協力型ゲームセット【ジャムパンとロシアンティー】
参考ゲーム
パンデミック
「今日はこういうのを持ってきました」
先生が『よいしょ』と大きなアナログゲームを取り出した。
『アウトブレイク レジデントデビル』
『カプセルコーポレーション』のサバイバルホラー『レジデントデビル』とコラボしたゲームらしい。
「生物学的危機によって流出したウイルスから世界を守る協力型ゲームです」
「協力型?」
「プレイヤーが協力して1つの目標を達成する、多人数アナログゲームとしては珍しいタイプですね。……といっても、このアウトブレイクがヒットしたおかげで協力型ゲームが流行ったんですが
」
文字通りの感染拡大だ。
「ではセットアップを」
先生がテーブルに大きな世界地図のボードを広げる。
実在する都市が点在しており、イスタンブール-サンクトペテルブルクのように線で繋がっている。
この線は交通ルートで、近くに都市があっても線が繋がっていないと移動できないのだろう。
「駒が多いな」
ウイルスの種類は4つ。
A・C・G・Tだ。
青、黄、赤、黒と4色に分かれている。
「勝利条件は4色のワクチンを開発することです」
ワクチンは同じ色の手札を5枚そろえ、研究拠点でその手札を使えば開発できるらしい。
「敗北条件は3つあります」
1つ目は山札がなくなること。
手札が残っていても、山札がなくなった時点でゲームオーバーだ。
2つ目はウイルスの駒が足りなくなること。
ウイルスの駒は各色ごとに24個ある。
ウイルスが発生している都市にはウイルス駒を置き(最高で3個)、1色でもそれが足りなくなったらジ・エンド。
3つ目はアウトブレイク。
ウイルス駒が3個ある都市にウイルスがさらに発生するとアウトブレイクになり、周囲の都市へウイルスが1個ばらまかれる。
アウトブレイクが発生するごとにゲージが溜まり、ゲージが8になると世界的流行になって一巻の終わり。
「まずはウイルスをセットしましょう」
都市の名前が書かれた感染カードを山札から引き、該当する都市へウイルスを置いていく。
「次はキャラのカードですね」
先生がシャッフルして2枚くばった。
衛生兵と検疫官だ。
衛生兵は一度に都市のウイルスを全部処理できるそうだ(普通は一度に1個しか処理できない)。
検疫官は自分のいる都市と、その周りの都市にウイルスを発生させない(あくまで発生させないであり、既に存在しているウイルスをどうこうすることはできない)。
使い方がわかりやすいのがいい。
衛生兵と検疫官の駒をスタート地点であるアトランタに置く。
「ちなみに1人で2キャラを動かせばソロプレイもできますよ?」
「なるほど。対戦型じゃないから1人でプレイできるんですね」
「はい。奉行問題があるので最初はソロの方がいいかもしれませんが」
「奉行問題?」
「協力型ゲーム特有の問題で、上手いプレイヤーが他のプレイヤーに指示を出すことです。アドバイスなら何の問題もないんですが、鍋奉行のように野菜を入れるタイミングはここ、肉を入れるタイミングはここと何でも決められると協力型の意味がなくなってしまいます」
「パーティーゲームなのにゲーム奉行のソロプレイになるってことか」
「そういうことです」
先生のような最善手を打てるプレイヤーと一緒にプレイすると、つい指示に従ってしまう。
ゲームに慣れるまではそれでもいいかもしれない。
ただ最初に指示にしたがってしまうと、いつの間にか上下関係のようなものができたり、場の流れでずっと指示に従うようになってしまう危険性がある。
こうなるとソロプレイができる仕様はありがたい。
慣れていないプレイヤーもソロプレイで腕を磨くことができるからだ。
ミスをしたり人の足を引っ張るのが恥ずかしいプレイヤーも万全の準備ができる。
最初はソロでやってみることにした。
「えーと、どこから手をつければいいんだ?」
「最初はアクションですね。各キャラごとに4回ずつアクションをすることができます」
移動する、研究施設を建てる、手札を使う、他のプレイヤーと手札の受け渡しをする、ワクチンの開発、ウイルスの除去。
すべて1アクションらしい。
4アクション終わったら手札を2枚引き、最後に感染カードを2枚引いてウイルスを一個ずつ置く。
最初こそ1ターン4アクションは多いと感じたものの、やっている内に全然足りないことに気付いた。
