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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ハンドマネジメントセット【月餅と鳳凰単叢】

参考ゲーム

オニリム・足跡の書


「なにこれ、鬼可愛い」

「アニメとタイアップした一人用アナログゲームです」


『オニレム』


 レムという鬼の女の子が謎の迷宮に迷い込み、魔女から逃げるカードゲームだ。

「スリーブではプレイしにくくありまセンか?」

「スリーブはそんなに邪魔にならないので大丈夫ですよ? それにこのゲームはシャッフルする回数が多いので、スリーブに入れないとすぐ傷んでしまうんです」

「へぇ」


 カードスリーブはカードを保護するために作られた合成樹脂フィルムの袋だ。


 カードの総数はおそらく100枚を超えている。

 スリーブに入れるのは地味に面倒くさかっただろう。

「ええと、説明書は……」

 先生が思い出したようにバッグからオニレムの箱を引っ張り出してテーブルの上に置き、中から説明書を取り出して広げる。

 どうやらカードを横に2つ並べると隙間なく箱に収納できるコンパクトサイズらしく、すべてのカードをスリーブに入れてしまうと幅と厚みが増して箱に入らなくなるようだ。

 隙間なく収納できるのも考え物である。


「基本ルールで使用するカードは76枚。この中に赤・青・緑・茶色の扉が2つずつあって、8枚の扉をすべて場に出せたら迷宮を脱出できます」


 プレイヤーの手札は5枚。

 1枚ずつ場に出し、出したら山札から1枚引く。

「扉を開ける方法は2つです。1つは同じ色のカードを3枚連続で場に出すこと。ただしカードには太陽・月・鍵の3つのシンボルがあって、直前に出したシンボルと同じカードは出せません」

 たとえば太陽を出したら、次は月か鍵しか出せないわけだ。

 色違いのカードを出す場合でも、同じシンボルのカードは出せないらしい。

「1枚目と3枚目は同じシンボルでもいいの?」

「はい。あくまで『直前のカードと同じシンボルが出せない』だけで、太陽・月・太陽のように同じシンボルが2枚あっても扉は開きます。場に同じ色のカードが3枚そろったら、山札の中からそのカードと同じ色の扉を見つけて引き、場に出すことができます」

 扉のカードを引くためには山札を見なければならないので、扉のカードを引いたらシャッフルしないといけない(山札を見たら次に何のカードを引くかわかってしまう)。

 扉は8枚ある。

 たしかにシャッフルする回数の多そうなゲームだ。


「扉を開くもう一つの方法は、手札に鍵がある時、山札から同じ色の扉のカードを引くことです。鍵を使えば扉を開くことができます」


キーがない時にドアをドローしたらどうなりマスか?」

「カードを山札に戻してシャッフルします」

 またしてもシャッフル。

 鍵なしで扉を引くたびにシャッフルするのだとしたら、1ゲームで10回以上シャッフルすることになりそうだ。

「ただ、すぐに山札へ戻すのではなく、手札が5枚になるまでカードを引いてから山札に戻してください」

「なんで?」

「つづけてドアをドローする可能性ポッシブルがあるからデスね」

「なるほど」

 扉を引いてシャッフルしたすぐ後に、また扉を引いてしまったら面倒くさいことこの上ない。

 だから手札が5枚そろい、もう山札を引く必要がなくなった状態でまとめて処理するのだ。

「これなら簡単そう」


「いえ、このゲームの恐ろしいところはこれからです。山札の中には魔女の札が10枚ありまして……。魔女の札を引いてしまった場合、3種類のペナルティがあり、プレイヤーは自分でそれを選択しないといけません」


