ウインタースポーツセット【五平餅と芽茶】
参考ゲーム
Wiiフィット
マリオ&ソニック AT バンクーバーオリンピック
ハイパーオリンピックインナガノ
「ヨガ! ヨガ!」
喫茶店の扉を開けると、女子高生がヨガヨガ叫びながら体重計型コントローラーの上で珍妙なポーズを取っていた。
「……なにしてる?」
「フィットネス・ヨガだけど?」
「お前はヨガを誤解している」
「え、ヨガヨガ叫びながら相手を殴ったり、腕がゴムみたいに伸びたり、火吹いたりテレポートするのがヨガでしょ?」
「そんなフィットネスがあるか!」
「えー」
残念そうにリモコン型コントローラーでヨガのトレーニングを終了する(ボードは体重移動でしか操作できないのでボタンがない)。
そもそもヨガヨガ言ってるだけで、やってることは普通のヨガだった気がするのだが……。
深くは追及するまい。
「というか、フィットネスゲームよりダンスゲームのほうが痩せるんじゃないか?」
「あ」
「しかもお前、このコントローラーわざわざ買ったのか。ダンスゲームのマット型コントローラーより対応ゲーム少ないだろ、これ」
「でもスキーとかスノボーやるならこのコントローラーがベストでしょ」
と言いながら一緒に買ってきたらしきゲームを取り出した。
『音速万里夫 AT バンクーバーオリンピック』
冬季オリンピックを題材にした作品らしい。
「なるほど、ウインタースポーツか」
たしかにこれなら重心を移動させるだけでプレイできる。
……さすがにカーリングやアイスホッケーには対応していないし、ボードを人数分そろえるのは難しいので複数人プレイにも対応していない。
あくまで一人プレイ用だ。
「最初はクロスかしら」
スキークロスを選択する。
4人で走るレースだ。
操作方法は簡単。
スタートの瞬間につま先へ体重をかければロケットスタート。
あとは左足に体重をかければ左へ、右足にかければ右へ曲がる。
細かい操作は他にもあるものの、基本はそれだけだ。
「曲っがーれ!」
ルールが単純なだけにすいすい滑る。
対戦相手をまったく寄せ付けない。
そうして初プレイにも関わらず、
「うぃなー!」
あっさり金メダルを取ってしまった。
だいぶ難易度が低い。
「えーと、アルペンスキーは『滑降』と『大回転』があるのね」
一見どっちも同じ競技である。
大回転は英語でジャイアント・スラローム。
競技場には無数の旗門(このゲームでは2本の旗)が立ててあり、ジグザグに蛇行しながら旗の間を通過し、タイムを競う。
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旗 旗
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旗 旗
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旗 旗
間を通過できなければペナルティとしてタイムが加算される。
「カッコー!」
滑降と大回転の違いは標高と旗の数だ。
滑降は標高が高くて距離が長く、旗の数が少ない。
高さがあって旗が少ないのでスピードがかなり速くなる。
どこまで加速して走り抜けられるかがカギになる。
「あわわ!?」
瑞穂が初めて慌てた。
どうやらクロスより鋭く曲がるらしい。
ちょっと体重をかけただけのつもりでもかなり曲がる。
完全に重心を足に移動してしまうと切り替えすことができず、
『+2秒』
「ぎゃー!?」
旗を通過できずにペナルティを食らう。
それでも操作に慣れてきた後半は見事に立て直し、金メダルゲット。
「ふふん。ざっとこんなもんね」
「最初は慌てただろ」
「……なんのことかしら」
素知らぬ顔をして大回転に挑む。
「曲っがーれ!」
完全に滑降で慣れたらしく、確実に旗の間をくぐり、ペナルティなく完走した。
「やった!」
『5位』
「ええ!?」
「まあ、ミスなく完走しただけだからな」
大回転は滑降より標高が低くて距離が短く、旗の数が多い。
いかにターンを華麗に決めてロスなく最短距離を滑れるかが重要になる。
目先の旗だけに集中していてはダメだ。
次の旗の位置を確認し、どう滑れば次の旗を通過しやすいのか計算して滑らないといけない。
それとこのゲームは『旗に接触しながら通過すると加速する』システムなので、ギリギリのラインを攻めないと好タイムは出ないだろう。
「曲っがーれ!」
5位になったのがショックだったらしく、執拗に大回転に挑戦する。
もはや旗の間を通過するというより、旗に体当たりする勢いだ。
ペナルティすれすれの滑りで世界記録を更新。
「……足の裏が痛い」
「そりゃ素足で硬いボードの上を体重移動しまくればそうなるわな」
「うぅ……」
しばらくプレイできないようなので『スキージャンプ・ラージヒル』と『スノーボード・ハーフパイプ』は俺がやることにした。
ジャンプはアクションが少ないので俺でもできるだろう。
まず風を読む。
追い風より向かい風のほうが飛距離が伸びるらしいので、向かい風の時にスタートする。
「姿勢悪いな」
「そういう競技だもの」
助走でキャラの体がかなり傾く。
