無双ゲームセット【パルミジャーノクッキーとカプチーノ】
戦国シミュレーション回を分割して再構成した話です。
あとでもう1話更新します。
参考ゲーム
戦国BASARA
戦国無双エンパイアーズ
『れっつ・ぱーりー!』
珍妙な発音で何やら叫びながら、白装束の伊達政宗が黄金の十字架で雑兵を薙ぎ払う。
「『国士無双』か?」
「『戦国KABUKI』よ」
国士無双は『三・国士無双』や『戦・国士無双』で有名なアクションゲーム。
国士無双が売れたので一人で多数の相手を薙ぎ払うタイプのアクションを無双ゲームと呼ぶようになったという。
この戦国KABUKIも無双ゲームの一種らしい。
……それにしても滅茶苦茶な世界観だ。
白装束で黄金の十字架を背負うというのは、政宗が大崎・葛西一揆を陰で指示していた書状が秀吉に見つかった際、弁明のために大阪へ出頭した時の姿だ。
一応史実とはいえ絵面がひどい。
真面目に時代考証をする気がなさそうなスタンスでありながら、細かいところで史実を拾っているのも心憎い。
年配の歴史好きは怒るだろうが若いゲーマーには受けるだろう。
『1000HIT!』
アクションゲームとしての難易度は低め。
適当にボタンを押しているだけでも100コンボぐらい繋がり、ヒット数を稼げる。
見ているだけで爽快だ。
「推参していいか?」
「いーわよ」
楽しそうなので腹心の片倉小十郎で参戦。
カメラワークの問題があるので、画面が上下に分割された。
操作は簡単。
基本攻撃、固有技(そのキャラだけが使える技)、KABUKI技(ゲージが溜まった時に発動する奥義)、ジャンプがボタン1つで出せる。
敵に攻撃を当て続けるとコンボになり、コンボを繋げるほど小判やゲージがたくさん溜まる。
ただ基本攻撃でも攻撃範囲が広いのでコンボは繋がるものの、まとめて敵を倒すと逆にHIT数を稼ぎにくい。
敵はだいたい集団で一塊になっている。
集団と集団の間にはスペースがあるので、まとめて倒してしまうと次のグループへ攻撃ができず、コンボがそこで途切れてしまうのだ。
次のグループへ攻撃するためにわざと攻撃をずらしたり、ザコを次の集団のいる方向へ吹き飛ばしたりする。
固有技に突進攻撃(キャラが正面を向いている方向へダッシュしながら攻撃する)があればコンボを繋げやすい。
固有技はLボタン1つで違う技に切り替えられる。
突進で次のグループへコンボをつなぎ、素早く固有技を多段HITする技に切り替え、コンボを稼ぐ。
これが気持ちいい。
「敵が多いわりに、あんまり攻撃食らわんな」
「画面にいない敵は攻撃してこないのよ」
「すぐ後ろにいても、カメラに映ってなければ攻撃してこないってことか?」
「そういうこと。ライトユーザーでも無双しやすくしてるわけね。だから視点を操作して、わざと画面から敵を消して近づくのがコツよ」
「……難しいな」
「ザコを無視して前に進んでもいいわよ。後ろから攻撃されることはないわけだから、危ないと思ったら前に突進。そうすれば敵は後ろに消えるでしょ」
「なるほど」
独特な操作感覚だ。
こういう自分でカメラを操作するタイプのゲームでは、常に敵がカメラに映るようにするのがセオリー。
あえてカメラを動かさない、むしろ自分から死角を作りにいくのが新鮮だ。
ただしこの死角戦法にも欠点はある。
『ぬわー!?』
「な!? 後ろから攻撃されたぞ!?」
「あくまで『死角から攻撃されることはない』だけで、今みたいに『敵の全身が火に包まれてて、接触したらダメージ』みたいな攻撃は防げないわよ。敵はこっちにぶつかっただけで、攻撃してるわけじゃないから」
「……死角システムの死角か」
接触ダメージにさえ気を付けていれば問題ないだろう。
ボスはザコ数百人よりもはるかに強いものの、ゲージを溜めてKABUKIで殴れば体力の半分は削れる。