 1つ目は手札を全部捨てること。

 2つ目は手札に鍵がある時、それを1枚捨てること。

 3つ目は山札を上から5枚引き、魔女と扉のカード以外の札を捨てること。


「手札がなくなったらカードをそろえられなくなるわけだから、このペナルティは痛いな」

キーの使いかたがキーになりマスね!」

 誰がうまいこと言えと。

「アリスさんの言うとおり、鍵は同じ色の扉を開き、魔女を殺せる便利なカードですが……。さらにもう一つの使い道があるんですよ?」

「まだあるの」

「はい。これは予言という特殊能力で。鍵を1枚捨てると山札を上から5枚めくり、自分の好きな順番に並べ替えることができるんです」

「あんまり意味なくない?」

「5枚の内、1枚は捨てないといけません。つまり実質的に並び替えることのできる枚数は4枚なわけですが……」


予言プロフェシーしたカードに魔女ウィッチがあれば、それを処分ハントできるんデスね」


「そういうことです」

 万能すぎる。

 だからといってうかつに乱用するとひどいことになりそうだが。

「ではプレイしてみましょう」

 先生がバッグから無数のオニレムを取り出した。

「……何個あるんですか」


「プレイ用、布教用、それと拡張版です」


「拡張版?」

「アナログゲームにはルールを追加できる拡張版がよく作られるんですよ? あくまで通常版を拡張するものなので、拡張版だけではプレイできないんですけど……。オニレムの拡張版には通常版のカードも入っているのでお得です!」

