聖地巡礼セット【北海道名物とアイスクリーム】
参考ゲーム
桃太郎電鉄
雪割りの花
北へ
オホーツクに消ゆ
龍が如く5
地球防衛軍5
ウマ娘
風雨来記
「なんで香織さん、すぐ死んでしまうん」
「情緒不安定だからだろ」
最近の日本の夏は死ぬほど暑いので、避暑のため新幹線に揺られながら一路北海道を目指す。
旅のお供はもちろんゲーム。
いわゆる『聖地巡礼』のために、北海道を舞台にした様々なゲームをチェックしているのである。
ちなみに今プレイしているのは『雪割り草』なるアドベンチャー。
恋人を失ったショックで記憶喪失になったヒロインが『主人公を死んだ恋人と思い込んでしまう』話だ。
選択肢を間違えると記憶が戻りバッドエンド。
「グッドエンディングが5個しかないのに、バッドエンドが32個もあるのよ!」
「……ノーマルエンドは?」
「あるわけないじゃない」
力を入れる部分を明らかに間違えている。
主人公ではなくヒロインが死にまくる死にゲーというのも珍しい。
プレイスタイルによってヒロインの死亡率も違う。
たとえば『ヒロインをだまし続けることに罪悪感を感じる』タイプのプレイヤーほどバッドエンドになる。
だが『ヒロインをだまし通す』タイプだと、わりとラストシーンまで進めてしまう。
直情的な人間ほどグッドエンドに近い。
こういうプレイヤーのタイプによって違いのでるゲームは好きだ。
なおグッドエンディングへ到達するには初見のプレイヤーには知りえない時間的条件が存在する。
ヒロインが投身自殺をする大学の屋上へ行くタイミングが、早くても遅くてもダメなのだ。
ベストなタイミングで屋上に着くには、ハリストス教会や海浜公園などを周って時間を調節する必要がある。
『はこだて~ はこだて~』
「お、着いたぞ」
「えーと、ガイドブックどこだっけ。……あった!」
『金太郎電鉄必勝攻略法』
「攻略本じゃねえか!」
「物件見れば名物もわかるでしょ」
先行き不安だ。
「食品日本一といえば長崎のびわゼリー屋と京都の和菓子屋だけど、函館の塩ラーメン屋も強いのよ。あと釧路のほっかぶり寿司屋と、帯広のバターサンド屋、稚内のたこしゃぶ屋、夕張のめろんゼリー屋ね」
「じゃあ最初は塩ラーメン食うか」
「いえー!」
北海道のラーメンといえば味噌、しょう油、塩だ。
数種の塩と昆布・鶏ガラ・豚骨をベースにした澄んだスープに、チャーシュー、メンマ、ネギ。
シンプルであっさりしており、細麺ものど越しがよく、いくらでも食える感じがする。
現地に着いて最初に食べるものとしては上々だ。
「……で、次はどうする?」
「ハリストス教会と新選組ゲームでお馴染みの五稜郭に行きましょ。夜は函館山ね」
「あいよ」
夜景を観るので今日は函館で一泊。
荷物をホテルに置き、金鉄の攻略本をお供に聖地を巡る。
「函館山の夜景こそ聖地中の聖地! 雪割り草、『北村京太郎サスペンス』、『センチメートルグラフティ』でも出てくるし、『北海道へ』なんて全ルートでヒロインが告白してくる場所なんだから!」
「ギャルゲーばっかだな」
「定番のデートスポットなんだから当然でしょ。あんたもプレイしときなさいよ」
「……やれやれ」
聖地巡礼も大変だ。
とりあえず『北海道へ』をやってみる。
声優はかなり豪華だ。
俺でも知っている声優が多い。
「これは『カマーンさま』と恋愛できる唯一のゲームなのよ!」
「……それは売りなのか?」
「当たり前でしょ!」
『Zガソダム』のカマーン・ハーンはそれだけ人気のあるキャラらしい。
今度チェックしておこう。
「主人公は高校生なのに、社会人ヒロインが2人もいるのか。しかも2人とも教師じゃない」
「かなり珍しいヒロイン編成よね」
ストーリーは比較的まともだ。
学園生活で悩みを抱えている(具体的な内容はわからない)主人公が、気分を一新するために親戚のいる北海道で夏休みをすごす。
北海道とタイアップしているらしく、実在の店や品物が多数登場する。
システムが古臭くて使い勝手が悪いものの、女の子と恋もできる観光案内としてならそれほど悪くない。
気になるのは話の繋がりに違和感があること。
これはCBSの弊害だろう。
コミュニケーションをブレイクするという名前の通り、ヒロインがしゃべっている最中にボタンを押すことで、セリフに割り込むことができる。
CBSを使える場面は3つ。
ヒロインがしゃべり始めたタイミング、しゃべっている最中、しゃべり終わった後。
プレイヤーが狙ってCBSを使えるのはしゃべり終わった後ぐらいだ。
