駄菓子屋ゲームセット【マーブル型チョコとコーラ】
ホコリをかぶって色あせたプラモ、どういう層に需要があるのかわからないガチャ、賞味期限切れのお菓子、起きているのか寝ているのかわからない婆さん。
いつもの駄菓子屋だ。
10年前からほとんど変わらない光景だけに落ち着く。
「マーブル型のチョコ買おっと」
「そういやマーブルはおはじきって意味なのに、これでおはじきしたことないな」
「私なんておはじき自体したことないわよ。ルールは知ってるけど」
「まあ、相手のおはじき落とすだけだしな」
「え、なに言ってんの?」
「違うのか?」
「違うわよ。おはじきのどれかを指名して、それに当てられたら自分のものにできるの」
「……なんでやったことないのにルール知ってるんだよ」
「漫画でやってたもの」
マーブルなチョコを台の上に並べる。
「ちなみにおはじきには仕切りっていうルールがあって。自分のおはじきと、狙うおはじきの間に小指が通らないといけないの」
スッとおはじきとおはじきの間に小指を通す。
小指一個分の距離が開いていなければ狙えないらしい。
「それと狙ったおはじきに当てても、小指が通るだけの距離を弾き飛ばさないと取れないのよ」
「へえ」
まさしくおはじきだ。
ルールを理解したので、赤いチョコを指名して中指で弾く。
「お、当たった」
「次は私の番ね。ていっ」
「うわっ!?」
場外。
床に落ちる前に奇跡的にキャッチする。
「強く弾きすぎだ」
「おかしいわね」
何度弾いても力加減がうまくいかず、台から投身自殺する。
「なんでよ!」
「そもそも中指を使うのが間違いなんじゃないのか。どうしても力んでしまうんなら指を変えたほうがいいぞ」
「なるほど。指を使い分けるのね」
人差し指で弾く。
「うう……」
結果は言うまでもないだろう。
気づけばすべてのチョコが俺のものになっていた。
「……一個ちょうだい?」
「一個だけだぞ」
「やった!」
自分の金で買ったのも忘れて喜んでいる。
ちょろいやつだ。
「このジュースも懐かしいな」
チューチューするアイスのように、先っぽを噛んで穴を開けてから飲むコーラだ。
「ほう、炭酸抜きコーラですか」
「……誰だよ」
「格闘漫画のモブ」
「わかるか!」
わざわざ眼鏡をかけているのが細かい。
ちなみにこのコーラには最初から炭酸は入っていない。
炭酸がないので甘さがダイレクトに舌へ伝わり、とてつもなく甘ったるい。
だがそれがいい。
「たしかパッケージを見れば当たりがわかるんだよな」
しかしそれをやっていたのは小学生の頃なので、判別方法を思い出せない。
きな粉の棒やよっさんイカも当たりの判別方法があったのだが、これも思い出せなかった。
棒の状態やイカの切り口を見ていたような気がする。
なんとなくで買ってみたものの、
ハズレ
……やはりうろ覚えではどうしようもない。
運ゲーでは当たりそうもないので、10円ゲームを物色する。
「これも懐かしいな」
東海道五十三次を旅するコインゲーム『東海道遊戯』。
使われるコインはプレイヤーの投入した10円だ。
それをレバーで弾き、穴に落とさずに一番下のゴールまで運べばクリア。
コースの一例
━━━━━━━←レーン
●←十円
\━━━━━○←穴
○ ━━○━━/←レバー
\━○━━○━
━━━━/
||←ゴール(周りの空間はぜんぶ穴)
クリアするとプラスチック製の通行手形がもらえる。
これは引換券であり、駄菓子と交換できる仕組みだ。
ただこの通行手形、駒形で東海道○○宿通行手形と書かれており、妙に出来がいい。
全部で55種類とバリエーションも豊富なのでコレクションする子供も多いのだ。
俺も手形を集めた口だ。
……結局、全部は集められなかったが。
探せばまだうちにあるだろう。
久しぶりにコレクションを増やしてもいいかもしれない。
「さて……」
10円玉を投入。
それも縁起のいいギザ10だ。
台にネジ止めされている横長のレーンを転がり、左端で止まる。
