ミニゲームRPGセット【ザッハトルテと白牡丹】
参考ゲーム
ゼロヨンチャンプ
九龍妖魔学園記
ダンジョントラベラーズ
BUSIN
「ん? お前、さっきまでレースゲームプレイしてなかったか?」
「今もプレイしてるわよ」
「……RPGにしか見えないんだが」
「ミニゲームなの。ボリュームありすぎて本編クリアするより時間かかるんだけど」
「……それはもうミニゲームじゃないだろ」
ちなみに警備員になってビルに侵入してきた泥棒を撃退するRPGだ。
「このモンスターはどこから出てきたんだ?」
「たぶん異世界」
「はあ?」
「続編の『ゼロヨンチャンピオンZZ』では異世界に旅立って魔物退治するんだって」
「……もう何でもありだな」
警備している九頭竜ビルは全16階。
現在は10階だ。
「このRPG、何時間ぐらいプレイしたデータなんだ?」
「10時間ぐらいじゃない?」
「10時間でレベル50超えるのか……」
「クリアする頃には200超えるらしいわよ」
「200!?」
「たしか上限は999だったわね」
「……インフレしすぎだろ」
最近はレベル100を超えるゲームも珍しくないものの、この時代のRPGは99でカウンターストップするのが一般的だ。
まさかミニゲームで3ケタのレベルになるRPGがあるとは。
製作者は完全に力を入れるべきところを間違えている。
「う、敵強すぎ……」
「一階上がるだけでめちゃくちゃ強くなるな」
しかも宝箱を守る敵はさらにレベルが一段階上に設定されている。
宝箱を取るだけでも命がけだ。
ただ敵を倒すとかなりの金額が手に入るので、回復アイテムはいくらでも買える。
おまけに舞台はビルだ。
エレベータのロックを解除すれば、その階までエレベータで移動できる。
適度にレベルを上げて、回復アイテムを惜しげもなく投入し、魔法をガンガン使いまくれば何とかなる。
……かと思いきや、
「あれ、カンストしてる?」
「なんだって?」
見るとキャラのパラメータが255でカンストしていた。
レベルは999まで上がるのに、各パラメータは255までしか上がらないらしい。
にもかかわらず、上の階へ行くほど敵は強くなる。
与えるダメージを増やすには強力な武器を手に入れるか、レベルを上げて新しい魔法を覚えるしかない。
素早さと状態異常魔法も重要だ。
このRPGの敵は全体攻撃魔法を使ってこない。
どれだけ攻撃力が高くても、敵が一体だけなら1ターンで死ぬのは一人だけ。
とにかく倒すか状態異常で動きを封じ、行動できる敵を一体に減らせば、毎ターン味方を蘇生していれば必ず勝てる。
「ああ、MPが足りない!?」
……復活手段が尽きなければの話だが。
「時間かかりすぎね。『九頭竜妖魔学園紀』の『シェリンフォード・アドベンチャー』にしよっと。たしかこっちは2時間でクリアできるはずだし」
今度はレトロな3DダンジョンRPGだった。
パーティキャラは主人公のシェリンフォードだけ。
特技や魔法などはなく、純粋にレベルを上げてアイテムを集め、古代遺跡の謎を解くゲームだ。
その謎もなぞなぞのようなものが多く、そんなに難しくない。
下の階層に行くと敵はかなり強くなるものの、サクサク進んだ。
「ここでセーブして、後は最下層の謎を解くだけね」
残るは最後の謎のみ。
装備を整えて挑むものの、
「……死にそう」
「だな」
回復アイテムが足りない。
このまま進めば間違いなく死ぬ。
やむなくリセットしてやりなおす。
「え、なんで!?」
「どうした?」
「……セーブデータがない」
「ちゃんとセーブしてただろ」
「セーブしたのはミニゲームのデータだったのよ!」
「は?」
「本編のデータをメモリーカードにセーブしてなかったの。私がセーブしたのはあくまでミニゲームのデータで、それは本編のデータの1つに過ぎないわけ。つまりミニゲーム内でセーブしても、そのミニゲームのデータを管理してる本編のデータをセーブしないかぎり、ミニゲームのデータはメモリーカードにセーブされないのよ!」
