デッキビルディングセット【キャラメルケーキとカフェオレ】
参考ゲーム
ルーンエイジ
「遊び方がたくさんあるゲームないですか? 1つのゲームで3つの遊び方ができるみたいな……」
「ならこれをやりましょう!」
先生が嬉々として棚に手を伸ばした。
……いつの間にか瑞穂のデジタルゲームだけでなく、先生のアナログゲームも店のスペースの一画を牛耳っていた。
二人のゲームに店を占領されるのも時間の問題だろう。
「よいしょ」
ゲームを取り出してテーブルに広げる。
『ルーンメイジ』
ルーン文字(ファンタジーでよく登場する魔術文字だ)を使う魔術師のゲームらしい。
「シナリオが4つあって、その内2つはソロでも遊べますよ?」
「じゃあルール覚えたいんで初めはソロで」
「では『ドラゴンルーラーの復活』から始めましょう。まずこの4種族の中から好きなのを選んでください」
なんとなくでエルフを選ぶ。
金髪碧眼でどことなくアリスに似ている。
「選んだ種族のカードは種類ごとに自陣へ並べます。1種族ごとに4種類のカードしかありません」
「デッキ構築にしては少ないですね」
「そうですね。他の種族のカードもデッキに組み込めないので、種族ごとに組めるデッキはほとんど決まってます」
バリエーションが少ないだけに初級者には優しい。
熟練者には物足りないだろうが……。
「プレイヤーの最初のデッキは、この種族の戦闘力1のカード3枚と、金貨1枚が5枚です」
「……ややこしいな」
他にも金貨2枚のカードや3枚のカードもある。
金貨1枚が5枚や金貨2枚が3枚と言われると混乱してしまいそうだ。
「デッキをシャッフルして手札を5枚引きます。この金貨を使って種族カードを買い、強いデッキを作っていくわけですね」
戦闘力1が金貨1、2が2、3が3、4は5枚だ。
「ちなみにお金カードは使ってもなくなりません。破壊されない限り次のラウンドでも引けます」
「ここに強そうなカードが3種類置いてありますけど、このカードは?」
「それは中立カード。どんな種族でもそのカードをデッキに加えることができます。ただしお金では買えません」
「じゃあ、どうやってデッキに組み込むんですか?」
「このゲームには3種類のコストがあります。お金、戦闘力、支配力です。プレイヤーはお金で戦闘力を買い、戦闘力でこの砦カードや都市カードを買い、砦や都市の支配力で中立カードを買います」
なお砦は金でも買えるが、戦闘力よりもコストが高い。
支配力を使えば金も買える。
支配力は金と同じように使ってもなくならない。
おまけに砦や都市はデッキに組み込むカードではないので、一度手に入れれば破壊されない限り毎ラウンド使うことができる。
かなり便利だ。
「4種類のカードだけじゃ幅が狭いから、適度に砦と都市を落として中立カードも確保しておかないといけないのか。そして余った支配力で金を買い、さらに戦闘力を買って循環させる、と」
「支配力はお金や中立カードを買うだけではありません。ラウンドの最後にプレイヤーは残った手札を捨てて、新たに手札を5枚引くわけですが……。支配力を使えば、使った支配力の点数だけ手札を次のラウンドに持ち越すことができます」
支配力が万能すぎる。
「プレイヤーの体力はこの本拠地カードです。どの種族も体力は20。戦闘力で本拠地を落とされたら負けです」
今回プレイするシナリオのボス・ドラゴンルーラーは体力18なのでいい勝負だ。
「えーと、デッキから手札を5枚引く、と……」
戦闘力1が2枚と金貨が3枚。
戦闘力3までの戦闘カードが買える。
●ゲームの配置
イ ←イベントカードの山札(毎ラウンドの最後に1枚引く)
ドラゴンルーラー(ボス・体力18・体力を0にするのが目的)
金1 金2 金3 ←金貨の山札(数字は金貨の枚数・支配力で買う)
中2 中4 中6 ←中立カードの山札(数字はそのカードを買うためのコスト・支配力で買う)
砦 都市 ←砦と都市カード(支配力の源・戦闘力で買う・このカードを持っている限り毎ラウンド支配力を使える)
本拠地(体力20・敵の攻撃で0になったら負け)
1 2 ←各種族の山札(戦闘カード・数字はカードを買うためのコスト・手札の金貨で買う)
3 5
デ ←自分のデッキ(ここから手札を引く・買ったカードはデッキに組み込む)
