RPGセット【バゲットサンドとベトナムコーヒー】
参考ゲーム
アンリミテッドサガ
「……んー、わかりにくいわね」
しきりに人を殺せそうな厚さの攻略本をめくりながらRPGをプレイしていた。
『青天井・佐賀』
タイトルの意味は不明なものの、おそらく有名な『佐賀』シリーズの一作だろう。
「初回プレイで攻略本使うのは珍しいな」
「これ別売り説明書なのよ」
「は?」
「ゲームに付属してる説明書が説明になってないの。だから攻略本読まないとまともにプレイできないわけ」
「……この本いくらだ?」
「1800円」
「これ買わないとプレイできないってゲームとして終わってるだろ」
「だからどこのゲームショップでも投げ売りされてるわよ。中古でも攻略本のほうが高いし。ゲームショップで福袋買ったら、中身全部これだったっていう都市伝説もあったわね」
「……よくそんなの買ったな」
「システムさえ理解できたら、つまらなくはないもの」
「そこは面白いっていえよ」
「だって難易度高いし」
こいつが難しいというからには相当なものなのだろう。
ダンジョンの移動方法からして一味違う。
部屋や道ごとにマップが区切られており、一マス一マスすごろくのように進んでいく。
『宝箱を発見した。宝箱レベル13』
「ここでスキルね」
罠の解除というスキルを使うと、スロット(このゲームではリールと呼ばれている)がくるくる回りだした。
「○の目で止めたら成功、×で失敗だとして……。爆弾マークはなんだ?」
「大失敗。ただの失敗なら罠が発動しないこともあるけど、爆弾マークで止めると……」
どかーん
「……トラップが確実に発動して、最悪こういう風に爆発するの。ダメージ食らう上にアイテムも手に入らないんだけど、罠の中には宝箱モンスターのミミックがあるから、わざと失敗するのもありみたいね。ミミックは貴重なアイテム落とすし」
「へえ」
ちなみにほぼすべての宝箱に罠と鍵がある。
宝箱を見つけるたびにリールを回さないといけないのが面倒だ。
おまけにリールは宝箱だけではない。
どかーん
どかーん
どかーん
「ぎゃー!?」
罠はいたるところに設置されているし、怪しい場所を調べたり、障害物を飛び越えたりする時にもリールを回さないといけない。
「……敵と戦ってないのに死にそうだな」
「L3で回復できるから大丈夫」
コントローラーにはL・Rボタンは2つしかない。
L3とは左スティックを上から押すことだ。
カチッ
『待機しますか?』
1ターンその場で待機するとHPが回復するらしい。
「……なんで製作者はL3にしたんだ。普通にプレイしてたら絶対気づかないだろ」
「しかもこれ説明書に書いてないのよね」
「はあ!?」
「移動しようとしてる場所に敵がいると文字が黄色くなるんだけど、これも説明書に書いてないのよね。当時のRPGは十字キーで移動するのが普通だったから、歩くこともできないプレイヤーも続出したらしいし。投げ売りされた理由の半分はこれよ」
「残りの半分は?」
「リールと武器の使用回数制限と術システムのわかりにくさと難易度」
「……ほとんど全部だろうが」
「リールは慣れるし、使用回数はスキルで回復できるし、術は回復だけで充分。難易度が高くなるのは敵が強いからだけど、ザコの強さは戦闘回数に比例するから無駄な戦闘を避ければラスボス以外はなんとかなるはずよ」
「で、そのラスボスはどのぐらい強いんだ?」
「RPGのトラウマボスランキングに名前が載るぐらい」
なんてわかりやすい説明だ。
気になったのでネットで調べてみると、浪漫佐賀2と3、佐賀・開拓地2のラスボスもランクインしていた。
明佐賀のラスボス完全体にいたっては、最強のラスボスランキングでもトップクラス。
……このシリーズの製作者は頭がおかしい。
「戦闘システムもややこしいな」
パーティーメンバーは最大5人。
シンプルなターン制のRPGなら1ターンに1人1回ずつ、計5回行動する。
しかし佐賀は違う。
1ターンに5回行動するのは同じだが、誰を何回動かしても構わないのだ。
つまり1人を5回動かしてもいい。
ただ行動しないキャラはそのターンの間、画面の外に消える。
1人を5回動かすと集中攻撃を食らうことになるわけだ。
画面外に消えたキャラはHPが回復するので、多人数でダメージを分散させつつ、適度に交代してHPを回復するのが重要になる。
「目押しの時間だー!」
ターンが始まるとリールが回りだした。
佐賀シリーズは戦闘中にピコーンと技を閃く(ちゃんと頭の上に電球が浮かぶ)のが名物。
だが今回のシリーズでは、強い技を覚えてもリールを止めることができなければ発動できない。
