ソードワールド2.5セット【イモ羊羹と煎茶】
3DダンジョンRPG回のシナリオをソードワールド用に再構成した話です。
「枝葉にはラクシアのあらゆる歴史が刻みこまれ、手にしたものはあらゆる知識に触れる資格を得るとされている『世界樹ユグドラシル』。そんな世界樹を守るため、なぜかエルフたちが世界樹の内外に『アールヴヘイム』という国を作りました」
「なぜか?」
「そういえばエルフって森のイメージだけど、この世界じゃ水の種族なのよね」
「ウッドエルフって逆に珍しいのか」
世界樹に住むエルフという図は簡単に想像できるのに、ソードワールド世界では異端だという。
ギャップを感じる。
「しかしある日突然、エルフ同士の大規模な衝突が起こり、アールヴヘイムは壊滅。エルフの魔法によって森は瘴気に包まれ、人の立ち入ることのできない土地になってしまいました。それから数百年後の現在。瘴気が晴れて冒険者たちがアールヴヘイムに足を踏み入れると、モンスターたちがユグドラシルに巣食っていました。わずかに生き残っていたウッドエルフがユグドラシルを見上げながら懇願します。『冒険者たちよ、ユグドラシルを救ってほしい!』」
「OK」
「……だから値段交渉ぐらいしろよ」
「だって面倒なんだもん」
余計なことはさっさとすませて、早くダンジョンアタックしたいらしい。
事前準備をないがしろにしていると後で痛い目を見るのが落ちなのだが、こいつはいつ学習するのだろう。
「では探索を開始しましょう。基本はソロでも遊べるランダムダンジョンですね。2dを振ってください」
ころころ
「お宝を発見しました。もういちど2dを」
ころころ
罠はない。
安心して宝箱を開ける。
「ユグドラシルの樹液です」
「なにそれ」
「簡単に言えばアンチドーテポーションですね」
「しょぼ」
「貴重な回復アイテムだろうが」
ちなみに達成値15以下の毒属性の効果をすべて消滅させるアイテムである。
「なお、このダンジョンに宝箱はありません。すべてユグドラシルの欠片です」
「……もしかして全部回復アイテム?」
「回復アイテム、パラメータを上昇させるドーピングアイテム、そして敵を状態異常にするアイテムですね。他にも葉っぱや根、花、香木などがあり、それを調合して薬を作っている設定です」
「種類が多いな」
これだけ回復アイテムがそろっていれば心強い。
だが最近流行り(?)の『殺意高い系』GMのことだ。
よほど敵が強いか、あるいは敵が状態異常攻撃を多用してくる可能性が高い。
用心しておいたほうがいい。
「では次の階へ行きましょう」
ころころ
「敵が出現しました」
「げ」
2dの結果、ゾンビ×2とゴースト×2になった。
初戦なのに多勢に無勢。
「2人だと厳しいわね」
「ソードワールド2.0のバージョンアップ版である2.5が発売されたので、今回は『フェロー』を使います」
「ふぇろー?」
「NPCの一種ですね。セッションで人数が足りない場合にパーティへ誘うキャラです。通常NPCはGMがシナリオのために作るものですが、フェローはプレイヤーが作るものです。それも自分で作ったフェローを使うのではなく、他人の作ったフェローで遊びます」
「他人の?」
「フェローはネット上で公開してもいいんですよ? たとえばこれは公式のフェローです」
ルチナス・ルーンスター MP27
1・2 エネルギーボルト
3・4 ブラントウェポン
5 エネルギーボルト
6 魔物知識判定
「1dで1か2を出したらエネルギーボルト?」
「はい」
行動は全部で4つ設定できるらしい。
達成値は固定値だ。
2dは振らない。
行動決定表の1dの出目が高いほど達成値も高くなる。
1・2のエネルギーボルトの達成値は12、5のエネルギーボルトの達成値は14。
つまり同じ行動でも5のほうが達成値が高い。
このフェローは安定して攻撃できるように、3つの目にエネルギーボルトを設置しているわけだ。
本格的に役に立つフェローを考えるとなると、かなり悩むだろう。
「行動によってセリフが決まってるのもいいな」
1・2のエネルギーボルトなら『これでもいかがですか?』、3・4のブラント・ウェポンなら『おいたはいけませんね』としゃべりながら魔法を使ってくれる。
