即死ゲームセット【水まんじゅうと甘酒】
参考ゲーム
朧村正
「水まんじゅうと甘酒ね」
「いかにも夏って組み合わせだな」
「水まんじゅうはわかるけど、甘酒って夏なの? お正月のイメージなんだけど」
「甘酒は夏の季語だぞ。昔は冷たい飲み物がなかったから、夏バテ防止に栄養価の高い甘酒を飲んでたんだよ。『飲む点滴』って呼ばれるぐらいだからな」
「へー」
ちなみに水まんじゅうはあんこをクズ餅で包んだ和菓子だ。
水まんじゅうをメインで売っている和菓子屋は、水槽に水を張って水まんじゅうを展示している。
冷蔵庫で冷やすと固くなってしまうかららしい。
透明で清涼感のあるクズ餅に水をしたたらせるのだから、まさに夏の風物詩だ。
有名な和菓子屋になると水槽がちょっとした池のようになっており、鹿脅しで水を注いでいるのだからすごい。
一見の価値がある。
「濃いのは苦手だからムラサメでね」
「むらさめ?」
「お酒を薄めることをムラサメっていうんでしょ? これで言ってた」
『朧村雨妖刀伝』
和風の横スクロールアクションゲームらしい。
画面に表示されているステータスやマップからするとメトロイドヴァニア系だ。
ムラサメの元ネタは『七度狐』という落語だろう。
ムラサメ、ニワサメ、ジキサメなる大層な名前の酒があるなと思っていたら、村を出る頃には醒めるからムラサメ、庭先で醒めるニワサメ、飲んですぐに醒めるジキサメという、おおよそ酒とは呼べない代物だった。
『これなら飲まないほうがマシだ。どうせ酒を水で薄めているんだろう?』
『あたしゃ、そんなサギみたいなマネはしませんよ。これは水ん中に酒を入れたもんでさ』
そもそも酒ですらなかったという落ちだ。
「甘酒のムラサメね……。とりあえず豆乳を混ぜて、塩麹で味を調えるか。イチゴやかんきつ類を混ぜてミキサーにかけてもいいな。牛乳や炭酸水、ほうじ茶でも割れる。どれがいい?」
「じゃあイチゴシェイク」
「あいよ」
手早くいちごをミキサーにかけてシェイクを作ると、瑞穂が甘酒シェイクを竹筒にそそいだ。
「なんだそれ?」
「甘酒と竹筒水筒。このゲームに出てくる回復アイテムよ。水まんじゅうは回復アイテムっていってもお店でしか食べられないんだけど」
ゲームを起動して茶屋へ行き、水まんじゅうを注文する。
ぷるぷる
「うお!? なんだこのグラフィック!?」
「食べ物描写に定評があるメーカーなのよ」
「……無駄に力入ってるな」
今まで見たゲームの中でもトップクラス。
いや、その中でも頭一つ抜けている。
特徴的なのはぷるぷる感。
どの食べ物もぷるぷるとしており、キャラが一口食べるたびに生々しく揺れる。
このぷるぷるがどうしようもなく食欲をそそるのだ。
「名作だな」
確信する。
飯のウマそうなアニメに駄作はない(と瑞穂が言っていた)。
それはゲームでも同じだろう。
ここまで細かいところが作りこまれているのだから、面白くないはずがない。
「ちょっと借りるぞ」
「どーぞ」
瑞穂がリアルの水まんじゅうをぷるぷるさせている間にコントローラーを拝借。
難易度は初級者向けの無双と、上級者向けの修羅。
もちろん最初は無双だ。
主人公は2人。
悪霊に憑りつかれた姫と、記憶喪失の忍者だ。
なんとなく姫のほうが簡単そうな気がするので姫を選ぶ。
妖刀伝のタイトルからわかるように、武器で戦うタイプのアクションである。
体力はゲージ制。
変わっているのは攻撃と防御が同じボタンだということ。
攻撃ボタンを押しながらの技も多い。
攻撃ボタンを押しながら右か左を押すと、押した方向へダッシュ攻撃。
正確にいうと斜め上にダッシュする。
ダッシュ斬りは最大3回まで出せるので、連続でダッシュすると空を飛べる。
ジャンプしている最中にもダッシュ斬りは可能なので、ジャンプでは届かない場所も攻撃できる。
移動手段としても使えそうだ。
ただし右へダッシュすると次は左にしかダッシュできない(ダッシュした後、一瞬待てばもう一度同じ方向へダッシュできるものの、間が開いてしまうので連続攻撃には向かない)。
ジグザグにダッシュしながら、浮かせた敵へ3連打を叩き込むのが気持ちいい。
非戦闘時には使えないのが惜しい。
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三連続でダッシュするとこうなる。上に移動する時も便利。
攻撃ボタン+上でアッパーカットのように敵を斬り上げるジャンプ斬り。
空中でボタン+下を押すと猛スピードで落下しながら敵を突く。
この落下突きには誘導性能があり、敵のいる方向へ自動的に落ちてくれる。
