カウントダウンセット【アイスとお汁粉】
参考ゲーム
勇者30
「速さが足りない!」
どこかで聞いた覚えのあるセリフを叫びつつ、勇者がフィールドを縦横無尽に駆け回り、モンスターに体当たりして物凄い勢いでレベルアップしていく。
シナリオ開始直後はレベル1だったのが、あっという間に20を超え、
『うぼぁー!?』
ボスさえもザコのように瞬殺した。
この間わずか20秒。
とてつもない疾走感だ。
「……なんだこのゲーム、バランス崩壊してるだろ」
「勇者がこんなに早くレベルアップするのは時の女神の力だから、シナリオをクリアしたらレベルは元に戻るわよ。それに時間制限もあるし」
「だから画面に時間が表示されてたのか」
どうやら毎回、世界を滅ぼす『滅びの呪文』が詠唱され、その詠唱が終わる30秒以内にボスを倒さないといけないらしい。
キャッチコピーは『週刊・世界の危機』。
……創刊号が特別価格で買えそうなフレーズだ。
空いた時間にプレイするのに最適なゲームなのでやってみる。
『おん・あるふぁ・えと・おめが・いおと・てとらぐらまとん』
早速ボスが滅びの呪文を詠唱し始めた。
装備を整えるため村に立ち寄る。
時の女神の力によって村の中では時間が流れない。
安心して村人と話ができる。
残り時間が少なくなったら時の女神の像にお布施をすると時間を巻き戻してくれる。
ただし1回巻き戻すごとに100→200→300と値段が高くなっていくらしい。
強欲な女神だ。
時間を戻してもレベルはそのままなので、何度か巻き戻してレベルを上げてボスを倒すことになる。
なので必ずしも1シナリオ30秒で終わるわけではない。
30秒でレベルを上げつつ金を貯め、アイテムを買い、情報を集め、トラブルを解決し、仲間を集め、時間を戻し、ボスを倒す。
それが基本だ。
ゲームはシンボルエンカウント方式で、フィールドを歩いているモンスターのシンボルに接触すると戦闘画面に突入する。
戦闘は横スクロールアクションっぽい画面で、勇者は左から右へ、敵は右から左へ進み、相手に体当たりするとダメージを与えることができた。
×ボタンでダッシュ。
ダッシュすればフィールドでも戦闘でも高速で動くことができるものの、一歩歩くごとにHPが減る。
使うとしたら村から村への移動やザコ戦でのレベル上げ、残り時間が少ない時だろう。
□ボタンでアイテムを使える。
アイテムは一個しか持てない。
制限時間やダッシュによるHP減少を考えれば薬草は必須だが、時間を戻したり装備を整えるのに金がかかるので回復アイテムもそんなにたくさんは買えない。
シナリオで使い切れなかった金は10%しか手元に残らない(超速レベルアップや村で時間を止めている対価として女神が没収する)上に、どれだけ金を貯めてもシナリオが始まったら所持金は100になる(スピードが命なのでレベルが低い内は重い金貨を持たないようにしている)。
金も回復アイテムも使いどころが重要だ。
10%しか手元に残らないのでなるべくシナリオ内で使ったほうがいい。
戦闘中にL・Rボタン同時押しをすると左へ走る。
画面から出れば戦闘から逃げることもできるし、あまり使う機会はないがボスの特殊攻撃を避わすこともできる。
ちなみにタイムオーバーにならない限り敵にやられてもゲームオーバーにはならない。
初期配置や直前に立ち寄った村まで戻されるだけだ。
わざと死んで村までワープするのも1つのテクニックだろう。
レベルを上げて物理で殴る単純なゲームではあるものの、シチュエーションが凝っているのでプレイヤーを飽きさせない。
たとえばボスがプレイヤーを追いかけてくるシナリオ。
シナリオ開始時点では勝てないので、いかにボスから逃げてレベルを上げる(無駄に走るとHPが減ってザコにも負けるので、ボスが通れない森などを盾にしてザコと戦う)かが重要になる。
あまりに巨大で生身の体では勝てないボスは、時間内に罠を仕掛けて倒す(時間を戻すと仕掛けやボスの体力も元に戻る)。
勇者の力が暴走して滅びの魔法が発動し、『30秒以内に自分を倒してくれる敵を探す』というシナリオもあった。
