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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ゲームブックセット【シュウマイとプーアル】

「ゲームブックをしませんか?」


「やるやる!」

「ではこれを」

 ゲームブックを渡される。

 タイトルは『賢者の遺産』。

 主人公は劉香りゅうこうという中国人の海賊らしい。

 一応、実在の人物だ。


「いざ邪馬台国!」


 目指すは卑弥呼の古墳。

 これもまたマニアックだ。

 日本史三大ミステリの一つに『邪馬台国論争』がある。

 魏志倭人伝に邪馬台国の位置は記されているものの、その記述は明らかに間違っている。

 記述どおりに進むと九州の遥か南、奄美諸島近海に出てしまうからだ。


 だから歴史家の間では『距離が間違っている』『方角が間違っている』など、様々な議論がなされ、未だに邪馬台国の正確な位置はわかっていない。


 畿内説や九州説が有名だが、このゲームブックが採用している説はこともあろうに奄美諸島説。

「……なるほど、海賊に古墳を探索させるためか」

「魏志倭人伝にもそう書いてますし」

 滅茶苦茶だが、そういうシナリオなのだから仕方ない。

 ストーリーは卑弥呼の古墳を探すところから始まる。

 つまり海の上だ。

 面白いのはページの上部に海図が描かれていること。



←92ページへ        69ページへ→


■■■■■1■■■■■3■■■■■4■■■

   ■         ■

 2■■         ■■■5■■■■



 この地図に描かれている番号を選んでストーリーを進めていくユニークなシステムだ。

 上記は80・81ページのマップ。


 4や5から右へ進むと69ページへ、1から左へ進むと92ページの地図へ進める。


 こうやって海路を巡り、卑弥呼の古墳を探し出すのだ。

「えーと、こっちは大陸側で行き止まりだから戻って……。あれ?」

「どうした?」

「ここ、さっき通った場所じゃない。数字間違えちゃった」

「……なにやってんだ」

「大丈夫です、間違っていませんよ?」

「え?」

「この時代の地図はアバウトで、航海技術も未熟ですよね? 風や海流もあります。たとえば80・81ページのような見開き1ページですが……」



←92ページへ        69ページへ→


■■■■■1■■■■■3■■■■■4■■■

   ■         ■

 2■■         ■■■5■■■■



「1・2・3・4・5のように『目に見える範囲へ移動する』場合は目的地へ確実に着きます。しかし69ページや92ページに移動した場合、視界から80・81ページが消えてしまいます。なので船員は現在地を見失ってしまい、元のページに戻れなくなることがあるんです」


「なにその迷いの森」

 たしかにRPGでよく出てくる樹海のような仕組みである。

 あるいは潜るたびに地形が変わる不思議なダンジョン。

「何も考えずに移動してると100%迷うわね」

 ページをまたいで移動した場合、来た道を戻ったらどのページへ飛ばされるかチェックしておいた方がいい。

 元の道に戻れると思ってチェックし忘れると、分岐点に気付かずさまようことになる。


『俺たちゃ海賊♪ 俺たちゃ海賊♪』


「あああ、襲撃された!?」

 海賊や商船、明王朝や戦国大名による海賊討伐船、日本人海賊の『和寇(ただし後期の和寇はほとんど日本人に変装した中国人海賊だとされている。劉香も和寇である)』、雨や台風、無人島などのイベントをこなしながら古墳を探す。

「やった、虎徹こてつ!」

 古墳はなかなか見つからないものの、強力な名刀・虎徹を入手。

 元々は古釘などの古い鉄を溶かして刀を打っていたことから『古鉄』と名乗っていたが、弓の名人として名高い後漢の『李広』の故事に、


『虎だと思って矢を射たら岩だった。岩に矢がとおったことに驚き、何度か試してみたがどうしても岩に弾かれてしまう。常識的に考えれば岩に矢を徹すことなどできはしない。だが岩を虎と思えば矢は徹る』


 不可能なことも可能だと思ってやればなんでもできる。

 それで古鉄から虎徹に改名したという。

 どこまで本当かはわからないが、面白いエピソードだ。


 ただこの物語の舞台は1620年代。


 虎徹はまだ10代か20代であり、しかも当時は刀鍛冶ではなく甲冑師だ。

 刀工になったのは晩年である。

 鎧や兜を作るついでに刀を打つこともあったという解釈だろう。

 ……まあ、こういうことに突っ込みを入れだしたらキリがないのだが。

「あ、またアイテム発見」


 『鉢開』なる茶器を発見する。


「なにこれ?」

「『利休七種茶碗』だな」

 利休が絶賛したという楽焼だ。

 『鉢開』『臨済』『検校』の3つは現存していない。

 むしろ現存していないからこそ遺産としてゲームに登場できたのだろう。

 つまり『臨済』と『検校』もどこかにある。

「茶碗手に入れても困るわね」

「たかが茶碗と侮るなよ」


「そうですね。『茶碗で国が買える』。戦国はそういう時代ですから」


「へー」

 売ればかなりの金額になるだろう。

 こんなものが序盤で手に入っていいのだろうか?

