RTAセット【パイナップルケーキとタピオカミルクティー】
参考ゲーム
ドンキーコング
マリオ
アトランティスの謎
「ワンコインちょうだい」
「もってけ、給料泥棒」
「誰が泥棒よ」
うちの店ではアルバイト代こそ最低賃金だが、1時間につきワンコイン(デジタルゲーム1回無料)がつく。
時給が50~100円ほど上がってしまうものの、プレイするのはうちの筐体なので損をすることはない。
問題は、
「パクパクマンで4時間遊ぶのも飽きてきたわね」
……ゲーマーはワンコインで延々と遊び続けることだ。
なので店としても対策を講じなければならない。
「今日からワンコインはこれに使え」
「なにこれ?」
「フェミコンボックス。古い旅館とかに置いてあるやつだ。ワンコインでフェミコンのゲームを10分遊べる」
「あー、『ゲームカフェCX』でやってたやつね。実物初めて見たかも。ゲームはなにが入ってるの?」
「超万里夫兄弟とドン・コング。それからムーの謎、ガイの冒険、ジャイアンツレア、剛腕アトムその他だ」
「RTA向きね」
「RTA?」
「リアルタイムアタックのこと。まずはドン・コングかしら。ウォーミングアップにはちょうどいいし」
雑魚キャラや障害物、ドン・コングの転がすタルをジャンプやハシゴで避わしながら、お姫さまの閉じ込められている最上階(画面上部。画面はスクロールしない)を目指すアクションゲームだ。
今でこそ当たり前だが、当時はジャンプで敵の攻撃や障害物を飛び越えるゲームシステムは画期的だったらしい。
「人生最高の10分間にしよう!」
どこかで聞いた覚えのあるセリフをつぶやき、コインを投入した。
俺は適当に何かつまみながら観戦することにする。
台湾フェアでパイナップルケーキとタピオカミルクティーが余っているのでそれがいいだろう。
パイナップルケーキはパイナップルの餡を焼き菓子で包んだ一口サイズのスイーツだ。
サクサクほろほろで甘酸っぱい。
台湾土産の定番である。
そしてブームにもなったタピオカミルクティー。
タピオカのプチプチ感が気持ちいい。
定期的にタピオカブームが来るのもわかる。
そうして台湾スイーツを堪能していたところ、
トコトコ ぴょんぴょん トコトコ
「はい、クリア」
「な!?」
あっという間にドン・コングをクリアしていた。
全3面しかないとはいえ早い。
「タイムは……1分27秒ちょい。まあまあね。余計なジャンプさせられちゃったし」
「余計なジャンプ?」
「着地した時に硬直時間があるのよ」
「誤差の範囲だろ」
「そのコンマ1秒が致命的なの!」
「お、おう」
もはや常人には理解できない世界だ。
「やっぱりRTAの王道っていえば万里夫よね」
即座に遊ぶゲームを万里夫に切り替えBダッシュ。
ノンストップで走り続ける。
障害物に足止めされることなく、ぴょんぴょん進む。
「無駄にジャンプしてないか?」
「ドン・コングみたいに硬直しないから、むしろジャンプしてブロック叩くと反動で加速するのよ。ダッシュよりダッシュジャンプの方が速いゲームも珍しくないし」
「へえ」
ジャンプの精度も恐ろしいほど正確だ。
一マス分の足場しかないブロックにもひょいと飛び移り、パックリフラワーが顔を出している土管の上にも平気でジャンプした。
地面に着地してしまうと、そこからもう一度ジャンプして土管に乗らないといけないのでタイムロスになる。
無理をしてでも敵がいる足場へ着地しないといけないのだ。
それにしても、
「……どう見ても敵に当たってるんだが」
「当たり判定が甘いのよ」
甘いからといって、ここまでギリギリに近づくのは恐ろしい。
しかも敵にかすりながらダッシュ&ジャンプしている。
たまにジャンプした時、空中で反対側を向くこともあった。
ブレーキをかけてタイミングと位置を調節しているのだろう。
ステージ構成を完全に記憶していなければできない芸当だ。
目隠しプレイでも途中までならクリアできるのではなかろうか。
ピタっ
「ん?」
ゴール前で一瞬止まった。
「コントロールミスか?」
「違うわよ。残り時間の下1ケタが1、3、6の時、その数字に応じた花火が打ち上げられるから、わざと遅らせたの」
「あれランダムじゃなかったのか」
数字に応じた花火ということは最大で6発。
仮に最速でゴールしたとしても6発打ち上げられたらかなりのタイムロスになる。
時にはわざと遅れることも重要なのだ。
一秒を争うRTAだからこその微調整だといえる。
「ワープ!」
いくつもの土管をくぐりぬけ、先の面へワープする。
このゲームでは特定の土管をくぐるとショートカットできるのだが、明らかに物理法則に反した場所へ繋がっていた。
そもそもこの空中にある土管はなんなのか。
設計者の神経を疑う。
「とう!」
すると瑞穂が、その空中にある土管へジャンプした。
だが万里夫のジャンプ力では土管の上まで届かず、空中で土管に衝突する。
ところが、
「壁蹴り!」
「は?」
なぜか万里夫が何もない空中で地面を蹴り、ジャンプして土管に飛び乗った。
「なんだ今の?」
「障害物にぶつかった瞬間、タイミングよくボタンを押すとなぜかジャンプできるのよ。たぶんキャラが障害物にめり込んで、一瞬だけ地面判定が生まれてるんじゃない?」
「もう何でもありだな……」
一種のバグすら利用して土管ワープすると、あっという間に最終ステージ。
ダッシュ&ジャンプでラスボスの攻撃をいともたやすく避わして橋を落とし、マグマに突き落とした。
クリア時間5分。
異常すぎる。
「残り3分……。ムーの謎ならいける!」
再びゲームを切り替え、プレイ開始。
シンプルな横スクロールアクションで、これまたノンストップでダッシュ&ジャンプ。
万里夫以上にワープポイントが多く、爆弾のようなものを投げて扉を出現させて10面、20面単位ですっとばしていく。
基本、左から右へ進むのが横スクロールの王道なのだが、なぜかこのゲームでは定期的に右から左へ進むステージがあった。
何か意味があるのだろうか?
ピコーン ピコーン
「あ!?」
「もうすぐタイムリミットだぞ」
「わかってるわよ」
フェミコンボックスは残り一分になると画面が点滅し始める。
少しは焦ればいいものを、
「よし、100面!」
抜群の指さばきで100面に到達。
所要時間わずか2分。
プレイスピードもステージ構成もおかしい。
なにをどうすれば2分で100面にワープできるんだ。
正攻法で進めた場合、100面に到達するまで何分かかるのだろう。
無性に気になる。
件のラストステージの壁にはいくつもの仮面があり、無数の火の玉を吐いてきた。
一見、避わすのはかなり難しそうなのだが……
ぴょんぴょん
『こんぐらっちれーしょん!』
火の玉をかいくぐって簡単にゴールした。
その瞬間、
ブツッ
とテレビが暗転する。
「セーフ」
ギリギリのタイミングだった。
まさか10分で3本もクリアされてしまうとは……。
ゲーマーを甘く見すぎていたのかもしれない。
「あ、よく見たら『忍者虎剣伝』もあるじゃない。卑怯よ!」
「卑怯ってなんだよ」
「完璧にプレイしてもギリギリ10分超えるのよ。1コインでクリアできないじゃない!」
「働け」




