライン
※たとえば△ボタンのアイコンの時は十字キーの↑のアイコンが、×ボタンの時は↓のアイコンが必ず流れてくる
問題は○と□。
たとえば音ゲーのプロジェクトディアブロでボタン同時押しをする場合、○ボタンと→だった。
だがこのゲームでは○ボタンの時、←を押さないといけない。
もちろん□ボタンの時は←ではなく→だ。
プロジェクトディアブロとは押すキーが逆なのである。
なので○(←)と□(→)が連続して流れてくると、混乱して押し間違えてしまう。
プロジェクトディアブロをやりこんでいるゲーマーほどミスするわけだ。
そしてこのゲームに慣れればプロジェクトディアブロでミスるようになる。
ゲーマーには辛い仕様だろう。
それにゲームのテンポが悪い。
スキップ機能が中途半端で、1回ジャンプすると次にジャンプするのに十秒ぐらいかかる。
ゲームでは3つの大会に出場できるのだが、一度選んだペアを途中で変更できない。
どのペアも最初は1つの技しか使えず、技を覚えるには大会で入賞して金を稼ぐ必要がある(金はすべてのペアが共有している。技を覚えたいペアを使う必要はない)。
レベル2、レベル3の技は安価で買えるのに、なぜかレベル4の技だけ異様に高い。
エクストリームな競技なので新技を見るのは楽しいものの、レベル4の技を買おうとすると何度も大会に出場しないといけない。
どんなエクストリームな技も2・3回観れば飽きる。
ゲームのテンポが悪く、飽きも早いので金稼ぎは苦痛でしかない。
「せめてもう少し安ければな……」
「資金稼ぎがきついんなら2人プレイする?」
「お、2人プレイできるのか」
「普通のプレイじゃないけどね。コントローラー貸して」
「あいよ」
コントローラーを渡すと、瑞穂が左手だけで握った。
「はい、右持って」
「は?」
「1つのコントローラーで2人プレイするの。私が十字キー、あんたがボタンね」
「なんだそりゃ!?」
「ゲームの縛りプレイでたまにあるのよ、『1コン2人プレイ』」
「……これは縛りプレイじゃないだろうが」
「説明書にこうやってプレイしろって書いてあるんだから仕方ないでしょ」
本当に書いてあるから困る。
「……このゲーム会社にはアホしかいないのか」
「ほら、もっとこっち寄って」
社交ダンスで左手と右手を組み合うように2人でコントローラーを握る。
ぽちぽち
2人プレイなので同時押しする必要がなく、押し間違えることもなくなった。
上から落ちてくるアイコンを順番に押すだけの単調な作業。
そして繰り出されるシュールな技の数々。
……ある意味、若い男女が身を寄せ合ってこんなゲームを協力プレイしている状況こそ一番芸術点が高い。