時間がテーマになっているだけに、時間でフラグ管理されていることも多い。
たとえば残り時間が10秒の時にしか現れない敵や、残り時間が5秒にならないと入荷されないアイテム、特定の時間に発生する嵐・雪崩・火山の噴火・引き潮(潮が引いて道が現れる)など。
ボスを倒すのに大砲の弾が複数必要なシナリオでは、時間を巻き戻すことで砲弾を持っている敵を何度も倒して必要量を確保したりする。
どちらかしか選べない究極の2択も、時間を戻すことで両方クリアできた。
開始1秒で殺されてしまうヒロインも時間を戻してレベルを上げれば救うことができる。
ゲームを進めるとRPG以外のサブシナリオも登場して飽きない。
「本編に戻る前におやつにするか。作るの面倒だからインスタントにしよう。たしか懐中汁粉があったはず」
「なにそれ」
「最中にあんこを詰めたもんで、お湯をかけるとお汁粉になるんだよ。江戸時代の保存食だな。ちなみに最中は餅っぽくなる」
「へー。じゃあアイスとお汁粉ね」
「あいよ」
懐中汁粉に熱湯をかけてお汁粉に戻し、その上にヴァニラアイスをのせる。
「あ、私のにはアイスのせなくていいから」
「は?」
「お汁粉は飲み物」
そういって飲用に少しお汁粉を水っぽくし、アイスを食べながらお汁粉の器をすすった。
「んー、やっぱりアイスにはお汁粉ね!」
……缶入りお汁粉を買ったことはあるものの、本当にお汁粉を飲み物にする人間は初めて見た。
「さて……」
お汁粉で体も暖まったところで本編に戻る。
物語も後半。
だんだん難易度が高くなってきた。
最初のザコすら倒せない。
「……なんでだ」
「グローバルレベルが低いからでしょ」
「やっぱりレベル上げしといたほうがいいのか」
「当たり前でしょ」
女神の力で超速レベルアップしても、シナリオが終わったらレベルが元に戻る。
そのレベルが勇者の本来のレベル、つまりグローバルレベルだ。
シナリオの合間にザコを倒してグローバルレベルを上げておけば、そのレベルからシナリオが始められるので楽になる。
さすがに後半でグローバルレベル一桁は低すぎたらしい。
このザコの強さからすると、グローバルレベルを上げておくのが前提のゲームバランスだ。
仕方ないので10までは上げておく。
『ぬわー!?』
……それでもバランスはきつい。
だが最初のザコを倒せてしまうと、超速でレベルアップしてしまうので難易度が低くなってしまう。
このぐらいハードなほうがちょうどいい。
気を引き締めてリスタートする。
最重要アイテムは『虫叩き』と『ビーストビート』だ。
虫叩きは虫系の敵を、ビーストビートは動物系の敵を一撃で倒せる。
フィールドに虫か動物の敵がいればそのシナリオはクリアしたも同然。
ただ特殊効果が強いだけで攻撃力は低いので、ある程度レベルを上げたら村で新しい武器を買ったほうがいい(シナリオ中は買うかイベントで入手する以外に武器を持ち替えることはできない。つまり1つのシナリオで虫叩きとビーストビートを使い分けることはできない)。
厄介なのは章の区切り。
新しい章が始まると勇者が変わり、前の勇者の装備を入手するまで装備を変えることができない。
つまり虫か動物の敵がいても簡単には倒せないのだ。
しかもシナリオが進めば進むほどザコは強くなり、なおかつ単体では出てこなくなる。
この単体で出てこないというのが厄介だ。
必ず二体か三体で出てくる。
一体だけなら回復アイテムで回復すればギリギリで倒せる。
だが二体となると簡単には倒せない。
仲間と、時間を戻す・食堂でHPを回復する・戦闘中にHPを回復するためのアイテムを購入する金と、スキルが必要だ。
パーティーは最大で5人。
5人そろっても終盤のザコ二体には勝てない。
スキルは戦闘中に発動する技で、だいたい10~15分の1の確率で発動する。
……とスキルの説明に書かれているものの、実はこれは『確率』ではなく『回数』である。
10分の1の確率で発動するスキルは『敵へ10回攻撃しないと発動しない』。
そして終盤のザコはだいたい2発でこちらを殺してくる。
