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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ソードワールド2.0セット【ジンジャークッキーとマリゴールド】

参考ゲーム

ドワスレ


「そのころ山に酒呑童子しゅてんどうじの二つ名を持つ恐ろしい山賊が住んでいて、毎日のように都の町へ出て来ては、方々の家の子供をさらって行きました」


「は?」

「なにこれ? ソードワールドじゃないの?」

「ソードワールドですよ?」

「いや、思いっきり酒呑童子とか言ってたじゃないですか」


「ルールブック2を読んでください。個人称号、二つ名という項目がありますよね? 名誉点で様々な称号を買えるわけですが、ここにちゃんと『酒豪』と『弟子・小僧・儒子』という称号があります。この2つを組み合わせれば酒呑童子になりますよ?」


「……たしかになるかもしれないけど」

「違和感がぬぐえんな」

「ちなみに酒呑童子には熊童子、金熊童子、星熊童子、虎熊童子という四天王もいます」

 とてもソードワールドとは思えない。

「では導入を続けましょう。……ある時、大臣の一人きりのお姫さまが急に見えなくなりました。大臣も奥方もびっくりして占い師に頼んでみてもらいますと、やはり山賊に取られたということがわかりました。大臣はさっそく王さまの御所へ上がって、大事な娘が山賊に取られたことをくわしく申し上げて、どうぞ一日もはやく山賊を退治して、世間の親たちの難儀をお救い下さるようにとお願い申し上げました」

 妙にシナリオが充実している。


 どうやら著作権の切れている楠山正雄の『大江山』という小説をソードワールドに翻案しているらしい。


「……というわけで、王さまは酒呑童子に賞金をかけ、冒険者たちに山賊退治を呼びかけました」

「軍隊動かせばいいのに」

「山賊は神出鬼没ですし、軍部に内通者がいるのか騎士団を動かすとすぐに逃げられてしまうんです」

「そもそも騎士団が退治したらシナリオ成立しないしな」

「ご都合主義ね」

「王道と言ってください。冒険者の宿に賞金首のポスターが貼られ、そのポスターの前で一人のドワーフが呼びかけます。ともに山賊を退治する冒険者はいないか!」

「やるやる!」

「……軽いな、お前。せめてドワーフの身元ぐらい調べろよ」

「では判定を」


ころころ


「ドワーフの名前はゴルド。魔法戦士レベル10です」

「私たちと同じキャラね」

「いえ、神官戦士ではなく魔法戦士です」

「神聖魔法じゃなくて真語魔法レベル8か」

 俺たちは2人ともルールブック3のサンプルキャラ、ナイトメアの神官戦士レベル10をドワーフに置き換えたキャラを使っている。

 珍しいドワーフパーティーだ。


「ゴルドの素性を一言で説明するなら金太郎ですね」


 なんてわかりやすい説明だ。

 ネーミングも金太郎→金→ゴールド→ゴルドということらしい。

 武器も『ゴールデンアックス』という斧を装備している。

「おお、共に戦ってくれるのか。しかし相手は神出鬼没な山賊のこと。大ぜい冒険者を連れて行って、力ずくで勝とうとしても、山賊にうまく逃げられてしまってはそれまで。これは人数は少なくとも、よりぬきの強い冒険者をそろえて、力ずくよりは知恵で勝つ工夫をしなければならん」

「酒呑童子伝説と同じパターンだとすると……。山伏やまぶしに変装して本拠地に潜入するのか?」

「ゴルドの提案に従うのならそうなります」

「じゃあ、それで行きましょ」

 ゴルドの作戦通り、変装をして山賊の本拠地へ向かう。


「冒険者はいくつとなくけわしい山を越えて山のふもとに着きました。山賊の岩屋のあるという千丈ガ岳を一すじに目ざして、谷をわたり、峰を伝わって、奥へ奥へとたどって行きました」


