キャラゲーセット【塩クッキーといちご牛乳】
参考ゲーム
ベルセルク
とらドラ
機動戦艦ナデシコ
スレイヤーズ
「続きが読みたい」
ダンッ
「テーブルを叩くな」
「『狩人×狩人』も『バーサーカー』も『涼宮カスガ』もみんな休載休載休載! 私が生きてるうちに完結させる気があるの? もっと働きなさいよ!」
「お前もな」
「仕方ないからゲーム版をプレイするしかないじゃない」
「……」
俺の言葉を右から左に聞き流してゲームをセットする。
バーサーカーのゲームだ。
竜殺しというバカでかい剣を振り回し、敵をバッサバッサと切り倒す無双系のゲームである。
「今は自分の体より大きな武器を振り回す作品は珍しくないけど、それを定着させたのがこれの原作漫画なのよ」
「へえ」
元祖だけあって派手なアクションが満載だ。
義手には大砲が仕込まれており、竜殺しを振り回しながら大砲を発射できる。
まさに全身凶器である。
ただし、
カーンカーンカーン
「弾かれすぎ!」
道が狭いので高確率で竜殺しが壁に弾かれる。
人間サイズの鉄塊ならそこら辺の壁などぶち壊せそうな気がするものの、ことごとく弾かれる。
弾かれるのが嫌なら範囲の広い横斬りではなく縦斬りをメインにして戦うか、
「薙ぎ払え!」
ゲージを溜めて狂戦士モードを発動するしかない。
バーサーカーモードになるとゲージがなくなるまで動きが速くなる上に、攻撃が弾かれなくなり、なおかつ無敵状態になる(攻撃を食らうとゲージが減る)。
「あたたたた!」
弾かれやダメージを気にせず動けるため、連打しまくってこれまでの鬱憤を晴らす。
微妙に古いゲームなので無双系ゲームとしての粗は多いが、全体的にクオリティは高い。
欠点は壁に弾かれることと、ストーリーが短いこと、そして……
「ぎゃー!? また死んだ!?」
一番難しいのがラスボス戦ではなく『追ってくる巨大植物の根から逃げる』イベントだということだろう。
接触すると即死であり、かなりの距離を逃げないといけないので何度もコンティニューするハメになる。
根もラスボスの一部とはいえ、なかなかきついイベントだ。
「……シナリオ暗いな」
「原作者監修だもの。一番脂の乗ってた時期だから安定の面白さね」
アニメだと原作にないオリジナル話はつまらないイメージなのだが、中には当たりもあるらしい。
「原作にないオリジナルシナリオもののキャラゲーだと『涼宮カスガの並列』は原作者未監修だけど、シナリオライターがアニメ化もしてるラノベ作家で、ちゃんと原作再現もできてるから良作ね。『私の弟がこんなにかっこいいわけがない』も鉄板よ!」
原作では弟エンディングということで賛否両論が沸き起こったライトノベルだ。
……弟ものなのに弟エンディングで賛否が分かれるのもアレだが。
ゲームでは主要ヒロインのルートは完備されているのでファンも安心らしい。
2度目のアニメ化の際、ファンから原作小説よりゲーム版をアニメ化してほしかったといわれるレベルである。
ちなみに続編も発売されており、ボリュームはあまりないものの、続編を買うとセットで前作もついてくるという。
太っ腹だ。
「『機動戦士ナデシコ』『すろうに剣心』『ソードグレイヴ』『タイドラ』『キラーズ』、オリジナルシナリオもの意外にあるな。……ん? やたら記憶喪失の作品が多くないか?」
「ゲームオリジナル展開だから記憶喪失のほうが都合がいいんでしょ」
「なるほど」
機動戦士ナデシコとすろうに剣心はゲームのオリジナル主人公が記憶喪失、タイドラとキラーズは原作の主人公が記憶喪失のパターンだ。
ソードグレイヴは原作の設定で主人公が記憶喪失(特殊な蘇生技術で生き返った副作用)という変則パターン。
どれもゲームとしてよくできているらしい。
機動戦士ナデシコは『登場したと思ったら1話で退場したアニメ版のキャラ』がヒロインの一人になっており、アニメ版では明かされなかった謎も解ける。
SF的にも面白いネタが使われているので、ファンなら一度はやっておくべきゲームだろう。
