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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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デッキビルディングセット【栗饅頭とジャワ】

参考ゲーム

ロビンソン漂流記

「栗饅頭をお願いします。お茶はお任せで」


「あいよ」

 俺の分も合わせて大量の栗饅頭を皿に盛る。

 問題はお茶だ。

 こういうパサつきがちで、喉に詰まりそうなおやつはガブ飲みできるお茶がいい。

 無難なのはほうじ茶か番茶だ。

 だがセレクトを任されたのにそれでは面白くない。

 あえて紅茶でいこう。


 番茶に近いものというとジャワだろうか。


 渋みが少ないのでゴクゴク飲める。

 ただ普段うちで出しているジャワは渋みがある。

 薄めに淹れた方がいいかもしれない。

 そうしておやつの用意をし、テーブルに持っていくと、先生がアナログゲームをプレイしていた。

 カードゲームだ。

 お茶がこぼれると困るので、隣のテーブルにおやつを置く。

「なんですか、これ?」

「一人用のアナログゲームです」


『カールビンソン漂流記』


 辺境惑星に漂着したカールビンソンがサバイバルするゲームらしい。

「3ラウンド後に宇宙海賊がやってくるので、彼らを倒して宇宙船で星から脱出すればクリアです」

「倒せそうですか?」

「もちろんです」

 海賊カードは2枚。

 イラストは海賊船だ。

 2隻沈めないとクリアできないらしい。

 栗饅頭を食いながら海賊との激闘を見守る。

 戦闘方法は簡単。


 海賊のカードには2つの数字が書かれている。


 1つは海賊の体力。

 もう1つはプレイヤーが引くことのできる手札の数。

 書いてある枚数だけ手札を引き、手札の合計で海賊の体力を0にできれば勝ち。

 足りない場合はカールビンソンの体力を1消費することで手札を1枚引ける。

 また手札にはそれぞれ特殊能力があり、その能力を駆使することで攻撃力を倍にしたり、手札を何枚も引いたりできるようだ。

「勝ちました!」

 Vサイン。

 海賊の体力は高いので場には大量のカードが並べられている。

 ……見ているだけでは特殊能力を把握できず、先生のプレイスピードも速いので何が何だかわからなかったが。

「ルールはこれだけですか?」


「海賊戦と基本は同じです。災厄イベントカードを2枚引いて、プレイヤーは好きなイベントを選びます。そしてイベントカードに書かれている数字だけ手札を引いて、イベントカードの体力、いわゆる災厄値を超えれば勝ち。勝ったらイベントカードを上下さかさまにして、自分のデッキに加えることができます」


 イベントカードの上下を逆さまにすると、カールビンソンの手札と同じ図柄になった。

 効率よくイベントをクリアして、3ラウンド終了後の海賊襲来までに強いデッキを作るゲームらしい。

 ルールは簡単だ。

「やってみていいですか?」

「どうぞ」

 おやつタイムの先生からカードを受け取ってプレイ開始。

 最初に海賊カードを2枚引く。

 プレイ開始時点でどんなラスボスと戦うかわかるらしい。

 熟練のプレイヤーならラスボスの能力に応じて、どんなデッキを組むか決めるのだろうが、初プレイの俺にはどうしようもない。

 しばらく出番のない海賊カードは脇に置き、イベントカードを2枚引く。


島の探索 災厄値1 手札2


野獣 災厄値4 手札4


「災厄値はクリアするのに必要な数字で、手札はプレイヤーが山札から引ける枚数だったな」

 手札2で災厄値1なら楽勝だろう。

 野獣を捨てて島の探索を選び、手札を引く。


弱気 0


弱気 0


「は?」

「初期のカールビンソンデッキには弱いカードしか入っていません」

「……弱すぎでしょ」

「弱いカードを捨てて、強いデッキを作ってください」

「どうやって捨てるんですか?」

「戦闘で負けると『カールビンソンの戦闘力-災厄値』のダメージを食らいます。そのダメージの分だけカードを捨てられますよ? 基本的に1ダメージで1枚ですが、衰弱カードという戦闘力がマイナスの手札を捨てる場合は2ダメージ必要になりますね」

