オープンワールドセット【焼きリンゴとホットミルク】
参考ゲーム
ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド
「腕だけで剣振ってる感じだな。攻撃に重量感がない」
「MOD入れれば?」
「攻撃しても敵がノーリアクションだから手応えがない。痛みを感じないゾンビを攻撃してるみたいだ」
「MOD入れれば?」
「……翻訳がおかしい。会話も脈絡がない。世間話してたのに急に怒り出したぞ」
「MOD入れれば?」
「なんでもMODで解決しようとすんな!」
「洋ゲーではそれが当たり前なのよ」
MOD、すなわち改造データ。
パッチに近いものの、基本的にファンが勝手にゲームを改造して作ったデータだ。
公式なものではないため、MODを入れてゲームデータが破損したとしても自己責任である。
海外ではMODが当たり前で、MODを入れまくって自分好みのゲームを作るらしい。
ゲームによってはMODを入れるのが前提らしく、メニュー画面にMODという項目があるそうだ。
人任せすぎる。
「あくまで戦闘はおまけ。『オープンワールド』は探索してなんぼよ!」
「戦闘が楽しいから目的もなく探索できるんだろ。もっさり戦闘をしながら探索する気にはなれないんだよな……」
「MOD入れれば?」
「うるさい」
MODを入れて改造するのも面倒だし、なによりデータの破損が怖い。
というか、面白さがわからないゲームをわざわざ改造してまでプレイする感覚がわからない。
日本と海外ではゲーム感が違いすぎる。
オープンワールドは人や国によって定義が違うが、マップに継ぎ目がないゲームのことを指すことが多い。
たとえばクリーチャーハンターなどはAエリアからBエリアに移動すると、ロード時間が発生し、Bエリアが表示されるまでに時間がかかる。
しかもBエリアにいる間はAエリアを見ることも、Aエリアにいる敵を攻撃することもできない。
オープンワールドのゲームにはマップの継ぎ目が存在せず、AからBに移動してもロードが発生しないため快適に冒険できる。
日本では『最初からどこにでも行ける』『自分の好きな順番でシナリオを進められる』自由度の高いゲームがオープンワールドと呼ばれがちだ。
日本のRPGは一本道シナリオが多く、行ける場所が制限されており、シナリオは順番に進めないといけない。
オープンワールドにもメインシナリオは存在するものの、いつプレイするかはプレイヤーの自由。
場合によってはシナリオを進める必要すらない。
必須イベントがないため、自分の足で世界中を歩き回ってイベントを探し、気に入ったイベントをプレイする。
だからオープンワールドでは探索が楽しいのだ。
「一本道RPGっていうと『トラ食え』を連想しがちだけど、初期のトラ食えはオープンワールドに近いわよ」
「は?」
「昔はシナリオ進行とかフラグ管理が洗練されてないから、わりと最初からどこにでも行けて、イベントを攻略する順番も固定されてなかったでしょ? しかも2Dゲームのマップって継ぎ目がないし」
「あ」
確かにそうだ。
2Dゲームのフィールド画面は紙の地図のようなものであり、一枚のペラペラなマップの上をキャラが歩いている。
最初からいろんな場所に行けるのだ。
先に進むと強い敵が出てきて殺される(もしくは船のような移動手段がない)ので、ほとんどのプレイヤーは似たような順番で攻略することになるものの、やろうと思えば序盤から後半のイベントを攻略できる。
それにドット絵時代のゲームはAからBへ移動しても(たとえば東京から大阪へ移動しても)ロード時間が発生しない。
3Dのゲームは容量が大きく、2Dよりマップを作るのに手間がかかるため、2D時代のようなフィールド移動がない。
「初期の3DRPGは紙の地図風のフィールドを探索できたけど、グラフィックがリアルになればなるほど地図フィールドに違和感を感じるでしょ?」
「そうだな。手抜きっぽい」
佐賀シリーズの最新作もそれで意見が分かれていた。