予想外の罠だ。
ミニゲームがそれ単体でも成立しているような内容なだけに、ついリセットしてしまいがちなのもタチが悪い。
「うう……」
さすがにRPGを1からやり直す気力はないのか、瑞穂は力尽きたように突っ伏した。
「もうRPGのミニゲームはないのか?」
「……一応あるわよ」
『ダンジョンアタッカーズ』
「『トゥヒート2』のファンディスクに収録されてた『ファイナル・ドラゴン・ヒストリー』が独立したゲームとしてシリーズ化されたの」
「へえ」
「PC版は18禁だから女の子モンスターを捕まえたらHなご褒美CGが観れたんだけど、こっちではボス戦以外のご褒美CGがなくなったのよね」
なんという無能采配。
「これも3DダンジョンRPGか」
携帯機だからプレイしやすい。
戦闘はウエイトターン制といえばいいのだろうか。
素早さの高い順に1ターンに1回行動する従来のターン制と違い、ターンごとに区切られていない。
ターンで区切られていないので、素早いキャラなら他のキャラが1回行動する間に2回・3回と行動できる。
行動する順番は画面の右上に箇条書きで表示されている。
行動順
柚希
敵
愛美
梨花
敵
真由
行動順が回ってきたらコマンド入力。
攻撃や魔法、防御など、どんな行動をしたかによって次にそのキャラの行動が回ってくる間隔が変わる。
コマンドを入力する際、その行動をしたら次に行動するのはいつになるのかも表示される親切設計。
行動順
柚希 →防御
敵
愛美
梨花
敵
→柚希
真由
強力な攻撃をするほど次のターンが回ってくるまで時間がかかる。
魔法を使う場合、呪文を詠唱しないといけないので発動まで時間がかかる。
行動順
柚希 →魔法
敵
愛美
→柚希 魔法発動
梨花
敵
真由
魔法が発動する前に一定以上のダメージを食らうと呪文詠唱が中断してしまう。
なので敵が呪文を詠唱し始めたら優先して攻撃したほうがいい。
敵の魔法を阻止できる上に、相手は1ターン無駄にすることになる。
「素早さゲームだな」
「そうね。最終的には全裸忍者ゲーだし」
「……全裸忍者?」
「コンピュータRPGの元祖『ソーサリィ』からの伝統なのよ。全裸忍者最強説。レベルが3上がるごとに防御力補正がつくんだけど、問題はこの補正は何も装備してない時にしかつかないこと。何かを装備しちゃうと、装備品の防御力が優先されちゃうわけ」
「だからレベルの高い忍者ほど裸になっていく、と」
「そういうこと。ただ裸だと属性防御力がないから、状況に応じて装備しないと大変なことになるんだけど。このゲームでもそう。だから武器を装備せずに魔法を唱えるのが基本ね。いわゆる『素手ヒール』よ」
どうやら魔法の杖を装備せずに、発動の早い魔法を使った方がターンが早く回ってくるらしい。
防御するより魔法を使うほうが速いのだ。
どれぐらい速いかというと、
行動順
柚希 →ヒール
→柚希 ヒール発動
柚希 →ヒール
→柚希 ヒール発動
柚希 →ヒール
→柚希 ヒール発動
柚希 →ヒール
→柚希 ヒール発動
敵
愛美
梨花
敵
真由
これぐらい速い。
……明らかにおかしい。
おまけに『自分のターンが回ってくるごとにMP回復』などのスキルをつけていると、あっという間に回復できたりする。
素早さ調整はかなり重要だ。
「キャラ多いな」
「もともとギャルゲーだし」
トゥヒート2のヒロインと女性のサブキャラが全員仲間になるので、かなりパーティ編成に迷う。
レベルを上げると上級職にジョブチェンジでき、性能が跳ね上がるのでまた迷う。
基本職では弱くても、上級職になると格段に強くなるケースもあり、仲間が増えるたびに頭を悩ませる。
難易度が高めなので編成も慎重だ。
「うーん」
「迷ったら自分の好きなキャラで固めたら?」
「原作プレイしてないから好きなキャラって言われても困るぞ。このゲームも戦闘がメインで、シナリオがほとんどないしな」
「一番人気はゆず姉ね。合言葉は『ゆず姉ゆずんねえ』」
