戦車ゲームセット【サバの味噌煮弁当と蒸し製玉緑茶】
参考ゲーム
メタルマックス
『ドラゴン退治はもう飽きた』
「どこかで聞いた覚えのあるキャッチコピーだな」
「これが元ネタなんじゃない?」
『オタルマックス』
文明が一度崩壊した世界が舞台で、モンスターハンターの主人公が戦車に乗って戦うRPGだ。
ちなみに戦車はどれだけ走っても燃料を消費しない。
エネルギー源はなんなのだろう。
主砲は砲弾を消費するものの、ザコならだいたい一発で倒せる。
装甲も厚いのでたいていの攻撃ではビクともしない。
SP(シールドポイント。戦車のHP)も人間とはケタが違う。
戦車さまさまだ。
「でもザコに砲弾をぶち込むのはもったいかも」
「副砲買え」
説明書を読まないゲーマーの代わりにシステムをチェックする。
「主砲と違って弾数が無限だし、グループ攻撃もできるみたいだぞ」
「なにそれ、戦車強すぎでしょ」
もちろん欠点はある。
「とりあえず機関銃ね」
『重量オーバーです』
「え?」
「戦車の総重量がエンジンの出力を超えてるんだよ。主砲、副砲、特殊兵装、装甲タイル、車体、コントロールユニット、エンジンの総重量を出力以内に収めないと自走できなくなる」
「……つまり限られた容量の中で自分好みの戦車をカスタマイズするゲームなのね」
当時のRPGでこれほどカスタマイズ要素のあるゲームは珍しい。
「まずは装備を全部チェックしないと……」
当然だが車体は外せない。
それからエンジンとコントロールユニット。
この2つがないと戦車は動かせない。
コントロールユニットは操縦士を補佐するAIのようなもの。
本来、単独では動かせない戦車を一人でも動かせるようにするのがコントロールユニットだ。
「あれ? Cユニット、一番軽いものでも200キロもあるじゃない。小柄な人間乗せた方が軽いんじゃないの?」
「戦車は一人で動かせるんだぞ。貴重な味方キャラを1つの戦車にまとめて乗せるのか? それに部品は壊れても修理すれば動かせるわけだが、人間は死んだら街に戻って蘇生しないといけないからな」
「……う。たしかに1人1戦車にした方が火力は高くなるわね。でも戦車が増えるとそれだけコストかかるし……」
「そこでレンタル戦車だ」
「レンタル費かかるでしょ」
「かからない」
「は?」
「戦闘で入手した金から数%がレンタル費として自動的に引かれるらしいんだが、はっきり言ってタダ同然だな。それに主な収入源はザコの落とす金より賞金みたいだぞ」
「でも壊れたら修理費がかかるんでしょ?」
「それもない。壊れたら自動的にレンタルショップに帰還するそうだ」
「自動的? Cユニットが壊れても?」
「自走不可能な状態になってもなぜか帰還できる謎技術だ。戦闘中でも壊れたら帰ってしまうけどな」
「レンタルしなきゃ!」
さっそく戦車をレンタルし、仲間に加わったメカニックを乗せる。
レンタル戦車はカスタマイズできないという欠点はあるものの、これで戦力が大幅に増強した。
「次は装甲タイルね」
これはSPだ。
装甲タイルをたくさん貼るほど戦車のSPが増える。
つまり余計な装備を積まなければ、たくさんタイルを貼ってSPを増加できるわけだ。
もし旅の途中で戦車の部品を拾って重量オーバーになっても、タイルを剥がせば自走できるようになる。
「んー、あとは無難に副砲と主砲かしら。さすがに序盤の武器の重さぐらいでSP不足になることはないだろうし」
無難にカスタマイズが完了。
余程のことがなければ死なないだろう。
「そういえばこのゲーム、どうすればクリアになるんだっけ? 目的も何もないでしょ」
「ハンターギルドのマスターと会話してハンターを引退すればいつでもエンディングになるみたいだな」
「なにをするかはプレイヤーの自由ってことね」
次の町へ進むと、さっそく賞金首の情報を入手。
戦車ごと賞金首の潜伏している廃工場に乗り込んで捜索する。
「あ、シャッター閉まってる。さすがに徒歩よね」
戦車は重く、人間のように自由に動けないので、移動範囲が限られている。
降車してスイッチを押しに行くしかない。
すると敵とエンカウントした。
「ぎゃー!?」
通常戦闘のBGMではない。
まさかの賞金首だ。
「なんで賞金首が普通に歩いてるのよ!」
「ストーリー的には別にボスでもなんでもないからな。そりゃ何のイベントもなしに出てくるだろ」
「……とことん風変わりなRPGね」
仕方なく賞金首と戦うものの、有り金のほとんどは戦車につぎ込んでいるため、肉弾戦では歯が立たない。
「戦略的撤退!」
やむなく一時撤退。
廃工場内でエンカウントするなら、廃工場を探索するのは賞金首を倒してからにした方がいい。
スイッチは押しに行くのはあきらめて戦車に戻る。
だが再び賞金首とエンカウント。
『しかしまわりこまれてしまった』
『しかしまわりこまれてしまった』
