ノービスTRPGセット【ハンバーガーとシェイク】
参考ゲーム
のびのびTRPGザ・ホラー
「ノービスTRPGをしましょう」
「初級者?」
「引いたカードでロールプレイするTRPGです」
「TRPGというよりボードゲームっぽいな」
「……ホラーっていうのが気になるんだけど」
パッケージには『ノービスTRPGザ・ホラー』と書かれている。
パッケージ絵も血のしたたる鉄パイプを握った女子高生が描かれていた。
「そんなに怖くないので大丈夫ですよ? ではPCカードを選んでください」
「俺は男子高校生で」
「アイドルがいい!」
「じょしこーせーでいきマス」
「では先生は教授で」
アイドル以外は現実に即したキャラになった。
「最初は先生、いえ、教授がGMをやりましょう。最初はイントロダクション、つまり導入カードを引きます」
先生がカードを引く。
イントロダクション【ゾンビでいっぱい】
「街はゾンビでいっぱいです。ゾンビ化した人々を救うことができるか。……それは生き延びてから考えよう。わずかな生存者は手を取り合い、身をひそめ、街からの脱出を試みる!」
「ゾンビものか」
「TRPG・おぶ・ざ・でっど!」
ゾンビもののタイトルには高確率で『オブ・ザ・デッド』がつく。
しかも名作が結構多いので、ゾンビもので迷ったらタイトルにオブ・ザ・デッドとついているものをオススメする。
「次は場面カードです」
GMが山札から場面カードを引いた。
シーン1【ハンバーガーショップ】
場面カードを参考に女子高生のロールプレイする。
「まじヤバくね?」
「ヤバいデスね」
「あっはは!」
「女子高生たちがハンバーガー片手に雑談しています。恐るべき状況だが、君は彼女たちから情報を得なければならない! 場面PC、つまりこのシーンの主役は、GMの左にいるプレイヤーになります」
「俺か」
「2dで行為判定してください。技13以上で成功です」
「男子高校生の技は3。2dの期待値は7だから失敗する可能性が高いな」
「スキルを使う場合は、場面PCが行為判定のサイコロを振る前に宣言してください」
「じゃあ俺は『走り抜けろ!』のスキルを使います」
1dを追加できるスキルだ。
ただし1が出ると転んで失敗する。
「私のスキルも使えるの?」
「1つの場面につき、1人1つだけスキルを使えます」
「やった!」
「ぬ、じょしこーせーのスキルは使えまセン」
女子高生のスキルは『コミュニケーション』。
自分の行為判定でしか使えないスキルだ。
全員で5dを振った合計(ただし力と技は足せない)で行為判定できる能力である。
ただし1つでも1が出たら失敗(しかも『責任は君にある』とキャラクターカードには書かれている)。
強力だがリスクも大きい。
一方、アイドルのスキルは『応援』。
他者の判定にボーナスを与える能力だ。
ただし出目が1だと-3、2だと0だ。
しかもプラスできるのは他者の判定だけで、自分には効果がない。
他はプラスなので、よほど運が悪くない限り場面PCの達成値に+できる。
悪くない能力だ。
「いくぞ!」
ころころ
3と4。
技3を足しても10だ。
あと3足りない
「ここで走る!」
ころころ
5。
「お、成功だ」
「応援したかったのに」
「オーエンしたから5になったと考えまショー」
「なるほど」
さすがTRPG、色んな考え方がある。
「では光カードを1枚引いてください」
「はい」
シーンの判定に成功したらプレイヤーは光カードを、失敗したら闇カードを引く。
説明書によると光カードは『PCにいい感じの特徴がつき、強くなるぞ』、闇カードは『PCにおかしな特徴がつき、おもしろくなるぞ』だそうだ。
今回は光カードなので強くなれる。
「どれ」
山札から1枚引く。
『カレー好き』
「……なんだこれ」
カレーにありつけそうなら、GMの許可を得たうえで判定を2dではなく5dで行うことができるスキルらしい。
「たとえば今回のシーンの舞台はハンバーガーショップです。カレーやカレー風味のメニューがある可能性が高いので、このスキルを持っていたら5dで判定できたということですね」
「強いのか弱いのかわかんないわね」
カレーのある場所は限られているので、シーンによってはまったく役に立たない能力だ。
「それでは女子高生から情報を聞き出すロールプレイをしてください」
「……難しいな。どうすればいいんですか?」
「走り抜けろのスキルで判定に成功してますから、ハンバーガーショップに逃げ込んだというシチュエーションを考えてみてください。光カードも使えば完璧です」
「くんくん、これはスパイスの匂い! みたいな感じですか?」
「そういうことです」
「カレーの匂いがするということは、生存者がいる! その匂いを辿ってハンバーガーショップを発見します。ゾンビに追われてるんだ、なにか武器はないか!?」
