レースゲームセット【どら焼きとキャンディ】
参考ゲーム
ポールポジション
ネジコン
「そういえばこのコントローラーはなんなんだ?」
4人対戦をする時、コントローラーが足りないので専用コントローラーで代用するのだが……。
見た目では何のゲームのものなのか全然わからない。
「それはヒネコン。レースゲーム用のコントローラーよ」
「これのどこがレース用なんだ?」
標準コントローラー、いわゆるパッド型と基本的な形は同じだ。
ヒネコンは一度パッドを真っ二つにして、くっつけたような形をしている。
名前の通りひねることのできるコントローラーだ。
「左に曲がりたい時は右手を、右に曲がりたい時は左手をひねるの」
「いまいちよくわからんな」
その辺にあった『ポールポゼッション2』なるレースゲームをセットして実際にヒネってみる。
「……ん? 意外とハンドル操作に近いのか?」
ハンドルで左に曲がりたい場合は反時計回りに回す。
ハンドルを反時計回りに回すと自然と右手は上に、左手は下にくる。
ヒネコンはパッド型なのでそのままではヒネりにくい。
右手をヒネりたいのなら、ハンドルと同じように右手を上にして左手は下にしたほうがいい(コントローラーを横に倒す)。
手首だけひねることも不可能ではない。
だが手首だけでヒネるよりも、腕ごと動かしたほうが没入感がある。
最大で90度ヒネれるのもいい。
十字キーで操作する場合、曲がる場合は右か左を押すことになる。
これではちょこんと押すか、押しっぱなしにするぐらいしか変化がなく、微調整ができない。
ヒネコンは違う。
ヒネる角度で簡単に微調整が可能であり、限界までヒネれば標準コントローラーでは実現できないレベルの急角度で曲がることができる。
まさしくレースゲーム用のコントローラーだ。
見た目からは想像できないクオリティである。
ただし、
どかーん
「……難しすぎだろ、このゲーム」
「私たちが生まれる前のゲームだもの。当時は後方視点が画期的だったのよ」
「へえ」
現代では車の後方、もしくはドライバー視点は珍しくもないが、ポールポゼッション以前のレースゲームはトップビュー(上から見下ろすタイプのゲーム)だけだったらしい。
時代を感じる。
難易度も昔のゲームらしいシビアさで、少しでも接触するとクラッシュした。
おまけに時間制限が厳しく、クラッシュしたら確実にタイムオーバーになる。
どかーん
「……うまく操作できん」
「アクセル踏みっぱなしのノンブレーキでプレイすれば?」
「曲がれないだろ」
「縁石に乗り上げればいいじゃない」
「は?」
「実際のレースでも縁石を利用してるらしいわよ」
「マジか」
縁石はコースの両端にある紅白の部分だ。
コースをわかりやすくするためだけのラインではない。
安全のために高さがあるのだ。
とりあえず縁石に乗り上げてみる。
もちろん減速した。
ブレーキを踏むより簡単だ。
こうなるとコースアウトも重要になる。
クラッシュ=タイムオーバーなので、コースアウトして適度に減速しつつ、ライバル車を避わさないと予選突破は難しい。
このゲームは2車線。
両車線に車がいると避けるのも抜くのも難しい。
直線でならまだ抜けなくもないが、コーナーは厳しいだろう。
コーナーで先行車を抜きたいのなら、わざとコースアウトしてインを突くしかない。
あまりインを攻めすぎると看板に激突するので注意。
ただでさえコーナーは危険なのだ。
現代のレースゲームでは車の向きが変わったらカメラの向きも変わる。
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■←車
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カ←カメラ
※直線で走っている場合。|はカメラ目線
/
/
◆←右に曲がる車
/
カ
※車が右に曲がっている場合。車の後ろにカメラは移動する
だがこのゲームでは車の後方視点からカメラが動かない。
このカメラではコーナーにいる先行車が見えないので、コーナーで突然先行車が現れることになり、反応が遅れるとクラッシュする。
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|◇←プレイヤーには見えない
◆
|
カ
※車の向きが変わってもカメラの位置はそのまま。このカメラでは正面しか見えないので、コーナーにいる先行車が見えない
どかーん
「ぐ……!」
クラッシュしたらタイムオーバーは確実。
逆にいえばクラッシュさえしなければ予選は突破できた。
決勝は予選よりもさらに難しいだろう。
「決勝の前になんか食っとくか。なにがいい?」
「どら焼き!」
「あいよ」
調理する必要がないので楽だ。
日本茶では芸がないので紅茶にしよう。
飲むならアッサムだろうか。
キャンディもいい。
ほのかな甘みのある紅茶だ。
それも砂糖もミルクもなしのストレート。
「ん、ホッとする」
「だな」
どら焼きも紅茶も奇をてらっていないシンプルな味わいで、心のなごむ一時だった。
「さて……」
決勝レースは4周。
1周ごとに持ち時間が設定されており、0になるとタイムオーバー。
時間内に走りきれれば持ち時間がプラスされる。
完走するまでに抜いた車の数と、残り時間によってボーナスポイントが加算される。
1周を速く走れば持ち時間に余裕ができ、クラッシュしてもタイムオーバーにはならない。
完走したいのなら4周を1~2クラッシュで走り抜ける必要がある。
どかーん
「くそ!」
一位になることは難しくない。
慣れれば最初のコーナーでトップに立てるだろう。
問題は8台でレースしているはずなのに、明らかに8台より多いことだ。
抜いても抜いても先行車が現れる。
「なんでこんなにいるんだよ!? おかしいだろ!」
「抜いてもあんまり意味ないわよ。そもそもこのゲーム、レースに勝つことが目的じゃないし」
「はあ!?」
「当時のゲーセンではスコアアタックが流行ってたでしょ。このゲームもあくまで目的はハイスコアを取ることであって、レースで一位になることじゃないのよ。つまりクラッシュせずに完走すれば、一位じゃなくてもクリアになるわけ」
「それを先に言えよ!」
まさかサバイバルゲームだとは思わなかった。




