騎馬戦セット【カイザーゼンメルと牛乳】
参考ゲーム
エルデンリング
ワンダと巨像
ゼルダの伝説 ムジュラの仮面
「ん、なんだこいつ。めちゃくちゃ強いぞ」
チュートリアルが終わって最初に遭遇する『ツリーナイト(世界樹を守る騎士)』が異様に強かった。
馬に乗っていて機動力がある上に一撃が重い。
「倒せない敵はスルーしろってことでしょ」
「でも倒せないと悔しいだろ」
「……ゲーマーのサガね」
オープンワールドで最初に遭遇する敵がこれなのだから、『格上の敵に出合ったら逃げろ』と製作者が警告しているのはわかる。
だが序盤の敵には代わりなく、初期状態でも体力ゲージの3分の1か半分ぐらいまでは削れるのだ。
頑張れば倒せそうな気がする絶妙なレベル。
おそらく世界中で、倒す必要のないこいつを倒すためにゲーマーが死にまくったことだろう。
「……せめて馬を手に入れてからにしたら? こいつ騎馬戦で倒すことを想定してるボスよ」
「あー、たしかに騎馬戦前提の敵っぽいな」
馬上戦闘を堪能したいなら徒歩で倒すわけにはいかない。
ツリーナイトはスルーして先へ進む。
馬はわりとすぐに見つかった。
動物の馬ではなく精霊的な存在である。
主人公が呼べばどこからともなく現れ、一定のダメージを食らうと消える(やられても呼べばすぐに来る)。
スタミナゲージがないので無限に走ることができ、二段ジャンプもできる完璧な相棒だ。
「げ、なんで二段ジャンプしたのに転落死するんだ!?」
「二段ジャンプしても落下ダメージは減らないのよ」
「おかしいだろ!」
たとえ着地する寸前に二段ジャンプをしたとしても、落下ダメージはそのままなのだ。
おそらくほぼすべてのプレイヤーはこの仕様で落下ダメージを軽減できると勘違いし、崖から飛び降り自殺したことだろう。
二段ジャンプで亀裂や穴を超えようとして、ジャンプ力が足りずに落下するのもお約束。
「オープンワールドはやっぱり馬だな」
未知の領域を馬で駆け抜けるのが気持ちいい。
一応、ジャンルはソウルライク(死にゲー)なのだが、フィールドが広いので馬に乗っていればまず死なない。
「ん、ひき逃げはできないのか」
「できたら簡単になりすぎるからでしょうね」
馬で突進しても敵を吹き飛ばす(ダメージを与える)ことはできず、その代わりすれ違いざまに斬れば反撃を食らいにくい(ただし走りながら斬るので連続攻撃はできない)。
敵の攻撃を避わす時はダッシュかジャンプ。
あるいは馬から飛び降りてもいい。
これでツリーナイトと戦えるだろう。
「左へ左へ……」
敵も馬に乗っているのなら、右手に武器、左手に手綱を握っている。
相手の左側に回り込みながら斬るのがセオリーだ。
お互いにぐるぐる回りあってドッグファイトっぽい展開になる。
一定のダメージを与えたら落馬するので、
「倍返しだ!」
さっきの恨みを晴らさんとコンボを叩き込む。
また乗馬されたら厄介なので、二度と馬に乗せないぐらいの勢いだ。
徒歩のほうが小回りが利くので、落馬させたらこちらも下馬して戦ったほうがいいのかもしれない。
『ENEMY FELLED』
「よし!」
こうして無事にツリーナイトを撃破する。
やはり騎馬戦は最高だ。
「お、ドラゴンがいるぞ!」
馬で戦えそうな敵を見つけたら自分から突っ込んでいく。
ドラゴンは空を飛んでブレスを吐いてくるので、うまくダッシュかジャンプで回避しなければならない。
空中で静止して吐くか、飛びながらブレスを吐くかでも対応は違ってくる。
距離やブレスのタイミングにもよるが、ブレスが来ると分かった瞬間に自らドラゴンへ突っ込む。
ドラゴンの真下から後ろにかけてが安全地帯だからだ。
ドラゴンとて無限に飛んでいられるわけではない。
特にブレスはスタミナを消費するので、バテて地面に降りたら大チャンス。
噛みつきや前足の攻撃に気をつけながら、後ろ足へ接近して斬りつける。
この位置なら反撃を食らいにくい。
パターンもそれほど多くないので、
『ENEMY FELLED』
慣れたら倒せる。
「もっと強いやつと戦いたい」
「……砂漠にもっと強いのいるわよ」
「よし来た」
さっそく砂漠へ向かう。
砂漠の砂を泳ぐ一つ目の魚だ。
大口を開けて襲い掛かってくる。
「うお、どうやって倒せばいいんだこいつ!?」
飲み込まれないように逃げるのがやっとだ。
反撃しようにも砂の中に潜ってしまうので、攻撃を叩き込む隙がない。
食われてしまうので接近して斬るのは難しい。
「……流鏑馬か」
「まあ、それしかないわよね」
目が一つしかないことからすると、そこが弱点だろう。
だが流鏑馬で目を射るのが難しい。
食われないように馬を操作しつつ、進行方向とは逆を向いて目に矢を当てないといけない。
砂煙を上げながら猛スピードで追ってくる魚は、このゲームでも屈指のプレッシャーだ。
攻撃力も高く2発食らうと死ぬ。
やるしかない。
ダッシュによって魚との距離がもっとも開いた瞬間、
「ここだ!」
このタイミングなら2発は射てる。
当てるのは1発だけでいい(はず)。
外してもいい覚悟で矢を放った。
『ギャオオオン!』
幸いにも一発目で命中。
これで動きが止ま…………らない!?