「……やきもち焼くたびに主人公をフォークで刺すキャラが一番人気なのか」
「2000年代で美少女フィギュアが作られたキャラのベスト3に入るのよ。つい最近まで月1でフィギュアが出てたぐらいなんだから」
そういえばこいつの部屋にフィギュアがあったような気がする。
このゲームでは防御力皆無のビキニアーマー姿なので、記憶にある制服姿のフィギュアと一致しなかった。
とりあえずゆず姉をアタッカーにして敵をフォークで刺すことにする。
「あとはレイドアクションね」
キャラの好感度を上げると協力攻撃ができるようになる。
それがレイドアクションだ。
基本は同時攻撃。
便利なのは同時攻撃をする場合、一番行動が速いキャラの素早さが反映されることだ。
行動順
柚希
敵
愛美
梨花
敵
真由
たとえば柚希・梨花・真由が同時攻撃をする場合、柚希の行動順でレイドアクションは発動する。
協力攻撃をすれば必ず攻撃力が上がるわけではないが(むしろ下がることもある)、一人で攻撃するよりダメージはでかい。
レイドアクションはHPやMPの消費がないので、ザコを素早く倒したい場合には便利だ。
他にも一人が敵の動きを止めることで命中率を上げたり、味方をバレーボールのように上に跳ね上げてジャンプ攻撃(魔法の発動のように着地するまで間があり、ジャンプ中は攻撃を食らわない)したり、味方の魔力を上げて魔法の破壊力を上げたりできる。
「よし、ボス倒しに行く前に腹ごしらえするか」
「あ、ザッハトルテ!」
「回復アイテムだからな」
このゲームでは食べ物が回復アイテムになっており、ザッハトルテはかなり便利な回復アイテムだ。
ザッハトルテを切り分け、ケーキを横倒しにし、フォークを刺して瑞穂に差し出す。
「ゆず姉のマネ?」
「違う。これがドイツ流だ。フォークを刺すのは、運ぶ途中にフォークを落とさないため。ケーキを横に倒すのも、運んでいる最中に倒れないようにするためだ」
「……どうせ倒れてしまうんだから、最初から倒しておこうってこと?」
「そういうことだ」
実際に目撃するとなんて態度の悪い店だと驚くものの、ドイツではこれが普通なのだ。
「あれ、クリーム甘くない」
「このホイップクリームで味を調節しながら食べるんだ」
「へー」
ただでさえチョコバターとアプリコットジャムのスポンジに、分厚いチョコと砂糖衣を合わせたものでコーティングしているのだ。
そのままだと甘すぎてきつい。
「コーヒーと中国茶、どっちがいい?」
「中国茶」
「あいよ」
中国茶の白牡丹を淹れた。
清涼感があり、チョコレートの後味をさわやかにする。
俺はブルーマウンテンにした。
エスプレッソでもいい。
濃厚なチョコに負けない強さがほしいのなら断然コーヒーだ。
「さて……」
英気を養い、満を持してボスに挑む。
素手ヒールやレイドアクションを多用し、ボスの体力を着実に削っていく。
しかしボスの攻撃も激しい。
全体攻撃を多用してくる。
ブレスや全体攻撃魔法の威力を半減させるレイドアクション『散開』や、敵が魔法を詠唱し始めたら行動順を無視して詠唱を邪魔する『マジックキャンセル』がないと厳しい。
レイドアクションの成功率は100%ではないし、お供のザコキャラも回復や補助魔法を使ってくるので大変だ。
「くくく、だがこっちにはザッハトルテがある! これさえあれば必勝だ!」
「え、もしかしてザッハトルテ買込んだの?」
「全体回復アイテムだからな」
「ロールケーキ狩りしたほうが安上がりなのに」
「……ロールケーキ狩り?」
「5層でエンカウントするザコキャラがロールケーキ落とすのよ。回復量はザッハトルテと同じ」
「なに!?」
ザッハトルテはかなり高い。
だからわざわざ金を稼いで買い込んだのに、ザコが同じ性能のアイテムを落とすという。
そもそもこのゲームでは敵がほとんど金を落とさない。
敵が落とすアイテムを売って金を稼ぐ仕組みだ。
つまりロールケーキを入手できる可能性はかなり高い。
……俺の苦労はなんだったのか。




