サブマリンセット【串カツとサイダー】
参考ゲーム
エバーブルー
U アンダーウォーターユニット
「急速潜航」
「いや、潜水艦じゃないだろ」
「気分が大事なのよ、気分が」
ダイバーになりきって深く静かに潜航する。
『エヴァ・ブルー』
架空の南国を舞台にしたダイビングゲームだ。
彩り鮮やかな魚が優雅に海を泳いでいるものの、最初は魚の種類もわからない。
ツンツン
「かわいい」
このように指で突いたり、撫でたり、エサを与えてコミュニケーションを取ると好感度が上がり、魚の詳細なデータが表示されるようになる。
イルカには芸を覚えさせることもできるし、一定以上の大きさの魚につかまれば高速で泳ぐこともできた。
ダイバーとしての主な仕事はガイド。
お客さんと一緒にダイビングし、目当ての魚を見つけて楽しませること。
目当ての魚が見つからなくても、たくさんの魚を見せれば(客はプレイヤーが注目している魚を観る)満足するので、難しい仕事ではない。
写真撮影を頼まれることもある。
小さくて高速で泳ぐ魚をとらえるのは大変だが、一度注目すれば自動的に魚を追いかけてくれるし、ズームもできる。
難点があるとしたら自分と魚のツーショットを撮れないことだろう。
主人公の顔やダイビングスーツのデザインは自由にカスタマイズできるだけにもったいない。
海は広いのですべての海域を回るのは大変だが、ダイビングポイントまでは船で行けるので移動も楽だ。
「南国でバカンスを楽しむ癒しゲームか」
「表向きはね」
「表向き?」
「メインは宝探しよ」
「南国の周辺だけとはいえ、海はかなり広いぞ。どうやって見つけるんだ」
「こうやって……」
たーん
「音波を飛ばして、音の反響でお宝を探すの」
「……地味だな」
海に何かがあると音が反響する。
ソナーは基本的に正面にしか飛ばないようだ。
アイテムが遠いと反響するまで(音が返ってくるまで)時間がかかり、近ければすぐに音が返ってくる。
難しいのはアイテムが肉眼で見えないことだ。
頼りになるのは音だけ。
なので、
ダダダダダッ
近くにアイテムがあると確信したらとにかくボタン連打。
目に見えないので正確な位置がわからず、ボタンを押しまくらないと発掘できないらしい。
音を頼りにお宝を探す繊細な作業からのボタン連打という力技。
色々とギャップの目立つゲームだ。
「これは体力ゲージで、こっちは酸素ゲージか。でもかなり泳いでるのに体力減ってないぞ」
「深く潜って一定以上の水圧を受けるか、所持品の総重量が一定の重さを超えないと体力ゲージは減らないのよ」
「……体力の限界までお宝を担いで、体力がやばそうだったら余計な荷物は捨てる、と。なかなかシビアだな」
「これでもまだマシなほうよ。開発段階では減圧停止と窒素酔いもあったんだから」
「減圧停止って体を水圧に慣らすことだよな?」
「そうそう」
海では10メートル潜るごとに1気圧増える。
2気圧は海水面の2倍の圧力にさらされるということ。
深い海域で泳いだダイバーは一定時間その場で停止し、水圧に体を慣らしながら水面へ向かう。
減圧停止をせずに上昇すると減圧症にかかってしまうからだ。
減圧症になると激痛に襲われ、体に障害が残ったり、ひどい時には死に至る。
海に潜っている時間が長いほど減圧停止の時間も長くなり、ダイビングよりも減圧停止の時間のほうが長いのも珍しくないそうだ。
「窒素酔いはなんだ?」
「窒素酔いになると判断力と運動能力が低下して、視野も狭くなって、幻覚が見えるようになるんだって」
「……地獄のシステムだな」
なお現在のダイビングではトライミックスなどのヘリウム、酸素、窒素を混合した気体が使われており、窒素酔いはないらしい。
トライミックスなどを使わない限り、窒素酔いを回避する手段はないとのこと。
判断力が低下すると減圧停止をせずに急浮上してしまうこともある。
恐ろしい職業病なのだ。
「さあ、待望のディープ・レック・ダイビングよ!」
「海の底を録画するのか?」
「レックは沈没船。一般的なレクレーショナル・ダイビングは深くても水深40メートルぐらいだけど、ディープ・レック・ダイビングでは60メートルぐらい潜って沈没船を探索するの」
「へえ」
ダイビング協会で水深60メートルに沈んでいる豪華客船エスポワールの情報を入手し、
『どうぞどうぞ』
さっそく中へ客を案内する。
「……ちょっと待て。客を案内する深度じゃないだろ」