ダッシュ斬りなどで上に飛び、敵が画面下にスクロールして見えなくなっても、落下突きの射程範囲内に敵がいれば当たるわけだ。
これはかなり使える。
「ボタンを押しっぱなしにしてれば自動的にガードしてくれるのがいいな」
「ボタン連打で連続攻撃しててもガードしてくれるわよ。ただ霊力ゲージっていうのがあって、ガードするたびに霊力が減っちゃうんだけど」
ガードしすぎて霊力が0になると、刀が折れてダメージを食らう。
刀は鞘に納めれば時間経過で霊力が回復し、折れた刀も自然修復する。
装備できる刀は3本まで。
とうぜん刀ごとに霊力ゲージは独立している。
刀には固有の奥義があり、霊力を消費することで奥義を放つこともできた。
奥義の発動中は無敵なのでイザという時の緊急回避としても使える。
いかにガードをし、いかに奥義を放ち、いかに霊力を回復させるか。
この霊力管理が戦闘で一番重要な要素だ。
霊力なしで発動できる居合い抜きという技もある。
一定時間経過すると刀が光り、この時に刀を持ち替えると居合抜きで画面全体の敵を攻撃できる。
敵の刀を折り、ザコ敵を浮かし、敵の飛び道具も撃ち落とせる万能な技だ。
ただ刀を持ち替えると自動的に発動してしまうので注意。
「非戦闘時なら刀を持ち替えても居合いは発動しないわよ」
「ならここで居合いを発動させるのはもったいないな」
この戦闘はこの刀で頑張ろうと1つの刀で戦い続けていると、
バキッ
「げ、折れた!?」
「ガードしすぎ」
ガードや奥義で霊力を消費してしまい、敵に折られてしまう。
居合いを効果的に発動させるためにも霊力管理は重要だ。
安易に霊力を消費すると刀を持ち替えざるをえず、使うべきではない場面で居合いをしないといけなくなる。
「あとは二段ジャンプと緊急回避か」
ジャンプ中にもう一度十字キーの上を入力すると空中でジャンプできる。
下を押してしゃがんだ状態で右か左を押すと、十字キーを入力した方向へ転がって緊急回避。
無敵時間があり、スピードも速いので移動手段としても使えるだろう。
ダッシュ斬りと違って同じ方向に何度でも回避できる。
ダッシュ斬りとの使い分けが重要になりそうだ。
「なんかこの刀、攻撃速度が遅いな」
「それは大太刀。攻撃範囲が広くて威力もあるけど、モーションが大きいから地上での連続攻撃にはあまり向かないわよ。大太刀は空中戦向きね」
「空中戦?」
「大太刀は滞空時間が長いの。空を飛ぶ敵とか、体の大きいボスを攻撃するならこれね」
「へえ」
「二段ジャンプした後でも、敵に攻撃を当てればもう一度ジャンプできるようになるから、空中で大太刀を当て続ければずっと飛び続けることができるわよ」
「……シュールな光景だな」
太刀は威力が低く、滞空時間こそ短いものの、モーションが速く地上での連続攻撃は手数で圧倒できる。
色々と覚えることが多い。
とりあえず基本は攻撃ボタン押しっぱなし(つまり常にガード状態)で体力ゲージを減らさず、ザコが現れたら即座に居合を放ち、ダッシュ斬りで追撃。
敵が強いのなら奥義連打。
霊力は時間経過で回復するのだから、奥義も居合いも使いまくったほうがいい。
問題はボス戦だけ。
これも基本はボタン押しっぱなしで直撃を避ける。
ボスの攻撃は重く、一撃で霊力ゲージの半分、ひどいものだと一発で刀を折るガード不能攻撃がある。
まずは霊力を削ってくる技を覚え、それを絶対食らわないようにする。
どうしても避わせそうにない時は奥義発動。
一発で霊力を削られるぐらいなら、奥義を多用して無敵時間で回避したほうがいい。
もちろん回避しつつボスに奥義を当てるのが理想だ。
攻撃する場合はダッシュ斬りや緊急回避でボスの背後に回ってからがベスト。
逃げる時もダッシュ斬りか緊急回避だ。
ダッシュ斬りや二段ジャンプで空中へ逃げ、ボスの攻撃を上に誘導し、落下突きで素早く地面に降りてもいい。
あるいは大太刀の滞空時間を活かし、下段攻撃を避わしながらボスの上半身へ攻撃を叩き込み、ボスが攻撃モーションに入ったら空中ダッシュ斬りや二段ジャンプで逃げる。
体の上に乗れるボスはできるだけ上に乗って攻撃。
刀をバキバキに折られて体力が減ったら甘酒などで回復。
ただし、
「げ!? 回復できない!?」
「満腹だもの」
満腹ゲージというものがあり、このゲージが0になるまで次の食べ物を食べることはできない。
回復効果が高いほど満腹ゲージが溜まりやすい。
食べられないのはあくまで甘酒や桃、柿のような食べ物であり、薬を飲んでも満腹ゲージは溜まらない。
回復量が同じなら薬のほうが価値が高いということだ。
