武器格闘ゲームセット【干し柿と白湯】
参考ゲーム
サムライスピリッツ
ブシドーブレード
「格ゲーしましょ」
「勝ち目のない戦いほどつまらんものはない」
「じゃあ『ハートアンダーブレード』にする? これなら直撃させれば一撃必殺よ」
「格ゲーで一撃必殺? それなら勝てそうだな」
ハートアンダーブレード、すなわち『忍』。
忍者たちの格ゲーなのでてっきり江戸や戦国時代の話なのかと思いきや、現代が舞台だ。
世界観がよくわからない。
黎明期の3Dアクションなので仕方ないが、操作性も劣悪。
しかも必殺技が多く、コマンド入力をしないといけない。
おまけに上段・中段・下段の構えがあり、構えによって出せる技が違う。
覚えることが多すぎる。
防御すら難しい。
ガードボタンはあるものの、ボタン押しっぱなしではガード状態にならないのだ。
相手が攻撃してきた瞬間にボタンを押さないといけない。
仮にタイミングよくガードできたとしても、体重やパワーの差があると防御を崩されてしまう。
非力なキャラは要注意だ。
一応、ガードを崩されたら後転できるので距離は取れる(パワーのあるキャラは崩れないので後転しにくい)ため、非力だからといって不利なわけではない。
カンッ カンッ
「くそ、障害物がうっとうしい!」
周りに物がある状態で攻撃しようとすると武器が弾かれまくる。
それは敵も同じなので逃げ込むのならここだろう。
弾かれないように攻撃しようとするとワンパターンになり、崩されやすいので危険だ。
「体力ゲージがないのが怖いな」
いつ死ぬのかわからない。
攻撃を受ければ、攻撃を受けた個所が動かなくなるのもやばい。
特に足をやられたら歩けなくなるので必死だ。
ちなみ足をやられた場合だけ『降参』できる。
変なところでリアルだ。
『ぬわー!?』
「……なんで俺は一発で死ぬのに、お前は死なないんだよ。おかしいだろ」
「ふふふ。実は急所に当たらなければ何発食らっても死なないのよ!」
「なんだと!?」
「当たった場所は動かなくなるからリスクはあるけどね」
まさしく肉を切らせて骨を断つ。
急所に当たると即死なので初級者にはマネできない。
「……ストーリーモードからプレイするべきだった」
一撃必殺があるといっても操作が難しいので、ストーリーモードで操作を覚えることにする。
少しプレイした感じでは、相手が戦闘態勢を取る前に斬るのがベストだ。
段差を超える瞬間を狙ってもいい。
アクションゲームのようにマップを自由に移動できるので、次のマップへ移動して追っ手から逃げてもクリアになる。
『卑怯者!』
……ただしこれらのテクニックを駆使してクリアしても、忍びの道に反しているということでエンディングは見れない。
結局、自力で倒すしかないのだ。
そうなれば当然、。
『ぬわー!?』
こういうことになる。
「……難しすぎだろ」
「いっそ普通の武器格ゲーのほうがいいのかも」
『サムライスピリット』なるゲームに差し替える。
たしか中東の石油王に買収された会社のゲームだ。
説明書でストーリーとコマンドを確認する。
格ゲーは作品・キャラごとにコマンドを覚えなければいけないのがわずらわしい。
古いゲームはコマンドも長めなのでなおさらだ。
「干し柿と白湯どっちがいい?」
「なにその二択」
「関ヶ原で負けて、処刑される直前の石田三成のエピソードだ。三成が白湯を要求したんだが、白湯がなかったんで代わりに干し柿を渡そうとするんだよ。兵士はせめてもの餞のつもりだったんだろうが、三成は『柿はたんの毒』って拒否するんだよ」
「たんの毒?」
「体に悪いから食わないってことだ」
「処刑される直前なのに?」
「世の中、最後まで何が起こるのかわからないからな」
「かっこいい」
まあ、結局何事も起こらずに処刑されたのだが。
三成の中ではもっとも武将らしいエピソードである。
「柿美味しい」
もちろん俺たちは干し柿を選び、白湯も飲む。
これが平和の世に生まれた幸せだ。
『いざ、尋常に……』
「隙あり!」
「な!?」
『勝負!』の掛け声がかかる前にキャラが動いた。
開幕と同時に必殺技を使うのは格闘ゲームでよくあることだが、開幕前に動けるのは珍しい。
ただ前後に動けるだけで、ジャンプや技は出せないが……。
勝負はもう始まっている。
予想外の動きに戸惑ってしまったこともあり、
『勝負あり!』
あっという間に惨殺されてしまった。
「空中ガードが優秀だから、地上にいるよりピョンピョン飛んでたほうがいいわよ」
「……侍っぽくないな」
空中ガードをしてもほとんど硬直時間が発生せず、即座に反撃できる。
おまけに地上技すらガードできてしまう。
デメリットがないのでたしかにジャンプしていたほうが安全だ。
「てい!」
「げ!?」
欠点があるとしたら着地。
空中ガードよりも着地の硬直時間のほうが長い。
着地した瞬間に投げ技を出されると回避はほぼ不可能。
着地した瞬間にもう一度ジャンプし、着地の硬直をキャンセルするしかない。
なお先行入力、すなわち着地前にレバーを上に動かしていても回避は不可能。
硬直した後にジャンプするからだ。
硬直をキャンセルするには先行入力ではなく、着地した瞬間を見極めて入力する目押しが必須。
かなりシビアだ。
『勝負あり!』
「くそ! どうやったら勝てるんだ?」
「使いにくい必殺技は捨てて、強斬り当てたほうがいいわよ」
「強斬り?」
「武器持ってるから一発が重いでしょ。下手な必殺技よりも強斬りのほうが威力があって、攻撃力の高いキャラなら3発当てれば勝てるわよ。カウンターなら2発」
モーションが大きいのは気になるが、3発当てるだけなら勝てる気がしないでもない。
「それと至近距離なら相手に密着してもいいわね。武器持ってるから普通の格闘ゲームよりリーチが長いんだけど、実は手前に当たり判定ないから。密着してると空振りしてくれるわよ」
「なるほど」
あとはつばぜり合いだ。
体力に一定以上の差があり、お互いの攻撃(武器)がぶつかるとつばぜり合いが発生する。
これは純粋な連打勝負で、一定時間内により多くボタンを押したほうが勝つ。
勝てば相手の武器を弾き飛ばすことができるので大チャンスだ。
「16連射!」
「うああ!?」
……ただしゲーマーが相手だと高確率で押し負けるので自殺行為だ。
狙ってやるものではない。
「一番重要なのは『回り込み』と『引っ張り』ね。回り込みで背後に回り込まれたり、引っ張りで防御を崩されると死ぬまで斬られ続けるわよ」
「……ゲームバランス崩壊してないか?」
「逆よ。どのキャラを使ってもそういう展開になるから、ひどいレベルでバランスが取れてるの」
「取れてねえ!」
こうなると次の展開が読める。
『いざ、尋常に勝負あり!』
開幕と同時に背後へ回り込まれ、そのままなぶり殺しにされた。
……頼むから尋常の勝負をさせてくれ。