「スケールを理解してないわね。これは世界最大クラスの豪華客船よ。船底は水深60メートルでも、船の上部は40メートルぐらいなの。つまり同じ船でも上部と下部ではダイビングの難易度が違うわけ」
「なるほど。下に行くほど難易度が上がるダンジョンなのか」
「そういうこと」
現実でもこのような沈没船はいくつか存在しており、上部は観光客を案内できるレベルなのに、もっとも深い場所は歴戦のダイバーでさえ潜ることができず、お宝が手つかずで眠っていることがあるそうだ。
海のロマンを感じる。
「……あれ、方角がつかめない」
「横向きだからな」
エスポワールは右向きに倒れている。
つまり右の壁が床になっており、その扉や通路がどこへ通じているのか、それを横倒しにして考えなければならない。
豪華客船はただでさえ部屋数が多い。
それを横倒しにして考えるとなるとかなりの空間把握能力が問われ、何も考えずに動いていると確実に迷う。
3Dなので船内図も読みにくい。
「ドアを目印にするしかないわね」
未探索の部屋のドアは閉まっており、部屋に入るとドアは開いたままになる。
つまりドアの開いている部屋は探索した部屋だということ。
問題は開けることはできても閉めることはできないことだ。
アイテムを取り逃した場合、一度入った部屋に戻って探索するわけだが、ドアを閉められないのでどこを再探索したのかわからなくなる。
しかも水深60メートルは暗い。
ヘッドランプや懐中電灯を使っても、船内は泥や堆積物でいっぱいだ。
わずかな動きで泥が舞い上がり、水が濁ってしまう。
壁や物に接触してしまうと最悪だ。
あっという間に目が見えなくなる。
要注意だ。
おまけに水圧が高くなるほど消費する酸素も多くなる三重苦。
いや、
「……あ、酔ったかも」
まさかの四重苦。
ただでさえ水に浮かんで視界がゆらゆらと揺れているのに、360度全方向にカメラを動かしながら泳がないといけない。
これは酔う。
「……膝かして」
「好きにしろ」
薄々そうなるのではなかろうかと予想していた。
エスポワールが右向きに倒れているのなら、自分も右向きに寝転がればいい。
こうすれば部屋の傾きがなくなり、普通に船内を探索できる。
方向感覚さえ戻れば怖いものはない。
スイスイと船内を泳ぎ回り、お宝を拾って帰還した。
「……う、気持ち悪い」
もっともすでに3D酔いになっていたので、しばらく動けないだろうが。
このままだと足がしびれるので、少しでも酔いが和らぐように背中をさすっておく。
「ソナーでお宝を探すゲームがあるなら、潜水艦を探すゲームもあるのか?」
「一応あるわよ」
『S サブマリンユニット』
3Dシューティングだ。
同じ3Dシューティングといっても、フライトシミュレーションとはぜんぜん違う。
水中なのであまりスピードが出ない。
潜水艦と戦闘機の違いもある。
戦闘機は空中で制止できないので、常に空を高速で飛び回らねばならない。
一方、潜水艦はその場で制止することができる。
……あまり意味はないが。
ちなみに後退もできる。
バラストタンクに海水を出し入れすれば重さの調節も可能。
タンクを空にすれば軽くなり、満杯にすれば重くなる。
こうして重さを調節すれば戦闘機には不可能な上下動もできた。
敵の攻撃を避わしたいのなら縦の動きは欠かせない。
他にフライトシューティングと大きく違うのはソナーだろう。
ソナーを飛ばさないと敵の位置がレーダーに表示されないので、戦闘中はソナーボタンを押し続けることになる。
「隠れる気0だな」
潜水艦は敵に居場所を悟られたら終わりなので、こんなにソナーを飛ばすことはない(ソナーを飛ばしたらこちらの存在がバレる)。
映画やゲームでは潜水艦同士が戦うのも珍しくはないが、これも現実ではありえない。
それだけにロマンを感じる。
ピピッ
敵をロックオンする。
主な攻撃手段は魚雷とニードルガンだ。
ニードルガンは通常のシューティングゲームでいうショット。
装甲の薄いザコぐらいしか倒せない。
メイン兵器は魚雷だ。
ソナーを飛ばし、敵をロックオンして発射する。
同時に複数の敵をロックすることも可能で、ロックオン時間が長いほど多くの魚雷を撃てる。
一度に撃てるのは4発、5連装魚雷なら5発だ。
撃ちつくしたら新しい魚雷を装填するまで撃つことはできない。
その代り弾数は無限なので撃ち放題だ。
ピピッ
多重ロックオンして一気に4発発射。
これだけ撃てば嫌でも当たる。
……ほど甘くはない。
「ぐ、当たらん!」
「正面から撃ちすぎ」
フライトシミュレーションのミサイルと比べればスピードが遅く、しかも上下に動けるので避わされる。