地道にウイルスを消していこうにも、移動→消す→移動→消すで4アクションになり、すぐ手番が終わる。
1アクションで1都市しか移動できないので、最悪目的地へ向かうだけで1ターン終わってしまう。
毎回感染カードを引かないといけないのでウイルスは増えるばかり。
完全に後手に回っている感じだ。
「手札を使えばすばやく移動できますよ?」
「手札に書かれてる都市へ移動できるんですか?」
「はい。いま自分のいる都市のカードを使えば好きな場所へ移動することもできます。それと研究施設が2つ以上あれば、カードを使わずに研究施設から研究施設へと移動することができます」
それぞれ直行便、チャーター便、シャトル便という名前がついている。
覚えにくい。
「同じ都市の手札があるからチャーターするか」
これでウイルスが3個ある都市へ一気に移動できる。
しかし何をチャーターして移動するのかが微妙に気になった。
カプコンのゲームに登場するヘリは墜落することに定評がある。
チャーター便がヘリでないことを祈ろう。
「汚物は消毒っと……」
ウイルスを除去する。
レジデントデビルはゾンビゲームだ。
ウイルス除去にはゾンビを殺すことも含まれている。
Tウイルスのゾンビはラスボスなのでかなり強いはずなのだが、どうやって倒しているのだろう。
「……カード集めにくいな」
同じ色5枚でワクチンを作れる。
他のキャラと協力しようにも、カードの受け渡し条件が厳しい。
2人のキャラが同じ都市におり、なおかつ『その都市と同じ名前のカードしか受け渡しできない』のだ。
1枚のカードを渡すためだけにウイルスの蔓延する都市から離れなければならない。
さらに厄介なのが、
「ぐああ、局地的流行!?」
手札カードに紛れ込んでるエピデミックカードだ。
これを引いたら『感染カードの山札の一番下』から1枚引き、その都市へウイルスの駒を3つ置かないといけない。
しかもその後『感染カードの捨て札をシャッフルして山札の上に戻す』という鬼畜仕様。
捨て札を上に戻すということは『一度ウイルスが置かれた都市のカードをまた引かないといけない』ということだ。
一度ウイルスが発生した場所はウイルスが流行しやすい。
それをゲームシステムにうまく組み込んでいる。
手札が1枚手に入らない上にウイルスが蔓延するのだから恐ろしいカードだ。
とどめは感染フェイズ。
プレイヤーの1ターンは4アクション、手札を2枚引く、感染カードを2枚引くの3つで構成されている。
エピデミックカードは2番目の『手札を2枚引く』にあたる。
つまりエピデミックの後に感染カードを2枚引かないといけないわけだ。
「うああ!? アウトブレイク!?」
捨て札が少ないほどウイルスが3個ある都市のカードを引く可能性が高い。
これで東京周辺にウイルスが蔓延してしまった。
きっとハロウィンの渋谷のごとく、ゾンビがあふれかえっているのだろう。
しかも、
「げ、大阪もウイルス3個!?」
アウトブレイクの連鎖反応が起こる。
アウトブレイクによって周辺地域にウイルスが1個ばらまかれ、もしその都市にすでにウイルスが3個あったらまたアウトブレイクが発生するのだ。
厳しい状況といわざるをえない。
イベントカードで乗り切るしかなさそうだ。
イベントカードはアクションを消費せず、自分の手番ならいつでも使える手札だ。
イベントカード
●空輸 選択したキャラを好きな場所へ移動できる
●予測 感染カードの山札を上から6枚見て好きな順番に並び替えられる
●人口回復 感染カードの捨て札からカードを1枚ゲームから取り除く(二度とゲームに登場しない)
●静かな夜 感染処理をスキップできる(1回だけ感染カードを引かなくていい)
●政府の補助 カードなしで研究施設を作れる
「予測を使うか」
これでウイルスの多い都市の感染カードを後ろに回せば時間を稼げる。
それにエピデミックレベルが上がると、感染カードを引く枚数が2枚から3枚になる。
もっとレベルが上がれば4枚だ。
引く枚数が多くなるほど予測の効力は小さくなるはず。
たとえば2枚なら3ターン先まで力を発揮する。
3枚なら2ターン。
4枚では1ターンと半分。
やはり使うのなら序盤だろう。
これでなんとか態勢を立て直す。
「なんとなく読めてきたな」
よく考えられたゲームシステムゆえに、予測カードを使わなくても予測できるようになっていた。
