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【コミカライズ掲載中】電気代払えませんが非電源(アナログ)ゲームカフェなので問題ありません  作者: 東方不敗@ボードゲーム発売中
本編

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ロボットゲームセット【フルーツケーキとキーマン】

参考ゲーム

スーパーロボット大戦


 店の照明を強くして、ジャズとロックの『クロスオーバー』や『フュージョン』をジュークボックスでかける。

「なんで明るくしたの?」

「モダンジャズ時代の反動だよ。クロスオーバーやフュージョンのブームに乗りたいジャズ喫茶は、モダンジャズ喫茶と差別化するために逆のことをしたんだ」

「へー」

 モダンジャズファンとフュージョンファンは相いれない。


 なので必然的に暗い照明、私語とアルコール厳禁、まずいコーヒー、頑固おやじなどのモダンジャズ喫茶の特徴はなくなっていった。


 今では昔ながらのモダンジャズ喫茶の方が少数派だ。

 時代の流れには逆らえないということだろう。

「客いないから好きな曲流していいぞ」

「フュージョンってジャズと何が違うの?」

「モダンジャズよりノリが良くて踊りやすい。それとジャズでは使わない電気楽器や電子楽器。そもそもフュージョンのきっかけになったのがエレクトリック・ジャズだからな。エレキの力強さや昔ながらの楽器には出せない電子音は外せない。初級者にわかりやすいのはそれぐらいだ」

「わかりそうでわかんないわね」

「……ならジャズの定義から説明してやろうか? オフビートやブルーノートから説明することになるぞ」

「う、遠慮しとく……」

 賢明な判断だ。


「クロスオーバーっていったらやっぱり『リアルロボット大戦』かしら」


 いろんなロボットアニメの人型ロボ(人型以外も普通にいるが)が共演する超有名タイトルだ。

 とりあえず起動してみる。


『時は西暦2027年』


 某大作スペースオペラ『星の戦争』のオープニングのような、物語のあらすじが始まった。

「……長い」

「リアロボではよくあることよ」

 SF用語や軍事用語が多めで世界観を把握しにくい。

 タチが悪いのはすべて文字による説明だということ。

 せめて絵や年表をつけてほしい。


 たとえるなら冒頭で延々と世界設定を説明して本筋が始まらない小説のようなもので、これが小説の新人賞なら真っ先にごみ箱へ捨てられているだろう。


「……参戦アニメに知らないやつが多いのも困るな」

「別に知らなくても問題ないわよ。原作再現がたくさんあるし」

「再現?」

「原作にあった展開をゲーム内で再現するの。再現度の高い作品は、これプレイすれば内容の7割ぐらいは把握できるし」

「へぇ。知らないアニメを再現してくれるのはありがたいな」

「再現される作品は複数あるから、設定レベルでクロスオーバーしてるのよ。クロスオーバーっていうか融合フュージョンかしら」

「設定の融合?」

「複数の作品の設定を1つの世界に強引にまとめてるの。たとえば日本を舞台にした作品、アメリカを舞台にした作品、中国を舞台にした作品があったとしたら、それぞれ舞台になってる場所が違うんだから、1つの世界にまとめても問題ないでしょ?」