手 手 手 手 手 ←手札(これで敵を攻撃する・カードを買う)
「まず金貨3枚で戦闘力3のカードを買って……。戦闘カード2枚でルーラー攻撃するか」
「この損害ダイスを振ってください」
ドクロの描かれたサイコロだ。
「このサイコロに描かれているドクロの数だけ、戦闘に参加したカードは破壊されます」
「げ」
3面にドクロが1つ描いてある。
2面はノーダメージ、もう1面はドクロ2。
コロコロ
1。
戦闘カードが一枚死に、ルーラーに1ダメージ与える。
確率的に戦闘をする時は、最低でも1枚はカードが死ぬことを前提にするべきだろう。
手札の5枚を使い終わったら、捨て札をデッキに戻してシャッフルし、新たに5枚引く(手札が残っていたらそれを捨てて5枚引く)。
「最後にイベントカードを引いてください。イベントには1から3までのレベルがあり、イベントカードの山札はレベルごとに層に分かれています」
ラウンドが進めば進むほどレベルが上がっていくわけだ。
ドラゴンルーラーの復活はレベル2までしかないらしく、それほど難しくはないだろう。
イベントカードを引く。
『眠れるドラゴンルーラー』
この敵カードに勝利したプレイヤーは、このカードを報酬として得る。
敵の戦闘力は5で、戦闘に勝ったら支配力1のカードとして使えるようだ。
「ん? ボスのドラゴンルーラーは攻撃してこないのか? 戦闘しても本拠地はダメージ受けなかったし」
「攻撃のイベントカードを引かない限り大丈夫です」
結局レベル1のイベントカードでは、ルーラーは本拠地へ攻撃を仕掛けてこなかった。
デッキを構築するための準備ラウンドなのだろう。
おそらくここからが本番だ。
『ドラゴンルーラー・スゴック』
戦闘力8の敵カード。
能力は各イベントフェイズ開始時に、各プレイヤーの本拠地は2ダメージ受けるというもの。
こいつを倒さない限り、毎ラウンド本拠地は2ダメージ受けることになる。
『ドラゴンルーラー・ネリヒュレクス』
このカードは敵カードではなく、即時効果というカードだった。
つまり効果を発動したら捨て札になる。
即時効果は本拠地へ3ダメージ。
即時効果は問答無用でダメージを受ける……のかと思いきや、手札の戦闘カードを使ってダメージを軽減できるらしい。
戦闘力3以上の手札を出せばダメージは0になる。
『ドラゴンルーラー・ズェイツ』
『ドラゴンルーラー・ガーコード』
この2枚も即時効果だ。
戦闘力は9と12。
レベル2にはもう2枚のカードがあり、これはレベル1と同じくこちらから攻撃しない限り損害を受けない敵カード。
「本拠地へダメージを与えるカードは4枚か」
毎ターン2、即時効果3、9、12。
ちゃんと手札で防御しないと20以上のダメージを食らってゲームオーバー。
しかし手札で防御し続けるとボスであるドラゴンルーラーへ攻撃できない。
おまけにイベントカードは9枚しかなく、イベントカードの山札がなくなると、レベル2の捨て札をシャッフルして山札に戻すことになる。
レベル2のカードは全部で6枚。
この内2匹はこちらから手出しをしない限り安全であり、倒したら報酬としてプレイヤーのカードになる。
すなわちイベントカードが尽きた時、捨て札にはスゴックと即時効果のカードしかないのだ。
毎ターン2、即時効果3、9、12が連続して襲い掛かってくる。
長期戦は厳しい。
「ならダメージ覚悟で短期決戦だ!」
レベル1のイベントカード3枚ではダメージを受けない。
レベル2の敵カード2枚も無害で、即時効果3は無視できるレベルだ。
毎ターン2も場合によっては放置していい。
防御する必要があるのは即時効果9、12だけ。
ボスの体力は18、こちらは20。
「ドロー! よし、勝った!」
正面から殴り合い、力でドラゴンルーラーをねじ伏せる。
それほどデッキを強くする必要はなかった。
とにかく手数。
戦闘力が低くても確実にダメージを積み重ねていけば、18は決して遠い数字ではない。
「意外に弱かったな。……まあ、こっちの本拠地も18ダメージ食らってるから同じ条件だったら負けてたが」
「ドラゴンルーラーの復活はソロと多人数プレイだとルールが違いますから。多人数バージョンでは『ドラゴンルーラーを倒したプレイヤーの勝ち』ですし」