『しかしまわりこまれてしまった』
「あああ!?」
立て続けに逃走失敗。
あえなく力尽き、最初の町まで戻される。
「……戦車どこ?」
「廃工場に置きっぱなしみたいだな」
「やっぱり取りに行かないといけないんだ……」
「賞金首に盗られないだけマシだろ」
再び戦車をレンタルし、廃工場へ向かう。
火力不足で若干苦戦したものの、無事に戦車のもとへたどり着いた。
さっそく戦車を乗り換える。
「この乗り捨てた戦車はどうすればいいの?」
「自走できない戦車は牽引できるぞ」
「牽引のペナルティは?」
「なし」
「やった!」
戦闘中は牽引車を切り離しているのか、マイナス要素は何もないらしい。
「怖いのは電気ショックみたいな技だな。威力は低いがパーツを壊す効果がある。メカニックの修理レベルが低いとすぐ自走不能になるぞ」
「そういう時はどうしたらいいの?」
「どうしようもないな。予備の部品を積んでおくぐらいしか対応策がない」
「予備パーツの重量でSPは減るけど、自走できなくなるよりはマシってことね。SP減るのが嫌ならパーツ破壊してくる敵は肉弾戦で頑張る、と」
つくづくよくできたシステムだと感心する。
なんとか廃工場のスイッチを押してシャッターを開け、戦車に乗った状態で賞金首とエンカウントした。
「戦車なら勝てる!」
……と思ったのが甘かった。
一定のダメージを与えると、賞金首も戦車に搭乗。
特殊兵装であっという間にSPを削られる。
そしてとうとうSP0。
「あれ? なんで壊れないの?」
「SPはあくまで戦車を守る装甲の数値だから、0になっても動けるらしい。その代りSP0の状態で攻撃を受けると、高確率で戦車が壊れるぞ。エンジンとかCユニットが壊れても自走できなくなるだけだから大砲は撃てるが、戦車が大破したら大砲も撃てない上に修理費が凄いことになる」
「具体的にはどのくらい?」
「この賞金首10人分でも足りないんじゃないか」
「ええ!?」
自走不可能でも大砲は撃てる。
だが大破するリスクを考えると、戦車を降りて戦った方がいいのかもしれない。
戦闘中は装甲タイルを貼ってSPを回復できないのがきつい。
せめて牽引車へ乗り換えられたらいいのだが……。
残念ながら戦闘中ではそれも不可能だ。
レンタル戦車のSPもやばい。
レンタル戦車なら壊れても修理費はかからない。
そういう意味では遠慮なくぶち壊せるものの、パーツが1つでも破損すると戦闘中でも帰ってしまう。
「肉の盾しかないわね!」
「……やると思ったよ」
戦車を降り、生身でレンタル戦車をかばう。
人間への回復アイテムなら戦闘中でも使えるからだ。
レンタル戦車が壊れないように生身でかばい、主砲を撃ち続ける。
回復アイテムが尽きるのが先か、賞金首が倒れるのが先か。
その勝負だ。
ドカーン
『リアクティブアーマーがこなごなになった』
「お弁当食べたい」
「戦闘中だから弁当は自分で用意しろ」
「はーい」
リアクティブアーマーは爆発反応装甲。
着弾したら爆発して衝撃を相殺できる装甲で、このゲームでは一定以上のダメージを食らうと壊れる代わりにダメージを無効化してくれる。
四角い金属製で形が似てるので『弁当箱』と呼ばれているのだ。
ご丁寧にリアクティブアーマーに似ている巨大弁当箱を取り出し、せっせとおかずを詰め込み、米を敷き詰め、梅干しをのせた。
メインはサバの味噌煮。
じっくりことこと煮込んでいるので骨まで食える。
最近は粒マスタードを使った料理も増えており、カラシとの相性もいい。
「ああー!? 汁が!?」
煮汁に飯やおかずが浸食されるのはご愛嬌。
むしろそれがうまい。
「……冷たいお茶ない?」
「蒸し製玉緑茶ならあるぞ」
和の冷茶といえば蒸し製玉緑茶だ。
スイーツだとあまりおススメする機会がないので、和食で冷たい飲み物をリクエストされた時はこれを出すようにしている。
もちろん和食との相性は抜群だ。
ドカーン
「……あ、これもう無理だわ」
主力戦車もハチの巣になって大破。
どう頑張っても修理費が払えない。
賞金首のせいで首が回らなくなるという皮肉。
「ポチっとな」
やむなくリセットした。
「もっとSPがほしい」
「自走できなくなるだろ」
「……あれ? 重量オーバーになると自走できない。でも戦闘中にパーツを壊されて自走できなくなっても大砲は撃てるのよね」
「あ」
重量オーバーとパーツ破壊は、戦闘前に自走不能になるか、戦闘中に自走不能になるかの違いしかないということだ。
つまり重量オーバーの戦車でも、敵のいる場所まで運ぶことができれば大砲を撃てる。
「牽引だー!」
レンタル戦車でダンジョンを進み、主力戦車は牽引して温存。
「これでも不安ね。牽引できる戦車の数は決まってるから、ダンジョンに戦車置いてわざと全滅しよっと」
「ちょっと待て!?」
「予備の戦車も牽引していけば完璧!」
……やはり数こそ正義。