武器にはそれぞれ基本技が設定されている。
長剣なら二段斬りや払いぬけなどだ。
技はレベル1から5まである。
二段斬りを使うとリールが回りだし、レベル1で止めたらもちろん二段斬り、リールをレベル2で止めればかすみ二段、3なら天地二段という技になる。
強い技ほどリールの目が少ない。
×や爆弾はないのでその点は安心だ。
戦闘システムをさらにややこしくするのが連携。
○ボタンを押すとリールが止まって攻撃するわけだが、ここで□ボタンを押すとリールが止まらずに次のキャラのリールが回りだす。
ここで○ボタンを押すと2つのリールが同時に止まり、
『かすみ天地二段』
2人のキャラが連携して攻撃する。
すぐに攻撃せずに次のキャラと連携することを『ホールド』と呼ぶ。
1人で5連携することも可能だが、連携は参加人数が多ければ多いほど破壊力が大きくなるのであまり意味はない。
もちろんデメリットもある。
『体当たり牙』
「敵も!?」
このように連携は敵も使ってくる。
連携されると大ダメージを食らう。
それとリールだ。
連携に参加している人数分のリールが回り、○ボタンを押すとそれが一斉に止まる。
同時に回る5本のリールを高レベルの目で止めるのはまず不可能。
それと敵の割り込みだ。
戦闘は素早い順に行動する。
もしプレイヤーキャラの次に動くのが敵だったら、
『二段体当たり』
「カウンター!?」
敵と連携が繋がり、そこで味方との連携を切られてしまう。
敵に割り込まれると受けるダメージが多くなる上に、『ホールドした時点ではリールは止まってない』のでレベル1の技しか使えない。
ただし敵が連携を狙ってホールドしてきた場合、その敵の次に動くキャラ(連携で最後に動くキャラ)がプレイヤー側だったら、プレイヤーがリールを止めることになるので割り込まれても高レベルの技が使える。
なお1ターンで1人が5回行動できるシステム上、ザコも1匹で複数回行動してくる。
行動回数が多いので割り込まれやすい。
敵がいつ行動すのるかわからないのでうかつにホールドできない。
「ん、HPが0になったのに死なんぞ」
「LPが0にならない限り死なないのよ。HPはスタミナみたいなもんで、これが低いほどLPダメージを食らいやすくなるの」
技を使うのにも、術を使うのにもHPを消費する。
たしかにスタミナっぽいかもしれない。
ただHP0でも技が使える上に、HPが残っていてもLPを削られるのでとっつきにくい。
LPは回復手段がないものの、L3でHPはいくらでも回復できるのでなんとかなる。
……それだけにL3を説明書に書いてないのは致命的だ。
L3のデメリットは待機すると1ターン経過してしまうことだが、メインシナリオにはターン制限がないので問題はないらしい(サブシナリオはターン制限があるが、クリアに失敗してもやりなおせる。ただし一度クリアすると二度と挑戦できない罠がある)。
「……やっとクリアできた」
最初のシナリオなのに疲労困憊だ。
先が思いやられる。
「すごろくみたいに移動したり、シナリオの最後にレベルアップするところはTRPGっぽいな」
「サイコロをリールにしたTRPGね。まあ、製作者は別にTRPGを意識したわけじゃないんだけど」
スキルで探索するシステムを作ったら、必然的にこうなってしまったらしい。
それだけTRPGのシステムがよくできているということか。
このゲームのシステムでTRPGをするのも面白そうだ。
「お腹空いた」
「なにが食いたい?」
「フランスパン!」
「そういやフランスパンで戦ってるキャラいたな」
このゲームには重さというパラメータがあり、体重によって使える体術が違うのだが、主人公の兄は太っているのにパラメータ上の体重が一番軽い。
いわゆる動けるデブというやつだろうか。
いつもフランスパンを持ち歩いており、体術を使うとフランスパンを持った手で敵をボコボコにぶん殴る。
というかフランスパンで殴っている。
これでダメージを与えられるのだからすごい。
「フランスパンならお茶はコーヒーだな。それもベトナムコーヒー」
耐熱グラスの上にフィルターを乗せ、直接コーヒーを淹れる変わり種だ。
「なんでグラスなの?」
「コーヒーカップだとどれだけコーヒーが溜まってるか見えないだろ」
「あー、なるほど」
豆は深煎りで、極細挽きのものがいい。
ただコーヒー粉がフィルターから落ちてしまうことがあるので、ベトナムのコーヒーフィルターがないなら細挽きの方がいいかもしれない。
「こっちはカフェ・スーダー。あらかじめグラスにコンデンスミルクを入れてたやつだ。かなり甘くなるから一気に混ぜるな。好きな甘さになるように調節しながら混ぜろ」