「たしかに。じゃあ日本を舞台にした作品が複数あったら?」


「融合できるように設定を変える」


「……つまりそうして生まれるのが、このくそ長いあらすじってわけだな」

「そういうこと」

 長いあらすじが終わり、ようやく本編が始まったと思ったら、


『沖縄ジュピター』


 また小難しい世界設定が出てくる。

「これは『アメン・ゼフォン』の設定ね」

「……それがわかるだけでありがたいな」

 世界設定だけ延々と覚えさせられるのは苦痛を覚えるものの、別の作品の設定として分けて覚えられるのなら少しは楽になる。

 解説によると沖縄は謎のフィールドに包まれ、世界から隔離されてしまったらしい。

 フィールドの形が木星に似ているので沖縄ジュピターと呼ばれている。

 ジュピターの内部は時間の流れが遅く、ジュピター発生から20年経過しているにもかかわらず、内部では数ヶ月しか経っていない。

 しかも沖縄で暮らす人々はジュピターを張ったエイリアンに記憶を操作されており、沖縄が世界から孤立していることにも気づいていないそうだ。

 沖縄を解放するために主人公たちはジュピターへ突入する。

 待望の戦闘だ。


「待ちがセオリーだな」


「まあ、どうしてもそうなるわね」

 シミュレーションRPGは1ターンですべての味方キャラを動かせる。


 将棋でいうなら一手で金・銀・桂・香・飛車・角・歩・玉の20枚を動かせるということだ。


 こちらから敵の間合いに踏み込むと集中攻撃を食らって死ぬ。

 だからできるだけ待ちに徹し、こちらに突っ込んできた敵をボコる。

 問題は突っ込んできてくれない敵だ。


 おそらく敵が前に出てくる条件は主に『敵の間合いに踏み込む』『敵に攻撃を当てる』『エリアの特定のラインを越える(マップに見えないラインが設定されており、そこを越えると動き出す)』だろう。


