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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ハンドマネジメントセット【たぬきケーキとエクアドル】

参考ゲーム

シェフィ


「アナログゲームをしましょう!」


「1対1だと勝てる気がしないんですけど……」

「大丈夫です、ソリティアですから」

「パソコンに標準インストールされてるアレですか?」

「ええと……」

 先生が困ったように苦笑いする。


「勘違いしている人が多いですが、ソリティアはソロプレイ。つまり一人遊びのことですよ?」


「え。じゃあパソコンのアレはなんなんですか?」

「クロンダイクです」

 無駄に名前が格好いい。

 覚えておこう。

「ではこれを……」

 先生が見慣れぬパッケージのゲームを取り出した。


『シルフィ』


 風の精霊シルフィード(シルフ)を題材にしたゲームらしい。

「勝利条件は3ラウンド以内に1000匹のカードを場へ置くことです」

 シルフのカードは7種類。

 1匹、3匹、10匹、30匹、100匹、300匹、1000匹だ。

 場には最大で7枚までしかカードは置けないらしい。

「まずは山札からイベントカードを5枚引いて手札にしてください」

「5枚か……」

 山札から手札を引く。

 このイベントカードを使ってシルフを増やしていくようだ。



●ゲームの配置



1 3 10 30 100 300 1000 ←シルフカードの山札(各7枚ずつ・ここからシルフカードを引く)



1 1 1 3 10 30 100 ←場に置かれているシルフ(最大で7枚しか置けない・ここで1000匹まで増やす)



イ ←イベントカードの山札(ここから手札を引く)



イ イ イ イ イ ←自分の手札(最大で5枚・このカードでシルフを増やす)




「ラウンドっていうのは?」


「イベントカードの山札がなくなるまでが1ラウンド。使ったカードを回収してシャッフルし、山札を再セッティングして次のラウンドを始めます。シルフだけでなく、天敵のサラマンダーも1ラウンドごとに数が増えていくので、1000匹以下で4ラウンドを迎えると食べられてしまいます」


 先生がサラマンダーのカードを場に置いた。

 カードの上下左右に1匹、10匹、100匹、1000匹と書かれており、カードの向きによって現在のラウンド数を表示するらしい。

 今は1ラウンドなので1匹、カードは縦に置かれている。

 2ラウンド目になったらカードを横にして、10匹の表記が上に来るようにするわけだ。

 4分の1ずつ回転させていき、最終的に1000匹になる。



 1

 ■

千■10

 ■

 百



「では始めましょう」

 先生がシルフの1匹のカードを場に置いた。

 0からではなく、1匹からスタートするらしい。

 残り999匹。

 先は長そうだ。

 手札のイベントカードを確認する。


『産めよ』『増やせよ』『地に満ちよ』


 独特なネーミングだ。

 イラストも凝っていて面白い。

 特に産めよのカードはシルフが思いっきり交尾している。

 人型ではないとはいえ、かなり過激なイラストだ。

 地に満ちよは1のカードを好きなだけ場に置ける(つまり最高で7枚出せる)ので、とりあえず『落石』のカードを使う。

 落石はシルフを1匹山札に戻すペナルティカードだ。

 地に満ちよで増やせるのだから痛くもかゆくもない。

 1のカードを山札に戻す。


「ゲームオーバーですよ?」


「え」

「カードが1枚もないということは、シルフは絶滅したということですから」

「あ、だから場に1枚置いた状態でスタートしたのか!」

「そういうことです」

 考えてみれば0でゲームオーバーにならないと、序盤は簡単にペナルティを回避できてしまう。

 それをさせないためのルールだろう。


 しかし気になるのは1匹では繁殖できないということ。


 イベントカードで交尾をしているもう1匹のシルフはどこから出てきたのだろう?