序盤のコースは簡単だ。
第一の関所、即ち第一関門はレバーを少しひねって弾き飛ばすだけでいい。
●
\━━━━━ ○
レバーを限界までひねらない限り、右端にある穴に落ちることはない。
3~4割ぐらいのパワーで10円玉を飛ばし、第一関門突破。
第二関門も簡単である。
7~8割ぐらいのパワーで弾けばいい。
ここもフルパワーでやらない限り穴には落ちない。
第三関門は穴が斜め上にある。
○
●
\━━━━━
強い力で弾くと上まで飛んで穴に落ちるので、ここも2~3割ぐらいの力で弾く。
本番はここからだ。
第四関門は穴が二つある。
●
○ ━━○━━/
一つはレーンの途中。
弾く力が弱いとここに落ちる。
もう一つの穴は左端。
フルパワーで弾くと左端の穴に落ち、7割ぐらいの力だとレーンが傾いているので右の穴に戻って落ちてしまう。
「行け!」
8~9割の力でレバーを弾く。
すると上手く右の穴を飛び越え、左端の穴の下を潜って第五関門へ。
ここも穴が2つある。
━━━
●
\━○━━○━
1つは2割、2つ目は5割ぐらいの位置にあり、強く弾けば簡単だ。
ただし強く弾きすぎると天井に当たり、穴に落ちてしまう。
8割ぐらいの力でレバーを弾き2つの穴を飛び越える。
そして最終関門。
7割ぐらいの位置にある三条大橋へぴったり落とさなければならない。
●
━━━━/
||
ゴールの横には大きな穴が開いているので繊細なコントロールが求められる。
「ここだ!」
昔の記憶を頼りに、ピンポイントでレバーを弾く。
しかし、
ガンッ
「げ」
サッカーのゴールポストのごとく、バーに嫌われて外れの穴に落ちた。
「くそ、もう1回!」
しかしブランクがありすぎるのか、単に不器用なだけか。
何回やってもゴール出来なかった。
「ふふ。甘いわね」
「じゃあ、お前はできるのか?」
「とーぜん。私がお手本見せたげる」
瑞穂が慣れた手つきでレバーを弾く。
「注目すべきはレバー周辺。私たちが生まれる前から稼働してるから、塗装が剥げたり細かな傷があったり駄菓子のシールが貼られたりしてるでしょ。中には意図的につけられたものがあるわけ」
「まさか……」
「そのまさかよ。それはここにレバーを合わせろっていう目印。つまりここよ!」
レバーを傷に合わせ、狙いすました一撃をゴールへ放つ。
しかし、
ガンッ
「え」
「ふぉっふぉっふぉ」
レジで茶を飲んでいた婆さんがしてやったりという顔をした。
「……やられたわ」
「もしかしてダミーの傷なのか?」
「そんなわけないでしょ。たぶんレバーをいじってるのよ。ゲーム機の中に調整レバーがあって、それを上に動かせば入りやすく、下に動かせば入りにくくなるの」
駄菓子屋の婆さんでも調整できる簡単仕様らしい。
「単純で安いゲームだから子供もすぐにコツを覚えちゃうでしょ。だから定期的にレバーを調整してるの」
「なるほど」
「本気だすわよ」
どこから取り出したのか、10円玉にロウを塗る。
すべりをよくしたのだろう。
「ツルツルさせすぎると制御不能になるから注意ね」
「誰がするか」
再び10円玉を最終関門へ弾く。
「ここでもう1枚」
「は?」
10円玉をもう1枚投入した。
「貯金戦法よ。ラストで10円を数枚まとめて飛ばせば、ゴールに入る確率は格段に高くなるの」
「確実にラストまで行けるとは限らないだろ」
「確実に行けるわよ。……おばあさんがいるから無理だけど」
「……その禁じ手、一応聞いておこうか」
「穴に落ちそうになったら台を傾ける」
最悪だ。
「もう1枚!」
最終的に30円が最終関門に集まった。
「行くわよ!」
満を持して10円玉を弾き飛ばした。
ガンッ
「……」
「40円か……。駄菓子屋ではかなりの大金だな」
「うう……」
「ふぉっふぉっふぉ」
いつの時代も最終的に笑うのは駄菓子屋の婆さんらしい。
この10円の分だけ婆さんの寿命が延びるとしたら、さぞ長生きすることだろう。