 ころころ


「エンカウントですね」

 イベント表を振り、敵が出現。

 先制判定には成功したので先手だ。

「全員前線で戦うの?」

「いや、ゴルドには真語魔法がある。まずは全員自陣後方でスタンバイして、範囲魔法で敵にダメージを与えてから前線エリアに移動して攻撃じゃないか?」


「いえ、前線エリアから始めましょう。マルチアクションでファイアボールからの近接攻撃!」


「ええ!?」

「私たちも巻き込まれるじゃない!」

「大丈夫です。ドワーフには『炎身』がありますから」

「あ、そういえばドワーフは種族特徴で炎属性無効化だったな」

 炎の神グレンダールの加護らしい。

 それにドワーフといえば鍛冶だ。

 鍛冶には鉱石が必要なので山に住み、火力が必要なので火山にいるイメージもある。

 だからソードワールド2.0のドワーフには炎耐性があるのだろう。


「自分たちを巻き込みながら広範囲にファイアボールを撃ち、近接攻撃や魔力撃でトドメを刺す! これぞ『ドワーフ爆炎特攻部隊』の伝統戦術!」


「……嫌な伝統だな」

「ドワーフこわい」

「金属鎧だと真語魔法の行使判定にマイナス修正が入るので革鎧ですが、防御力を補ってあまりある攻撃力があります!」

 正しく攻撃は最大の防御。

 ゴルドの活躍もあり、パーティは特に大きな怪我もなく山を登っていく。

「岩ばかりのでこぼこした道をよじて行きますと、やがて大きな岩室の前に出ました。その中に小さな小屋をつくって、三人のおじいさんが住んでいました」

「山賊か?」

「わたくしどもは決して山賊でも、ワーウルフの化けたのでもありません」


ころころ


 先生が唐突にサイコロを振る。

「判定成功。……山伏の姿にやつしてはおいでになりますが、あなた方はきっと酒呑童子を退治するために、都からお下りになった方々でしょう」

さっしがよすぎない?」


「判定に成功してPCの変装を見破りました」


「2dはそれか」

 こっちが魔物の知識判定に成功するように、NPCもこちらの変装を見破ることがあるらしい。

「酒呑童子のために妻や子を取られて残念でたまりません。どうかしてかたきを取りたいと思って、ここまで上っては来ましたが、わたくしどもの力ではどうすることもできませんから、ここにこうしてあなた方のおいでを待ちうけていました。さあ、これからわたくしどもがこの山の御案内をいたしますから、どうぞあの山賊を退治して、わたくしどもの敵をいっしょに討っていただきとうございます。酒呑童子は好物のお酒を飲んで酔い倒れますと、もう体が利かなくなって、化けることも逃げることもできなくなります」

「化けるっていうことは人間じゃないの?」

「はい。ワーウルフですね」


ころころ


 知識判定成功。

 レベル8の蛮族だ。

 レベル10のサンプルキャラを使ってる俺たちの相手が務まるとは思えない。

 おそらく剣のかけら入りで、四天王とも一緒に戦うことになるだろう。


「ちなみにライカンスロープは儀式で同族を増やすので、さらわれた人たちはワーウルフになっています」


「鬼が人をさらう理由も設定でフォローできるのか」

 伝説や小説の大江山ではこきつかうだけ使って、用済みになれば殺される。

 それに比べればまだマシか。

 化け物にされてしまうので、ある意味では死ぬよりもひどいのかもしれない。

「わたくしどものこのお酒は『ドワーフキラー』という不思議なお酒で、ドワーフですら飲めば体がしびれて、通力つうりきがなくなってしまって、斬られても、突かれても、どうすることもできません。このお酒をあげますから、酒呑童子にすすめて酔いつぶした上、首尾よく首を切って下さい」

「らじゃー」

「それから三人のおじいさんは先に立って、千丈ガ岳を上って行きますと、大きないかめしい鉄の門が向うに見えて、山賊の突撃兵と弓兵が番をしていました。門に近くなるとゴルドはわざとくたびれきったように足をひきずって歩きながら、山賊に声をかけます」