 カールビンソンの初期体力は20(最大で22)。

 体力を1使えばもう1枚引ける。

 だが災厄値が1でカールビンソンの戦闘力が0だから、このまま負けても1ダメージ。

 体力1を使って手札を引いても、使えるカードが来るとは限らない。

 同じ1ダメージなら、戦闘に負けて弱気を捨てた方がよさそうだ。

 体力を減らして弱気のカードをデッキから排除する。

 これでこのカードは二度とゲームに出てくることはない。

 こうしてイベントカードを引き、無難に災厄をクリアして強いカードをデッキに入れていくと、カールビンソンデッキの山札が尽きた。


「山札が尽きた場合は衰弱カードの山札から一枚引き、デッキに加えてシャッフルしてください」


「……衰弱カードは補充されるのか」

 デッキから排除できるのだから、こういうシステムでないと序盤で衰弱カードがなくなって難易度が低くなる。

 当たり前といえば当たり前だ。

 デッキをシャッフルして山札を再セッティング。

 プレイを続けていると、イベントカードの山札も尽きた。


 2ラウンド目だ。


 イベントカードをシャッフルして再び山札をセッティング。

 イベントカードには3種類の災厄値が記載されている。

 緑、黄色、赤だ。

 このゲームではラウンドが進むと、色が変わって難易度も高くなるらしい。

 たとえば島の探索。

 1ラウンド目の緑では災厄値1だったが、2ラウンド目の黄色では3、3ラウンド目の赤では6と難易度が跳ね上がる。

 ただイベントカードを2枚引けて、プレイヤーは好きなカードと戦えるのは共通。

 戦う災厄を好きに選べるのならクリアできないレベルではない。

 そして3ラウンド目。

 ようやく自分の失敗に気づく。


「……しまった。1・2ラウンドで弱いイベントカードしか選んでなかったから、強いやつしか残ってない」


「適度に強いカードと戦闘をしておくべきでしたね」

 野獣11や人食い族14のような強いカードと連戦する羽目になり、海賊を目前にしてあえなく体力が1になった。

 ゲームオーバーだ。

「まだ終わってませんよ?」

「え?」

「カールビンソンは体力がマイナスにならない限り死にません」

「0でも死なないのか」

 ということは手札をあと1枚引ける。

 祈りながら戦闘カードを引いた。


バカ -2


「ふざけんな!」

 ストレートなネーミングにも腹が立つし、なによりイラストのカールビンソンが本当に馬鹿まるだしの顔なのがなおさらむかつく。

 他にも痴呆-4や自殺行為-5など、衰弱カードにはろくなものがない。

「もう1回だ!」

「ではポイントで勝負しましょう」

 先生がカールビンソン漂流記をもう1セット取り出した。

「ポイント?」

「ゲーム終了後の体力やカードの総合ポイントです」



●計算方法


カールビンソンデッキの戦闘力の合計


体力 1ごとに5ポイント


海賊討伐 15ポイント×2


衰弱カード 1枚ごとに-5


イベントカード 1枚ごとに-3



 計算式はそんなに複雑なものではない。

「じゃあハンデください」

「先生はレベル4でプレイします」

 俺がプレイしていたのは初心者モードのレベル1。

 レベル4では初期体力-2で、レベル1では除外されていた衰弱カードも使用。

 しかも最初からデッキに衰弱カードが入っている。

 かなりのハンデだ。

 これぐらいしないと俺に勝ち目がない。

「ではいきましょう」

 カードをセッティングしなおして2ゲーム目。

 今度は1ラウンド目から強いイベントを選んでいく。

「……このゲーム、よくできてるな」

