パズルゲームセット【ショートブレッドとミルクティー】
今回出てくるショートブレッドはカロリーメイトみたいなお菓子です(わからない人もいるみたいなので一応注意
参考ゲーム
リベリウム
くろひげ危機一髪
ジェンガ
「……なんだこれ?」
「カードパズルゲームです」
帰宅するとテーブルの上に奇怪なオブジェが建築されていた。
トランプのような細長いカードに『━』状の穴が開いている。
1枚のカードに穴は4つ。
上下左右に1つずつだ。
その穴にカードの角を差し込むパズルゲームらしい。
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|| ||<←カードの角(<)を穴(|)に差し込む
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全ての穴にカードが差し込まれることもあれば、そのカードの角を自分の手札の穴に差し込むこともできる。
カードはプラスチック製なのでかなりしなっており、今にも崩れそうだ。
瑞穂が慎重な手つきで自分のカードの穴にカードの角を差し込む。
「ふぅ……」
奇跡的に崩れなかった。
すると、今度は先生が逆にカードを抜き始めた。
どうやらカードがなくなったらしい。
どちらかがカードのタワーを崩すまでひたすらカードを抜き差しするゲームなのだろう。
震える手でカードを抜くこと数分。
どんがらがっしゃん!
「あああ!?」
「やった!」
先生がタワーを崩し、カードが派手に散らばる。
頭をあまり使わないゲームなだけに白熱した勝負だった。
大人と子供でも対等に戦えるのがこういうゲームのいいところだろう。
「次はクジェンガで勝負しましょう!」
「くじぇんが?」
「スワヒリ語で組み立てるを意味します。世界で二番目に売れているあのオモチャの由来ですね」
「へー」
「うちにクジェンガはありませんよ?」
「ショートブレッドがあるじゃないですか」
「……ショートブレッドをブロックの代わりにするんですか」
「誰もが一度はやってみたい遊びね」
やむなくショートブレッドを積み、タワーを作る。
クジェンガをするとなるとかなりの量だ。
三人分どころではない。
「普通なら抜いたピースは上に載せるもんだが、今回はそのまま食べよう。崩した奴が代金を払う。最後まで崩れなかったらタダだ」
「上に載せなくていいなら最後まで行けそ」
「そうですね」
「俺から行くぞ」
まずは安全な上部や中央を攻め、
サクッ
と一口。
鼻に抜けそうなほどのバターの香り。
それも本場のバターに近く、塩気が多い。
コクがあって風味高く、ミルクティーによく合う逸品だ。
お茶は三大銘茶のウバやキーマン、ダージリンがいいだろう。
あるいはアッサム。
なぜならイギリスでは紅茶といえばミルクティーであり、これらの茶葉が評価されているのはミルクティーにすると美味いからだ。
バターをふんだんに使っているスイーツとミルクティーの組み合わせは鉄板である。
「そー」
先生は細いもの狙いのようだ。
ショートブレッドはあくまで飲食用なので、焼き上がりによって各ピースの大きさが微妙に違う。
細いと隙間ができるので抜きやすい。
実はこれはショートブレッドだけの特徴ではなく、おもちゃのクジェンガもピースによって太さと重さが違う。
単純なゲームであるがゆえに、そういう細かい仕事をすることで戦略性を増しているのである。
もちろん太いものは抜けにくい。
トントン
抜きにくいものは指でトントンと押しながら慎重に攻めた。
指で上のピースを押さえるという方法もある。
たとえば親指と中指でピースを抜きつつ、人差し指で上のピースを押さえるのだ。
これで崩れにくくなる。
先生は人差し指で持ち上げていた。
上のピースを持ち上げれば隙間ができるので、摩擦が少なくなり抜きやすくなる。
なおローカルルールによって押さえたり持ち上げるのを禁止していたり、触ったピースは全部抜かなければならなかったりするので、こういう技を使うときは注意したほうがいい。
「静まれ、私の右手!」
どこぞの漫画キャラのように右腕を押さえた。
手が震えないようにしているのだろう。
だがその小細工もむなしく、
どんがらがっしゃん