「うああ!?」
あえなく吹っ飛ばされて落馬した。
即死はしなかったもののかなり痛い。
だが問題は魚だ。
止まらずに直進し続けている。
そして砂漠の岩山に激突した。
「ここか!」
どうやら衝撃で気絶しているらしい。
慌てて口笛を吹いて馬を呼び、魚に駆け寄って弱点らしき背中を刺す。
パターンさえわかればこちらのもの。
『ENEMY FELLED』
4回ほど繰り返して見事に魚を撃破した。
他のゲームにはない戦い方で楽しい。
「もっと流鏑馬したかったな」
「あとは防衛戦ぐらいね」
凶作で食料が不足するとモンスターの群れが山から下りてきて家畜を襲撃するという。
モンスターから家畜を守ってくれというクエストだ。
『これで訓練してくれ』
どうやらミニゲームらしく、牧場に点在する風船を流鏑馬で割っていくルールらしい。
いかに素早く全部の風船を割れるかというタイムアタックである。
2分以内に全部割れなかったら失敗。
目標タイムは1分だ。
「あー、これだ。こういうのをやりたかった」
正面に進みながら右を向き、左を向き、次々と風船を割っていく。
狙いを定めて一発一発慎重に射つよりも、ガンガン射ったほうがいい。
慣れれば1分切るのも難しくはないだろう。
だがこれはあくまで練習。
本番はある種の拠点防衛だ。
時間は深夜2時から朝6時まで。
時間までに一匹でも小屋に到達したらアウト。
腕が鳴る。
「イベント前に腹ごしらえしとくか」
このゲームはリアルタイムで時間が流れており、深夜2時までまだ時間がある。
一服するにはちょうどいい。
さすがに調理するほどの余裕はないので、ありものを用意したほうがよさそうだ。
「なにがいい?」
「カイザーゼンメルと牛乳」
「……またマニアックなものを」
「このイベントをクリアすると『ビン入りミルク』もらえるし、カイザーゼンメルにロースハムとゴーダチーズを挟んだサンドイッチが天馬の好物なのよ!」
「嫌なペガサスだな」
カイザーゼンメルはロールパンの一種だ。
パンに大の字のような切れ込みがあり、これが冠のように見えるから皇帝らしい。
「すごいパリパリ」
ハードロールなので硬めで歯ごたえがある。
焼きたてが美味しいことで有名なパンで、4時間以内に食べることを推奨されており、2時間以内に食べるのが一番美味しいといわれているそうだ。
【深夜2時】
おやつでまったりしていると、モンスターの襲撃が始まった。
360度あらゆる方向からモンスターが襲い掛かってくる。
遠距離から攻撃するので具体的にどういう姿なのかわからない。
ともかく馬に乗ってモンスターを次々に矢で貫いていく。
敵の位置がわからないので厄介だ。
ミニゲームでは風船の位置を暗記することでタイムを縮めることができたが、今回は一発勝負なのでそれもできない。
動きは遅いので風船を割るのとあまり感覚は変わらないものの、イベントが起こるのは深夜なので暗く、BGMも不気味でこわい。
敵の数も多くジリジリと近づいてくるのでプレッシャーが違う。
「ぐ、東側に手間取りすぎた!」
ロスを取り戻そうと必死に走りながら矢を射る。
しかし奮戦むなしくモンスターが家畜小屋に到達してしまった。
……牛飼いの少年のはらわたも食いつくされ、後味が非常に悪い。
「くそ、どうやってあの数のモンスターを倒せばいいんだ? 敵の正確な数も位置もわからんし、流鏑馬だから命中率も低い。難しすぎるだろ」
「動かずにその場で射るのがベストね」
「は?」
「小屋を守るタワーディフェンスなんだから、敵は自動的にこっちへ向かってくるでしょ。動き回る必要ないのよ」
「……たしかに止まった状態で射れば命中率も高いな。ん? ちょっと待て、それってつまり……」
「馬に乗らないほうが簡単ってこと」
「なんのために流鏑馬の練習させられたんだ!」