「もしもし。旅の者でございますが、山道に迷ってもう一足も歩かれません。どうぞお情けに、しばらくわたくしどもを休ませていただきとうございます」


「怪しいやつめ。ひっ捕らえろ!」


「え、捕まっちゃうの?」

「酒呑童子伝説と違う流れだな。どうする?」

「もちろん皆殺しよ!」

「……敵の本拠地だぞ。山賊が何人いると思ってんだ。それなら降伏したほうがマシだ」

「えー」

「捕まれば無条件で中に入れる。酒を飲ませるチャンスもあるだろ」

「ゴルドもその意見に賛成です。山賊に昔の知り合いがいるかもしれない。ひょっとしたら話をつけられるかも、と」

「昔の知り合い?」

「詳しいことは後で話そう。……パーティは縄にかけられ、牢に入れられてしまいます。そら、キリキリ歩け!」

 もちろん装備品は没収された。

 おとなしくチャンスを待つしかない。

 頼みはゴルドだけ。

「……で、例のお前の知り合いってのは誰だ?」


「昔、山でいっしょにオイルレスリングをした熊だ」


「オイルレスリング!?」

「ベレファースト家に伝わるオイルレスリング式尋問術だ」

「……尋問?」

「そう、尋問術だ。戦闘術ではない」

 レスリングならまだわかるが、なぜ尋問するのにオイルが必要なのか。

 しかもベレファースト家なる謎の一族に伝わる技だという。

 謎は深まるばかりだ。


 先生いわく『ソードワールド2.0リプレイ fromUSA』を参照とのこと。


 リプレイ小説でありながら全11巻の大作だ。

 さっきのドワーフ爆炎戦術もこれに出てくるらしい。

 後で読んでおこう。

「それよりも大切なのは熊だ」

「熊っていうとグリズリーね。レベル6の動物」

「いや、グリズリーではなくワーウルフだ」

「ワーウルフって人狼でしょ」

「ルールブックをよく読んでください」

「?」

 ルールブック2のワーウルフのデータを読む。


『ライカンスロープと呼ばれる獣人です。狼以外にも、虎や熊など様々な種類が存在します』


「おお、金太郎伝説をこう繋げてきたか!」

「ワータイガーとかワーベアもいるのね」

「金太郎伝説に登場する熊は鬼のことではないかと個人的に思っています。四天王の名前にも熊が付きますし」

「そういう解釈もできますね」


 熊は大きくて毛むくじゃらで力が強い。


 まさしく鬼そのものだ。

「鬼が熊に置き換えられたのは、金太郎こと『坂田金時さかたのきんとき』が鬼退治で有名だからでしょう」

「子供の頃とはいえ、鬼退治の英雄が鬼と仲良く相撲してたなんて言えないってこと?」

「はい。それにこれなら金太郎が警備の厳しい山賊のアジトに潜入できたことや、酒呑童子に魔法のお酒を飲ませることに成功した理由を説明できます。金太郎は酒呑童子と顔見知りだった」


「そういや酒呑童子って色んな山を渡り歩いてるんだよな。伊吹山で生まれて、比叡山に預けられ、そこを追放されて大江山で山賊になった。なら大江山へたどり着く前に、足柄山へ寄っていたとしても不思議はない」


「そういうことです」

 山には神社や寺などの宗教施設が多く、また罪人などが身を隠すことも多かったので、俗世の権力が及ばない無法地帯だった。

 だから酒呑童子も山から山へ渡り歩いていたのだろう。

 日本の国土の半分以上が山という地理的条件もあるのかもしれない。


「ではゴルドが見張りに話しかけます。ここに俺の知り合いがいるかもしれない。ゴルドという名に聞き覚えはないか。そう触れ回ってみてくれ」


「礼ははずむぞ」

「む、いいだろう。だが誰もお前たちのことを知らなくても俺を恨むなよ」

「シナリオ的に絶対知ってる人がいるから大丈夫」

「……メタな発言はしないでください。聞くだけ聞いてやろう。見張りがゴルドという名前に覚えはないかと聞きまわると、何人か覚えがあり、やがてそれが酒呑童子にまで伝わります。ゴルドか。それはおもしろい。すぐ奥へとおせ」