 謎だ。

 カードをセットしなおして再スタートする。

 山札を引くと、凶悪な顔をしたサラマンダーのイベントカードが出てきた。


「なんだこれ、場にあるシルフを7枚山札に戻す?」


「手札を捨てられるイベントカードを持っていないと、使った瞬間にゲームオーバーになる即死カードですね」

「……他のもやばいな」

 『疫病』は選択したシルフと同じ数字のカードをすべて山札に戻す。

 場に1種類のカードしかない状態で、手札を捨てられるイベントカードを持っていないと詰む。

 この様子だと他にもえげつないカードがありそうだ。

 唯一の救いはこれが手札であること。

 ペナルティといっても山札から引いた瞬間に効果が発動するわけではない。

 プレイヤーが手札として使った時、初めてペナルティを受けるのだ。

 つまりプレイヤーはペナルティを受けるタイミングを調整することができる。

 どんなに強いペナルティカードも、使わなければ怖くない。

 ……わけがなく、


「うああ!? 手札がペナルティカードで埋まった!?」


「ペナルティを受けるのが嫌だからといって、後回しにするからですよ?」

 あえなく連続でペナルティを受ける羽目になってしまい、シルフは絶滅した。

 このゲーム、見た目のイラストこそ可愛いが、油断するとあっという間にやられる。

 あなどれない。

「そろそろプレイに慣れてきたようなので……。どちらがより多くのシルフを生み出せるか賭けましょう」

「……だからこっちに勝ち目ないじゃないですか」


「先生は手札4枚でプレイします」


「いや、たいして変わらないでしょ」

「いえ、手札が1枚減るだけで難易度は激変します。イベントカードの内容を確かめてみてください」

「……そういやちゃんと確認してなかったな」

 遅まきながら説明書でイベントカードの内容を確認する。




【シルフ系】


●産めよ

 選択したシルフのカードを一枚増やせる。


●増やせよ

 シルフの3のカードを場に出せる。


●地に満ちよ

 シルフの1のカードを好きなだけ置ける。


●統率

 場にあるカードを1つにまとめてランクアップできる(1+1+1で3など)。


●繁栄

 選んだカードの1ランク下のカードを3枚場に出せる(3のカードを選択したら、1のカードを3枚まで場に出せる)。


●黄金の風

 場に出されている最高ランクではないカードを何枚でも1ランク上げることができる(場に100が出ていたら1・3・10・30のカードを1ランク上げることができる)。




【ペナルティ系】


●サラマンダー

 場に出ているシルフのカードを7枚山札に戻す。


●落石

 シルフを1枚山札に戻す。


●嵐

 2枚山札に戻す。


●隕石

 3枚山に戻す。このカードは一度使うと追放される(もうゲームには出てこない)。


●疫病

 同じ数字のシルフをすべて山札に戻す(1のカードを選択したら、すべての1のカードを山札に戻す)。


●過密

 2枚以下になるまでシルフを山札に戻す。


●暴落

 場にあるシルフが半分になるまで山に戻す。端数は切り下げ。


●落雷

 場にあるシルフで一番数字の大きいカードを山札に戻す。


●ウィル・オ・ウィスプ

 場にある最高ランクのシルフを1ランク下げる。1の場合は山に戻す。




【補助系】


●ドリアード

 手札を一枚捨てる(おもにペナルティ系のカードを捨てる)。


●ウンディーネ

 手札を一枚追放する。追放したカードは二度とゲームに出てこない。


●ノーム

 選んだ手札と同じ効果を発揮する。


●霊感

 山札の中から好きなカードを一枚選べる。一枚手札に加えたら山札はシャッフルする。



「……ペナルティカード多いな」

「なので手札が1枚減ると対処が難しくなってしまいます」

 効果的なタイミングでカードを使おうにも、手札の数が少ないので枠が圧迫され、手札がペナルティカードだけで埋まる可能性も高くなる。

 ペナルティを回避するには統率、繁栄、黄金の風といった重要なカードも無駄撃ちし(効果が発動しない状態で使う)、新しい手札を引くための枠を確保しなければならない。


 たかが一枚、されど一枚。


 手札の数とはそれだけ重要な要素なのだ。

「なにを賭けますか?」

「では昔懐かしのたぬきケーキを。飲み物はコーヒーで」

「あいよ」

 たぬきケーキはバタークリームケーキをチョコでコーティングしたものだ。

 チョコなのでコーヒーはコロンビアかエクアドルあたりがいいだろう。

「……あれ、柔らかいですね」

「さすがに昭和とは素材の質が違いますから」

 昔のケーキは生クリームではなく、バタークリームが主流だったらしい。

 ただそのバタークリームも質が悪く、固くて味もくどかったそうだ。


 そこでバタークリームをごまかすためにチョコでコーティングし、子供にも親しみやすいようにたぬきの形にしたという。


 手間がかかるので値段は高めだが、子供には受けがよく、昭和生まれの客が懐かしさで注文するので人気メニューの一つである。

 ちなみにうちでは『たぬケーキ』として売っている。

 最初はたぬきケーキだったのだが、瑞穂がメニューを書き換えていつの間にかたぬケーキになっていた。