体力回復アイテムもあるので、難易度ノーマルなら俺一人でもノーコンティニューでクリアできそうだ。
大味なゲームバランスながらも、操作できるキャラは多く、そしてキャラごとにストーリーモードが用意されているのでボリュームはある。
だいたい桶狭間の戦いや河越夜戦のような少人数で大軍をやぶるシチュエーションが多い。
毛利元就などはその代表例だろう。
およそ1000の軍勢で5000の敵を破った元就の初陣『有田中井手の戦い』。
およそ12000で30000の敵を破った『郡山城の戦い』。
およそ5000で30000の敵を破った『厳島の戦い』。
島津家久の耳川の戦いや沖田畷の戦い、戸次川の戦いもなどもあって歴史好きならワクワクする。
白装束&黄金の十字架の伊達政宗でわかるようにどのキャラも濃く、ストーリーはコミカルでダイナミックで頭がおかしい。
特に前田利家の妻まつ。
利家より強い上に、メインストーリーが『夫と甥(前田慶次郎)のために美味い飯を作る』だ。
ただ美味い飯を作るためだけに他国へ乗り込み、戦国武将をボコボコにして米や野菜、マツタケ、カジキマグロを奪って鍋を作る。
意味がわからない。
ラスボスのザビエルも宣教師というよりカルト宗教の教祖で、まつからザビエルの好きな野菜を取り戻すために狂信者たちが襲い掛かってくる。
さすがに宗教上の問題がありそうなのでザビエルではなく、シャビエルという微妙な名前に変更されているものの、日本史を勉強している人間なら元ネタが誰かすぐにわかるだろう。
カジキマグロは武器として装備もでき、これでキリシタンを殴る光景は歴史ゲームとは思えない。
「カジキマグロのお鍋食べたい」
「……無茶言うな。そうだな、カプッチョにしよう」
「かぷっちょ?」
「神父の帽子だ。カプッチョに似てるからカプチーノ。小粋なイタリア人はカプチーノをカプッチョって注文するんだぞ」
「カプッチョ!」
「イタリアンとロマーノ、どっちがいい?」
「ろまーの!」
確実に言葉の響きだけで選んでいる。
ちなみにロマーノとはローマ風という意味である。
「なら俺はイタリアンだな」
エスプレッソにフォームドミルクをそそぎ、残った泡をすくってエスプレッソに乗せ、ふわふわの泡の上にシナモンパウダーとグラニュー糖を混ぜたものを振る。
ロマーノもイタリアンとそれほど違いはない。
スチームミルクはイタリアンより少し多めにそそぎ、パウダーではなくレモンの皮を泡の上に乗せる。
「泡おいしい」
「……混ぜろよ」
「えー」
泡を楽しむのはカプチーノのだいご味だが、さすがに泡を混ぜずにスプーンで全部すくわれると困る。
カプチーノはかき混ぜてから一口、泡をすくってミルクの風味を楽しみ、また一口と飲んでいくのがセオリーだ。
「おやつはパルミジャーノクッキーだ」
「ぱるみじゃーのってチーズだっけ?」
「ああ。すりおろしたパルミジャーノを混ぜたクッキーだ」
寝かせておいた生地に体重をかけて押し、柔らかくして伸ばす。
あとは表面に溶き玉子を塗って、最初にすりおろしたチーズの残りをパラパラ散らし、細長くカットしてオーブンで焼けば完成だ。
塩を効かせて濃厚なチーズの味わいを強調しているパルミジャーノクッキーにカプチーノはよく合う。
「じゃあ『国士無双』しよっと」
「お、本家か」
「本家っていっても、これは『エンパイアーズ』っていう外伝で、国士無双にアンビシャスの内政システムを導入した感じのゲームなの。要するにノブナガ・ビー・アンビシャスの戦闘パートを無双にしたゲームね」
「へえ」
さっきと同じく2人で協力プレイしてみた。
すると早速隣国から侵略される。
いきなりの戦闘。
無双ゲームだからボタンを連打していればいいはずだ。
気軽にそう思っていたのだが、
「……無双できん」
雑兵に囲まれてボコられる。
ボタンを押せば敵が吹っ飛ぶイメージだったのに上手くいかない。