「俺たちもついていけるのか?」

「もちろんです。見張りについて広間へ向かうと、一丈にもあまろうという大きな男が、髪の毛を逆立てて、お皿のような目をぎょろぎょろさせながら出て来ました。久しいな、ゴルド。まあ、ゆっくり休んで、酒でも飲んで行くがいい」

「私たちもお酒持ってるわよ。安酒なんてやめてそっち飲まない?」


「それはありがたい。それでは酒盛りをはじめようか。酒呑童子はこういって、大ぜいの家来にいいつけて、酒やさかなを運ばせました。それではまず客人たちに、わたしのすすめる酒を飲んでもらって、それから今度はわたしがごちそうになることにしよう。といって、酒呑童子は大きな杯になみなみ人間の生き血を絞って入れました」


「生き血!?」

「さあ、この酒を飲め」

「……顔見知りとはいえ、疑われてるんだよな。ここは飲むしかない」

「うぇ」

「では精神抵抗力判定を」


ころころ


 ……失敗。

「気持ち悪くなって血を吐きだしてしまいました」

「どういう状況で吐いたんですか? 大きな杯を傾けて酒を飲んでいるんなら、場合によっては吐いたところは見えないと思うんですけど」

「では運よく周りからは見えなかったということにしましょう。吐き出した血を飲めば急場はしのげます。ただしHPとMPに2dのダメージを受けます」

「ぐ、仕方ないか」

 やむなく2dを振ってHPとMPを減らす。


「それから代わる代わる次から次へ杯をまわして、おしまいに酒呑童子に返しました。こんどはお前たちの持って来た酒のごちそうになろうじゃないか」


「よし!」

「ゴルドはドワーフキラーを酒呑童子の大杯になみなみとつぎました。これはうまい酒だ。お前たちも飲め」

 やはりそうきたか。

「……どうすんの、これ?」

「飲むふりはできますか?」

「できません。こちらも本来は生命抵抗力判定なんですが、折角なのでこういうものを用意してみました」


『ドワキラ』


「なにこれ」

「ドワーフキラーを題材にしたゲームです。お酒の飲み比べをして、眠ってしまったプレイヤーは酒代を押し付けられます。このゲームの結果によってその後の展開が変わります」

「酒をたくさん飲ませればワーウルフに変身できないとか、眠らせれば戦闘が始まっても眠ったままとか?」

「大体そんな感じです」

「普通に判定するよりはずっと面白そうね」

「ルールは?」


「プレイヤーはサイコロを振ります。サイコロには『お酒』『気合』『眠り』のアイコンが書かれています。お酒はプレイヤーが飲んだドワーフキラーの数。眠ってしまった場合『場にあるお酒のアイコンの数だけコインを支払う』ことになります。これですね」


 全員に15コインが配られ、テーブルの中央に5コインが置かれる。

「一番お酒を飲んだ人が中央にあるコインをもらえます。次のラウンドでは前のラウンドで支払った酒代が賞金になります」

「誰も眠ってない場合は?」

「自分が飲んだ分だけお金を払います」

「なるほど。じゃあ、せっかくなのでコインをクッキーにしましょう。ジンジャークッキーがいいな」

「なんで?」


「ジンジャーブレッドみたいに、ジンジャークッキーも人型にすることが多い。つまり山賊に捕まっている人間を賭け金にするんだ」


「いいですね。では手に入れたコインの数だけ、NPCが戦闘に参加できるようにしましょう」

 賭けの対象になるのはまだワーウルフになっていない人間だ。

 戦力的にはワーウルフ化している人間のほうがいいのだが『こんな体では故郷に戻れない』と山賊に味方する可能性がある。

 なのでワーウルフ化している人間は見捨てるしかない。

「ジンジャークッキーならお茶はリンデンかローズ、マリゴールドあたりだな」

 とりあえずマリゴールドにした。

 綺麗な金色のお茶で、花の香りとほのかな苦みが特徴だ。

 ショウガと同じように発汗作用があり、風邪にいい。

「……で、気合と眠りのアイコンはなに?」


「気合は眠りに対する抵抗力です。たとえばサイコロを3つ振って、気合が1つ、眠りが2つだと、睡魔に負けて眠ってしまいます。ソードワールドと同様に同値ならセーフです」