つまり倒されるのが前提なので微妙な能力に設定されているわけだ。
「次のシナリオは『モニュメント』。一番最初にモニュメントを作った人の勝ちです。モニュメントを作るには、このモニュメントカードの裏に書かれている金額分のカードをデッキに組み込み、手札として引かないといけません」
モニュメントカードには10~12までの数字が書いてある。
種族ごとに金の稼ぎやすさが違うからだろうか、目標金額がバラついていた。
金は支配力で買うので、支配力を稼げる能力のあるエルフの目標金額が一番高い。
「ボスはいないんですね」
「はい。他のプレイヤーの砦や都市を攻撃して支配力を奪うことはできますが、本拠地へ攻撃することはできません」
本拠地を陥落させて、他のプレイヤーをゲームから脱落させることはできないということだ。
ルールも把握したのでモニュメントのシナリオの準備をする。
中立カードとイベントカードを入れ替えるだけなのでセットは楽だ。
イベントカードの内容はドラゴンルーラーとかなり違う。
こちらの本拠地へダメージを与えるものがない。
ほとんどが敵カードだ。
敵を倒すと褒賞としてそのカードがもらえ、自分の手番なら好きなタイミングで金として使うことができる(使えばなくなる)。
弱いものだと金貨1枚、強いものだと金貨3枚の価値がある。
いかに敵カードを入手するかが鍵だ。
「デュエル!」
先手の利を活かし、先生に取られる前に敵カードを破壊しに行く。
しかし、
「ん、なんだこいつ!? 『戦いに参加した戦闘カードの内、コストが1か2のカードを破壊する』!?」
「敵カードはこちらから攻撃しない限り何もしてこないわけですから、戦闘を挑むのならそれなりのリスクがありますよ?」
戦闘を挑む前にちゃんと敵の能力を読んでおくべきだった。。
敵カードには他にも、
『手札をすべて破壊する』
『戦闘開始時に手札をランダムで一枚捨て札にする』
『戦いに参加したすべての戦闘カードが壊滅する』
『もう一度損害ダイスを振らないといけない』
『自分のデッキから5枚取り、金貨のカードをすべて破壊しなければならない』
と厄介な能力がそろっていた。
「ではコスト4で中立カードの『ナーガ・ラージャ』を買います」
「ナーガ・ラージャ?」
ナーガ・ラージャは戦闘力3。
特殊能力は『戦闘終了』『戦闘結果』の無効化。
「あ」
敵カードの能力はほとんどが戦闘結果・戦闘終了時に効果を発揮するものだ。
これで先生は安全に敵カードと戦うことができるようになる。
戦闘結果、
「先生の勝ちですね」
「ぐっ!」
惨敗を喫する。
「では勝利の一杯を。キャラメルケーキをお願いします」
「……仕方ないか。キャラメルケーキとキャラメルチーズケーキ、どっちがいいですか?」
「キャラメルチーズケーキで」
「あいよ」
キャラメルチーズケーキなら、豆は深煎りのタンザニアだろう。
「コーヒーでキャラメルが引き立ちますね」
「タンザニアは後味がキャラメルっぽいですから」
風味が似ているだけに、相乗効果で味が際立つ。
俺は普通のキャラメルケーキだ。
中煎りのコーヒーでもいいが、深煎りのタンザニアがあるのでカフェオレにする。
苦みのあるコーヒーにたっぷりのミルク。
これがキャラメルケーキに実によく合う。
「んー、キャラメルのいい匂い」
「アリスにもプリーズ!」
まったりしていると、いつものメンツがそろった。
俺がおやつの準備をしている間に3人でモニュメントのシナリオを始める。
「ドラゴンルーラーとモニュメントのシナリオ、一緒にプレイできるんじゃない?」
「ルーラーを倒すか、先にモニュメントを作ったプレイヤーの勝ちということですね」
「ナイスアイデア!」
「ただカードの裏側を見ると次に何のイベントが来るのか予想できてしまいます」
「あ、裏面が違う」
シナリオによってカードの模様が変えてあるらしい。
プレイヤーが一目で区別できるように配慮してあるのだろうが、これでは違うシナリオのイベントカードを混ぜてプレイしにくい。
「カードゲームによってはカードの裏面で内容がわかるものがあるので、裏側を見えないようにするカードスリーブもありますよ?」
「でも混ぜちゃうと間延びしそうな気もするわね。モニュメントのイベントカードは本拠地に攻撃仕掛けてこないし」
