音楽ゲームセット【ティラミスとエスプレッソ】
参考ゲーム
ペルソナ4 ダンシングオールナイト
パラッパラッパー
『祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり』
「……なんだこれ」
「『マスカレイド4』の外伝よ」
本家はRPGなのに、これは踊りに合わせてボタンを押す音ゲーだ。
マスカレイドといえば人間の感情を擬人化した『守護霊』で戦うシステム。
クールなキャラなら水の神や精霊、熱血系なら火の、母性の強いキャラなら地母神などがガーディアンになる。
ただ人は状況によって性格を変える。
たとえば親しい人間には優しく、嫌いな人間には残酷なキャラだと、優しい天使のようなガーディアンと、残酷な悪魔のようなガーディアンの2つを持っている。
多面性があるほどガーディアンは増え、だいたいこのシリーズでは裏の顔のガーディアンがトラブルを起こす。
マスカレイドでは状況に応じて主人公のガーディアンをチェンジし、属性を変えたりして敵を倒すのがセオリーだ。
しかし外伝作である『ダンシング・スタァライト』では正面から殴り合わない。
『猛き者もついには滅びぬ、ひとえに風の前の塵に同じ』
歌いながら踊る敵の攻撃を、タン・タンとリズムよくボタンを押して避わし、最後まで踊りきればクリアだ。
「……なんで踊りきったらガーディアンの怨念が晴れるんだ? 世界観がわからん」
「これは『能』を意識してるんだって」
「のう? 伝統芸能の能か?」
「そうそう。敵は『シテ』で主人公たちは『ワキ』なの」
『シテ』は能面をかけて舞う役だ。
基本的に怨霊である。
『ワキ』は脇役の略と呼ばれることもあるが、シテと同じく名前の由来はよくわからない。
能のストーリーは旅をしているワキがシテと出会い、シテが何で自分は怨霊になったのか歌いながら舞って、怨念を晴らして成仏するものが基本構造になっているという。
面白いのは『ワキが何かをしてシテの怨念を晴らしているのではない』ということだ。
『シテが自分語りをしながら舞い、満足して成仏している』のである。
ある意味ではカウンセリングに近い。
悩みを解決する必要はないのだ。
悩みを打ち明ける、悩みを誰かに聞いてもらうだけで人の心は楽になる。
重要なのは気づくことだ。
目に見えない存在がそこにいることに気づくこと。
怨霊化していることに気付くこと。
そして怨霊に『自分にはあなたの姿が見えている(あるいは声が聞こえている)』と伝えること。
それが能なのだ。
「『怪物語』のセリフで能っぽいのがあったわね。『僕は助けない。君が勝手に助かるだけだ』」
「……マニアックなストーリーだな」
演劇部の主人公たちはあらゆる場所にステージを作り、敵と一緒に歌い踊ってガーディアンを成仏させていく。
まるでミュージカルのようだ。
これがアニメや実写なら展開に違和感を感じるのかもしれないが、ゲームなのですべてを踊って解決しても『そういうものだ』と何となく納得してしまう。
音ゲーらしからぬ展開でシナリオも面白かった。
本編にもこのシステムをミニゲームで導入してほしい。
「今日のオススメなに?」
「ティラミスだ」
飲み物はエスプレッソ。
イタリアの家庭ではサヴォイア風ビスケットにエスプレッソを染み込ませて、手作りのティラミスを作るらしい。
「んー、美味しい! 上にかかってるのなに? ココアパウダーじゃないでしょ」
「エスプレッソで使った豆のパウダーだ」
「へー」
カスタードにマスカルポーネ、そしてエスプレッソという濃厚な味の三重奏。
コーヒー好きには堪らない一品だろう。
「こういう変わった音ゲーって他にもあるのか?」
「『パッパラ・ラッパー』とかいいんじゃない? 音ゲーの基礎を築いた名作だし」
「ラップか」
ためしにプレイしてみる。
主人公はパッパラというラッパー。
なぜかどのキャラも薄い。
体が紙人形劇のように妙にぺらぺらしている。
正直ストーリーは意味不明で、何かよくわからない内に玉ねぎ頭のカラテカからラップを習うことになった。
画面上部にアイコンが表示される。
|
| □ △ ■ ▲
|