命中率を高めたいのなら敵の後ろを取ってロックオン。
この辺りはフライトシミュレーションと同じだ。
バラストの上下動を利用してもいい。
一発撃ったら上に逃げ、魚雷を装填したら下に降りて撃ち、また上に逃げる(以下繰り返し)。
その場で静止、バックもできるのでポジショニングも微調整しやすい。
このゲームならではの攻撃法だ。
なおロックオンしなくても魚雷を撃つことはできる。
もちろんロックオンしていないので、敵を追尾することはない。
動かない標的や、動きの鈍い敵に連射するならノーロックオン魚雷だろう。
「……回復アイテムはないのか?」
「ソナーを飛ばすと紫色の反応があるでしょ。その中に回復アイテムがあるわよ」
「自分で掘らないといけないのか」
今までは敵を倒すことに集中していたものの、埋まっているアイテムを発掘しないと金を稼ぎにくく、装備品も買えないらしい。
面倒だが仕方ない。
ソナーで埋没品を探し、岩などを破壊してアイテムを回収していく。
……問題は発掘しまくっても回復アイテムがほとんどないことだ。
だいたい1ステージで1つか2つ。
装備品のシールドを買って体力ゲージを増やし、なるべく被弾を避けないと死ぬ。
深く潜りすぎるのも危険だ。
水圧で体力ゲージが徐々に減っていく。
耐水装備を買うためにも発掘は必須。
ただ1ステージが結構広くて長い。
1ステージクリアするのに30分、全てのアイテムを発掘をしているとそれ以上かかる。
ゲームオーバーになった場合、発掘したアイテムは全てパー。
クリアしたステージは何度でもプレイできるものの、途中でステージを抜けることはできない。
つまり敵を全滅させるか、ボスを倒さなければいけないわけで、最初にステージをクリアした時とプレイ時間はほとんど変わらないのだ。
プレイ時間を短縮するには強い武器を買うしかない。
強い武器を買うには発掘するしかない。
悪循環だ。
しかも、
『地上の基地を破壊せよ』
水上任務まで加わった。
水面まで浮上し、地上の施設や航空機をミサイルで撃墜しなければならない。
とうぜん水上と水中の両方から攻撃される。
上からの攻撃は潜ればだいたい避わせるものの、爆雷は沈む(死角になる真上から落ちてくる)ので油断すると直撃してしまう。
水上ではソナーが使えないので、水面に顔を出している時に下から攻撃されるとどうしようもない。
ステージが進むと敵が一度に撃ってくる魚雷の数も増えてくる上に、体当たりで攻撃してくる厄介な敵もいる。
1ステージが長く、回復アイテムが少なく、上下から同時に攻撃され、ボスもなかなか強い。
難易度はかなり高めだ。
まだまだ序盤だというのに、まったくクリアできない。
「……これだから水中ステージは嫌なんだ」
「おやつでも食べて落ち着きなさい」
「そういうことは自分で作ってから言え」
「じゃあ私でも作れるおやつにして」
「作りながら食うってことか?」
「そうそう。たとえば串カツとか」
「どうせお前、揚げるだけだろ」
「野菜を切ることぐらいできるわよ!」
「それぐらいやってもらわないと困る」
不安はあるものの、とりあえず野菜は瑞穂に任せる。
俺はメインの用意だ。
串カツなら豚肉のヘレ(ヒレ)やニラ巻(豚でニラを巻く)、魚雷っぽい魚肉ソーセージ、キスあたりだろうか。
ねぎとマグロでねぎマというのも面白い。
紅ショウガもイケる。
あとはバッター液だ。
小麦粉→卵→パン粉をまぶして揚げるのは地味に面倒くさい。
なので串カツ屋では小麦粉や卵、牛乳などを混ぜたバッター液を使うことが多い。
これならバッター液→パン粉の二工程ですむ。
バッター液は下味にもなるので、三工程で揚げるより美味くなることもしばしば。
オススメの調理法だ。
ソースはたっぷりのウスターソース。
もちろん二度漬け禁止。
飲み物はサイダーがいい。
油ものとビールの相性がいいように、揚げ物には炭酸飲料が合う。
揚げながら食べるのでテーブルにカセットコンロをセットし、油がはねても汚れないようにシートを敷く。
「これでよし、と」
こっちの準備は万端だ。
しかし肝心の瑞穂の姿が見えない。
たまに奥から音がするのでサボっているわけではないだろうが、顔が見えないと落ち着かない。
「……」
ちりんっ
反射的に呼び出しベルを押した。
すると、
「なに?」
奥から野菜を片手にひょっこりと顔を出した。
思わず苦笑してしまう。
「なるほど、ソナーはこうやって使うのか」




