ワーカープレイスメントセット【バナナとフラペチーノ】
参考ゲーム
ナショナルエコノミー
「バナナとコーヒーをお願いします」
「……バナナフラペチーノですか?」
「あ、それもいいですね。ではバナナフラペチーノでお願いします」
「あいよ」
バナナフラペチーノは某シアトル系カフェの影響で、最近流行っているやつだ。
詳細なレシピはわからないので想像するしかない。
とりあえずミルクと氷とエスプレッソを撹拌。
さらにバナナを加えて撹拌。
あとはホイップクリームをのせれば完成だ。
「食感がたまりません」
「果肉を残してますから」
太めのストローですすればバナナの果肉が口内を満たし、粒々感を味わえる。
バナナを丸ごと一本使っているので軽食にもなるだろう。
お好みでチョコレートやキャラメルを追加してもいい。
「なんでバナナとコーヒーなんですか?」
「これです!」
『ナチュラルエコノミー』
4人までプレイできるアナログゲームらしい。
多人数プレイできるものにしては箱が小さい。
手札やお金なども全部カードらしく、余分なボードや駒がないのでコンパクトなようだ。
「……バナナ多いな」
「それは消費財です」
「しょうひざい?」
「このゲームでは手札を捨てて建物を建てます。バナナ園を経営している会社が、バナナを元手に事業を拡大していくイメージですね」
「へえ」
建物のカードをめくってみるとコーヒー店があった。
どうやらこのカードの影響でバナナとコーヒーを頼んだらしい。
「ソロプレイもできますよ?」
「じゃあそれで」
先生がカードをセッティングする。
場に4枚の建物カードが置かれ、俺には労働者のカードが2枚と、建物カードが3枚、1ドルカードが5枚配られた。
そして消費財の山札と建物カードの山札をセットし、最後にラウンドカードを置く。
これで準備完了だ。
「ナチュラルエコノミーはいわゆる『ワーカープレイスメント』です。ワーカーすなわち労働者のカードはプレイヤーの手数になります。労働者を場にある建物カードに配置すると、その施設を使うことができます。ただすでに労働者がいる施設に労働者を配置することはできません」
初期状態で場にある建物カードは4つ。
建物カードを1枚引く『鉱山』、建物を建てる『大工』、労働者を1人増やす『学校』、消費財を2枚引く『農場』。
「建物を建設するには、ここに書かれている数字の分だけ手札を捨てないといけません」
「コスト2か。これなら建てられるな。この下にある数字は?」
「それは建物の資産価値です。資産価値1と1ドルは同じ価値で、ソロプレイのクリア条件は9ラウンド終了時点で資産価値と所持金の合計が100以上になることです」
建物カードは建設のための捨て札にもできるし、手札を捨てることで資産価値のある建物になる。
消費財カードは建物を建てることしかできない。
消費財より建物カードの方が貴重なので、最初に配置されている建物では消費財を2枚引けるのに、建物カードは1枚しか引けないのだろう。
「この場に置かれている建物カードは古い順に並べられています。労働者カードを1枚使ったら、一番新しい建物カードを裏返しにしてください」
「裏?」
「多人数プレイをソロプレイで再現しているイメージですね。自分以外のプレイヤーがその施設を使っているので、このラウンド中は使えません」
「作ったばかりの建物には早く労働者を派遣しないといけないのか……」
「いえ、それはプレイヤーが個人的に所有している建物なので、プレイヤーにしか使えません。場に並べてある建物カードは誰でも使える公共施設です」
「ややこしいな」
覚えることが多い。
慣れるのに時間がかかりそうだ。
「じゃあ労働者カードがもう1枚残ってるから、労働者を増やすか」
学校に労働者を派遣して労働者カードを1枚取る。
これで労働者が3人に増えた。
さっそく3人目の労働者を使おうとしたのだが……
「雇ったばかりの労働者カードは裏にしてください」
「これもですか」
労働者カードを裏にすると、研修中の文字が書いてあった。
「研修中なので、このラウンド中はその労働者を働かせることはできません」
「……嫌なところでリアルだな」
「これからもっとリアルなことになりますよ? 労働者に賃金を払わなければいけませんので」
「は?」
「このラウンドカードを見てください」
ラウンドカードには現在のラウンド数である1と、労働者1人につき2ドルと書かれていた。
「1人は研修中だから4ドルか」
「研修中の労働者にも賃金は発生しますよ?」
「ええ!?」
所持金は5ドル。
1ドル足りない。
まさか1ラウンドで借金生活になろうとは……。
「お金が足りない場合は建物を売ってください。売値は資産価値の半額です」
「それでも足りない場合は?」
「足りない分だけペナルティカードを引きます」
-3と書かれた赤いカードだ。
1ドル足りないだけで-3は痛い。