これがなければただサイコロを振って行動を決めるだけの存在だ。
たとえ一言でもしゃべってくれれば、誰かが作ったフェローという実感がわき、こちらもロールプレイしやすくなる。
「プレイヤーがセッションで育てたキャラをフェローにしても構いません。他のプレイヤーがセッションで使ってくれれば、ちゃんと経験点と報酬ももらえます」
「自動レベルアップ!?」
「便利だな。でも死んだらどうするんですか?」
「フェローにはHPがないので敵から攻撃されることはありません」
「あ、そういえばMPしか書いてないな」
「自分の知らないところで自作のキャラが死んだら困るので、こういうシステムになっているわけですね」
「1回も自分で使ってないキャラを、フェローの経験点だけでレベル15にすることもできるの?」
「もちろんできます」
「作らなきゃ」
最強キャラを作るためなら手段を選ばないらしい。
「ユグドラシルでは1階ごとに1dを振り、フェローを選びます。仲間に出来るのはユグドラシル内部を探索している冒険者とアールヴヘイムのエルフだけ。この中から2人選んでください」
「はーい」
ころころ
エルフとナイトメアが2人仲間に加わった。
これで4対4だ。
「では先制判定と魔物知識判定を」
ころころ
「先制ゲッツ」
ゴーストへの魔物知識判定は失敗した。
「あ、フェローは知識判定持ってるわよ。しかも達成値14。……1dで6出さないといけないけど」
「ダメもとで振ってみるか」
ころころ
6
「おおう!?」
奇跡的に成功した。
『知っていますよ。それは……』
「知っているのか、ルテナス!」
「あれはゴーストですね。人を誘惑する厄介なアンデッドです」
やはりセリフがあるとロールプレイしやすい。
ルールブック1(2.5になってさらに分厚くなっていた)でゴーストのステータスを確認する。
「……たしかに厄介だな」
誘惑を食らうとゴーストに操られてしまう。
それも丸一日。
ただゴーストの魔力が低いのか、誘惑状態になったPCの動きは緩慢で、何らかの攻撃や魔法の行使は不可能らしい。
棒立ちになるだけだ。
味方に攻撃してこないのは助かる。
それに精神効果属性(弱)だ。
衝撃を受けると(味方から頬をはたかれたりすると)正気に戻る。
……かと思いきや、
「あ、このセッションでは精神効果属性(弱)が存在しないので気を付けてください」
「はあ!?」
「サニティかユグドラシルの香木を使いましょう」
「……やっぱりこうなったか」
完全に予想通りの展開だ。
こうなると回復アイテムが多いのは逆に鬱陶しい。
数が多いと管理するのが面倒だし、なによりアイテムの名前がすべて『ユグドラシルの○○』なのだ。
アンチドーテポーションなら一目で効果がわかる。
だがユグドラシルの葉、根、樹液、花、香木と似たような名前が並んでいると何が何やらわからない。
なのでアイテム欄にはユグドラシルの樹液とは書かず、アンチドーテポーションと書いておいたほうがいいだろう。
「戦闘開始だ」
ころころ
「近接攻撃か。……ん? フェローの移動力が書いてないんですけど」
「フェローは移動しません」
「は?」
「フェローは戦場に偏在しています。位置が固定されていないんです。味方のPCがいる場所ならどこにでも現れることができます。1ラウンド目は前線エリアで乱戦していたのに、2ラウンド目には自軍後方エリアで補助魔法をかけたりできます」
「変なの」
「フェローは攻撃対象にならないし、サイコロの出目で行動が変わるから座標を固定できないのか」
「たぶん、そういうシステム的な問題だと思います」
ゲームがバグらないようにこういう設定になっているのだ。
『さあ、傷を癒しますよ』
『さあ、傷を癒しますよ』
『さあ、傷を癒しますよ』
壊れかけのレディオのように、毎ラウンド同じセリフを叫びながらフェローがキュア・ウーンズを発動。
キュア・ウーンズはアンデッドへダメージを与えられるので、好守に役立つ(MPの無駄だと感じたら行動をキャンセルすることもできる)。
……こちらとしては大変助かるのだが、いつも同じセリフで同じ行動をされると微妙に怖い。
