トラップゲームセット【オペラとケニア】
参考ゲーム
悪代官
影牢
『灰汁代官』
「なんだこのタイトル」
「鍋奉行と熾烈な戦いを繰り広げる灰汁代官の物語よ」
意味が分からない。
敵も水戸黄門や遠山の金さん、大岡越前に新撰組、安倍晴明と時代設定がめちゃくちゃだ。
「罠と用心棒を設置して侵入者を撃退するだけの簡単なお仕事よ。ただ罠の設置は敵が来る前にしかできないけど」
「いかにスイッチを踏ませるか、そしていかに手動のスイッチを押すかが重要なわけか」
「そういうこと」
とりあえずありったけの罠を設置し、用心棒を配置していった。
灰汁代官は罠をどこに設置するのか指示するだけで、実際に罠を設置するのは部下だ。
指示をされると部下は屋敷の外まで用心棒を雇いに行ったり、罠を買いに行き、指示された場所へ置きに行く。
それにはかなり時間がかかる。
時間を節約したいなら新たに部下を雇った方がいい。
用心棒や罠に費やせる金額は減ってしまうが、罠設置モードには時間制限があり、タイムアップになると敵が屋敷へ攻めてくるので、ケチっていると泣きを見るはずだ。
無難に部下を雇い、越後屋からもらった軍資金を全て費やして罠を設置。
「これで完璧だな」
そう思ったのが甘かった。
スッ
「避わした!?」
「正面から矢を飛ばしても当たらないわよ。最低でも横から狙うこと。虎ばさみで動きを封じてから当てるのもアリね」
「難しいな」
時間経過によって敵が徐々に増えていく。
やむなく手動式の爆弾を発動させるが、タイミングをミスって用心棒も吹っ飛んだ。
「……やばい」
こうなったら逆に開き直ろう。
誤爆したせいで用心棒は減ったが、逆にいうと数が減ったおかげでこれ以上味方を巻き込むことはない。
大胆に罠を発動させていく。
だが、
「おい、ぜんぜん当たらんぞ」
「敵には注意力ゲージがあって、用心棒で注意力ゲージを削らないと罠にかかってくれないのよ。一番確実なのは灰汁代官ね。灰汁代官の姿を見ると敵は注意力が下がるから罠当て放題よ」
「囮か」
灰汁代官は攻撃力だけはそこそこあるが、真正面から戦えるほどの戦闘力はないので囮になるのは怖い。
しかし注意を逸らすにはこれしかない。
タイミングよくスイッチを入れるのはまだ難しいが、灰汁代官は罠を踏んでも仕掛けは作動しないので、囮になって罠の上を通過するだけでいい。
それだけで灰汁代官を追いかける相手は罠にかかる。
思い切って敵の前に姿をさらすものの、
キンッ
「槍を弾いた!?」
「鎧武者だもの。鎧を破壊しないとダメージ通らないわよ。耐性を持ってるのは鎧武者だけじゃないから注意ね」
「……色々試して学習するしかないか」
実験的に色んな罠を様々なキャラクターに試す。
普通の武士よりも強い剣豪は後ろに目がついているのか、背中から矢を射っても避わされた。
力士は上から岩や釣り天井を落しても力で受け止めてしまう。
坊さんは心頭滅却しているので油をかけて火だるまにしても死なない。
忍者は自動発動系のトラップには引っかからない上に、たまにこちらの罠を乗っ取ってスイッチを入れてくる。
一筋縄ではいかない。
「くそ、難しいな!」
用心棒も動かさないといけないのが辛い。
なかなか思ったように動かせない上に、用心棒が敵にふっとばされて罠を仕掛けている場所に落ちるとトラップが発動してしまう。
これで用心棒を失うのも痛いが、戦闘前にしか仕掛けることができない罠を失うのはもっと痛い。
大量に設置している罠もあっという間になくなってしまう。
注意力のある状態で罠を踏まれると当たらない=罠を無効化されてしまうので、一か所にまとめて設置していると複数の罠を一度に無効化されてしまう。
敷き詰めればいいというものではないのだ。
また罠にかけても続けてダメージを与えなければすぐに回復してしまう。
コンボが重要だ。
それでも序盤は敵が少ないのでごり押しでクリアできた。
問題は新撰組からだろう。
「うああ、また出てきた!? 何人いるんだ、こいつら!?」
「30人ぐらい?」
「マジか……!」
しかも近藤・土方・沖田というボスクラスの敵が時間差で現れる。