1回の戦闘では絶対にスキルは発動しない。
ザコに勝つには4回か5回戦闘してスキル発動条件を満たしておかないといけない。
ただし勇者はスキルを発動させにくい。
なぜなら戦闘した後、味方のHPは回復するのに勇者のHPは回復しないからだ。
勇者が死んだら味方が生きていてもリスタート地点に戻る・勇者が超速でレベルアップすると味方も同じレベルになる=つまり勇者が時の女神の祝福の中心であり、勇者が生きている限り味方はHPが0になっても立ち上がれる。
そういう仕組みらしい。
難しいのはザコへの当たり方だ。
キャラ同士が激突すると体重(装備品による変動あり)によって弾かれ方が違う。
軽いキャラほど後ろへ吹き飛ばされる。
重いキャラは続けて攻撃を食らうので簡単に死ねるのだが、軽いキャラは死ににくい。
なので軽いキャラがもう一度当たるまで、勇者は逃げる(左へ動く)必要がある。
勇者が逃げるタイミングが遅れると、軽いキャラが二度当たる前に勇者が攻撃を食らって死ぬ(HPを回復するには金がかかるので一発で死ぬ・勇者を回復させるのは味方のスキル発動条件が整ってから)。
○
○ → ← 敵
○
基本的にどのキャラも生きている限り前に出る
重←敵
軽←←敵
軽いキャラほど後ろに吹き飛ぶ
軽いキャラがもう一度敵と当たるまで勇者はLRボタン同時押しで逃げて(左へ動いて)時間を稼ぐ
注意すべきは勇者が左へ行き過ぎると逃げてしまうこと。
このゲーム『敵の攻撃で勇者が画面の外へ弾き飛ばされた場合も逃げた扱い』になってしまう。
画面外へ押し出されないように、そして味方が均等に攻撃を食らうようにコントロールしなければならない。
後半のザコ二体を倒すには最低でもスキル2発+アイテムで回復する必要がある。
スキル一発ではダメだ。
一度の戦闘でスキルが二回発動するように調整しないと勝ち目はない。
そして1回勝利して超速レベルアップしても次の戦闘に勝てるとは限らない。
回復と時間を戻す金が必要だ。
時間を戻す値段は回数を重ねるほど高くなるので、レベルを上げれるようになっても金を貯められなければタイムアップになる。
一応、金が足りなくても時間は戻せるものの、有り金を全て持っていかれ、一定時間経つと担保として装備品も没収。
なおかつ村の中でも時間が止まらなくなる地獄。
正直、このゲームはシナリオの序盤が一番難しい。
回復する金も回復アイテムもないので、極力ダメージを食らってはいけない。
LR同時押しで確実に逃げることはできるものの、それだとボスを倒せる適正レベルまで上がらない。
「くそ、レベル上げができん!」
「味方に戦わせれば?」
「は?」
「戦闘した後、味方のHPは回復してるんだから。勇者はLRで左に移動して、味方にだけ戦わせればHP減らさずにレベル上げができるでしょ」
「なるほど」
序盤を乗り切る方法ばかり考えていて、中盤の立ち回りまで頭が回っていなかった。
こうしてHPの節約術を覚えればあとは簡単。
ダッシュでタイムアップ前にボスを殴るだけだ。
最終章もボスを倒すのに必要なレベルが高いだけで(ちなみにラスボスを倒すのに必要なレベルは120だ)、このパターンで攻略できる。
どのシナリオもプレイ時間は短いものの、スピーディーで内容の濃い戦いだった。
なお本編をクリアすると、3秒以内にボスを倒さないといけないシナリオをプレイできる。
……ここまでくるともはや詰将棋であり、無駄な行動は一切できない。
正確なボタン操作が求められる上に運要素もからむので、ある意味詰将棋よりも難しい。
30秒はおろか30分でもクリアできそうにない。
暇な時にプレイしてみよう。
「そろそろ夜の仕込みするか。お前も手伝えよ」
「はーい」
のろのろ
「……もうちょっと手際よくできんのか?」
「夜の分なんだから早くても遅くても同じでしょ。急ぐだけ損よ」
「一時間で終わる仕事なんだから、どんなに引き延ばしても二時間分のバイト代は出んぞ」
「……」
急に手際が良くなった。
どうやら時給の女神という人種は、どこの世界でも金に汚いらしい。