……ただ選択肢によって主人公の性格が変わるのはともかく、性別まで変わるのはやりすぎだ。
ヒロインによってはハッピーエンドが存在しないキャラもいる。
シナリオの関係で仕方ないにしても切ない。
「個人的なオススメはタイドラとキラーズね」
どちらも原作者監修だ。
タイドラはラブコメの人気ランキングでも必ず名前が挙がる名作。
私弟のゲームと同じくアニメ版の素材が使われており、立ち絵がぬるぬる動く。
アニメ化された作品ならではのクオリティだ。
ラブコメといっても原作のストーリーはかなり重い。
オリジナルシナリオのゲーム版でもそれは変わらなかった。
ラブコメのキャラゲーというと原作とは違うシチュエーションや、原作では結ばれなかったヒロインとの恋愛を楽しむものというイメージがある。
だがこのゲームは原作と同じで、恋愛を楽しむような甘い話ではない。
そもそも設定からして重い。
原作の重要イベントであるクリスマス直後から物語が始まるのだ。
しょっぱならから人間関係がこじれている。
しかも主人公には記憶がないので余計にややこしい。
おまけにスタンダードなギャルゲーとはシステムが違う。
「……何度やりなおしても『マミちゃんの犬』エンドになるんだが」
「アイテム取ってないからよ」
綺麗好きな主人公は、掃除をすることでその場にあるアイテムを入手し、記憶をだんだん取り戻していく。
重要なのはこのアイテムだ。
好感度は存在するものの、ルートが好感度で管理されておらず、特定のアイテムを入手していないと固定ルートへ入れない。
おそろしいことにアイテムに関してはノーヒントだ。
普通のギャルゲーだと思ってプレイすると痛い目を見る。
攻略サイトなしでクリアするのは非常に難しい。
「……まさかいちご牛乳で詰むとは」
このゲームでもっとも重要なアイテム、それがいちご牛乳である。
ノーヒントでそんなことがわかるわけがない。
次点で塩クッキー。
もちろん塩で味付けされたクッキーではなく、砂糖と塩を間違えたクッキーだ。
「塩クッキーといちご牛乳食べたい」
「自分で用意しろ」
「はーい」
幸いなことにどちらもうちのメニューにある。
もしかしたら塩クッキーは普通のクッキーよりも人気かもしれない(常連客しか注文しないが)。
「盛るぜぇ~超盛るぜぇ~」
サブヒロインの迷ゼリフ(フライドポテトを盛る時のセリフ)を口走りながら塩クッキーを山積みにした。
適度な塩が甘みを引き立てている。
塩大福と同じ原理だ。
いちご牛乳は数あるフルーツ牛乳類の一つであり、牛乳にかき氷のいちごシロップを混ぜたもの。
夏場はかき氷の需要が高まるので、それに比例してフルーツ牛乳の出番も多くなる。
味はとにかく甘いの一言。
いかにも子供の好きそうな味だ。
「……ようやくクリアか」
「貴重なニシエリの勝利エンドね」
「ニシエリ?」
「マミちゃんの中の人。だいたいラブコメのヒロインレースに勝つタイプのキャラって決まってるから、そのタイプに当てはまらない声優はどの作品でも負けヒロイン担当なのよ。ニシエリ系の声で青髪だとだいたい負けヒロインね」
「……声と髪の色でそこまでわかるのかよ」
「サスペンスドラマと同じよ。新聞のテレビ欄見れば誰が犯人かわかるでしょ」
「わかるか!」
ある程度法則に基づいて並んでいるのはわかっても、テレビ欄をそんな目線で見ることがまずない。
というか最近は新聞そのものを読まない。
年配の常連客がモーニングコーヒーを片手に新聞を読むので、仕方なく契約しているだけだ。
ままならない。
「キラーズはRPGか」
原作は何度もアニメ化されており、ライトノベル界におけるファンタジーの古典だ。
第2部の終わりまで刊行されてから筆が止まっており、長らく続きは出てないらしい。
ゲームのシナリオは幻の第3部をベースにしたものであるらしく、これもファンなら一度はやっておくべき作品だろう。
主人公のレナ・インバースは人間の魔法使いとしては最強クラスの実力を誇るものの、記憶喪失なので魔法を忘れており、レベルが低い。