KABUKIと違って死角からも攻撃されるのが厄介だ。
「エンパイアーズはアンビシャスみたいな国盗り要素があるから無双しにくいのよ。その分、味方のNPCが強いから協力するのが基本なの」
「なるほど」
とりあえず突出せず、味方と歩調を合わせて進む。
タイミングよくボタンを押していれば敵は吹っ飛ばせるものの、囲まれたら一方的にボコられる。
常に敵を正面でとらえ、背後に回らせないようにしなければならない。
『救援を求む!』『救援を!』『救援を!』『救援を!』
「……味方がやたら救援を要請してくるんだが?」
「ある程度無視してても大丈夫よ。移動するのも時間かかるし」
たしかにキャラの足は遅く、違うエリアへ向かうのはかなり時間がかかる。
「お、馬だ」
敵の武将が乗っていた馬らしい。
すかさず騎乗する。
「おおう!?」
移動スピードが格段に上がり、突撃しながらガンガン雑兵を薙ぎ払うことができた。
初めて無双っぽい展開になった気がする。
ただ操作が独特で上手く動けない。
人間のように小回りが利かず、しかも走りながらすれ違いざまに斬ることが多いのも難点だ。
その場で連続攻撃できる徒歩と違い、どうしても攻撃が単発になり大ダメージを与えられないのである。
何度か往復してダメージを積み重ね、馬から降りてトドメを刺す。
そして再び騎乗。
これが一番確実だ。
「雑兵相手に無双してても地味に体力削られるな。しかも回復アイテムが少ない」
「回復アイテムは自陣か、名前のある武将を倒さないと出てこないのよ。馬があればまだいいけど、徒歩だと取りに行くのも面倒なのよね」
「自陣か」
機動力を活かして自陣に戻り、団子を食べて回復。
最前線に向かうと名前のある武将が出てきた。
「ぐ、俺でも知らないどマイナーな武将のくせに強いな!」
「ゲージ溜まってるでしょ、奥義使って」
「これか?」
ポンッとボタンを押すと奥義発動、そこそこのダメージを武将に与えた。
「奥義使ったら武将から離れて、雑魚を倒してゲージを稼いで、武将に奥義を放つ。ヒットアンドアウェイね」
「……嫌な戦い方だな」
「わざと攻撃を食らってゲージを溜めてもいいわよ。体力が減れば奥義も強力になるし、倒せば回復アイテム落とすかもしれないから」
「それでいこう」
正面から殴りあってダメージを与えつつゲージを溜め、奥義を発動して武将を倒す。
しかし回復アイテムは落とさなかったので、慌てて雑兵から逃げて自陣に回復アイテムを取りに戻る。
こうして長々と戦っている内に、戦闘にも慣れてきた。
味方は囮にした方がいいようだ。
名前のない雑兵は盾と時間稼ぎと敵の意識を逸らすのに役に立つ。
名前のある武将は戦闘力もあるので、積極的に敵武将へ攻撃を仕掛けさせて態勢を崩し、手柄を横からかっさらう。
範囲攻撃で薙ぎ払い、チャージ攻撃でガードを崩して相手を空中に浮かせ連続攻撃。
ダウンさせてしまうと追撃しにくいので、わざと連続攻撃を途中で止め、ダウンさせずに一方的に殴りまくることもできる。
気づけば1人で100人ほど倒していた。
瑞穂に至っては300人倒している。
「楽勝だな。あと何人いるんだ?」
「9600人」
「はあ!?」
「私たちの陣営だって2000人いるでしょ。国盗りゲームなんだからこれでも少ないぐらいよ。さすがにゲーム機のスペックとマップの広さの問題もあって一度に10000人は出てこないけど」
「……無理だろ、これ」
「総大将を倒せば撃退できるはずよ」
「本陣へ突入するのに何人倒せばいいんだ?」
「そうね……。本陣までのマップ数と、このゲーム機で一度に処理できる人数からして、300~400人ぐらいじゃない?」
「まだそんなに斬らないといけないのか……」
「ちなみに撃退したとしても防衛戦だから国は盗れないわよ」
……天下統一への道は遠い。