PCのいる場所ならどこにでも現れるその性質からして、フェローもゴーストのようだ。
「達成値が決まってるのもいいな」
固定の達成値なので命中率が高い。
しかも攻撃する敵を選ぶ前に達成値が決まっている。
これがありがたい。
普通は『攻撃する敵を選んでから』2dを振って達成値を求める。
だがフェローは達成値が決まっているので『相手の回避値を見て攻撃する相手を選べる』のだ。
たとえば敵がスケルトン(回避9)とゴースト(回避10)で、フェローの近接攻撃の達成値(命中)が10ならゴーストに攻撃は当たらない。
なので確実に命中するスケルトンを攻撃対象に選ぶことができる。
「フェローつよい」
「ちゃんと行動してくれればの話だけどな」
近接攻撃が連続して出てくれたからよかったものの、3・4が連続して出ていたら
『これは、本で見たことがあります。確か……』
『これは、本で見たことがあります。確か……』
『これは、本で見たことがあります。確か……』
と、戦闘中にもかかわらず魔物知識判定をし続ける頭のおかしい人間になっていただろう。
長所と短所を併せ持った面白い存在だ。
ころころ
「落ちました」
「よし」
フェローの活躍もあって1階突破。
それからもユグドラシルの根や葉を集め、惜しげもなく消費しながら敵を倒し、上へ登っていく。
「そろそろMPも切れるし、一度戻ってレベル上げたほうがいいな」
「そうね」
「ではユグドラシルから飛び降りてください」
「は?」
「今回のセッションでは冒険者セットにパラシュートのようなものがあるので大丈夫ですよ? 使用判定はありますが」
「……パラシュートが開かなかった場合は?」
「まだ受け身判定があるので大丈夫です」
ぜんぜん大丈夫じゃない。
ころころ
「あいきゃんふらい!」
なんとか墜落死は免れたようだ。
無事にユグドラシルから飛び降りてレベルアップし、宿屋で休んでHPとMPを回復する。
「俺たちも一服するか」
「イモ羊羹と緑茶ね!」
「あいよ」
「表面ちょっとあぶってね」
「は?」
「それが美味しいのよ」
「干し芋はあぶりますが、イモ羊羹をあぶるというのは珍しいですね」
干し芋なら外はカリカリ、中はしっとりで、甘みも増す。
イモ羊羹は干し芋ほどカリカリにはならなかったものの、ちゃんと甘みも増していい感じになった。
焦げた芋の香りは食欲をくすぐり、温かい芋を口にするとほっこりする。
何気に温かいイモ羊羹を食べたのは初めてかもしれない。
お茶は煎茶だ。
イモ羊羹は日本茶ならなんでも合う。
個人的に少し渋めのお茶と合わせるのが好きだ。
「さて……」
一服したところで、フェローとともに上を目指す。
状態異常攻撃が気になるものの、回復アイテムを惜しげもなく使い、フェローに頼りながら最上部へ到達。
「ディアボロカデットですね」
『そろそろ終わりにしましょう』
『そろそろ終わりにしましょう』
『そろそろ終わりにしましょう』
……達成値が足りなくてボスに精神抵抗されまくる。
エネルギーボルトは抵抗されるとダメージが半減。
もう一人のフェローも近接攻撃が回避される。
フェローは頼りにならない。
ありたっけのドーピングアイテムを使い、毒でじりじりとHPを削って、なんとかPC2人で頑張る。
「ディアボロが落ちました」
「よし!」
「ボスを倒したので、ユグドラシルに巣食う魔物は勢力を失います」
「じゃあ戻るか」
「……飛び降りるために必要な穴を探すと、冒険者たちは上の階に通ずる道を見つけました」
「え、まだ上があるの」
「嫌な予感がするな」
「上に行きますか?」
「行きたくないけど行く」
「では上へ登りました。しかしそこには何もありません」
「え」
「PCが戸惑っていると、遅れて最上階へやってきたフェローの装備している杖が輝きだしました。『な、なんだこれは!?』。輝いているのは杖の先端にはめ込まれている水晶のようです」
「注意しながら覗き込みます」
「そこに映し出されたのはどこかの国の映像ですね」
「そういえばアールヴヘイムってエルフの同士討ちで一回滅んでるのよね」
「アールヴヘイムの過去の映像ですか?」