「完全版商法ね」

「違います!」

 ちなみに拡張版も布教用を持っているらしく、テーブルの上には4つのオニレムが並んでいた。

 もちろん全てスリーブ入りだ。

 1人1セットずつオニレムを取り、お互いに邪魔にならないように別々のテーブルでプレイする。

「まずは手札か……」

 山札から5枚引く。

「げ」

 いきなり魔女が出てきた。

 初っ端から手札を捨てるのかと思いきや、


「最初の手札で魔女が出ても大丈夫ですよ? 魔女や扉のカードは手札から除いて、5枚そろったら山札に戻してシャッフルしてください」


「助かった……」

 手札をそろえ、魔女を山札に戻してシャッフル。

 これでようやくスタートだ。

「えーと、シンボルは太陽・月・鍵の3つで、直前のカードと同じシンボルは出せない、と……」

 シンボルは太陽のカードがもっとも多く、月が2番目、鍵は各色ごとに3枚しかない。

 各色でカードの数も違う。

 赤は16、青は15、緑は14、茶色は13。

 最初にそろえるなら枚数の多い赤だろうか。

 手札は5枚までしか持てないので、邪魔になったら赤を優先して捨てるという選択肢もある。


「太陽が一番多いんだから、同じ色で3枚そろえるなら太陽・月・太陽の並びが基本か」


 次点で月・太陽・月だ。

 鍵に余裕があるのなら太陽(月)・鍵・太陽(月)でもいい。

 手札を捨てるなら数の多い太陽だろう。

「赤の月が2枚か……」

 手札に同じ色のカードが2枚あるなら、やはり出した方がいいだろう。

 月なら太陽を、太陽なら月を引ければ3枚そろう。

 2枚とも鍵だったら困るが……。

 序盤で引いた鍵を中盤、後半まで持ち越すのは不可能だし、手札の枠も圧迫されるので積極的に使うしかない。


「手札は一度に一枚しか出せないのもきついな」


 1枚出すたびに山札から1枚引かないといけない。

 手札に3枚そろっていても1度に出すことはできないのだ。

 なので、

「ぐああ!?」

 ……途中で魔女を引いてしまい、扉を開けられないこともままある。

「くそ、魔女にどう対応すればいいんだ」

 手札を全部捨てるか、手札にある鍵を捨てるか、山札を上から5枚捨てるか。

 捨てるなら手札か鍵だろう。


 山札の場合、なんのカードを捨てるかわからないからだ。


 最悪、鍵を数枚捨てる可能性もある。

 山札を捨てるとしたら、どうしても手札を捨てたくない時だけだ。

 あるいは鍵を使い、山札の上から4枚がなんなのかわかっている時。

 これなら何のカードを捨てるかわかるので捨ててもいい。

 予言で捨てられるカードは1枚なので、予言で見たカードの中に魔女が数枚あったら対応が難しい。

 どうしても魔女を食らいたくなかったら、3枚そろえて扉を開くしかない。

 扉を開けば山札をシャッフルできる。

 もちろん手札がゴミならあえて魔女を引き、邪魔な手札を一掃しつつ、魔女を無力化してもいい。

「でも鍵は12枚しかないんだよな」

 扉は8、魔女は10。

 基本的に鍵は魔女対策と予言がメインになるだろう。

 鍵を予言に使うとしたら1つ扉を開いている色だ。

 すでに1つ扉を開いているので、鍵を使う余裕がある。

 ゲーム終盤では太陽と月のカードが少なくなる(最悪の場合3枚そろえられなくなる)ので、鍵で扉を開けに行ってもいい。

 山札が少なくなるほど目当ての扉を引ける確率が高くなり、手札の鍵で扉を開けやすくなるからだ。

 いずれにしろカウンティングが重要になる。


 自分が何枚魔女を引いたか、何枚太陽・月・鍵を使ったか。


 ルール的に捨て札を見てもいいようなので、数えるのは難しくない。

 わかりやすく種類ごとに分けておけばもっとプレイしやすくなるだろう。

 序盤で魔女をたくさん引いたら後半は思い切って行動できる。

「う……。魔女がぜんぜん出ないぞ」

 逆に序盤でぜんぜん魔女を引かなかったら地獄だ。

「うああ!? もう少しなのに!」

 魔女が束になって襲い掛かってくる。

 手札をそろえる余裕もない。

 あえなくゲームオーバーになった。

「もう1回!」

 カードゲームなので繰り返しプレイも簡単だ。

 お手軽にプレイできるためにシャッフル回数も増え、なおさらカードは破損しやすくなる。

 スリーブに入れている理由がよくわかる。

「そろそろ腹減ってきたな」


「では月餅げっぺいをどーぞ」


 アリスが山のように月餅を積んだ。

「……なんだ、この量」

「中国の中秋節ちゅーしゅーせつでは月餅がフジヤマのごとく届くのデス」

 処理に困ってうちに持ってきたのだろう。

 ちなみに月餅は中にあんこの入った焼き菓子で、日本人にも馴染みやすい味だ。

「……美味しいけど、なんか重い」

「それはラードですネ」

 食べれば食べるほどラードがくどくなる。

 大量に食べるものではない。

 これを大量に送られても困るだろう。

 消費期限に余裕があるのが救いか。


鳳凰単叢ほーおーたんそーをどーぞ」


 単叢とは一株から取れるものだけで製茶すること。

 他の茶葉を混ぜない。

 なので高級な青茶であり、どの木から茶葉を取るかで香りが違う。

 これは芝蘭香しらんこうで、蘭の香りがする。

 フルーティーでほのかに甘みがあり、脂肪を燃やす効果もあるので月餅には最適なお茶だ。


「そういえば拡張ルールがあったな」


 一服してリフレッシュし、オニレムにも慣れてきたのでルールを拡張してみる。

 新たに8枚の扉カードが追加された。