このまま飛んでも飛距離は伸びないので、体重を移動して姿勢をまっすぐにする。
そして踏み切り台でつま先に体重をかけた。
「あ」
タイミングが合わずにジャンプ失敗。
遅すぎたらしい。
盛大に転んで低得点に終わった。
「今度こそ!」
ラージヒルは2本飛び、その合計点数で競う。
1本目の失敗で金メダルは無理にしても、せめて2本目はうまく決めたい。
「ここだ!」
今度こそジャンプ成功。
助走の時と同じで、ジャンプ中も体勢が崩れるので体重移動で姿勢を整える。
そしてつま先に力を入れて着地。
「よし!」
ラージヒルは飛距離だけでなく、ジャンプ中や着地時の姿勢もポイントになる。
ここを失敗すると大きく減点されるのだ。
……まあ、成功したところで1本目をミスっているので最下位は確定なのだが。
ジャンプをうまく成功させると気持ちいい。
アクションが少なく競技としては単調だが、個人的には好きな種目だ。
「ボードで対戦できないのがもったいないな」
「似たようなゲームならあるわよ」
『ハイパワーオリンピックインナガノ』
「ボードに対応してないだろ」
「マット型コントローラーを使えばいいのよ。コンフィグでボタンいじれるし」
「なるほど」
ダンスゲームはダブルプレイがあるので、うちにもマットが2つある。
これなら対戦できるだろう。
「長野の名物ってなんだっけ?」
「おやきとか五平餅じゃないか?」
「じゃあ五平餅!」
「あいよ」
固めに炊いた米をすり鉢で潰して割り箸を押し込み、小判形に成型する。
……というのが瑞穂の読んでる甘々な漫画に載ってたレシピだが。
五平餅用に炊くのは面倒なので余りもので代用。
くるみと白ごまをすり鉢ですり、味噌、醤油、みりん、砂糖を加えて混ぜてタレを作る。
あとは直火で両面を焼き、タレを塗ってもう一度焼けば完成だ。
「醤油、みりん、砂糖の分量はみたらし団子と同じだから、お茶は煎茶か?」
芽茶でもいいかもしれない。
あるいはレモングラスと緑茶のブレンド。
飲む頻度を考えるとここは芽茶だろう。
「んー、焦げ目が香ばしくて甘辛!」
外はパリパリ、中はもちもち、焼き立てあつあつの三拍子。
味噌ダレはいかにも日本的で、渋みのある芽茶を合わせると心が落ち着く。
もし長野へ行く機会があったら五平餅を土産に買って帰ろう。
「さて……」
一服したところでマットを本体につなぐ。
「操作方法は?」
「○×ボタン連打」
「は?」
「連打ゲームなのよ」
「……馬鹿じゃないのか」
足が痛いと嘆いていたのをもう忘れたらしい。
しかも連打系なのでボード型よりきついゲームになりそうだ。
×↑○
← →
△↓□
※マット型コントローラーのボタン配置
「うおおお!」
スピードスケートのショートトラックで○×ボタンを連打する。
2つのボタンを交互に連打するのは、ボタンが1つだと『連射パッド(ボタンを押しっぱなしにすると機械的に高速で連射してくれる特殊なコントローラー)』を使ったり、爪や定規でボタンをこすってコントローラーを破壊してしまうプレイヤーが多いかららしい。
おかげでマットを高速で足踏みするハメになった。
キャラは自動で曲がってくれるので十字キーを踏んでコースを調整する機会は少ない。
「よし、リードした!」
いかにプレイヤースキルに差があろうと、体力勝負ならこっちの勝ちだ。
そう思っていたのだが……
「お先に」
「なんでだ、加速しない!?」
「スタミナ切れよ」
「なに!?」
スタミナゲージの存在に気付かなかった。
連打で加速し続けるとスタミナが切れてしまうらしい。
連打しなければスタミナは徐々に回復する。
つまりスタートダッシュで連打して相手の前に立ち、連打を辞めてスタミナを回復、相手がこちらを抜きにきたら連打、あるいは……
「ぶろっく!」
「やっぱりか!」
十字キーを踏んで移動し、進路妨害。
レースゲームではおなじみの戦法だ。
体力に物を言わせて連打したいところではあるが、俺にスタミナが残っていてもキャラのスタミナには限界があるので先行を許すと挽回は難しい。
というか不可能だろう。
どうやってもブロックされてしまう。
あえなく銀メダルに終わった。
「なら一緒に走らないレースで勝つまでだ!」
「そううまく行くかしら」
「ぐっ」
連打ゲームではあれど、残念ながらアルペンは連打式ではない。
十字キーを踏んで曲がる(×ボタンを踏みながらだとエッジを利かせて曲がる)ので、純粋に足さばきの勝負になる。
リュージュ(スケルトンとは逆に仰向けでソリに乗り、進行方向に足を向けて滑る競技)は連打で加速できるものの、壁にぶつかると減速する。
つまり力任せに連打して加速しても、十字キーを適切に踏んで最適なラインを走れなければ意味がない。
「あたたたた!」
適度な連打と確実なコーナリング。
それが必勝法だ。
問題があるとすれば、
『銅メダル』
「……なんでお前も負けてるんだよ」
「このゲーム、パッドでも難易度高いのよ。設定されてる記録を超えないといけないシステムなんだけど、予選で1位になってもゲームオーバーになるぐらいだし」
「そんなゲームをマットでやらせんな!」