たとえばエピデミック。
最初にカードをセッティングする時、先生は山札を4つに分けていた。
そしてそれぞれの山札の上にエピデミックカードを乗せてシャッフルし、最後に4つ重ねて1つの山札に戻した。
つまり山札は4つの層に分かれており、1層につき1枚しかエピデミックカードは存在しない。
1層の手札を全部引かない限り、2層のエピデミックを引くことはないわけだ。
連続してエピデミックカードを引く可能性は低い。
難易度が高くなればエピデミックカードも増えるので続けて引く可能性はあるものの、俺のプレイしているレベルならしばらく大丈夫だろう。
エピデミックが起きなければ感染カードの捨て札を山札の上に戻すこともない。
すなわち『現在捨て札になっている感染カードの都市にウイルスが置かれることはない』ということ。
次にエピデミックを引いて捨て札を山札に戻すまでは、3個ウイルスのある都市も安全なのだ。
引いた山札の枚数を覚えていれば、エピデミックカードを引く確率も計算できる。
「優先すべき都市もわかってきたな」
都市によって交通ルートの数が違う。
一番危険なのはイスタンブールのように他国への交通ルートが多い都市。
ここでアウトブレイクが起こると、一気に6都市へウイルスがばらまかれる。
同じく6都市と繋がっているパリもかなり近くにあるので、この辺は危険地帯だ
一方、サンチアゴはリマとしか繋がっていない。
ここでアウトブレイクが起こってもリマにしかウイルスが飛ばず、被害は最小限で済む。
検疫官は自分のいる都市とその周辺都市にウイルス駒が置かれるのを防ぐ。
イスタンブールやパリにいれば7都市をウイルスから守れる。
この能力は大きい。
「よし、ワクチンが完成した!」
これで検疫官でも1アクションでウイルスを3個除去できる。
最初から1アクションで除去できる衛生兵に至っては、アクションの消費なしでウイルスを除去できるという大火力。
「……根絶するか?」
ワクチンを開発し、ボードの上からその色のウイルスの駒がなくなったら『根絶』。
根絶した色の感染カードを引いてもウイルスの駒が置かれることはない。
根絶できれば圧倒的に有利だ。
今の衛生兵なら歩くだけでいい。
「いける!」
そう思った時が一番危ない。
案の定、ウイルス根絶に集中したせいで他がおろそかになり、アウトブレイク発生。
しかも連鎖反応でアウトブレイクゲージがどんどん上がっていった。
エピデミックレベルも上がり、感染カードを一度に3枚引かないといけなくなってしまう。
収拾がつかない。
「ぐ、負けた!」
「根絶にこだわりすぎましたね。ワクチンがあって衛生兵もいるんですから、ある程度ウイルスが発生しても処理できます。そもそもウイルスを根絶できそうな場合は、その色の感染カードをあまり引いていないということですから」
「あ……。感染カードをあんまり引いてないってことは、エピデミックで捨て札が山札に戻っても、その色の感染カードを引く機会が少ないのか!」
「そういうことです。その後も感染する可能性が低いわけですから、むしろそこは無視して他にあたるべきでした」
よっぽど簡単に根絶できる場合を除けば、根絶を狙うのはやめた方がいいということだ。
カラン カラン
「はろー」
「いらっしゃいました」
瑞穂とアリスがそろって来店する。
「なに、このゲーム?」
「レジデントデビルだ」
ざっくりゲームの説明をしつつ、おやつを用意する。
アリスの要望でジャムパンとニルギリだ。
「ロシアンティーなのデス!」
「だからジャムパンなのか」
ロシアンティーはジャムやマーマレードを舐めながら飲むのだ。
「紅茶に入れるんじゃないの?」
「それはウクライナ式デスね」
ロシアンティーなら茶葉はジャワでもいい。
先生の紅茶にはウォッカを加えてもいいだろう。
ジャムパンでロシアンティーにするというのも斬新で面白い。
「では皆でプレイしましょうか」
「さー、いえっさー!」
ジャムパンを食べながら4人で協力プレイする。
まずは職業カードを引いた。
研究員、科学者、通信司令官、危機管理官と俺のゲームでは出てこなかった職業がそろう。
職業一覧
●通信司令官 自分のアクションを消費して他のキャラを移動させられる また選択したキャラを他のキャラがいる都市へ移動できる
●作戦エキスパート カードなしに研究拠点を建設できる