とりあえず建物を売って資金を調達し、労働者に給料を払う。
何も考えずに労働者を雇ったのが失敗だった。
「売却した建物は公共施設になります」
売った建物を公共施設と同じ場に置く。
「これで1ラウンド終了。ラウンドカードを裏返しにして場に置きます」
ラウンドカードの裏は建物カードになっており、次のラウンドでは公共施設として使えるらしい。
この施設『露店』の効果は手札を1枚捨てると6ドル入手できるというもの。
だが手札がない。
手札を手に入れるために労働者を別の施設へ派遣してしまうと、一番新しい建物である露店は裏返しになって使えなくなってしまう。
「……ん、ちょっと待て。もしかして金を稼ぐ方法がない!?」
「建物を売ってください」
「……労働者へ給料を払うために建物を建てて売る? しかも売値は資産価値の半額。まるで意味が分からんぞ」
「常にカツカツなのがこのゲームの面白いところです。建物を売るか、特定の施設で手札を捨てる以外にお金を稼ぐ方法はありません。ちなみに建物は労働者への支払いの時、所持金が足りない場合にしか売ることができません」
「労働者カードを1枚使っても売れないんですか?」
「売れません」
まあ、ラウンドの最後に労働者カードなしで売ることができるのだから、わざわざ労働者を使ってまで売る意味もないのだが。
……所持金がマイナスにならない限り売れないというシステムは心理的によろしくない。
ともかく労働者へ給料を払うために建物を売り、手札を捨てて資金を調達。
「あ、施設からお金をもらう場合は家計から取ってください」
「家計?」
「労働者へ支払った賃金のことです。家計にお金がない場合、手札を捨ててもお金は手に入りません」
「……金は天下のまわりもの、か。手札を捨てて金を得るとすぐ家計が0になる。家計を増やすには給料を払うしかない。つまり建物を売らないと経済が回らないのか」
「そういうことです」
給料の支払額はラウンドごとに決まっている。
1~2ラウンドは2ドル。
3~5ラウンドは3ドル。
6~7ラウンドは4ドル。
8~9ラウンドは5ドル。
労働者が2人のままだと、給料が5ドルになっても一度に10ドルしか家計に入れられない。
家計を増やすには労働者も増やさなければならない。
労働者は最高で5人まで(ただし特定の施設を建設すると特殊効果で労働者の上限を増やすことができる)。
なるべく早いラウンドで労働者を増やして家計と手数を増やし、9ラウンド目に手札を捨てまくって金を引き出す。
だが序盤で労働者を増やしすぎると給料が払えず、マイナスカードを引くことになる。
家計は9ラウンド目に確実に回収できる分だけでいい。
それ以上はいらない。
定期的に引き出して労働者へ給料を払い、売る建物は最小限に留める。
公共施設になっても能力は使えるのだから、資産価値の高いものだけ残せばいい。
調整が難しい。
……結局、最初のプレイでは50点にも届かなかった。
「考えることが多いな」
「やることは単純です。労働者の数だけアクションする。手札を引く。手札を使って建物を建てる。労働者に賃金を払う。足りなければ売る。手札を捨てて家計からお金を引き出す」
「うーん」
先生の言うようにもっとシンプルに考えるべきかもしれない。
初心に戻って初期配置から見直す。
重要なのは公共施設だ。
複数人プレイとソロプレイでは最初の公共施設の配置が違う。
複数人プレイでは採石場、鉱山、学校、そして数枚の大工だ。
大工は建物を建設するカードなので、プレイ人数が増えるほど大工カードも増える。
採石場は鉱山と同じく手札を1枚引けるカードだが、もう1つ能力があり、採石場を使うとスタートプレイヤーになれるらしい。
つまり次のラウンドで一番最初に行動できるのだ。
これはソロプレイでは必要のない能力。
だからソロプレイでは採石場の代わりに農場が入っている。
農場の能力は消費財を2枚引く。
それほど重要とは思えない。
なのに入っている。
必ず意味があるはずだ。
解説書をよく読んでみると、ソロプレイでは山札の一番上に『工場』を置く、とある。
先生が山札をセットしたのでこれに気付かなかった。
カードを1枚引けば確実に工場を引けるらしい。
工場の能力は手札を2枚捨ててカードを4枚引く。
「……なるほど、そういうことか」
農場が配置されているのは、消費財2枚を捨て札にして工場で建物カードを4枚引くため。
序盤で一番重要なのは工場の建設なのだ。
やはり建物カードは消費財よりも価値が高い。
するとカードをたくさん引ける施設を作るのが鍵になりそうだ。
手札がない時は4枚、そうでない時は2枚引ける『化学工場』、プレイヤーの手札が4枚になるまで消費財を引ける『果樹園』、カードを3枚引く『製鉄所』、手札を3枚捨てて7枚引く『自動車工場』あたりが狙い目か。
カードの枚数も手数と同じだ。
価値の高い建物ほどカードを消費し、建設したらカードを補給しないといけない。