「ん?」
|が左から右へ進み、アイコンと重なった瞬間にボタンを押すシステムだと思うのだが、ボタンを押しても評価が出ない。
どうやらアイコンを1つ1つ評価をするのではなく、1パートごとに評価がされるらしい。
上手くボタンを押せないと総合評価が下がっていく。
瞬く間に評価がGOODがBADになり、最低評価のAWFULになってゲームオーバー。
「……1パートごとの評価だから、どこがずれてるのかわからん。タイミングがつかみづらいな」
「目押しはやめた方がいいわよ。タイミングずれてるから」
「は?」
「音ゲーの元祖だから表示がちょっといい加減なのよ。でもリズム通りに押せばちゃんと評価されるから大丈夫」
「……そりゃリズムまで狂ってたら音ゲーじゃないからな」
目押しはやめ、曲に集中する。
「あ、それと左のやつは押さなくていいのよ。これはお手本だから」
「お手本?」
「先に先生が歌いながら踊ってるでしょ。このお手本を見てリズムを覚えて、パッパラがそれを真似するの」
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|□ △ ■ ▲
|
※□△はお手本 ■▲はプレイヤーが押すアイコン
つまり同じフレーズが繰り返されるということだ。
それでラップなのだろう。
曲はこのゲームのオリジナル。
ゲームシステムの構造上、既存曲は使いにくいからだ。
他の音ゲーにはない独特な曲である。
「ぐ、やりにくい!」
譜面が長くなると、どこからどこまでがお手本なのかもちょっとわかりにくい。
しかも長い譜面だと途中で改行されてしまい、タイミングもつかみづらくなる。
○□△× ○□△× ○□△× ○□
△×
※曲の途中で譜面が改行され、画面の反対側に視線を移動しないといけない
「ぐあ!? 押し間違えた」
「リズムが合ってるから大丈夫」
『GOOD』
総合評価が上がった。
「ほらね」
「……なんでだ?」
「このゲームには『アドリブ』っていうシステムがあって、リズムよく譜面と違うボタンを押したらポイントがアップするの」
「ミスがアドリブになるのか」
「たぶん初級者の救済措置ね。もちろん狙ってアドリブもできるわよ」
「判定はおおざっぱなだな」
「でも面白いでしょ? 今の音ゲーは譜面を正確に押さないと評価されないから、このシステムは逆に新しいし」
「たしかに」
ペラペラのキャラに、シュールな世界観、同じフレーズの繰り返される独特のラップに、アドリブシステム。
音ゲーの元祖とは思えない独創性だ。
欠点は曲数だろう。
7曲はさすがに少なすぎる。
慣れたらあっという間に終わってしまった。
「アドリブなのにジャズがないのももったいないな」
「そういえばなんでジャズってアドリブが大事なの? 他のジャンルでもアドリブはできそうなのに、あんまり聞かないし」
「ジャズは黒人の音楽だからな。当時の黒人はまともに教育を受けられなかったから楽譜が読めなかったんだよ。つまり正確に演奏したくてもできなかったからアドリブしてたんだ」
「へー」
楽譜が読めない、買えない、新しい曲を作っても書き残せない。
ゆえにアドリブはジャズに欠かすことができぬ要素になった。
ただしジャズの故郷であるニューオーリンズでは、白人と黒人の混血クレオールがおり、ちゃんとした教育も受けていた。
南北戦争によってクレオールへの風当たりも強くなり、彼らは南北戦争で軍楽隊が使っていた楽器で生計を立てるようになったという。
「うーん、どうしても『COOL』にならんな」
「COOLは最高評価だからアドリブじゃないと出せないわよ」
「やっぱりそうなってるのか」
「高得点を狙いたいなら『アイコンのない場所でもボタンを押す』のが基本ね」
「……そこまで評価対象になってるのかよ」
「リズムが合ってないと評価されにくいけど、場所によっては連打してるだけでCOOLになるんだから」
『1回も譜面と同じボタンを押さない』という音ゲーではありえないプレイでどんどんスコアを稼いでいく。
『COOL!』
……ジャズの曲こそないが、これほどアドリブ全開でジャジーなゲームは他にない。