 ある程度は他のSRPGのセオリーが使えるが、

「……武器多いな」

「4つなんてまだ少ない方よ」

 難しいのはファンタジー系とは兵装が違うこと。

 それぞれのユニットが武器を複数持っており(ビームサーベルやミサイルなど)、しかもどれも射程距離が長い。

 ファンタジー系SRPGなら近距離攻撃タイプの間合いは移動距離+1だ。

 移動距離+2が安全圏になるのでわかりやすい。


敵□□□□■○

□□□□■○

□□□■○

□□■○

□■○

■○


□移動範囲

■攻撃範囲

○安全圏


 攻撃範囲が2マスある槍の場合でも、1マス余計に離れているだけでいい。

 ファンタジー系ならグラフィックで槍を装備していることがわかるので、間違って被弾することは少ない。

 だがリアロボだとグラフィックでは装備がわからない上に、どのキャラも1マス以上の攻撃範囲のある武器を持っている。

 間合いをはかりづらい。

 というか、いちいち調べるのが面倒くさい。


「スパロボの出番だな」


 ロボットには『リアルロボット』と『スーパーロボット』の2種類がある。

 リアロボはリアリティのある比較的小柄で火力の低いロボットだ。

 回避率と命中率は高いものの、HPが低めで連続攻撃を食らうとすぐに死ぬ。

 逆にスパロボは非現実的な設定の巨大なロボットで、装甲が厚くてHPと攻撃力が高い代わりに回避率と命中率が低い。


 スパロボの装甲の厚さとHPを活かして前線に突っ込み、敵の攻撃に耐えて反撃で大ダメージ(理想は一撃必殺)を与える。


 あるいは性能のいいリアロボを突っ込ませ、敵の攻撃を避わしまくって反撃でHPを削る。

 これがセオリーだろう。

 どうやらシリーズの中でも特に難易度の低い作品のようで、だいたいごり押しでなんとかなる。

 テンポよくシナリオをクリアしていき、物語も佳境に向かってきた。

 英気を養うために一服する。


「フュージョンといえばフルーツケーキだ!」


「へー」

 フルーツケーキといっても、フルーツをたくさん使ったスポンジケーキのようなものとは根本的に違う。

 洋酒で漬けこんだドライフルーツに、シナモン、クローブ、ナツメグといったスパイスを使って焼き上げた濃厚なケーキである。

 見た目はケーキというよりドライフルーツをタネに混ぜて焼いたパンであり、パンのようにスライスして食べる。

 お茶はラプサンスーチョンかキーマンがいい。


 今日は中国の祁門キーマンにした。


「これ美味しい」

「ダージリンやウバとならぶ世界三大紅茶の1つだからな」

 ラプサンスーチョンほどではないが独特の香りがし、フルーツケーキとの相性は抜群だ。

 ドライフルーツが余っている時は、ついこれで一杯やりたくなる。


『ぬわー!?』


「……味方がどんどん死んでいくな」

 アメン・ゼフォンだけでなく、他作品のキャラも容赦なく死んでいった。

「ルート選択間違ったか?」

「合ってるから大丈夫」

「でも他作品の主役級まで死んでるんだぞ、話が成立しなくなるだろ」


「そこで原作改変よ!」


「改変? 再現じゃなくてか」

「そのまま再現したって面白くないでしょ。原作観たことある人は同じ展開を2回見せられることになるんだから、改変してなんぼよ。一番よくある改変は原作で死んだキャラが生存するパターンね」

「……いや。生存どころか原作に登場してないキャラまで死んでるだろ、これ」

「改変を劇的にするために、原作以上に殺してるみたいね」

「ここからどうやって改変するんだ。実は生きてましたじゃすまないだろ」


「ヒントはタイムパラドックス」


「矛盾?」

 タイムパラドックスは、たとえば過去にタイムスリップして自分の親を殺すなど、時間を超えることで起きる矛盾のことだが……。

 ジュピター編も佳境。

 残るは最終決戦のみだ。

 この状況でどうやってパラドックスを発生させるのだろう。

 期待を胸に抱きながら、異星人の施設を攻略して沖縄ジュピターの破壊に成功。

 すると、


『2007年』


「は?」

 いきなり20年前に話が飛んだ。

 いや、正確には飛んではいない。

 2027年に異星人を倒してジュピターから沖縄を解放したのに、それが2007年に起きたことになっている。

「どういうことだ?」


「ジュピターの内部では2007年だったでしょ。で、沖縄解放戦争はジュピターの内部で行われて、ジュピターがなくなったことで世界と沖縄の時間が1つに戻った。つまり2007年の沖縄の歴史が世界史を塗り替えたのよ」


「……そういうことか」

 思っていたよりややこしい。

 そしてしばらくは戦況が停滞し、20年ほど経過する。

「今度は死んだキャラが生き返ったぞ」

「メインキャラは皆10代だったから、2007年には誰も生まれてないでしょ。生まれてないのに死ねるわけないじゃない」

「……このためにキャラ殺しまくったのか」

 だがタイムパラドックスも完ぺきではない。

 2007年以後に生まれ、解放戦争に参加して主人公たちに倒された異星人たちも、タイムパラドックスによって生き返っていた。

 しかも2007年当時より強くなっている。


「どこまでが原作再現で、どこからが原作改変なんだ?」


「解放戦争はほぼ原作通り。タイムパラドックスは完全に原作改変ね」

「原作でもアメン・ゼフォンのキャラはあの戦いで死にまくってたわけか。で、改変によって生き返ったと」

「死んだはずのキャラが生き返ったことで微妙に展開は変わっちゃうけど、この後のストーリーはほぼ原作通りよ」

「改変が自然すぎて、原作もこういう話なのかって勘違いしそうだな」


「原作と改変ネタで二度楽しめる。それがクロスオーバー作品の面白いところよ!」


 クロスオーバーものだからこそできるシナリオ展開だ。

「これだけクオリティが高いとアメン・ゼフォンの原作も観たくなるな」

「アニメは全26話でちょっと長いけど、劇場版はアニメの総集編で短くまとめられてるから観やすいんじゃない?」

「チェックしてみるか」

 2時間ならあっという間だろう。

 この先も原作が再現されるのなら元ネタを知っておきたい。

 ……だがそんな気軽に観れる作品ではないと沖縄解放戦争で察するべきだった。


『サヨナラ』


「朝比奈っー!?」

 解放戦争の後も容赦なく視聴者の心を打ち砕きにくる。

 総集編でところどころカットされているのに心が折れそうだ。


「そんなあなたにリアルロボット大戦。今ならなんと朝比奈生存ルートもついてくる!」


「買った!」


 クロスオーバー作品がなぜ人気なのかよくわかった気がする。


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