「ではモニュメントのイベントカードはフィールドに置きまショー」
「は?」
「モニュメントのイベントは敵ばかりですネ。こちらから攻撃しなければダイジョーブ」
「あー、最初から敵カードを場に置いてても危険はないんだ」
「いぐざくとりー」
いきなり序盤からイベントレベル2で、金3の価値がある敵へ戦いを挑めるわけだ。
「どうせならもう1つのルールも追加しましょう。3番目のシナリオ『ルーンウォリアー』は『ラストマン・スタンディング』です」
「らすとまん?」
「最後までスタンディングしていたプレイヤーが勝つゲームですネ」
「バトルロワイアルってこと?」
「はい。本拠地へダメージを与えるイベントカードもあるので、ドラゴンルーラーのイベントカードに混ぜても遊べると思います。しかもルーンウォリアーでは『パワーカード』というルーンの力を秘めたカードが各プレイヤーに配られ、好きなタイミングで能力を発揮できるので派手な展開になりますよ? イベントカードで『パワーカードの獲得』を引けばさらにもう一枚パワーカードが配られますし、他のプレイヤーの本拠地を攻略すると相手のパワーカードを奪うこともできます」
ルーラーを倒す、他のプレイヤーを全員倒す、モニュメントを完成させる。
選択肢が広がって面白そうだ。
おやつを食べ終わると早速ドラゴンルーラーとルーンウォリアーのイベントカードを混ぜて山札を作り、モニュメントの敵カードを場に置いてプレイ開始。
「じゃあ先生の本拠地へ攻撃」
「私も」
「ライトに同じく」
「ああ!?」
強いプレイヤーへ集中攻撃できるのがこのゲームのいいところだ。
「あら、手札がいいわね」
瑞穂がドラゴンルーラーを攻撃して体力を削る。
「あ、バカ!」
「……やってしまいましたね」
「え?」
「サンクス」
アリスがドラゴンルーラーをあっさり撃破した。
「ええ!?」
「体力を削りすぎるからだ」
ドラゴンルーラーの体力は18。
自分の手番だけで倒すのは難しい。
だからといって体力を削ると、後ろのプレイヤーに倒されてしまう。
そもそもプレイヤーが攻撃を受ける場合と違い、敵カードはダメージ量が多いのだ。
即時効果による本拠地への攻撃、他プレイヤーからの本拠地への攻撃の場合、プレイヤーは手札を使ってダメージを減らせる。
一方、敵カードは損害ダイスでこちらの手札を破壊することでしかダメージを減らせない。
ほとんど損害1なので、4枚の戦闘カードでダメージを与えることができる。
戦闘カードの特殊能力は『デッキから1~2枚引いて、特定の条件を満たしている戦闘カードを1枚手札に加えることができる』というものが多いので、損害よりも増えるカードのほうが多かったりする。
デッキを強化していれば10以上のダメージは珍しくもない。
つまりルーラーを2回の攻撃で倒せてしまう。
うかつに手が出せない。
なのでデッキを強化したり、他のプレイヤーの本拠地へ攻撃を仕掛けたり、砦や都市を落として支配力を高めたり、モニュメントの敵カードに狙いをしぼるようになった。
「おい、少しはルーラーに攻撃しろよ」
「ノー」
「嫌です」
「あんたが攻撃しなさいよ」
「誰がするか」
冷静に考えるとひどい状況だ。
せっかく復活し、ボスとして君臨しているのに、人間は同士討ちやよくわからないモニュメント造りに明け暮れ、見向きもされないドラゴンの支配者。
……あまりの待遇の悪さに哀れみさえ感じてしまう。
もちろん足を引っ張り合っている内にドラゴンルーラーの攻撃を食らい、全滅してしまうこともあるのだろうが。
ルーラーが純粋な実力でプレイヤーを全滅させる確率は低そうだ。
イベントカードで登場するルーラーには名前があるのに、ボスのルーラーに名前がないのがまた悲しい。
「あー、もう無理ね」
瑞穂がやつあたり気味にドラゴンルーラーへ攻撃した。
「あああ!? なにやってんだお前、せっかく勝てそうだったのに!」
「だって私に勝ち目ないんだもん」
これで俺のモニュメント完成よりドラゴンルーラーを倒すほうが早くなり、
「うぃなー!」
またしてもアリスが勝利者になった。
……さらば名もなきドラゴンルーラー。
華々しい復活を遂げながら、バカの気まぐれであっさりやられてしまったお前の雄姿を忘れない。