必須の建物ならともかく、そうでもない建物を建てるたびにカードを引くのは労働者のムダだ。
価値の低いカードなら少ない手札で建てられて、カードを引かずに次のアクションを行える。
一連の行動でカードを何枚使うか、何ポイント稼げるか、それを計算しながら動いた方がいい。
他にこのゲームで重要な要素は労働者の数、建物の建設、資金の調達方法。
3ラウンド目の公共施設『高等学校』を使えば労働者が一気に4人に、6ラウンド目の『大学』では5人、8ラウンド目の『専門学校』ではそのラウンドですぐに使える労働者(研修中にならない)が1人雇える。
できれば3ラウンドで4人、6ラウンドで5人にしておきたい。
効率よく労働者を増やすには、給料を払うための資金源が必要だ。
いかに資産価値の高い建物を建設するか。
資産価値の高い建物をいかに低コストで建設するか。
『建設会社』はコストを1枚減らして建物を建てられるようになる。
『ゼネコン』は建設した後にカードを2枚引ける。
架空の建設会社『丹胡市建設』は同じコストの建物を1つ分のコストで建てられる(たとえばコスト3の建物カードが2枚ある場合、手札3枚だけで2つ建てられる)。
そしていかに家計から金を引き出すか。
公共施設では、
2ラウンド目 露店 1枚で6ドル
3ラウンド目 市場 2枚で12ドル
5ラウンド目 スーパーマーケット 3枚で18ドル
7ラウンド目 百貨店 4枚で24ドル
9ラウンド目 万博 5枚で30ドル
がある。
使うとしたら百貨店と万博だろう。
注意すべきはプレイヤーが労働者カードを使うと、新しい施設が使えなくなること。
7ラウンド目で百貨店、9ラウンド目で万博を使う場合、そのラウンドの最初のアクションの時に手札を4枚か5枚持っていないといけない。
これは百貨店や万博の場合だけではない。
最新の公共施設を最速で使いたいのなら、ラウンドの終わりで手札を増やしておかないといけないのだ。
最新の公共施設だけでなく、前のラウンドで売却した建物を使う場合も同じ。
前のラウンドで売却した建物を使いたいのなら、建物を複数売っておくことだ。
なぜなら最新の公共施設を使ってしまうと、売却した施設が場にある建物で一番新しいことになり、使えなくなってしまう。
なので次のラウンドで使いたい売却施設があるなら、その施設を先に売り、追加で別の施設を売れば、使いたい施設は1つ古い施設になる。
こうして使いたい建物を古くしておけば、最新の公共施設を使っても、売却した施設を使うことができる。
できれば手札の上限を4枚増やす『倉庫』を建設しておきたい。
手札はそれだけ重要なのだ。
公共施設以外だと『レストラン』も見逃せない。
これは手札1枚で15ドル得られる。
公共施設の市場、スーパー、百貨店よりも使い勝手がいい。
手札で引けたら絶対に立てておくべき物件だ。
気を付けなければいけないのは家計からお金を引き出す場合、手札と労働者が必要になるということ。
建物を売る場合は手札も労働者も必要ない。
それに建物を売れば家計がふくらむ。
手数と手札を節約し、家計を増やすのなら建物を売るべきだ。
「他に使えそうな建物は……ボーナス系か?」
『労働組合』は労働者1人につき6点のボーナスがもらえ、『鉄道』『不動産屋』『本社ビル』『農協』も特定の物件を所有しているとボーナスをもらえる。
同じ施設を作ればボーナスは倍。
これは是が非でも作っておきたい。
『法律事務所』はマイナスカードを5枚まで無効にできる。
5ドルまでなら借金してもいいわけだ。
だいぶコツがわかってきた。
2回目のプレイでは80ポイントを超えた。
もう一息だ。
「はろー」
「いらっしゃいました」
100ポイントを超えようと奮戦していたところ、2人が来店して全員そろう。
「アリスにもバナナフラペチーノをプリーズ!」
「私はバナナフラペチーノDXね」
「あいよ」
「……で、それなに?」
「多人数プレイできるアナログゲームです」
「れっつぷれい!」
「では皆でプレイしましょう」
「いえー!」
「……しょうがないか」
ソロプレイは切り上げ、バナナフラペチーノDXとかいうバナナを丸ごと3本も使うアホみたいなフラペチーノを作り、全員でテーブルを囲む。
「お、ソロより楽だな」
建物が資産価値と同じ数字で売れる。
しかも俺が金を入れなくても、他のプレイヤーが家計を膨らませてくれた。
資金を調達しやすく、労働者も増やしやすい。
プレイヤーが多いので、たくさん建物が売られて公共施設も増えていく。
「研修中なのに給料払わないといけないのがむかつくわね」
「そういうゲームですから」
「あれ、そういえば今日って給料日じゃない?」
「……そういえばそうだったな」
「おっかねー、おっかねー♪」
たいして役に立たないのにバイト代を払わないといけないのがむかつく。
だがこれで家計に金が入り、それが俺の元に戻ってくると考えると悪い気はしない。