「ハンバーガーショップに武器なんてあるわけないしー。まじヤバくね」
「まじヤバいデスね」
「ぐ」
ゾンビ1体ならなんとかできるだろうが、数が多い。
ハンバーガーショップにある道具で退治するのは厳しいだろう。
包丁のような射程の短い武器は、ゾンビに接近しないといけないので危険だ。
「ゾンビって肉食系でしょ。ハンバーガー食べるんじゃないの?」
「それだ! 肉が保存されてる場所を教えてくれ、店の周りに撒いて時間を稼ぐ!」
「カーニバル!」
ということで『ゾンビまじヤバくね』と緊張感のない女子高生たちと一緒に、ねずみ肉のパテを撒いて時間を稼ぐことにした。
「残りのハンバーガーは食料として持っていこう」
「カレーバーガー食べたい」
「……カレーバーガーってなんだよ」
「ひき肉だからドライカレーとか?」
「一応、作ってみるか」
ハンバーガー用のパテをカレー粉で炒め、玉子とカボチャを挟んでみた。
「意外にいけるわね」
「だな」
スパイシーなカレーを玉子の黄身とカボチャの甘味がまろやかにする。
今まで食べたことのない味だ。
普段はハンバーガーというとコーラだが、カレー味なのでシェイクにしてみた。
ヨーグルトシェイクで口をさっぱりさせれば、スパイシーなカレーバーガーもいくらでも食べられる。
メニューに加えてみてもいいかもしれない。
「次は俺がGMか」
「PCは私ね」
まず俺が場面カードを引く。
シーン2【UFO】
「あれはなんだ!?」
「未確認飛行物体。……そう。……これまでの事件は、すべて宇宙人の仕業だったのよ!!!」
「な、なんだってー!?」
「そんなオカルトありえません!」
当然、仲間は納得しない。
仲間を納得させるためには、UFOの痕跡を発見するほかない。
力11以上で成功する。
「……力2しかないわよ」
「アイドルですから」
なかば失敗を覚悟してサイコロを振る。
ころころ
2と6。
「ああ、失敗!?」
判定に失敗したので闇カードを引く。
『江戸から来た』
「……またわけのわかんないものが出たわね」
「江戸時代の偶像って別の意味でやばいな」
「キリシタン!」
君は江戸時代からやってきた。
スキルは死線斬り。
1dを振り、4以上がでたら判定に成功するらしい。
成功率5割で、どんなシチュエーションでも使える能力だ。
悪くない。
「ダイスロールではUFOの存在を認めさせることはできませんでしたが、ロールプレイでGMや他のプレイヤーを納得させることができれば成功になります」
「失敗したらどうなるの?」
「特にペナルティはありません」
「え」
「強いていうなら繋ぎが難しいことですね。成功すればすんなり次のシーンへ行けますが、失敗した場合、次のシーンへ繋げるロールプレイが難しくなります」
「なるほど」
たとえば敵に囲まれている状態で判定に失敗すると、どんなに絶体絶命の状況でも話を展開して次のシーンへ繋がないといけない。
それが行為判定失敗のペナルティなのだ。
「えーと……。あ、そうだ! みんなハンバーガーショップの二階にのぼって、ゾンビがうじゃうじゃいる場所の上を見て!」
「なんでだ?」
「ゾンビ化の原因が宇宙人なら、UFOはゾンビたちの上にいると思うの」
「あ、UFOが見えました!」
「うぉっちんぐ!」
「UFOがこっちに来たぞ、逃げろ!」
「ひえー」
だんだんロールプレイの感覚がつかめてきた。
ストーリーはめちゃくちゃだが、なかなかおもしろい。
「次はアリスのターンですネ!」
GMは瑞穂、場面PCはアリスで場面カードを引く。
シーン3【演舞】
「UFOの影で赤い月が陰る夜、うっかり村の奇祭に足を踏み入れてしまった!」
パン パン パン パン
アリス以外のプレイヤーは場面カードの指示に従って手拍子を打つ。
「奇祭の踊りを即興で成功させなければ、村人に捕まってしまうぞ!」
技13以上で成功。
ころころ
1と6、そして瑞穂の応援でさらに+1したが、またしても1足りない。
「ドロー!」
闇カードを引く。
『ネット配信中』
スマホで常にネット配信している。
視聴数を増やすためには、もっと刺激的な番組にしなければ。
「はろーようつべ」
「隠れる気0だな」
スキルは『過剰演出』。
判定の目標値を+2するかわりに、+1dで判定できる。
このスキルは連続した場面では使えない。
連続した場面というのはよくわからないものの、1dの期待値は3.5。
目標値は高くなってしまうが、足しにはなるだろう。
「ちなみにこの奇祭のロールプレイ。実際に踊ってもいいみたいよ」
「ダンス?」
「そう。皆が納得できたら成功」
「れっつだんしんぐ!」
アリスが即興で踊り始めた。
動きはキレキレだが、それには重大な欠点がある。
「なんじゃ、あの踊りは?」
「よそ者じゃー」
「であえーであえー」
「のー!?」