「はーい。んー、パリパリシャキシャキ!」
フランスパン(正確にはバゲット)は砂糖を使わずパリパリに仕上がっている。
中に挟むのもハムとシャキシャキの野菜。
ベトナムはフランスの植民地だっただけに、フレンチスタイルとの相性は抜群だ。
「だいたい感じがつかめてきたかも」
バゲットサンドを食いながらシナリオを進めると、高レベルの目でリールを止められるようになっていた。
リールは慣れるというのは嘘ではないらしい。
それにリールの目はスキルレベルごとに固定されているらしく、目の並びを覚えれば止めやすくなるようだ。
戦闘のリールの色は技レベルごとに違うので、技をたくさん覚えるほど色違いの目が増え、それを目印にすれば止めやすくなる。
「このスキル、リールが回った瞬間にボタン連打すればほぼ確実に○で止まるな」
「スキルレベルを上げるとリールの目も変わるから、もしリールの最初に選びたい目があるのなら、あえてスキルレベルを上げないのもアリね」
「なるほど」
仕掛けられているトラップのレベルによってこちらのリールの目も変わる。
なので罠解除スキルを複数持ち、トラップのレベルによって自分の一番止めやすいスキルレベルを選ぶこともできる。
「戦闘のリールの目の並びも固定。それぞれ回転速度が違うから、回転すればするほど目はズレるみたいね」
「逆にいえば回転しはじめたばっかりの状態が一番目がそろってるってことか」
「そうそう。だから狙うのは目がずれてない一周目。最初の1秒。あえてレベルの低い目で止めて、仲間の目を高レベルでそろえるのも手ね。あとは武器の種類とスキルレベルで目の微調整」
「……ややこしいな」
連携ができるようになったら、次はいかに敵の割り込みを阻止するかが重要になる。
素早さ調整だ。
プレイヤー陣営と敵陣営、その状況でもっとも早く動けるキャラがいる陣営に手番が回ってくる。
素早さといってもキャラのパラメータだけではなく、使う技と敵との位置関係で早さは大きく変わる。
基本的に短い武器ほど早く、長い武器や遠距離攻撃武器、術ほど遅い。
その武器を使う適正距離にキャラがいるほど早く行動できる(そのターンの戦闘に参加するキャラを選んだ順番で立ち位置が変わる。選んだ順番が早いほど距離が近い)。
1戦闘開始
2そのターンの攻撃に参加するキャラ、立ち位置、使う技を決定
3一番早く動けるキャラのいる陣営に手番が回ってくる(動かすキャラは誰でも構わない。ただし遅いキャラを動かすとパーティー全体の素早さが下がる)
「弓か術を使ったほうがよさそ。弓か術を使ってパーティー全体の行動を敵より遅くすれば割り込まれないし」
「でも敵に先手を取られるし、敵も連携がしやすくなるぞ」
「HPが0になっても戦闘不能にはならないでしょ。HPが高ければLPを削られる可能性も低いから状況次第よ」
状態異常を使ってもいい。
敵を麻痺させるか眠らせれば連携し放題だ。
気絶はそのターンしか行動不能にできないが、麻痺や眠りよりも確率は高い。
連携を多用してくる敵を利用してこちらの連携を繋ぐという方法もある。
敵も割り込まれると技レベルが1になるので、あえてこちらは連携せずに敵の連携を潰してもいい。
あとは参加人数。
戦闘に参加しなければ、そのターンは敵から攻撃されない上にHPが回復する。
敵が全体攻撃を使ってくるのなら少人数で戦ったほうがいい。
2人組か3人組の交代制が理想だろうか。
LPが0にならない限り死なないので、重要なのはHPよりもLPの多さ。
LPの多いキャラをアタッカーにし、低いキャラを壁にする。
技も状況によって使い分けたい。
敵にもLPがあり、LPを0にしないと倒せない。
HPを削れる技とLPを削れる技は違う。
手数が多いほどLPを削れる。
序盤は渾身の一撃でHPを削り、後半は手数の多いラッシュ技を連携で繋いでLPを削る。
これで完璧だ。
「あああ!? ここでレベル1!?」
……確実にリールを目押しできればの話だが。
「面白そうなゲームをしてますね」
「あ、先生」
「ちょっとやらせてもらえませんか?」
「いいけど……。できるの?」
「目押しは得意です」
自信ありげにリールを回すと、レベル4と5の技(閃きやすさが違うぐらいでレベル4と5に威力の差はない)をどんどん止めていく。
最終的には、
『滅殺滅殺滅殺異界のオーバーキル』
「おお!?」
完璧な5連携が繋がった。
目押しのスキルレベルが高すぎる。
「どうやったらそんなにリール止められるの?」
「お金を賭けてスロットすれば嫌でも目押しができるようになりますよ?」
これほどためにならないアドバイスも珍しい。