「これだと運ゲーになりませんか?」

「そこでカードの出番です。『すべてのサイコロを振りなおす』や『黄色いサイコロを1つ振り足す』など、さまざまな効力を持ったカードがプレイヤーに配られ、プレイヤーはそのカードを使ってサイコロをコントロールします」



1 乾 杯 プレイヤーは全員、すべてのダイスを振りなおす


2 振舞酒 他のプレイヤーは全員青ダイスを1個振り足す


3 下 戸 あなたは以降、他のプレイヤーのカードの効果を受け付けない


4 酒 豪 あなたは赤ダイスを1個振り足す


5 根 性 あなたは黄ダイスを1つ振り足す


6 お 酌 他のプレイヤー1人からダイスを1個奪う。その後、他のプレイヤー1人にダイス1個を渡す(ダイスを奪ったプレイヤーに渡す必要はない)


7 酩 酊 プレイヤーは全員、すべてのダイスを『他のプレイヤー(右、左、前にいるプレイヤー。カードによって渡す相手が違う)に渡す』


8 泥 酔 プレイヤーは全員、すべてのダイスを裏返す



「ただこのカードはすべてのプレイヤーが一斉に場へ出します。もし同じカードが場に出ていた場合、そのカードは効力を発揮しません」

「カードの駆け引きが重要になるのか……」

「ちなみにカードは番号順に処理します。3の下戸は他のプレイヤーの能力を無効化するカードですが、カードは順番に処理するので1の乾杯と2の振る舞い酒を無効化することはできません」

「ふむふむ」

「ではこれを」

 全員にカードが8枚渡される。

「シャッフルして山札にしてください。手札にできるのは3枚。1ラウンドに使えるのは1枚だけ。ラウンドの最初に1枚引いて手札を3枚にします」

「……1人のカードは8枚。ラウンドは全部で6。カウンティングできるな」

「上級ルールですから」

 ラウンドが進むと相手の手札が読めるようになっている。


 通常のルールだと24枚のカードをシャッフルして山札にし、すべてのプレイヤーがその山札から手札を引くので、相手がなにを持っているのかわからない。


 心理戦を楽しみたいなら上級ルールだろう。

「振るサイコロは3個。ラウンドが進むごとに1個ずつ増えていきます。今回は3人プレイの上級ルールなので6ラウンド、つまり最終的に8個になります」

「多いな」

 処理が大変なのでサイコロは少ないに越したことはないのだが、数が多いほどテンションが上がる。

 特にソードワールドは1dか2dしか振らないので、たまにサイコロをたくさん振れるゲームをプレイすると快感だ。


「ではそろそろ始めましょう。ダイス袋から赤いサイコロを3個取り出してください」


「はーい」

 指示されたとおりに黒い袋からサイコロを取り出す。

「サイコロの色によって目が違うんだな」

 赤には酒のアイコンが2つ描かれている目が1つある(その目を出すと酒を2杯飲んだことになる)。

 黄色には気合が2つ描かれている目が1つ。

 青には睡眠が2つ描かれている目が1つ。

 最初のラウンドは赤だけなので、大量に酒を飲みやすい。

「これも通常ルールとは違うのね」

 通常ルールでは袋からランダムにサイコロを取り出す。


 なので運が悪いと青サイコロばかりつかまされることになる。


 ……ただルールブックを一読する限り『ダイス袋から所定の個数のダイスを取り出す』としか書かれていない。

 普通に考えればダイス袋の中を見るのは反則なのだが(反則でないのなら中身が見えない袋を用意する必要がない)、このルールの書き方だとダイス袋を覗いて好きなサイコロを取り出しても反則にならないような気がする。