なんとか2人目までは倒せたものの、そこで罠と用心棒を使い果たしてしまう。
ごり押しでは難しい。
効率よく罠を配分しなければ。
用心棒の使い方も肝だ。
狭い道だとボスと一対一になってしまう。
□□□□□□
○○○○○●
□□□□□□
□壁
○用心棒
●ボス
これでは各個撃破されるだけだ。
なるべく囲んで攻撃した方がいい。
「最初から罠を設置しなおすのが面倒くさいな」
「それが一番の欠点ね」
自分の設置した罠が的外れだったならまだいいが、あと一歩でゲームオーバーになった場合、前回と同じ罠を延々と仕掛けることになる。
敵が攻めてくるまで時間制限があるので『仕掛けた罠の状態を保存する』という仕様にできないのはわかるものの、ひたすら面倒くさい。
「よし、終わった!」
あとは最終確認。
マップが広く、仕掛ける罠も多いので、どこになにを設置したのか忘れてしまう。
最終確認は重要だ。
「来たな」
順調に沖田、土方を倒し、局長の近藤勇を引っ張り出す。
用心棒で注意力を削いだら罠を踏ませる。
スイッチを押さないと発動しない罠も、注意力が低い時に踏むと自動的に発動するという性質がある。
注意力がある時はまとめて無力化される罠の塊も、注意力を完全に削いでしまえば地雷原と同じ。
一歩歩くたびにダメージを与えられる。
そして極めつけは、
『ぐああ!?』
新選組の平隊士からわざと攻撃を食らうことだ。
雑魚は攻撃力が低い。
攻撃を食らっても体力ゲージがぜんぜん減らない。
しかもこのゲームは攻撃を食らうと一定時間無敵状態になる。
わざと攻撃力の低い平隊士から攻撃を食らって無敵状態になり、ボスを攻撃するのだ。
タイミングをミスるとボスから攻撃を食らってしまうものの、灰汁代官の攻撃力を無駄にするのは惜しい。
リスクを犯してでも無敵状態になった方がいい。
『ぐああ!?』
「よし、行ける!」
あと一息だ。
最後のトドメとばかりに罠へ誘導する。
カチッ
「え」
『ぐああ!?』
「しまった!?」
灰汁代官は罠を踏んでも罠は作動しない。
だがスイッチ式は話が別。
注意力の低い敵がスイッチ式の罠を踏んだら仕掛けが発動するように、スイッチ式の罠だけは灰汁代官もかかってしまうのだ。
注意力が下がっている時に踏むと、
GAME OVER
……こうなってしまう。
さすがにここまで来て1から罠を設置しなおすのはつらい。
完全に心が折れた。
いったん休憩することにする。
「そういやフェアの準備がまだだったな」
「フェア?」
「コーヒーフェアだ。……といってもスイーツの方だけどな。普及してるレシピにコーヒーが使われてるもの、たとえばコーヒーゼリーやティラミスなんかの食べ放題をやろうと思ってる」
「食べ放題!」
「ついでだからメニューにないスイーツも出す予定だ。有名なものだとオペラ、ダックワーズ、カルディナール・シュニッテンだな」
「シュニッテン枢機卿?」
「……シュニッテンは長方形に切り分けられたケーキのことだ。なんで枢機卿を知っててお菓子のカルディナールを知らないんだよ。ふつう逆だろ」
「だいたい教会の黒幕っていったら枢機卿じゃない」
なんという偏見。
ちなみに枢機卿とはカトリック教会における法王の顧問。
次期法王を決める法王選出選挙の選挙権を持っているのは枢機卿だけであり、かなりの影響力を持っている。
法王の顧問にして、選挙権を持つ唯一の存在ということもあり、たしかに教会の黒幕にしやすい人物ではある(法王をラスボスにすると教会からクレームが来そうだが、枢機卿ならギリギリ許されるラインな気もする)。
「一番コーヒーの強いのがオペラ。オペラ座の近くにあるケーキ屋が考案したもので、チョコクリームとコーヒークリームを層にしたケーキだ」
「へー」
「問題はこれに何のコーヒーを合わせるかだな。スイーツの味付けにどんなコーヒーを使うかで飲むコーヒーも変わる。コーヒーの味を堪能するならやっぱり濃い目だろう。ケニアやタンザニアがいいな」
「じゃあそれ」
「あいよ」
オペラを切り分け、深煎りのケニアを淹れる。
「うあ、すっごいコーヒー味!?」
「ティラミスと同じで、スポンジにもコーヒーのシロップを染み込ませてるからな」
「スポンジにも!?」