 初期のカールビンソンデッキは弱い。

 強いイベントカードと戦ってもまず勝ち目はなく、大ダメージは必至。

 1ゲーム目の初めての戦闘では『同じ1ダメージなら手札を引くより、戦闘に負けて弱気を捨てた方がいいだろう』と判断したが、それは正しかったようだ。

 このゲームではダメージを食らうほど、いらないカードをデッキから排除することができる。


 むしろ序盤の内にわざと負けて大ダメージを食らい、使えないカードは捨てまくってデッキを圧縮した方がいい。


 もちろん勝てるに越したことはない。

 1・2ラウンドで強いイベントカードを減らしておけば、3ラウンド目が楽になるからだ。

「あ、山札がなくなった」

「では衰弱カードを引いて山札をシャッフルしてください」

「しまった!?」

 カードを減らしすぎるとデッキの回転率が高くなり、衰弱カードを入れる回数も増えてしまう。

 意外な落とし穴だ。

 いや、ここは製作者を褒めるべきか。

 強いデッキを作ると負けにくくなり、負けないと衰弱カードを捨てられない。

 わざと負けた場合、イベントカードは手札にならないので次のラウンドでそのカードともう一度戦うことになる(もちろん戦いを避けることはできるが、引いたイベントカードが両方とも強いカードだったら万事休す)。

 プレイヤーを苦しめるために、あらゆる場所で工夫が施されている。

「あとは戦闘カードの特殊能力だな」



●たべもの

 体力を回復できる。


●読書

 戦闘中だけ警戒値を1ランク下げる(赤を黄色に、黄色を緑にして災厄値を下げられる)。


●天啓

 山札の上から3枚引き、プレイヤーは自由に並び替えて山札に戻すことができる。しかもいらないカードを一枚デッキから除外することができる。


●戦略

 手札を引き、場に出ているカードと入れ替えることができる。


●ごまかし

 選んだカードを山札の一番下に置くことができる。


●模倣

 選んだカードの特殊能力をコピーできる


●判断力

 手札を1枚デッキから除外できる。


●経験

 体力のコストなしに手札を1枚引ける。


●荷物

 体力のコストなしに手札を2枚引ける。


●繰り替えし

 選択したカードの戦闘力を2倍にできる。



 できるだけ特殊能力のあるイベントカードを選んで戦いたい。

 基本的に役に立たない能力はない。

 なお手札の特殊能力は戦闘中の好きなタイミングで使える。

 いつどのように使うかが重要になる。

 どのカードも役に立つだけに、複数回プレイしないとどの能力を優先するべきかわからない。

 ああでもない、こうでもないと試行錯誤を重ねる。

 考えがいのあるいいゲームだ。


 このゲームの7割はプレイヤーの決断が占めている。


 どちらのイベントカードを選ぶか。

 能力で選ぶか、戦闘力で選ぶか、災厄値で選ぶか。

 勝って手札にするか、負けて手札を捨てるか。

 能力をどう使うか、あるいは体力を使って手札を引くか。

 選択肢を間違えれば強いイベントカードとの連戦になるし、弱いデッキで戦う羽目になり、衰弱カードを何枚も引き、体力は底をつく。

 運ゲーではないだけに、すべてはプレイヤーの責任だ。

 因果応報、自業自得。

「よし、乗り切った!」

 それだけに成功するとうれしい。

 苦戦しながらも3ラウンドが終了する。

 待望の海賊戦だ。


災厄値22 手札9


 さすがに強い。

 だが9枚手札が引けるのならなんとかなる。

「……ん?」

 海賊カードの下に補足があった。


使用可能な戦闘カードは半数(衰弱カードは必ず使用)