ただ天才キャラには違いないので、イベントで敵が魔法を使うのを見て新たな魔法を覚える(思い出す)という展開もある。
記憶喪失という設定をうまく活かした演出だ。
シナリオはアンチRPGやアンチファンタジー的な展開が目立ち、RPGやファンタジーのお約束には縛られない。
『悪人に人権はない!』
盗賊をいじめて金を調達したり(何度もやっていると盗賊から泣きが入る)、事件が発生したので国中を散々走り回った挙句に『王様の勘違いでした(事件でもなんでもなかった)』というオチ、街中でレベルの高い魔法を使って廃墟にする(RPGでは街中の戦闘で極大魔法を使っても何も影響はないが、現実に破壊力のある魔法を使うとこうなるよねというネタ)など、当時としては斬新なシナリオだ。
ゲームバランスもユニーク。
記憶を失う前の主人公は最強レベルなだけあって、原作に登場するキャラは総じてレベルが高い。
……ただどのキャラも我が強いので、主人公の命令を聞いてくれない。
本気を出せばボスも一蹴できるものの、命令を聞いてくれないのでザコにすら強力な魔法を使い、ボスと戦う頃にはMPが0になっている。
いかにレベルの高い仲間のMPを管理するかが重要になる。
逆に低レベルの仲間はガンガン魔法を使ったほうがいい。
このゲームはレベルが上がるとHPとMPが全回復する上に、敵を1ターンで倒すと経験値が2倍になる。
高レベルの仲間はレベルが上がりにくいのでMPを回復することはできない。
なので高レベルの仲間が魔法を乱発する前に、低レベルの仲間に魔法を使わせ、できれば1ターンで倒し、レベルを上げて回復する。
それがこのゲームの基本戦略だ。
高レベルの仲間がいるためボスは強い。
油断すると低レベルの仲間はすぐに死ぬ。
防御は必須だ。
このゲームは防御がかなり有能で、防御をするとダメージがまったく通らない(一般のRPGでは防御=物理ダメージ半減だが、このゲームでは半減どころではない)。
低レベルの仲間はボス戦では防御が中心になる。
低レベルで役に立たなくても、生きてさえいればボスの攻撃を分散させられるからだ(高レベルの仲間へ攻撃される確率が減り、低レベルでも防御が有能なので死ぬ確率は低い)。
たまに回復しようと防御をとき、ボスに殴り殺されるのはご愛嬌。
なお味方が命令を聞いてくれないので、ボス戦でも効果がない攻撃を何度も繰り返すのが困る。
昔のRPGなのでAIの頭が悪い。
一応ピンチの時は命令を聞いてくれるのだが信頼してはいけない。
常に最悪のケースを想定していたほうがいいだろう。
「ぐ、ダメージがでかすぎて回復が追い付かん!」
回復魔法では2500ぐらいしか回復できないのに、ボスはそれ以上のダメージを与えてくる。
毎ターン回復魔法を使っても、いずれ削り殺されてしまう。
「どうすればいいんだ、これ」
「見殺しにすれば」
「は?」
「蘇生魔法はMPを大量に消費するけど、その代りHPは全回復するでしょ。だからちまちま回復するより、殺して蘇生したほうが効率はいいんだから」
「……アクションゲームでいうデスヒールみたいな戦略だな」
RPGでわざと味方を殺すという戦略は珍しい。
ともかくボスの猛攻に対する回復手段はわかったので、死ぬまで回復するのはやめて火力を集中。
レベル上げもしてないのにレベル99の仲間がゴロゴロいる異常なパーティ編成の甲斐もあってラスボスを撃破した。
古典的なコマンド式RPGでありながら、独特のギャグテイストでシステムも凝っているいいゲームだった。
「そういや続きが読みたいって言ってたが、実際どのくらい続編が出てないんだ?」
「そうね。3年ぶりに単行本が発売されたり、5年ぶりに短編が掲載されたり、18年ぶりに本編が連載されたりする感じ?」
「……時間の感覚がおかしくなってくるな」
「ちなみにバーサーカーでは22年ぶりにヒロインがしゃべったわよ」
ここまでくると意味が分からない。