 これをシャッフルし、表にして並べる。

 このカードの色の順番に扉を開けなければいけないらしい。

 これだけでは難易度が飛躍的に増すだけだが、この拡張ルールには続きがある。

 捨て札を使って3つの呪文を発動できるのだ。



●矛盾の予言

 捨て札を5枚捨てれば(ゲームから除外すれば)、山札を下から5枚見て、好きなカードを山札の一番上に置き、残りの4枚は山札の下に戻せる。


●平行計画

 7枚捨てれば2つの扉カードを入れ替えられる(順番を変えられる)。


●力強き懲罰

 魔女を引いた時、10枚捨てれば1枚無効化できる。



 魔女によって捨てさせられたカードや、手札の枠を確保するために捨てたカードを再利用できるルールだ。

 とりあえずプレイしてみる。

 序盤こそ順調に進んだものの、徐々に引き運が悪くなっていく。

 指定された扉と同じ色の手札が1枚もない。

 カードが偏るとかなり困るルールだ。

 特にゲームの序盤に色が偏ると、捨て札がないので無駄に手札を捨てないといけない。

 色違いの鍵が何枚も出てきたら最悪だ。

 通常ルールでは手札に多くある色を優先して開けることができる。

 だが拡張ルールでは色違いの手札は捨てないといけないため、後半はカードが足りなくなる可能性が高い。


 一番重要な呪文は平行計画だろう。


 効果的に扉の順番を入れ替えなければ手札が足りなくなって詰む。

 手札が足りなくなることを考えると、鍵で扉を開ける回数も増えそうだ。

 捨て札がないと呪文は発動できないので、場合によっては鍵が手札にあっても、捨て札を確保するために手札を全部捨てることがあるかもしれない。

 難易度は高いが、通常ルールではペナルティにしかならない魔女による捨て札を呪文に使えるのがいい。

 拡張ルールは他に2つあった。

 1つは扉の他に、4色の塔を場に出さないといけないもの。

 もう1つは幸福カード4枚と、暗黒カード8枚を追加したものだ。

 幸福カードは呪文のような特殊効果を発動できる手札。

 暗黒カードは手札ではなくペナルティカード。

 カードに書かれている状況になったらペナルティが発生する(たとえば緑の扉を2つとも開いた場合、捨て札の魔女を1枚山札に戻すなど)カードだ。

 個人的には最初の拡張ルールが一番面白い。


「では慣れてきたようなので、2人でプレイしてみましょう」


「さー、いえっさー!」

「対戦もできるんだ」

「いえ、対戦ではなく協力プレイです」

 二人で力を合わせて扉を開かなければならない。

 するとパートナーが重要だ。

 じゃんけんで誰と組むか決める。


「……終わった」


「なんでよ!」

 先生はアリスと、俺は瑞穂と組むことになった。

 クリアできる気がしない。

 万が一の可能性に賭けてセッティングする。

 2人プレイでは手札が3枚。

 残りの2枚はテキサス・ホールデムのような共有カードだ。

 両方のプレイヤーが自由に使うことができる。

 手札を1枚捨てれば、自分の手札と共有カードを1枚交換することもできるらしい。

 なお魔女を引いた場合、そのプレイヤーは手札の3枚と、共有カードの2枚を捨てないといけない。


 クリア条件は1人4色ずつ扉を開けること。


 1人で同じ色の扉を開けることはできない。

 あとは通常ルールと同じだ。

「じゃあ拡張ルールね」

「……なんで自分から首を絞めに行くんだ、お前は」

「こっちの方が面白いじゃない」

 やむなく拡張ルール1を追加することにした。

「では始めましょう」

 俺たちが拡張ルールのカードを並べている内に、先生とアリスのゲームが始まった。

 2人プレイの参考にしようとしばらく見学する。

「……」

「……」

 お互いに手札は非公開、相談もなしで黙々とプレイしていた。

「ん?」


 よく見てみると拡張ルール1・2・3をすべて採用している。


 しかも捨て札は一度相手に見せた後、裏返しにしていた。

 自力でカードをカウンティングしている。

 難易度のケタが違う。

 正気とは思えない。

 それでもアリスは迷いなく手札を捨て、共有カードと手札を入れ替えた。

 そして先生が捨て札を処理して扉の色を入れ替え、アリスの共有カードを使い赤の扉を開く。

 なぜ何のコミュニケーションもしていないのに、先生の欲しがっているカードが分かったのか。

 レベルが高すぎて意味が分からない。


「……これは参考にしない方がいいな」


「……そうね」

 お互いの手札は公開し、相談もありにする。

 こうでもしないとクリアできないだろう。

 準備が整ったのでプレイ開始。

「赤の月ちょうだい」

「あいよ」

 お互いの手札がわかり、相談もできるので最初はスムーズに進んでいたものの、


「扉の順番入れ替えるわね」


「うああ!? 勝手なことすんな!」

 徐々に流れが悪くなっていく。

 捨て札は共有カードだ。

 相手に使われると、こちらは何の呪文も使えなくなる。

「くそ、なら5枚捨てて1枚山札の上にするぞ!」

「こっちは10枚捨てて魔女を無効化よ!」

「くくく……」

「うふふ……」


 協力プレイのはずが、気付いたら『先に4色の扉を開けた方が勝ち』というゲームになっていた。


 こんなプレイでまともに扉を開けられるはずもなく、あえなく2人とも力尽きた。


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