なおゲームが進むと料理が作れるようになり、これは戦闘中に食べることはできないものの(戦闘中に料理は作れない)、戦闘前に食べるとさまざまな効果がある。
戦闘開始から60秒間攻撃力を上げる白菜鍋は便利だ。
あとは霊力回復アイテムの砥石。
便利なアイテムがたくさんある。
なので、
「もう終わりか」
無双で難易度が低いこともあって、確実にアイテムで回復していればクリアするのに半日もかからなかった。
「これからが本番よ。一発即死の死狂モードが解放されるから」
「……やばすぎるだろ」
だがこの難易度では物足りないのは事実。
アイテムを多用すればクリアできそうなので、もう一人の主人公は死狂でいくことにした。
「……意外に戦えるな」
「でしょ?」
刀を折られたらダメージを食らうので、一発で刀を折るガード不能技や拘束攻撃(一定時間キャラの体を拘束してダメージを与える技。拘束されると逃げる方法がない)に当たれば即死。
逆にいえばそれさえ避わせば刀の霊力があるので安心だ。
事実上、霊力ゲージが体力ゲージと考えていい。
砥石はある意味体力回復アイテムだ。
霊力管理と確実なガードが重要になる。
このゲームでは攻撃ボタンがガードボタンも兼ねているので的確に防御できた。
ボタン連打でもガードは成立するので、まさに攻撃は最大の防御。
難易度が上がれば上がるほど、よく考えられた戦闘システムだと感心する。
……欠点はガードが有能すぎてなかなかボタンから指を離せないこと。
ボタンを押している状態だと高台から下へ降りたり、次のマップへ進むことができない(ダッシュや緊急回避では次のマップへスクロールできない)。
指を離した瞬間に攻撃を食らうのではないかと冷や冷やする。
我ながら臆病すぎる気はするものの、これぐらい警戒心がないと死狂では生き残れない……はずだ。
「死んでもデスペナないんだから、もっと死になさいよ」
「むちゃ言うな」
だが一理ある。
死んでもゲームオーバーにはならず、セーブポイントに戻されることもない。
その場からやりなおしだ。
唯一のペナルティは戦闘前に食べる料理。
戦闘中に使ったアイテムは死ねば元に戻るものの、戦闘前に食べた料理だけは戻ってこない。
まあ、ボスの前には必ずセーブポイントがあるのでこれもペナルティにはならないのだが。
メニュー画面からセーブデータをロードすることはできないので、死ぬたびに一度ゲームを終了してデータをロードするのは地味に面倒くさい。
「……やっぱりボス戦が鬼門か」
ボスの体力をある程度削ると攻撃が激しくなる。
ガード不能技もしくは霊力を一気に削る技が増えるということだ。
単発では避わせる攻撃も、連発されるとさばききれない。
特に手を焼いたのは設置攻撃と飛び道具。
設置攻撃は空中に設置される光の玉などで、接触すると霊力を削られる技だ。
技によってはプレイヤーを追尾してきたり、電撃を撃ってくる。
ダッシュやジャンプ斬りで素早く破壊しなければならない。
設置攻撃に意識を集中しているとボスの攻撃を食らう。
その逆もまたしかり。
ボスの飛び道具はガード不能技か霊力を大きく削る連続技が多い。
連続飛び道具は1つガードすると強制的に連続ガードさせられるものが多く、刀で弾き返さないとゲージが一気に削られる。
だがこれはチャンスでもある。
飛び道具を跳ね返せばボスにかなりのダメージを与えられるのだ。
ガード不能技と連続飛び道具を交互に撃たれると見極めが難しいものの、ここは奥義の出番。
回転系の奥義(その場でぐるぐる回転して連続ダメージを与える)は威力がある上に飛び道具をすべて跳ね返せる。
おまけに発動時間が長い(無敵時間が長い)ので非常時にも便利。
「連続攻撃だ!」
二本の刀の霊力をフルに使って奥義を連発。
一気にゲージを削る。
「ぐ、こいつタフだな! ゲージ何本あるんだ!?」
「短時間で削りすぎるからよ」
「時間は関係ないだろ」
「大ありよ。このゲームはダメージで難易度調整されてて、一定の時間内に一定以上のダメージを与えると体力ゲージが1本増えるんだから」
「はあ!?」
「つまり上手いプレイヤーほど体力ゲージが多くて、下手なプレイヤーほど体力ゲージが少なくなるように設定されてるわけ。だから序盤であんまりダメージを与えすぎちゃダメなのよ。タイムアタックでも上手いプレイヤーはわざと手を緩めてゲージ管理するんだから」
「先に言えよ!」
「だってこんなにダメージ与えられるなんて思わなかったんだもん」
……結局ゲージを1本多く削らないといけないのが響いて力尽きた。