「ああー!?」
あえなくクジェンガは崩壊した。
「抜けたと思ったのに……」
「そもそも重心が寄ってただろうが。しかも狙ったのは不安定な下のピースだったしな」
「いけそうな感じがしたんだもん」
いい加減、感覚でプレイすると負けることを学習した方がいい。
「じゃあ最後は赤髭危機一髪にするか」
「運ゲーじゃない」
「そうでもないぞ。たとえばこう……」
赤髭が入っているタルに剣を刺していく。
「この配置を覚えろ」
「は?」
「これから剣を抜く。このゲームの性質上、一度刺した場所ならもう一度刺しても大丈夫だ。1本刺せば1点。赤髭が飛び出すまでに稼いだポイントを競う」
「記憶力と運の勝負ですね」
「面白そう」
瑞穂が剣の刺さった場所を記憶して引き抜き、改めてザクザク剣を刺していく。
ぽーん
「ああ!?」
5本目で早くも飛び出した。
記憶力がなさすぎる。
「次は先生ですね」
自分でタルに剣を刺していく。
ぽーん
「あ」
準備段階で赤髭が飛び出してしまった。
もちろんこれでゲームオーバーになることはなく、剣を抜いてもう一度刺していく。
今度は赤髭が飛び出すこともなく、無事に準備完了。
「行きます」
先生がためらいなく剣を刺していく。
ほとんど暗記時間などなかったのに、10本刺しきってしまった。
あとは純粋な運ゲーである。
最終的に15ポイントとかなりの高得点だった。
「なんであんな短時間で覚えられるの?」
「簡単だ。どこを刺すか決めておけばいい」
「は?」
「刺してから覚えたのではなく、あらかじめ決めておいた場所に刺したんですよ? これなら記憶する必要ありませんから」
「反則じゃない!」
「『相手の刺した剣の位置を覚える』なんてルールは設定してないからな。自分で刺しても反則じゃない。先生の作戦勝ちだ」
「それほどでも」
先生が照れて頭をかく。
このわずかな時間でルールの隙を突くのがさすがだ。
ちなみになぜ俺が先生の小細工に気づいたかというと、準備段階で赤髭が飛び出した時と、その後に刺しなおした剣の位置が同じだったからだ。
どこを刺すのか決めていなければこんな偶然は起こらない。
「まあ、俺も同じことができるからお前の一人負けだな」
「アンフェアよ! 他のプレイヤーが刺したものを覚える方式にしてもう一回勝負よ!」
「いいだろう」
どうやらこいつは数分前のことを覚えていないようだ。
ぽーん
「ぎゃー!?」
この記憶力ならそもそも俺たちが負ける可能性は低い。
「もう1回!」
「何度やっても同じだ」
「次は絶対に勝つんだから!」
「わかったわかった」
仕方ないので泣きの1回をしてやる。
「えーと、ここはこうだからこうなって……」
瑞穂がだいぶ時間をかけながら確実に剣を刺していく。
10本までは想定の範囲内だが、まぐれはそこでは終わらなかった。
「ふふん」
勝ち誇ったような笑みでどんどん刺していく。
そして、
「やった!」
とうとう最後の一本を残すまで剣を刺してしまった。
パーフェクトゲームだ。
明らかにおかしい。
「……確実になにかイカサマをしてますね」
「そうですね」
「な、なによ。私が勝つのがそんなにおかしいの?」
「おかしい」「おかしいです」
「ぐぬぬ!」
だが肝心のイカサマの内容がわからない。
剣を刺したのは俺だ。
一定のパターン通りに刺していないので、そこは問題ではないだろう。
もちろんこいつが暗記できるわけがない。
「……」
するとこのゲームの構造的な問題だろう。
剣を刺せば人形が飛び出す。
仕組みは単純だ。
ではどうやって飛び出すのか。
これも簡単な仕掛けだ。
「お前スイッチ見たな」
「な、なんのことかしら?」
「人形をセットすれば、穴のどれかにスイッチが入る。剣でそれを押せば人形が飛び出す仕組みだ」
「つまり外から穴の中を覗けば、どれが当たりかわかるんですね?」
「たぶんそうです」
「あ、あんたたちだって卑怯なことやってたじゃない!」
「それは半分だけだ。残りの半分はちゃんと運ゲーだぞ。それに前回も今回も自力で剣の位置覚えたからな。お前はどうだ? そういう風に構造的欠陥を突いてゲームをしていたら、ゲームそのものが成り立たなくなるぞ」
「ま、魔が差したのよ!」
「刺すのは剣だけにしとけ」