「な!?」

 つまり9枚引いても使えるのは5枚。

 しかも衰弱カードは絶対に入れないといけない。

 難易度が一気に跳ね上がった。

 だがカールビンソンの体力は15。

 大量にカードを引く余裕がある。

「ドロー!」

 体力に物を言わせてカードを引きまくり、衰弱カードを無力化。

 戦闘力を2倍にできる繰り返しカードを模倣コピーし、戦闘力4の強いカードを2枚強化。

 あっけなく海賊船を沈めた。

 ただし海賊船はもう1隻いる。

 これが正真正銘のラストバトルだ。


災厄値20 手札6


 補足なし。

 弱い。

 これなら楽勝だ。

 ……と思いきや、繰り返しや模倣、火力の高いカードはすでにデッキから出ている。

 デッキに残っている手札では火力が足りない。

 とにかく山札がなくなるまで手札を引き、シャッフルして山札を再構成。

 これで強い手札を引ければ勝てる。

 だが山札の枚数が多い。

 強い手札を引ける確率はかなり低い。

 じりじりと体力が減っていき、そしてとうとう体力1。

 最後の1枚だ。

「ドロー!」


バカ -2


 ……せめて自殺行為-5ぐらい引いて死ね、この野郎。

 結局カールビンソンは最初から最後までバカだった。

 クリアできなかったのでポイント計算はひどいことになる。

 海賊船を1隻しか討伐できなかったので15ポイントだけだ。

「海賊を両方とも退治した先生の勝ちですね」

「……ハンデが足りなかったか」

「では海賊を殲滅しましょう」

「は?」

「海賊カードは全部で10枚。まだ8枚残っていますから」

 まさかのボスラッシュ。

 先生は海賊カードを引いた。


災厄値16 手札7


追加カード1枚ごとに体力2消費


「つまり体力を使って手札を引く時、1じゃなく2ダメージ食らうのか」

「最初に引ける手札7枚で倒してしまえば問題ありません」

 果たしてその通りになった。

 俺のデッキと火力が違いすぎる。


災厄値※ 手札5


「なんだこの災厄値?」

「補足を読んでください」


衰弱カード1枚ごとに災厄値+2


「衰弱カードは全部で11枚。全部引いてるから災厄値は22ってことか」

「そういうことです」

 手札5枚で22はさすがに無理だったが、カールビンソンは横綱相撲で無難に寄り切った。


災厄値※ 手札※


「……今度はなんだ?」


残ったイベントカードすべてと戦闘


「残りのイベントカード全部!?」

「……残っているイベントカードは8枚。厳しい戦いになりそうですね」

 災厄値こそ海賊より低いものの、赤のイベントカードが8枚だ。

 総合力ならそこらの海賊よりずっと強い。

 カールビンソンは傷だらけになりながら次の海賊を迎えた。


災厄値52 手札10


「52!?」

 しかも補足がひどい。


戦闘力+めくった戦闘カードの枚数


「つまり手札を引けば引くほど相手の体力は高くなる?」

「……そういうことですね」

 連戦連勝を飾ってきたカールビンソンも、かつてない強敵に旗色が悪い。

 そもそも52+aなんて勝てるんだろうか。

 ためしに自分のデッキで戦ってみる。

「……」

 これはひどい。

 あくまで俺のデッキではあるが、52はデッキの手札を全て場に出さないと届かないレベルの数字であり、そして手札を場に出すほど+aされる。


 もしプレイ開始時に引いた2枚の海賊カードが『52+a』と『すべてのイベントカードと戦闘』だったらクリアを諦めるだろう。


 それぐらいの難易度だ。

 製作者は頭がおかしい。

「うふふ……」

 だがそれ以上に頭のおかしい人がここにいた。

 まるで狙ったかのように攻撃力を2倍にする繰り替えしを立て続けに引き、さらに模倣でその能力をコピー。

 ずらっと火力の高い手札を並べ、邪魔なカードを捨て、あるいは引き直し、最強の海賊を力でねじ伏せた。

 残りは4枚。


災厄値25 手札7

災厄値30 手札8

災厄値35 手札9

災厄値40 手札10


 特殊能力を持っていないとはいえ、体力が高い海賊との4連戦だ。

 地味に体力が削られ、そして……


「……さすがにすべての宇宙海賊を相手にするのは無理がありました」


「ですよね」

 あえなくカールビンソンは宇宙の藻屑となった。

 それでも海賊のカードは半分以上裏返しになっている。

 むしろよくここまで倒したものだ。

「総ポイントは?」


「海賊だけで100点超えてますね」


 体力1ごとに+5はなくなったものの、海賊戦でイベントカードを全部処理したので1枚ごとに-3もない。

 ……ハンデのはずが大幅に得点が伸びている。

 ルールを見直すべきかもしれない。


 おそらくこのカールビンソンなら、宇宙船で星から脱出どころか辺境惑星の1つや2つ征服できてしまうだろう。


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