 インフレしすぎだろう。

 こうして海をさまようこと10分ばかり。

「着いたー!」

 とうとう卑弥呼の古墳を発見した。

 ここからは普通のダンジョンマッピングになる。

「なんか縦に長いわね」

「古墳ですから」


 魏志倭人伝いわく『卑彌呼以死、大作冢、径百餘歩、殉葬者奴碑百餘人』


 卑弥呼の死後、100歩の大きさの古墳が作られ、100人の奴隷が殉葬されたという。

 ここでいう100歩は100マス。

 前方後円墳だから縦長で地下はない。

 遺産が眠っているのは後円の部分だろう。


ゴゴゴ


 卑弥呼の仕掛けた罠が発動した。

 魏志倭人伝いわく『事鬼道、能惑衆(鬼道を以って衆を惑わす)』。


 日本の鬼と違って中国の『』は霊的な存在だ。


 それも死霊を意味する。

 つまり卑弥呼は死霊術師ネクロマンサーであり、自らの遺体に憑依して襲いかかってきた。

「南無阿弥陀仏!」

 念仏を唱えながら力で卑弥呼をねじ伏せる。

 死んでから時間が経ちすぎているため、遺体が崩れると卑弥呼も自我をたもてなくなり成仏した。

 そして待望の卑弥呼の遺産。


『漢委奴国王』


「金印か」

「やっぱり邪馬台国っていったらこれよね」

 芸術的な価値は茶器の足元にも及ばないものの、考古学的には圧勝だ。

 どんな芸術も浪漫にはかなわない。


「では手に入れたアイテムをマップにセットしてください」


「は?」

「このゲームブックには続きがあって……。舞台は同じ古墳なんです。続編の主人公は劉香とかかわりの深い人物で、劉香の遺産を探す話になります」

「ようするに私の書いた地図が宝の地図になるってこと?」

「そういうことです。地図なしでもプレイはできますが、難易度は前作より高めですし、なにより公式でこのゲームブックは多人数プレイが推奨されていますから」

「まあ、自分で書いた地図で冒険するよりも、人の書いた地図で冒険する方がワクワクするよな」

 ユニークな仕組みだ。

 瑞穂がゲームブックに指定された場所へお宝を隠していく(適当にお宝を設置できたらゲームとして成立しない)。

「でもこれ、入口に近い場所に隠したら簡単じゃない?」


「古墳を訪れるのは次のプレイヤーだけではありませんよ? 手前に隠したお宝は高確率で盗まれます」


「ええ!?」

「なので次のプレイヤーに確実に渡したいのなら奥に隠しましょう」

「奥で虎徹手に入れてもあんまり意味ないじゃない」

「盗まれたら元も子もありませんから」

「うー」

 悩んでいる。

 長くなりそうなのでお茶を淹れることにした。

「中国人海賊だから中華にするか」


「なら飲茶ヤムチャとプーアルがいい!」


「……飲茶は点心おやつを食いながらお茶を飲むことだ。点心の名前じゃない」

「じゃあシュウマイとプーアル」

「あいよ」

「あ、でもシューとマイならウーロンのほうがいのかも」

「何の話だ」

「『龍球』」

 どうやら国民的バトルアニメ龍球のネタらしい。

 そういえば序盤のキャラはだいたい食べ物の名前だった気がする。


 シューとマイが誰だったのか思い出せないが。


「シンプルなのが一番だな」

 シュウマイを蒸してプーアルを淹れる。

 シュウマイの種は豚のひき肉に玉ねぎだけ。

 味付けは醤油、塩、しょうが、酒、ごま油。

 あとは色合いにグリーンピースがのっているぐらいだ。

 これにポン酢や辛子をつけて食べれば最高だ。

 単純なだけに美味い。

 そしてウーロン茶と同じく、たいがいの料理に合うプーアル。

 間違いのない組み合わせだ。


「ここにしよっと」


 瑞穂がシュウマイ片手に虎徹やアイテムを真ん中付近に隠す。

 その辺りが妥当だろう。

 一番高価な茶入れ『珠光小茄子』は金印と一緒に最奥へ隠した。


キュッキュッ


「え、なんでマップ潰してるんですか?」

「虫食いです」

「……そんなところまでリアルにしなくても」

 地図が虫に食われてしまい、マップの細部がわからなくなった。

 あえて消したからにはこの辺りは危険なエリアなのだろう。

 注意しなければ。


「お、主人公は鄭成功てい・せいこうなのか」


「誰それ」

「和寇の鄭芝龍てい・しりゅうと田川松との間に生まれた日中のハーフだ。満州族に滅ぼされた明王朝を復興するために戦った英雄だぞ」

「そんなにすごいの?」

「近松門左衛門が彼を主役にした戯曲を書いているぐらいですから」

「大河レベルね」