「だから地図フィールドを採用するゲームは少なくなって、街から街へ移動するには専用の道を通らなくちゃいけなくなったわけ」
「なるほど。移動するには特定の道を歩かなくてはならず、街道の外へ出ることも不可能。つまり序盤から後半の街へ移動することはできなくなった、と。3DになってRPGの一本道化が加速したわけだな」
「そういうこと」
決められた道しか歩けず、探索できる範囲も狭い。
だから『最近のRPGは冒険している感じがしない』『世界が狭くなった』と評されるようになったのだろう。
3D化によって失った自由度を、オープンワールドで取り戻したわけだ。
……だが探索には戦闘が付き物。
戦闘が面白くないゲームは探索するのがきつい。
「オープンワールドで戦闘が面白いゲームはないのか?」
「無難なのは『ブレス・オブ・ザ・マイルド』ね」
「お、リンクか」
ブレス・オブ・ザ・マイルドは『リンクの伝説』の最新作。
3Dアクションとしての完成度はお墨付き。
これも従来のシリーズに比べて敵が強く、油断すると死ぬ。
ただ回復アイテムはいくらでも拾って食べられるので、手間を惜しまなければまず負けることはない(高火力で即死させられたらどうしようもないが)。
特筆すべきことは登攀能力だろう。
モンスターとダンジョンの壁以外、あらゆるものに登れる。
廃墟の壁、木、そして山。
スタミナを管理しながら、高い山を登って未開の土地に足を踏み入れるワクワク感。
スタミナが切れると下へ落ちてしまうので、手を放しても落ちない足場を確保し、スタミナを回復しつつ頂上を目指す戦略性。
ある意味、世界そのものがボスなのだ。
これぞオープンワールド。
「あいきゃんふらい!」
「お前が言うな」
そして頂上へ登ったらダイビング。
山の頂上から飛び降り、ハンググライダーで滑空して未探索地域まで飛んでいく。
苦労して制覇した山から、まだ見ぬ土地へひとっ飛び。
爽快だ。
世界各地には祠というミニダンジョンがあり、これを探してレベルアップする(祠をいくつかクリアするとライフやスタミナを増やせる)のが主な目的になる。
特定の祠の近くには村があるので、祠探しは村探しも兼ねていた。
村ではクエストも受注できるので一石二鳥。
とにかく高所へ登りつつ祠を探し、世界地図を埋めていくだけで楽しい。
「お腹空いた」
「焼きリンゴでも食ってろ」
本作でよくお世話になる食べ物だ。
リンゴはたくさん取れるし、焼くとライフの回復量が上がる。
火山地帯だと食材を地面に置くだけで勝手に焼けるため、焼きリンゴは大量生産しやすい。
しかもクエストで焼きリンゴは高値で売れるから金策にもなる。
飲み物はホットミルク。
……ゲームでよくあることだが、料理のバリエーションはあっても飲み物の種類は少ない。
喫茶店の人間としてはさびしいかぎりだ。
「えーと、予熱で170度っと」
予熱とは料理を入れる前にオーブンを温めておくこと。
うちのオーブンだとだいたい10分かかる。
その間にリンゴの芯をくりぬく。
芯をくりぬく時、貫通しないように注意。
中に砂糖やバターを入れるからだ。
シナモンはお好みで。
「オープンワールドだからラストダンジョンにも直行できるんだよな?」
「もちろん。RTAの人気種目よ」
「……種目ってなんだよ」
「人気ゲームだから毎週のように新技が発見されてるわよ。もうみんなラストダンジョンまで走らずに飛んで行くし」
「当たり前のように飛ぶな!」
対象の時間を止める『ピタロック』という技がある。
ピタロック中に殴ると運動エネルギーが蓄積され、効果時間が切れると蓄積された運動エネルギーが一気に爆発して吹き飛ぶ。
これを利用して木の時間を止め、武器で運動エネルギーを蓄積して木の上に乗れば、木をロケットのように発射して目的地まで飛ぶことができる。
理屈は簡単だが、時間内にエネルギーを蓄積して、なおかつ狙った方向へ飛ぶのは意外に難しい。
なお人気漫画『竜球』の桃黒黒というキャラが『空へぶん投げた柱の上に飛び乗って空を飛ぶ』というシーンがあるため、この移動方法はタオ・ヘイヘイと呼ばれている。