●科学者 カード4枚でワクチンを作れる
●衛生兵 1アクションで3個のウイルスを駆除できる
●研究員 同じ都市にいるキャラへ好きなカードを渡せる(あくまで渡せるだけであり、好きなカードを受け取ることは不可能)
●検疫官 自分のいる都市とその周辺へのウイルスを防げる
●危機管理官 使用したイベントカードをもう一度使える
どの職業も強い。
これなら色々とできそうだ。
「……んー、さっきよりカードが集まりにくいな」
「ソロプレイならキャラが2人なので、山札の半分を引けます。でも4人では引けるカードは4分の1です。同じ色のカードを集めようとしても、次の自分のターンが回ってくまでの間にウイルスがばら撒かれてしまいますし……。目当てのカードが引けたとしても、それを使えるのは次のターンです」
1人でカードを集めてワクチンを作るのでは遅すぎる。
「アリスはどんなカードでもプレゼントできマス」
「私はカード4枚でワクチン作れるからどんどんカード持ってきて!」
「俺はキャラのいる場所ならどこでも移動させられるから、カードを一ヶ所に集めやすいな」
「イベントカードを引いたら温存せずに使ってください。もう一度使えますから」
相談して効率よく行動していく。
これぞ協力プレイだ。
「とにかくアウトブレイクを起こさないことだな」
1個や2個の都市は後回しにしていい。
カードや能力を積極的に使って移動し、ウイルス3個の都市を優先して潰す。
研究施設は早めに作っておく。
カードを集めてもワクチンを作れる施設がないのでは話にならない。
ゲームが進むほどウイルスの処理に追われるのだから、作れる時に作っておくべきだろう。
序盤で研究施設をアクションもコストもなしで作れる政府の補助カードを引ければ完璧だ。
危機管理官がいれば一気に2つ作れる。
「あああ!? エピデミック!?」
「なに? さっき引いたばっかだろ?」
「4枚では物足りないので6枚にしておきました」
「最高レベルじゃないですか!」
「ぱんでみっく!」
エピデミックカードが多いので、瞬く間にウイルスが世界中に広まっていく。
たった2枚の追加。
その2枚だけで感染カードの捨て札が山札に戻される間隔が早まり、一部の都市にウイルスが溜まりやすくなる。
エピデミックレベルもあっという間に高くなり、感染カードを3~4枚引かなければならない。
いつゲームオーバーになってもおかしくはないのだが……。
仲間がいる分、効率的に動けてワクチンの開発も早い。
世界中にウイルスが蔓延し、どう考えてもワクチン量産が間に合わなそうな状況でも、完成した時点で勝ちなのだ。
この勝利条件と、敗北条件であるアウトブレイク8回とウイルス駒不足を防げばギリギリまで踏ん張れる。
絶妙なゲームバランスだ。
「くそ、山札がない!」
ただ最後の敗北条件である山札不足だけはどうしようもない。
時間との勝負だ。
「エッセン」
「え、なに?」
「まだエッセンをドローしていまセン」
「カウンティングしたのか!」
「イエス」
ワクチン開発に必要なカードはあと1枚。
それを引けても使えるのは次のターンだし、受け渡しをしようにもカードと同じ都市にキャラがいなければできない。
正攻法では間に合わない。
だが次に引けるカードがわかっているのなら話は別だ。
通信司令官の力でエッセンにキャラを集める。
あとはエッセンを引けるか否かだ。
「ドロー!」
『エッセン』
「来ました!」
「それちょうだい!」
瑞穂がエッセンを受け取り、カードで研究施設の隣の都市へ移動。
そして研究施設へ移動し、ワクチンを開発。
「やった!」
「びくとりー!」
残りの山札2枚。
崖っぷちの勝利だった。
「協力ゲーム面白いわね」
「拡張版もありますよ?」
「どんなのデスか?」
「では実際にプレイしてみましょう」
通常版に拡張セットを追加してプレイしてみる。
拡張ルールでウイルスが5個になった。
猛毒珠という極悪ウイルスのルールもある。
このままでは難しすぎるので、エピデミックカードを減らす。
これでなんとかやれるだろう。
「では職業を決めまショー」
職業カードを引く。
標本管理者、現地調査員、ゼネラリスト。
通常版にはいなかった職業だ。
「先生はなんですか?」
「バイオテロリストです」
「は?」
「人類の敵になってウイルスをばら撒きますよー」
……クリアできる気がしない。