スポンジにはアーモンドも入っている。
コーヒーと相性のいいチョコとアーモンドに、コーヒーのクリームとシロップ。
コーヒーを使ったスイーツとしてはティラミスと並ぶ濃厚さである。
コーヒー好きにはたまらない逸品だ。
ティラミスのマスカルポーネが苦手なら、是非こちらをオススメする。
「でもティラミスとかこれとか、味が濃すぎるとそんなに食べられないでしょ」
「食い放題でそんなに食べられたら困るだろうが」
「なるほど」
だからといって敬遠されて余っても困る。
何事もバランスが重要なのだ。
「迎え撃つのが辛いんなら、侵入する側に回ってみる?」
「そっちの方が面白そうだな」
侵入して灰汁代官を殺すだけだから、1から罠を設置しなくていいのが楽だ。
というわけで忍者になり、灰汁代官へ天誅を下しに行く。
しかし、
ガンッ
「は?」
上からタライが降ってきたと思ったら、
ドンッ
「な?」
壁が物凄い勢いで迫り出してきて横に吹っ飛ばされる。
ドカンッ
「げ!?」
しかも着地点に火薬が仕掛けてあったのか爆発した。
GAME OVER
「……どうやって回避すればいいんだ、こんなもん」
「敵の動きを読むことね。普通こちらを見つけたら一直線に向かってくるでしょ? でもその場から動かなかったり、逃げ出した場合はこちらを罠に引きずり込もうとしてる場合が多いから。それと自動的に発動するトラップの場合、敵は必ずそこを避けて通るの」
「なるほど」
「後は床・壁・天井の色ね。罠が仕掛けられてる場所はだいたい色が違うし」
これは見た目にもわかりやすい。
何度か死んで罠の位置と種類がわかってきたので、それを巧みに避けつつ、逆に罠を利用して敵を倒していく。
慣れたらステルスゲームと同じだ。
罠をかいくぐり、用心棒に見つからないように灰汁代官を殺せばいい。
「ん? 敵がいない」
『曲者だ!』
「な!? 全員屋根の上!?」
「ふふふ。敵に見つかったら屋根の上に逃げるのが一つのセオリーだけど、このステージでその方法は通用しないわよ。しかも上から見下ろしてるから、野外でステルスするのも難しいし」
「くそ!」
慌てて室内に逃げ込んだ。
まんまと誘導されている気がする。
室内に敵がいないのも怪しい。
とりあえずボスがどこにいるのか探らねば。
階段を昇ると、バナナの皮が仕掛けてあった。
踏んだら滑って階段を転げ落ちるコンボだろう。
バナナの皮を飛び越えて先に進むと、
すぽっ
「なんだ!?」
上から壺が降ってきた。
それも口を下にして、すぽっと忍者の頭にハマった。
ガチャガチャ
「コントロールが効かない!?」
「壺はこのシリーズの名物で、頭から抜けるまでは強制的に前へ歩き続ける罠なの。しかも罠を食らって割れるか、一定の時間が経過するか、ボタン連打しないと壺は取れないし」
「誘導専用の罠か!」
やばい、早く壺を取らないとコンボを食らう。
くるっ
床が90度回転した。
相手の進路を変える回転床だ。
進行方向は階段。
「まずい、バナナの皮!」
必死にボタンを連打するものの、壺は取れない。
ツルッ
あえなく見え見えの罠にかかり、バナナの皮でスリップからの階段落ち。
さらに階段から落ちた勢いでごろごろ転がり、またしてもトラップ発動。
足にロープが巻きつき、タロットカードのハングドマンのごとく逆さ吊りにされる。
そして、
カチッ
どこかで手動のスイッチが入った音がした。
横から丸太が飛来し、まるで鐘を撞くように忍者を強打する。
足からロープが外れて壁まで吹っ飛ばされた。
くるっ
再び回転。
今度は床ではなく壁である。
忍者屋敷によくある『どんでん返し』という仕掛けだ。
壁が回転したということは隣の部屋に飛ばされるということだが、予想していたのとは違って壁の向こう側は庭だった。
しかもなぜか大砲が備え付けられていた。
丸太で吹っ飛ばされた忍者が大砲の筒の中にすぽっとハマる。
「おい、まさか……」
「そのまさかよ」
どこからともなく灰汁代官が現れ、大砲に火を着けた。
「人間大砲!?」
ドカンッ
……忍者は緩やかな放物線を描いて頭から池に突っ込み、某犬神憑きの一族のごとき最後を遂げた。