しゃべり始めやしゃべっている最中のCBSは、ヒロインの話をさえぎるだけ。
しゃべり終わった後なら相槌を打てるし、ヒロインの質問に答えることもできる。
CBSを使わないと選択肢すら出ない場合があるので、適度に割り込まないといけない。
おそらくこのゲームの会話に違和感を感じるのは、CBSを前提にしてシナリオを書いているからだろう。
CBSそのものは悪くない。
『なるほど』
『すごいな』
『悪いのは君じゃない』
このようにCBSを使い、ヒロインの話に対しプレイヤーが自発的に『相槌を打つ』『質問に答える』『無視する』ことができる。
あまり類例のないシステムだけに、CBSがうまくいった時は楽しい。
『ハッピーアイスクリーム!』
特にカマーンさまがしゃべり始めたタイミングでCBSを発動させた時は最高だ。
『同じタイミングで同じ言葉をしゃべってしまった時』、先にハッピーアイスクリームと叫んだほうが勝ち(アイスをおごってもらえる)という謎の風習が1970~80年代に存在していたらしい。
ハッピーアイスクリームのようにキャラによってCBSを使い分けられていれば、このゲームに対する評価も変わっていただろう。
たとえば会話のキャッチボールが好きなヒロインなら、質問に答えたり、逆にこちらから質問を投げかける。
とにかく話すのが好きなヒロインなら、無理に質問したりせず、話を邪魔しないように相槌を打っていればいい。
何も考えずに感じたことを口にしてしまうヒロインなら、しゃべり始めたタイミングや、しゃべっている最中にCBSで割り込んで失言を未然に防ぐ。
主人公に冷たくされる(CBSを使わずに無視する)ことが好きなヒロインがいても面白いだろう。
……シナリオライターやプログラマーは作業が増えて大変だろうが。
「じゃあ、そろそろ行きましょ」
「そうだな」
結局、日が暮れるまでに函館山で告白されるシーンまで到達できなかった。
やむなくロープウェーに乗り、夜の函館を見下ろす。
現代では100万ドルの夜景は探せばいくつも見つかるだろう。
だが函館のように夜景がくびれているのは珍しい。
北海道の地理的条件によって生まれた独特の夜景だ。
「しゃち~くのひ~か~り~」
「おいやめろ」
感動が台無しだ。
そして聖地巡礼2日目。
「あ、夕日の赤!」
ガラスで有名な小樽では赤い色をしたスズランのガラス細工とベネチアングラスを買い、水族館ではナポレオンフィッシュを『見ない』。
北海道へのヒロインが『スキューバダイビングをして、自分の力で直接観たいからここではナポレオンフィッシュを見ない』というシーンがあるのだ。
ゲーマーらしい無駄なこだわりはこれだけではない。
「TDF! TDF!」
「そういえば『地球防衛軍5』だとこの辺がモデルになったマップがあったな」
札幌の薄野にはTDF5で吹き飛ばした建物もたくさんあった。
『オホーツクに消える』のクライマックスで登場する札幌駅をバズーカのようなカメラでパシャパシャ撮影し、ラーメン横丁で味噌の半ラーメンを食い、がっかり名所と名高い時計台を道路の反対側から撮ったり、旧北海道庁の建物を裏側から観る。
……ゲームをプレイしていないと意味不明な行動だろう。
『虎が如く5』だと大通公園で雪まつりが開催されており、雪像が飾られ、雪合戦のミニゲームもあった。
現実の雪まつりも漫画やアニメの雪像で有名である。
ゲームでは薄野近郊で狩りをすることもでき、鹿を狩ればサブストーリーでジンギスカンを食べられる。
「大通公園のホワイトイルミネーションはさすがに時季外れね。まあ、あったとしても困るんだけど」
「なんでだ?」
「年越しの瞬間にキスをしたカップルは永遠に幸せになるって『北海道へ』ではいってたけど、実際は地元でも有名な破局スポットなんだって」
「……なんでそんな場所をクライマックスに選んだんだよ」
「そんな場所だからじゃない?」
「破局スポットのイメージを払拭したかったってことか」
「たぶんね」
だが北海道へはそこまで売れなかったので、イメージを覆すには至らなかったというわけだ。
現実は厳しい。
「札幌競馬場ってG1ないのよね」
「札幌記念はレベル高いぞ」
「出たわね、合宿キラー」
夏は中央競馬のオフシーズンで、一着賞金7000万というG2では破格の賞金が出ることから、札幌記念は『スーパーG2』と呼ばれるメンバーがそろう。