アリスの踊りは明らかに日本の奇祭で踊られるようなものではない。
あえなく俺たちは捕まってしまった。
「座敷牢なう」
「配信すんな」
判定には失敗してしまったが、ロールプレイ的にはおいしい状況なのかもしれない。
……ここから脱出するシチュエーションを考えるのに苦労するだろうが。
「ではアリスがGMデスね」
場面PCは先生だ。
アリスが場面カードを引く。
「ゴーストシップ!」
「は?」
「幽霊船ですね」
シーン4【幽霊船】
目が覚めると朽ち果てた幽霊船にいたらしい。
……なんという超展開。
「たぶん村人に乗せられたんでしょうね」
「だろうな」
村から脱出するシナリオを考えなくていいのは助かった。
「このターンはノーダイスなのデス」
今回は判定でサイコロを振らない。
死霊となった船員(村人?)をなだめて、元いた場所に戻らなければならない。
ロールプレイがうまくいけば光カード、失敗したら闇カードを引いてもうしばらく幽霊船にいることになる。
「『研究突破』の出番ですね」
先生の演じる教授のスキルは『研究突破』。
興味深いものを見つけると研究の目を向けてしまう。
目の前のものが研究対象だとGMを説得できたら、判定が2d+7になる(ただし力や技は足せない)。
「脱出するために幽霊船を研究対象として調べます」
「OK」
「そして江戸時代から来た桃園さんにこの船に見覚えがないか尋ねつつ、幽霊船の様子をネットで生配信して情報を募りましょう」
「ゴーストシップなう」
「そういえばこの船、江戸時代で見た覚えがあるかも」
「スパイスの匂いがする」
「江戸時代にいた、香辛料の匂いがする船。つまりオランダの船ですね。オランダ料理を振る舞いましょう」
「だんくゆー!」
オランダ語のサンキューだ。
船員たちをなだめることに成功したらいい。
光カードを引く。
『科学的』
いま起こっていることはすべてオカルトにすぎない。
だいたいはプラズマと地磁気のせい。
スキルは『種明かし』。
現在の場面の原因を科学的に説明し、全員が納得したら判定に+3される。
「ゾンビもUFOも幽霊船もプラズマです」
「プラズマすごい」
プラズマでなんでも納得できる感性が一番すごい。
「全員がGMやりましたけど、これで終わりですか?」
「いえ。ルールでは全員が3回ずつGMをやってからクライマックスカードを引くんですが……。区切りがいいので、ここでクライマックスをしておくのもいいかもしれませんね」
先生がクライマックスカードを引く。
クライマックス【隠ぺいされた真実】
「1年後。これまで起こった出来事は、謎の未解決事件として新聞の片隅に押し込められます。2d+所持している光カードの枚数の合計が8以上なら新聞を読む側になります」
「失敗したら変死体か」
判定に成功した場合『政府が隠ぺいしても、この事件は終わってはいない』とPCたちは次の場所へ(かっこよく)去っていく。
「クライマックスカードに指示がないので判定には力も技も足せません。『常時』『すべての判定』を除くスキルも使えませんが、あくまで判定に使えないのであって、ロールプレイでは問題ありません。むしろクライマックスなので、スキルとカードは全部使って話を盛り上げましょう」
「はーい」
「……というわけで、今回の事件は政府、いえ、江戸幕府から続くプラズマ実験でしょう! 奇祭でプラズマを発生させてオランダの幽霊船を具現化したり、UFOを具現化してゾンビ化を発生させたんです!」
「私も江戸時代でそんなのを見た気がする」
瑞穂の応援(?)も受けて先生がサイコロを振る。
ころころ
「……実は教授もプラズマでした」
「ええ!?」
そして明らかになる驚愕の真実。
教授は光になって消えていった。
惜しい人を亡くした。
「俺はカレーの匂いのする方向へ走って逃げるか」
ころころ
楽勝で成功。
「よし、カレーショップに逃げ込んだ! カレーに含まれるスパイスでゾンビ化も無効化したぞ! これでもう大丈夫だ」
「次は私の番ね。私の歌を聞けー! アイドルっぽく江戸時代の歌を歌って、ゾンビに理性を取り戻させるわ!」
「……なんだそれ」
「生きた人間がウイルス、いえ、プラズマの影響でゾンビ化してるのなら、理性を取り戻すこともありえますね」
「そうそう。脳みそまで腐ってるわけじゃないんだから」
「みらくる!」
ころころ
「やった! ここはもちろんマイクを置く場面よね。するとゾンビたちがこう叫ぶの。普通の人間に戻りたい!」
アイドルっぽく綺麗に話がまとまった気がする。
最後はアリスだ。
「ネット配信でじょしこーせーのスキル、コミュニケーションはつどー! アリスを助けるためにオタクがあつまってきマス」
「下手すればゾンビが増えるな」
ころころ
「のー!?」
やはりオタクたちはゾンビ化した。
「ゾンビなう」
最後のネット配信の視聴数は過去最高を記録したという。