「いえ、服装を見る限り現代です。その後も次々と世界各地の映像が映し出されますが、どれも奇妙な映像でした。共通しているのは植物ですね。花畑を荒らしたり、無駄に木を伐採したり、森に火をつけようとした人間などが、突然自殺します」
「は?」
「ある者は鬱々と、ある者は笑いながら、ある者は自分の罪を告白しながら、ある者は神の栄光をたたえながら、まるで何者かに操られているように死にます。映像のアングルから想像できることは、これらの映像は『人間の目線ではない』ということです」
「え、どういうこと?」
「そうか、植物の目線だ! 世界中の植物が見てるものがここに集まってるんだ! ユグドラシルの伝説の由来はこれか!」
『枝葉にはラクシアのあらゆる歴史が刻みこまれ、手にしたものはあらゆる知識に触れる資格を得る』
「さんざん枝やら葉を使ったのに知識は得られなかったからおかしいとは思ってたんだが……」
「でもどうやって世界中の植物と繋がってるの?」
「たぶん根っこだろ。ユグドラシルは天を貫くぐらい大きいんだから、根っこも相当なはず。地面の下でひそかに世界中の植物と繋がってるんだよ」
「なるほど」
「……ただわからないのは、どうやって自然破壊をしている人間を操っているのかだ。たぶんアールヴヘイムを滅ぼしたエルフの同士討ちも、ユグドラシルがやらせたんだろうが。その方法がわからん」
「死に方になにか特徴ない?」
「何人か毒死しています」
「毒?」
「あ、ユグドラシルの薬!?」
「げ、調合か!?」
時に気分を落ち着け、時に高揚させ、時に幻覚を見せ、時に自白させる。
毒にも薬にもなり、気体液体固体どのような形でも効力を発揮する万能の素材。
それが植物だ。
使い方次第で人間を思い通りに操ることができる。
それはエルフも同じだ。
アールヴヘイムのエルフはユグドラシルを守っていたのではない。
ユグドラシルがエルフを操って自分を守らせていたのである。
エルフは自分たちがユグドラシルに操られていると気づき、燃やそうとした。
危険を察知したユグドラシルはエルフを操り、同士討ちによってアールヴヘイムは滅びてしまったのである。
だがアールヴヘイム滅亡の余波は大きく、瘴気に包まれている間にユグドラシルは魔物に巣食われてしまった。
おそらく魔物も本能的に気づいていたのだろう。
ユグドラシルが生物を操るモンスターの一種だということに。
ころころ
「昔からこの森に生息しているという伝説があるので目標値は低めです。正体は『ユグドラシルの若木』。レベル20の植物系モンスターですね」
「魔物が中に入り込んじゃったから、レベル20でも自力では始末しきれなかったわけね」
「そしてユグドラシルは毒で冒険者をおびき寄せた、と。自分の中の魔物を退治させるために」
「まるで冒険者の考えを肯定するかのように、ぷしゅーと音がします」
「え、なに?」
「ユグドラシルの内部に霧が漂いだしました。毒です」
「ええ!?」
「精神抵抗力判定を」
ころころ
「その場で精神攻撃用の毒を調合したせいか、目標値は低めです。奇跡的にユグドラシルの精神攻撃には抵抗しました」
「……次はもっときついのがくるわね」
「念のためにいつでもユグドラシルの薬を飲めるようにしておきます」
「こういうのもありますよ?」
「え?」
ころころ
『おとなしいだけだと思っていました!?』
「ユグドラシルに操られたフェローが襲い掛かってきました」
「ええ!?」
「くそ、真相に気付いたから口封じにきたな。倒すしかないのか」
「フェローは倒せません」
「はあ!?」
「早く木の穴を探して飛び降りないと!」
「いや、待て。下にもアールヴヘイムの町がある。飛び降りてもエルフに襲われるぞ」
「八方ふさがりじゃない!」
「……ユグドラシルの薬を飲ませて正気に戻すか?」
「数が足りないでしょ」
「うーん」
打開策が見つからない。
「ちなみにフェローの持っている杖の水晶は、いまだに世界中の映像を映しています」
「……どういうこと?」
「……ユグドラシルは世界中の植物と繋がってる。こういう映像が流れるからには魔法の源であるマナが流れてるわけで、ユグドラシルそのものを一本の魔法の杖と考えると、ユグドラシルに接触している対象すべてに魔法を発動させられるんじゃないか?」