名馬擬人化ゲーム『ウマ女ビューティーダービー』だと夏は合宿でステータスが大きく伸びる時期なのに、札幌記念などの夏競馬が育成目標に入っているキャラはステを伸ばす機会を1回失うことになる。
これが地味に痛い。
夏競馬の舞台になるだけあって、北海道は馬の牧場もたくさんあった。
ゲームに出てくる引退馬も見学できる。
「あ、メルトキャッツ」
「モウショウドトウを見ろ」
……ただ馬と戯れる牧場猫メルトの人気も高く、名馬を差し置いて写真集まで発売されている。
引退馬はあくまで預かっているだけで、権利問題で名馬の写真集は出せないから代わりに猫の商品を出しているのだろう。
他にもカニノギムレット(牧柵を蹴り壊すことで有名な馬)の壊した牧柵で作ったアクセサリなども販売されている。
野球でも試合中に折れたバットで箸などのグッズを作っているので、それと同じ発想だろう。
商魂たくましい。
「ここからが聖地巡礼の本番よ」
地図を広げて観光ルートを模索する。
「……で、どこを観光するんだ?」
「『風来日記』だと摩周湖、神の子池、涙岬、トドワラ、能取湖、オンネトー、屈斜路湖でクッシー焼き、釧路の和商市場で勝手丼、釧路川でカヌー、然別湖でリバーウォッチング、利尻山でオーロラ、旭川でマジンゴー」
「道東に偏ってるな」
「シナリオライターの実体験をもとにしてるからじゃない? 足りない部分は他のゲームで補えばいいし」
金鉄の攻略本を取り出す。
「帯広でバターサンド、北見でハッカ、旭川でラーメン、稚内でたこしゃぶとカニ、苫小牧でハスカップとホッキ貝、網走で木彫りの熊と涙のニポポ人形、宗谷岬の斜め屋敷、必殺大雪山おろし、地獄の九所封じその1大雪山落とし」
明らかに金鉄じゃないネタが混じっている。
というか大雪山はどんな魔境なんだ。
「1日2日じゃ無理だな。……もっと計画しておくべきだった」
「ドンマイ」
誰のせいだと思っている。
「写真も撮ってね。これと同じ構図で」
「同じ構図?」
携帯機で風来日記を起動し、クリアデータをロードする。
このゲームの主人公は旅行雑誌のライターで、当時としては珍しくネットで旅行記『風来日記』を書いており、それを読むことで作中で何が起こったかだいたいわかる仕組みになっていた。
この旅行記だけでも楽しめる内容だ。
……もちろん欠点はある。
日記を書くにはいちいち写真を撮らないといけないし(最低でも2枚撮らないと旅行記は書けない)、移動は一人称視点のバイク(進行方向を決めるだけなのでレースゲームのように楽しめない)なので時間がかかる。
初回プレイならそこまで気にならないのだが、すべてのヒロインを攻略するために周回するとなるとテンポが悪い。
「シナリオも重いのよね。旅がテーマだから最後に必ずヒロインと別れるし、ハッピーエンドがない。エンディングの後に再会して結ばれる可能性のあるヒロインは1人だけ。『誰とも会わないエンディングが一番美しい』っていう人もいるぐらいだし」
「好き嫌いの分かれるゲームだな」
「そうね。聖地巡礼が好きな人には最高のゲームよ」
「同じポーズで写真を撮れるってのは意外に大きいな」
「でしょ?」
たとえばアニメでヒロインが普通に和琴半島を歩いているシーンがあったとして、よほど印象的なシーンでなければそこを聖地だとも思わない。
だが作中で主人公が写真を撮ると話は変わる。
写真を撮った瞬間、そのシーンは1つの絵になるからだ。
ゲームの一枚絵、アルバムモードに収録されるCGと同じである。
何気ない日常が特別なものに変わる。
プレイヤーがそれを真似できるのは大きい。
ヒロインのポーズを真似て写真を撮りつつ、道東、道北を旅していく。
さすがに利尻でオーロラを観ることはできなかったが、
「ごーる!」
無事に稚内にある日本最北の地・宗谷岬に到達。
迷作ミステリ『斜め屋敷の殺人』の舞台であり(もちろん斜め屋敷など存在しない)、これで巡礼ノルマは達成した。
……はずなのだが、
「何か忘れてない?」
「ああ、何か大事なことを忘れてる気がする」
チェックリストをもう一度確認する。
「摩周湖、神の子池、涙岬、トドワラ、能取湖、オンネトー、屈斜路湖でクッシー焼き、釧路の和商市場で勝手丼、釧路川でカヌー、然別湖でリバーウォッチング、利尻山でオーロラ、旭川でラーメンとマジンゴー、帯広でバターサンド、北見でハッカ、稚内でたこしゃぶと……」
「あ」
二人して同時に気付き、声をそろえた。
『カニ!』
そしてその瞬間、大事なことをもう一つ思い出した。
「ハッピーアイスクリーム!」