「タオ・ヘイヘイでもラストダンジョンまで飛ぶの時間かかるだろ。あそこまで行くのに何回も同じことしないといけないしな」
「そこで『バレットタイムバウンス』よ!」
「……また意味のわからん技を」
このゲームでは空中で弓を構えるとスローモーションになる。
これが『バレットタイム』だ。
空から落ちながら矢を射つという命がけのシチュエーションなので、主人公の集中力が極限まで研ぎ澄まされ、周囲がスローモーションに見えているということだろう。
具体的にいうと速度が20分の1になる。
「でも『盾サーフィン』で敵にぶつかった時、なぜか衝撃が20分の1になってないの。この状態でスローモーションを解除したらどうなると思う?」
「……20倍の速度で吹っ飛ぶ?」
「正解」
「バカじゃないのか」
盾サーフィンは盾をボードにして坂をすべる技。
そしてバレットタイムはあくまで空中で弓矢を射つための技だ。
バレットタイム中に盾サーフィンで敵にぶつかるなんて製作者は想定していない。
製作者さえ予測していないバグを利用し、高い位置から飛び降りてバレットタイムで敵にぶつかり、スローモーションを解除して20倍のスピードで任意の方向へ吹っ飛ぶ。
それがバレットタイムバウンスだ。
時間停止による運動エネルギー保存よりも、バレットタイムで獲得できる20倍のバウンドエネルギーのほうが速い。
これを利用すればあっという間にラストダンジョンへつける。
「問題は処理落ちね。すごいスピードで移動するから処理が追いつかないのよ」
グラフィックが細部まで作りこまれているので、バレットタイムバウンスであまりにハイスピードで移動するとゲーム機の処理が間に合わず、一時的にゲームの動作が遅くなってしまう。
「ここでカメラワーク」
なぜか空を見上げた。
「なにやってんだ?」
「画面にグラフィックを表示するから処理に追われるんでしょ。なら表示させなければいいじゃない」
「なるほど。処理落ちを防ぐためのカメラワークか」
情報量の多いゲームほど処理落ちが発生する。
情報量の多い街や敵、技のエフェクトをカメラに映らないようにして、処理落ちを防ぐのがタイムアタックのコツらしい。
効率よく敵を倒すだけではダメだということだ。
……ただ極限まで処理落ちを防ぐプレイをしていると、カメラワークが滅茶苦茶になってプレイヤーは混乱するし、視聴者もわけがわからなくなるという欠点はある。
「あとは武器とパワーアップアイテムを現地調達してボスを倒すだけ。ここでも時止めが役に立つわね」
「ボスの時間も止められるのか?」
「私が止めるんじゃないわよ。ゲームが止めるの」
「は?」
「ここで矢を置く」
ボスが出現する瞬間に矢を射ち、そしてイベントムービーが始まった。
そしてムービーが終わった瞬間、
『ぬわー!?』
「死んだ!?」
なぜかボスが死んだ。
「なんだ今の」
「ムービー中はフィールド上の時間は止まるでしょ?」
「そりゃ、ムービー中に動けたら敵を攻撃し放題だからな」
「でも時間は止まっても、当たり判定は残ってるのよ」
「は?」
「ムービーが始まる前に射った矢は、ボスが出現してムービーが始まった瞬間に時間が止まる。つまり『空中に矢が固定される』わけ。でもなぜか矢の当たり判定はムービー中もずっと発生してて、矢の固定された空間に出現したボスにダメージが蓄積されていくのよ」
「だからムービーが終わった瞬間に死んだのか!」
「そういうこと」
おそらく少しでもタイムを縮めるための先制攻撃でたまたまこの現象が発生したのだろうが、それを当たり前のように再現できるゲーマーはやはり頭がおかしい。
「……バグだらけだな」
「RTAで人気のあるシリーズはだいたいこんな感じよ」
人気があればあるほど解析されるため、発売から数十年経っても新しいバグが発見され、どんどんゲームが壊れていくらしい。
人気ゲームの宿命だ。
「まだ壊せる」
「やめてさしあげろ」