「えーと、じゃあ魔法拡大? 数は……無限大よ! ユグドラシルの魔力を利用して、植物と接触してる人すべてにサニティ!」
「サニティは増幅されて発動しました。アールヴヘイムは木々に覆われているので、ユグドラシルに操られていたほぼすべての人間は正気に戻ります」
「やった!」
「よし、じゃあフェローたちと力を合わせてユグドラシルを……倒せるわけないか」
ユグドラシルの若木はレベル20。
コア部位のHPは170で、防護点は19。
おそらく剣のかけらが入っているからHPは270だ。
「……強すぎる。正攻法では無理だな。もっと火力が必要だ」
「アールヴヘイムの人たちにも協力してもらったら? あの人たちフェローでしょ。PCがここにいるんだから一瞬でこっちに来られない?」
「戦闘状態ではないのでフェローは偏在できません。一瞬でこっちに呼びたいのならフェローを戦闘に参加させてください」
「……フェローを呼んでくるしかないのね」
「どうやってアールヴヘイムに伝えるんだ? 外に出たらユグドラシルの枝に殴られて死ぬぞ」
「詰んでない?」
「蛮族のリーダーは倒したから、ユグドラシルの内側は精神抵抗に成功し続ける限り安全だ」
「失敗したら死ぬでしょ!」
「……うーん、そもそもユグドラシルの内側ってどういう処理なんだ? 構造物破壊ルールは適用されるのか?」
「適用されます。木の壁は防護点8です」
「おお!? 樹皮の防護点は19でも内側はもろいのか!」
「『陽だまりの樹』ね!」
一見立派な大樹だが、知らない間にシロアリや木喰い虫の巣になっており、中身がスカスカでいつ倒れてもおかしくない樹のことだ。
「……でも防護点8のHP270って、やっぱり無理じゃない?」
「やっぱり火力が必要だな。アールヴヘイムの住民をユグドラシルの内部に誘導できたら人海戦術でどうにかなるんだが……。外と連絡を取る手段が思い浮かばん」
「これはどう? 『始祖神ライフォス』の特殊神聖魔法マインド・センディング」
「使ったことない魔法だな。どういう効果だ?」
「対象の心に術者の言葉や意思を伝える。ようするにテレパシーの一種ね」
「それだ! ユグドラシルの魔力を利用して、植物に接触しているすべての人間にメッセージを送るんだ!」
「ただし効果時間は1ラウンド、つまり10秒です。さすがにユグドラシルの若木も、それ以上は自分の力を利用させてはくれません」
先生がストップウォッチを取り出した。
「制限時間は10秒。では世界中の人々に大切なことを伝えてください」
カチッ
「ちょ、まっ!? えーと、えーと、えーと……。ユグドラシルはめっちゃ悪いモンスター! 外は堅いから中から破壊して!」
「時間です」
「あああ!?」
「……伝わったのか、これ?」
「アールヴヘイムの人々は過去の歴史を知っていますし、なにかあるのは伝わったでしょう。フェローなので戦闘状態になれば一瞬でここまでこれますし。……というわけでぷしゅー」
「ぎゃー!?」
ころころ
「判定成功。ユグドラシルの精神攻撃に耐えると、アールヴヘイムにいたフェローたちがユグドラシルの中へ殺到します」
「よしきた!」
ころころ
『こいつを食らいなッ!』
『こいつを食らいなッ!』
『こいつを食らいなッ!』
「……数の暴力でユグドラシルの若木は切り倒されました」
「やった!」
「フェローさまさまだな」
「フェローシステムを遊び尽くすシナリオですから」
一緒に戦ったり、裏切ったり、HP減らなかったり、偏在していたり、思い通りに動かなかったりでなかなかスリリングなシステムだった。
自分でフェローを作ってネットで公開するのも悪くないのかもしれない。
「じゃあセッションも終わったことだし、私そろそろ帰るから」
「……ちゃんと片づけていけ」
「えー」
「ちなみにイモ羊羹とお茶はまだ残ってるぞ」
「すぐ片づけてくる!」
物が絡むと行動が早い。
「イモと小豆とサトウキビとテングサとお茶の木。ユグドラシルの力は偉大ですね」
どうやら現代人も植物によって操られているらしい。