 たしかに日中もしくは日台が合同で大河なドラマを作っても不思議はないレベルである。

「……でも劉香って鄭芝龍に討伐されてますよね?」

「はい」

「え、海賊仲間なんでしょ?」


「鄭芝龍は明王朝の軍人になって海賊退治してるんだよ」


「うわ……、最悪」

 戦国時代ならままあることだ。

 そもそも海賊である。

 珍しいことでもなんでもない。

「さて……」

 前作と同じく体力や攻撃力、特殊能力を決め、瑞穂の地図を片手にゲームブックを読み進める。


 時は1659年。


 明王朝は満州族によって滅ぼされていた。

 鄭成功は明王朝の残党をまとめ、満州族の建国した清王朝に連戦連勝するも南京で大敗をきっする。

 態勢を立て直そうとするものの、資金難はいかんともしがたい。

 そこで運よく劉香の宝の地図を入手する。

 彼の遺産があれば急場をしのげるだろう。

 鄭成功は卑弥呼の古墳へ向かった。


「ん、道が崩れてる」「なんか地図にない通路あるぞ」「なんだこのトラップ!?」


 宝の地図があるからといって油断できない。

 盗掘者によって古墳が荒らされ、地図の虫食いもあり、思うように進めない。

 それでも地道にトラップを解除して、劉香が隠した遺産を回収していく。

 早い段階で虎鉄を確保できたのはありたがい。


 そしてアイテムと一緒に隠されている劉香の思い出の品が切ない。


 劉香は鄭芝龍によって討伐されたものの、二人は元々友人だった。

 鄭芝龍はあるとき突然海賊を辞めて明の役人になり、自由を信条とする劉香と袂を分かつ。

 金に目がくらんだのか、安定した生活を望んだのか。

 芝龍が自由を捨ててまで明王朝の犬になった理由はわからない。


 鄭成功は日本で過ごした幼少期を思い出す。


 成功は劉香に可愛がられていたものの、芝龍が明の役人になったことで別れを余儀なくさせられた。

 父と大陸に渡った成功は、日本暮らしが長かったことから中国語がうまく話せない。

 母親も鄭芝龍の妻の中では身分が低く、肩身の狭い思いをしていたという。

 しかも鄭芝龍は自分を可愛がってくれていた劉香や李魁奇を討伐して出世した。

 劉香や父に対するなんともいえない感情が成功の胸に渦巻くのも無理はない。

「これが最後のお宝か」

 石棺の中に入っていたのは瑞穂の設置した金印と珠光小茄子。

 しかし重要なのは骨董品ではない。

 茶入れの横に添えられている劉香の手紙。

 芝龍と戦う直前に書いたようだ。


『芝龍との戦いは避けられそうもない。仮にこの戦いに勝利したとしても、明は海賊の存在を許さないだろう。我々に未来はない。ならばせめてものはなむけとして、この身を捧げよう。かつての朋友のために』


「芝龍を出世させるためにわざと討伐されたってこと?」

「そういうことだな」

 いずれにしろ劉香は救われない。

 なぜなら明が満州族に攻められると、成功の母は自害したにもかかわらず、芝龍はあっさり明を裏切って清に降伏してしまったからだ。

 鄭成功は母を死に追いやった清と父親を滅ぼすため決起するものの、南京で大敗を喫し、今に至る。

「あとは宝を持ち帰って劉香を供養するだけか」

 劉香の遺品を持って引き返す。

 すると、


カチリッ


 情報にないトラップが作動した。


『おのれ芝龍!』


 鬼道によって劉香の霊が呼び出された。

 鄭成功が父に似ているせいもあって話が通じない。

 卑弥呼は遺体に憑依して襲いかかってきたが、これは霊体なので刀では傷つけることもできなかった。

「いや、待てよ?」

 刀で霊を傷つけることは出来ない。


 それは霊を霊と思っているからだ。


 この手にあるのは虎徹。

 虎と思えば相手が霊でも刃は徹る。

 虎鉄を武器としてではなくアイテムとして使用してみる。

 すると鄭成功は祈りながら劉香に斬りつけた。


『父はあなたの死を無駄にした。今度こそ正しくあなたを殺し、その首を以って世に出よう』


 鄭成功は無事に劉香の遺産を持ち帰り、日本の大名と密貿易する。

 日本では戦国時代が終わっていたので、使い道のない武器を持て余していた。

 鄭成功はそれを大量に買い付け、軍を再編成する。

 それから2年後の1661年。

 鄭成功は当時オランダに占領されていた台湾を解放し、清王朝打倒のための独立政権を樹立した。


 世にいう鄭氏政権である。


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