鉄道ゲームセット【冷凍ミカンと牛乳】
参考ゲーム
電車でGO!
鉄1 電車でバトル
「なんだ、このくぼみ?」
名作電車ゲーム『鉄道でGO!』の専用コントローラーには、妙なくぼみがあった。
変な形のくぼみなのでどうしても気になってしまう。
「懐中時計を置く場所だって」
「へえ」
実際の運転台と同じような仕組みになっているらしい。
さすがに本格的だ。
「これの出番ね」
某国家錬金術師の懐中時計を置き、
「しゅっぱつしんこー」
プレイ開始。
コントローラーはツーハンドルタイプ。
操作は単純。
左側のマスコンで加速。
右側のブレーキで減速。
そして警笛。
これだけだ。
ブレーキを解除してマスコンで加速し、ある程度加速したらマスコンを切る。
いわゆる惰性走行である。
たとえば時速100キロまで加速してマスコンを切れば、しばらく惰性により100キロ以下で走行できる。
もちろんマスコンを切っているので徐々に減速してしまう。
レースゲームではゴールを駆け抜ければいい。
だがこれは定刻通りに駅へ停車するゲーム。
電車は車ほど急に止まれないので、むしろ惰性走行で減速しながら走らないと速度調整が難しい。
ききー
『オーバラン 10メートル』
「ぎゃー!?」
特に停車時のブレーキはとてつもなく難しい。
初プレイでは確実に停止位置をオーバーするか、手前で停まってしまう。
停止位置をオーバーするとペナルティ。
プレイヤーには『持ち時間』が設定されており、それが減らされてしまう。
1メートルにつき1秒だ。
ダイヤ通りに駅に停まれなくても同じ。
1秒遅れるごとに1秒のペナルティだ。
持ち時間を超えるとゲームオーバーになる。
とにかく難易度が高い。
満足に各駅停車すらできない。
知らせ灯無視(安全を知らせるランプがつく前に発車すること)や警笛標識無視、速度制限標識無視などでちまちま減点される。
なんとかブレーキを成功させてダイヤ通りに各駅停車できたとしても、
『制限速度40』
「ええ!?」
突然の制限速度表示に対応できず信号無視。
標識の速度制限無視と違い、信号の速度制限を無視してしまうと自動列車停止装置(ATS)が作動し、強制的に停止させられてしまう。
ATSが作動するとクリアはほぼ不可能だ。
速度制限は前振りもなく突然やってくるので、初見プレイではブレーキが間に合わず死ぬ。
実際の運転士と同じように、標識や信号の位置を覚えていないと対応は不可能。
攻略本を片手にプレイしてもいい。
運行表を見ながらプレイすればATSの悲劇は避けられるだろう。
そうなると最大の敵は駅での停車。
ブレーキの成否ですべてが決まる。
『オーバラン 3メートル』
「いやー!?」
車両によってブレーキの利きも違うので、厄介なことこの上ない。
「なんで子供が喜びそうなゲームがこんなに難しいのよ!」
「これでも食って落ち着け」
「わ!?」
用意していたみかんを放り投げる。
「冷たっ!?」」
「冷凍だからな」
鉄道の旅といえば冷凍みかん。
冷凍ではないが、芥川龍之介の『蜜柑』も印象深い。
奉公に出されたと思わしき女の子が、列車の窓から弟らしき男の子たちへ蜜柑を投げるシーンが印象的だ。
小学校の教科書に載っていた小説の中でもかなり好きな作品である。
「んー、シャリシャリで美味しい」
飲み物は牛乳だ。
給食のような素朴な味で落ち着く。
「……こうなったらレースをするしかないわね」
「なにする気だ」
「ふふ、これよ!」
バッグから別のゲームを取り出した。
『電1 鉄道でバトル』
「電車のレースゲームよ! これならブレーキに迷わされることもないはず!」
「こんなゲームがあるのか」
説明書をパラパラめくってみる。
「……ん? このゲームも駅にちゃんと停まらないといけないみたいだぞ」
「え」
「もちろん停止位置にちゃんと停まれないとゴールにはならない」
「ぎゃー!?」
やはり鉄道ゲームは甘くない。
電車なのでレールの上しか走ることができず、
「ああ、追い越せない!?」
同じレールの上に車両がいる場合は追い越すことができない。
しかも後ろから追突してしまうと、
「加速した!?」
「いや、速度が入れ替わってるんだ」
「どういうこと?」
「追突した車両と、された車両の速度が入れ替わるんだよ。だから下手に追突してしまうと減速してしまう上に、追突した先行車が加速してしまう」
「……つまりわざと減速して背後の車両を殺すのもありなのね」
「そういうことだ」
幸い線路はあみだ状になっているので、車線変更は頻繁にできる。
先行車両とぶつからないように車線を変更し、
「アタック!」
さらにもう一度車線変更。
横から相手の車両へ体当たりし、脱線させた。
もうめちゃくちゃだ。
脱線したらレバガチャをしないとレールに戻れない(進行方向にレールがあれば自動的にレールへ戻る)。
なるべく端にはいかないほうがいい。
なぜなら端のレールで外側に脱線してしまうと、進行方向にレールがないので自動的に復帰することができず、レバガチャをするしかないからだ。
ちなみにカーブへ猛スピードで突っ込んでも、曲がりきれずに脱線する。
脱線を防ぐにはブレーキをかけ、電車の荷重を傾けるしかない。
遠心力で外側に引っ張られるので、車両の荷重を内側に移動させてバランスを取るのだ。
とことん頭のおかしいシステムである。
「もうすぐゴールだぞ!」
「ブレーキ!」
すかさずブレーキで減速する。
しかし、
『リタイア』
「は?」
ホームへ突入することなくゲームオーバーになった。
「なにこれ、どういうこと?」
「ホームは電車の数だけしかないみたいだな。つまり6両でレースをする場合、停車できるホームは6つだけ。すでに電車のいるホームへ侵入してしまうと強制的にゲームオーバーらしい」
「ええ!?」
これまで必死に爆走し、次のレースへ進める3位以内を確保してきたのに、ラスト数秒のブレーキやホーム選びで即死する。
これが電車ゲームのむずかしさだ。
「……ブレーキのない電車ゲームがやりたい」
「映画ならあるぞ」
「それ60キロ以下になったら爆発するやつじゃない!」