 おそらく漫画かアニメでそういう名前だったのだろう。


「さて……」


 戦術を根本的に見直すことにする。

 今まで『選択した手札と同じ効果を発揮する(能力をコピーする)』ノームはシルフの数を増やすために使っていたが、手札を追放するウンディーネに使った方がよさそうだ。

 追放されたカードは二度とゲームに出てこない。

 とりあえずノームでウンディーネをコピーしてサラマンダーと疫病を追放する。

 隕石はシルフを3枚山札に戻すかなり嫌なカードだが、この手札は一度使えば追放できる。

 ここは1ラウンド目でわざと食らって追放しておこう。

 シルフの数が少ない序盤なら3枚山札に戻すのは痛くない。

「過密って2枚以下になるまでシルフを山札に戻すんですよね?」

「はい」


 ということは、最初から2枚以下なら無力化できる。


 これはかなり重要なテクニックだろう。

 このゲームに使えない手札は存在しない。

 どんな状況でも手札が出せるからこそ、それを無効化する方法がいくつかある。

 たとえば場にあるシルフを半分戻す暴落。

 半分といっても端数は切り下げられる。

 つまり場にあるシルフが7なら3、5なら2、3なら1枚山札に戻すということだ。

 では場にあるシルフが1枚の場合は?


 暴落は1枚も戻すことができない。


 シルフが1枚の時は暴落を空振りさせられるのだ。

 もし場に複数のシルフがいて、1枚も戻したくないのなら、地に満ちよで1のカードを引いてもいい。

 戻したくないシルフが2枚なら1を2枚、3枚なら3枚、4枚も端数切捨てなので3枚引けば、引いた1のカードを山札に戻せば無力化できる。

 シルフを1枚戻す落石や、2枚戻す嵐、3枚戻す隕石も地に満ちよで1のカードを引きまくれば怖くない。

「地に満ちよ便利だな」


「便利だからといって限界まで増やすと痛い目を見ますよ?」


「え?」

「場に置けるカードは7枚まで。つまりランクの高いシルフを増やそうとしても増やせません」

「ああ!?」

 手札には産めよのカードが2枚。

 これ以上シルフを増やせないから手札の枠が圧迫されている。

 結果、枠を開けるために産めよを捨てる羽目になってしまった。

 ……無念。

「だがここからだ!」

 ペナルティへの対処法がわかってきたのなら、あとはシルフを増やすだけ。

 選択したシルフのカードを一枚増やせる産めよは山札の中に2枚ある。

 選択した手札の能力をコピーできるノームもいるので、それで産めよをコピーして代用してもいい。

 1、10、100のいずれかが場にあるなら、産めよを2枚使えば『統率(1+1+1で3のように、場にあるシルフを1つにまとめてランクアップできる手札)』で3、30、300にランクアップできる(3、30、300は2枚増やしても、1ランクアップさせるには1、10、100足りない)。

 そして統率でシルフのカードを1ランクレベルアップさせたら、すかさず『繁栄』だ。

 繁栄は場にある最高ランクのシルフの『1ランク下』のカードを3枚場に出せる。

 そして『黄金の風』は場に出されている『最高ランクではないカードを何枚でも』1ランク上げることができる。

 繁栄で出した1ランク下の3枚を黄金の風で1ランクアップさせれば、同じカードが4枚になる。

 3、30、300でも統率を使えばランクアップできるのだ。

「統率でシルフを300にランクアップ! そして繁栄からの黄金の風で300が4枚! これでクリアだ!」


「できませんよ?」


「え」

「統率のカードを使い切っていますから。クリア条件はシルフを1000匹に増やすことではありません。300のカードを統率でランクアップして、『1000匹のシルフのカード』を場に出すことです」

「でも合計は1200匹ですよ。200匹も多いじゃないですか。1000匹のカードじゃないといけない理由がわからないんですけど」


「そのシルフは統率されていません。なぜシルフを1000匹に増やすかというと、1000匹のサラマンダーと戦うためです。では1200匹いるものの4つの群れに分かれてバラバラに行動するシルフと、1000匹ながらも一糸乱れぬ動きをするサラマンダー。どちらが強いと思いますか?」


「……サラマンダーです」

「つまりそういうことです」

「いや、ちょっと待ってください。場には7枚置けます。ということは300のカードでも7枚そろえば最大2100匹になる。いくらサラマンダーが統率されていて、シルフを各個撃破するにしても、2倍の兵力を相手にするのはさすがに厳しいような」


「1000VS2100ではなく、300VS1000が7回です。3倍以上の兵力で、仮に3分の1減ってもまだ2倍の兵力差があります。シルフはどんなに頑張ってもサラマンダーには勝てません」

「く……! じゃあ先生はシルフを何匹増やしたんですか! クリア条件は1000のシルフカードでも、俺と先生の個人的な勝負はどちらがより多くシルフを生み出せるかです。ゲームをクリアできたか否かは関係ない!」

「7000です」

「は?」


「1000匹のシルフカードが7枚。事実上の最高値ですね」


 ……サラマンダーが戦わずして逃げる光景が目に浮かぶ。


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