 そういう意味では、使うサイコロが固定されている上級ルールはありがたい。

「なにがでるかな♪」


ころころ


 全員一斉にサイコロを振る。

 俺は酒2が2個と気合1。

 瑞穂は酒1、気合1、眠り1。

 先生は眠り1が2個と気合1。

「いい感じ」

「だな」

 幸先がいい。

 問題はカードの使い方だ。


 困ったことに現時点では相手の手札がまったくわからない。


 俺の手札はお酌、酩酊、泥酔。

 お酌は他のプレイヤーからサイコロを1つ奪い、自分も他のプレイヤーへサイコロを1つ渡す。

 酩酊はすべてのプレイヤーは、自分のすべてのサイコロを左のプレイヤーに渡す。

 泥酔はすべてのプレイヤーが、すべてのサイコロを裏返す。

 俺の手札で先生が出してくる可能性があるものといえば……。

「うーん」


 ……どれもあり得る。


 酩酊を使われると俺か瑞穂が眠ってしまい、酒代を押し付けられる。

 お酌だと先生は眠りを瑞穂に渡して眠らせるだろう。

 泥酔だと先生のサイコロは裏返って酒2が2個と酒1が1個になり、俺のサイコロは眠り1が2個と気合1が1個になって眠ってしまう。

 先生が5コイン(クッキー)獲得し、俺が飲み代を払わされることになるので泥酔は避けたい。

 出すなら泥酔だろうか。

 だが先生が泥酔を持っていなければ自爆してしまう。

 難しいところだ。

 このように俺が何を出すか頭を悩ませていたところ、

「え」


 先生が自分のサイコロの裏を確認した。


 ……サイコロの裏を確認したということは、サイコロをひっくり返す泥酔を持っていると判断できる。

 だが先生がサイコロの目の位置関係を把握していないはずがない。

 『赤サイコロの眠り1』は『普通のサイコロでいえば1の目』に相当する。

 ならばその裏は『6の目に相当する酒2』に決まっている。

 わざわざ確かめなくても、少し考えればわかる。


 先生が泥酔を持っているのなら、自分の手札に泥酔があるというアピールなどせずに泥酔を出したほうがいい。


 先生の手札の内容がわからなければ、俺は自爆が恐いので泥酔を持っていても使うことはできないからだ。

 つまり先生は泥酔を持っていない。

 泥酔を持っている(出す)振りをして、俺が泥酔を持っていたら、それを出させるつもりだったのだ。

 そうはいかない。

「お酌だ!」


「泥酔です」


「げ!?」

 眠らされてしまった。

 最悪だ。

 しかも、


「下戸です」


「……ぐ、泥酔です」

 次のラウンドでは下戸(相手のカードを無効化する)で俺の泥酔が殺されてしまった。

 ……やられた。

 さっきのラウンドで泥酔を持っていた俺は、先生の策には乗らないと別のカードを出した。

 これが顔に出てしまったのだろう。


 『その手には引っかからない』という態度をしてしまったということは、俺の手札は『その手に引っかかる状態だった』ということ。


 つまり俺は『泥酔を持っている』と間接的に語ってしまっていたのだ。

 先生が泥酔を持っているのに持っていない振りをしたのは『俺が泥酔を持っているか』確かめたかったからだ。

 このミスが響いてまさかの2連敗。

 そしてラウンドごとに増えていくサイコロと、逆に少なくなっていく手札。


「酩酊だ!」

「こちらも酩酊です」


「乾杯よ!」

「同じく乾杯です」


「ぐぬぬ!」

 ……読みあいでは勝てない。

 その後もことごとくこちらの手札が殺され、


「酒呑童子と四天王は全員(剣)ワーウルフに変身、しかもお酒の影響でPCは全員眠ってしまいました」


「ぎゃー!?」

 ……さすがは銘酒ドワーフキラー。


 見事に俺達ドワーフを殺すことに成功した。


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